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悪意の篭った視線


高台から眼前に広がるのは、巨大な都市の壮大な景色。

俺たち一行は、東に進み遂に隣の領地へ侵入した。

その後そのまま過ぎたところにあるのがこの大都市だ。

特に商業が盛んで、仕事も豊富にある都市、メーカ。他の様々な都市から色々な品物も集められているという。

ちなみにこれは物知りシュヴァちゃんの知りえる情報だ。

俺はシュヴァにはミニ賢者という称号がふさわしいと思う。


まあ、この街へは休憩がてら寄ろうという感じだ。

人間の宿というやつに泊まってみたくないこともない。つまり泊まってみたい。


だから街に入ってまずすることは宿探しだ。

俺たちは間も無く街に足を踏み入れた。


街の人口密度はかなり高い。

人間の都市に来たのなんて初めてだから、その人の多さに驚いていた。


「取り敢えず、宿でも探してみるか 」


俺はリーベとシュヴァにまずすることを伝えた。


「えー、なんか店で見て来ませんかー。 あっ、面白そうな魔道具! あっ美味しそうな匂いがします! 」


リーベはそれに反対のようだ。

リーベは完全に周りに立ち並ぶ店々に魅了されてしまっている。

確かにこの街の醍醐味は、そういう店なのだろう。

気になるものを見つけては、その前に止まってじっと見ていた。

気になるものとは、ほぼ全てだから俺たちは街に入ってからほとんど進めていなかった。


「まず、宿探しだろ。せっかくこんなでかい街に来てんだから宿に泊まってみたいだろうが。 早くしないと埋まっちまうかもしれないし 」


だがこの声は、売買品に夢中のリーベには届かない。

すぐに店の前に立ち止まって売られているものを見ている。

こいつ、置いていってやろうか。

黒い考えが腹のなかで渦巻き始める。

俺たちがこいつのことを気にせず進んでいけばすぐはぐれるだろう。

そしたらそのままバイバイというのも悪くないかもしれない。

いや、悪くないかもしれないというよりも、ふへへへへ、名案だな。



と、黒い考えダダ漏れの俺の思考を受け取ってシュヴァが注意してくる。


(腹黒いワン! リーベがいなかったら僕たちはこうしていられないワン )


うっ。 痛いところをついて来やがる。

確かに俺とシュヴァがこの街に入れるのもリーベのおかげだ。それは確かだ。

でも、 認めたくない。

だって、確実に調子乗るから。

まあ、でもそうだな。 冗談はこれくらいにしておこう。


「まあ、本気でやるつもりはねえよ。 でも、店なんて本当に後で見ればいいからな。 どうしたものか 」


無理やり連れてくしかないか。

リーベは果物の売られている店の前で浮いている。

蚊を取るように一瞬で捕まえるか。


「妖精さんなんて珍しいわね。 この果物は、ここからずっと東でしかとれない美味しい美味しい果物なの。 一つあげるわ 」


果物を売る店の女の人は目の前に浮いていたリーベにそう言うとその果物を手渡しする。


リーベは、


「いいんですか!? ありがとうございます! 」


と、興奮気味に声を荒げながら、その果物を受け取る。

彼女にとっては相当重いらしく妖精は空中でふらふらと揺れている。

が、大変そうな顔は決してしておらずとても嬉しそうに鼻歌を歌いながら、俺とシュヴァのいる方は近づいて来た。


「見てくださいよ、べリィにシュヴァちゃん! 東の地の美味しい果物ですって! 」


果物を俺たちの目の前に押し出しながら嬉しそうに話す。だが、とても重そうでまた空中で揺れている。


「あぁ、良かったな。 それお前にとっちゃ重そうだな。持っといてやろうか? 」


俺が親切心からそう言うとリーベは首を横に振った。


「いいです。私が持ってますよ。 でもべリィの肩に乗せてもらいまーす」


親切心からの助け舟を砕かれたのは心外だが、まあ俺の肩に乗るってんならどっかすぐにふらふら離れていくこともなくなった。

果物をもらって今は満足してるみたいだし。


「じゃあ宿を探すぞ 」


俺たちはやっと宿を探し始めた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



何か居心地が悪い。

なかなか空いている宿が見つからなくて5件くらいダメだったからだろうか。長いこと沢山の人のいるところを歩いているからだろうか。

これほど大きい街が初めてだからだろうか。



ーーいや、違う。



誰かが、この街の中にいる誰かが悪意のある視線をこちらに向けているのだ。しかも一人じゃない。複数だ。

なぜ、俺たちはそんな視線を向けられている?

警戒したほーー


「あっ、宿見つけました多分! あそこです !」


俺の思考を遮って、果物を抱えながら俺の肩の上に乗る妖精が大きな声を出した。

おっ、まじか。どこだ。

リーベが指差す先には、確かに宿屋らしきものがある。

部屋よ空いていてくれ。 宿自体久しぶりに見つけた気がする。

だから過剰に喜んじゃうけど、まだわからない。 部屋が空いているか、ここからが勝負だ。


俺たちは目の前で最後の部屋が取られるとかいう残念な結果だけは避けるために急いで宿に走る。

過剰に期待はしないようにしよう。

そう言い聞かせて6件目の宿屋に入った。

宿屋の中は、これまで5件と比べるとかなりいい感じだ。 高級な感じがする。

ここに泊まりたい!

目の前に広がるカウンターには、黒髪のショートヘアの綺麗なお姉さんが立っている。

奥の方には、体格のいい年配の女性おそらく女主人が座っている。怖い雰囲気が漂っている。 なんかめっちゃ睨んでるけど何でだ。


「部屋って空いてるか? 」


俺は肩に乗るリーベをシュヴァの背中に乗せて入り口に待機させた後、すぐさまカウンターまでいって受付嬢ーー前述の綺麗な方ーーに聞く。


「ええ、空いております 」


カウンターの受付嬢は対応もとてもいい感じだ。 綺麗だし雰囲気もいいし何より愛嬌がある。

その声からも優しさが伝わってくる。

悪魔の俺に何がわかるんだって話だが。

人間、やればできるじゃねえか。そのスマイルにちょっとドキッとしてしまったぜ。

いや、受付嬢のことなんて考えてる場合じゃねえわ。

なんて言ったか聞きそびれてた。


「空いてるか? 」


俺はまた同じ問いかけをする。


「ええ、空いておりますよ 」

彼女はまた変わらない笑顔で答えた。

まじか! 空いてるのか! よっしゃ!

「一泊でしたら料金は15ケルンです」


???????????


何だって?

「りょうきん? けるん? 」


「りょうきんはこの宿に泊まるために必要なお金です。 けるんというのはこの国の通貨、お金です。

あなたはどこからいらっしゃったのですか? 」


おそらくは超常識であろうことも彼女は丁寧に優しく笑顔で教えてくれている。

更にこの情報を知らないのはどこか遠いところから来たのだろうと気を利かせて出身地の質問までしてくれている。

天使だ! この娘は天使だ!

って、それは俺の敵だけど。まあ、天使は想像上の存在だが。

お金というのは1000年前も人間が使っていた物だ。その存在は一応知っている。

でも、そんなもの今の俺が持っているわけない。

持っていなければどうすればいいのか。

俺はこの天使のような受付嬢ならば優しく答えてくれるだろうと確信して更に質問する。


「持ってないんだが、どうすればいい? お金の手に入れ方を教えてくれないか?」


別段悪い質問だとは思わなかったその質問は、あまり良くなかったのだろうか。

長めの沈黙が流れる。





と、優しい声が答える。

「おい、いい加減にしろよ。お金が欲しかったら、働け 」


その内容に反した優しい口調に一瞬言われた意味が掴めない。


「えっ 」


とりあえず動揺する。


今このセリフ誰が言った?

受付嬢の声だった気がするけど。受付嬢の顔をちらりと見ると彼女は変わらぬ笑顔のままだ。

彼女じゃないのか。誰だ?

俺は年配の女主人の方に目を向ける。女主人は立ち上がって受付嬢の右側にまで出てきていた。

すごい怒った表情で睨んできている。 さっきとは比較にならない目力だ。

この人か。 この人が言ったのか。 こわいけどちょっと安心かもしれない。

心の底でそんなことを思ったその時、女主人の口は動いていないのにまた同じ声が聞こえてくる。



「そっちじゃない。 こっち見ろ 」



その声音はやはり内容と反して優しい。 俺は、おそるおそるその声の聞こえてきた方向に目を向けた。


視線の先には、とても愛嬌のあるあの受付嬢が変わらぬ笑顔を浮かべている。 やっぱこの娘じゃないよね。でもこっちから声したよな。 しかも声は完全にこの娘のだよね。でもそれは信じたくない自分がいる。

違うということに縋ってしまっていた。

だが、それを打ち砕くように。


「客だと思って下手から出てりゃ、遊んでくれやがったな。 お金が手に入る方法なんて働くしかないだろうが。

最近、お前みたいに魔法使い見習いだとかいって働かないのが多すぎだ 」


再び優しい口調。 それに反したセリフ。

そして、受付嬢の表情はあの笑顔のままだ。

聞こえてくる音と口の動きのタイミングがぴったりとあっていたことを俺は見てしまった。


つまりーーそういうことだ。




いやいやいや。待て待て待て。


怖えええええェェェェーよ。

女主人も怖いけど、この娘の笑顔のままのこの発言、本当に怖い!

全然天使じゃねぇじゃねえか。


俺はそのギャップに結構本気でビビっていた。


だから、完全にカウンター側に気を取られてしまっていた。




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