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怒濤の一日


俺たち一行は、ことを終え妖精の森に取り敢えず戻ってきていた。

すでに、 辺りは暗くなり始めていた。


「ベリィ何か見返りを要求したりするのかと思いましたよ 、悪魔だけに 」


リーベは不思議そうにそう言った。


そんなつもりはさらさらない。 俺は言うほど労力を費やしたわけでもないし、最後なんて街の人の為にやったわけだはないし、それに何よりーー。


「なんか、完全にお邪魔みたいだったしな。 俺、めっちゃ罵られたから。 わざわざ助けに行ったのに、罵られるなんて俺じゃなかったら泣いてるぞ 」


シュヴァの推測によれば、あの罠はエルニーニョがはったものではなく、街の人がエルニーニョをはめる為にはったものであろうとのことだった。

確かにエルニーニョは罠をあんな狭い範囲ではったってなんのメリットもないはずだ。

相手がいるとしたら街の人多数であっただろうから。

そこに俺が現れたのは奴の運の尽きだろう。


「護衛はそのままでいいんですかねー。 街の人を傷つけたりしないですかね 」


「護衛もそこまで馬鹿じゃない。 あの数の差じゃあ、どうしようもないってことはわかるだろう 」


俺たちは、あの後眠りこけてまだ覚めない人々は一切起こしたりせずすぐにここへ戻った。


エルニーニョを倒すってのがこの世界でどのくらいのことなのかはよく分からないが、あまり俺の姿を覚えられたくない。

人間に群がられるのは嫌だし。

まあ、逆にカス扱いも嫌だけどな。

そこはカスにカス扱いされてもいいと割り切るしかねぇな。

少しずつ自分の強さは自分が知っていればいいっていう考え方になれなければ。


(で、これからどうするワン?)


シュヴァの心の声。 俺がシュヴァの方を向くとリーベになんて言ったんですかと聞かれて一々教えなくてはならなかった。

めっちゃ面倒臭いんだけど。


「これからどうするワン? 」


俺はシュヴァの喋り方をそのまま真似て声に出して伝える。


「ベリィ、語尾とか勝手にアレンジしなくていいですよ ー」


リーベは俺につまらないんでそういうのいいです風な感じで冷たく言い放つ。


その様子を見て愉快に思う。 マジなんだな、これが。俺もこんなふざけたこという見た目じゃないと思ったんだよ。

今は柴犬の姿でマシだけど最初なんてケルベロスだからね、ケルベロス(小)だけど。

俺は真剣な表情、真剣な声音で言った。


「アレンジじゃねえよ。 マジだ 」


リーベは俺に只ならぬものを感じて嘘ではないのかもしれないと気づく。


「えぇ!? そういう語尾なんですかシュヴァちゃん? 」


シュヴァは頷く。


「シュヴァちゃんかわいいですねー。本当にかわいいですねー 」


リーベは空中に浮きながらシュヴァの頭を撫でた。

すぐ受け入れやがって、こいつ。

俺の想像よりも全然驚いてくれなかったことに俺は失望していた。


こんな具合のほんとにどうでもいい会話をした後、俺はこれからどうするのかというシュヴァの質問に答えた。


「1000年後の世界ってのはもう完全に別世界みたいなもんだ。

だから俺はこの世界を知るためにぶらぶらしようと思ってる 」


「でしょうね。 それは大体わかりますけどー、 具体的にはどこへ? 」


(ぼくはどこでもお伴しますワン! ベリアル様は本当にすごかったワン )


2人? 2匹? どうでもいいけど同時に話される。

まあ、俺は難もなく聞き分けた。


「具体的には決めてない。 取り敢えずここの領地からは出たいな」


「私は妖精の森から出たことないのでどの方角を行けばすぐ出られるかとかはわかりませんねー」


(ここは領地の端の方だから、東を進めばすぐに出れるワン )


シュヴァは長いこと生きてきたからこの世界のことなんかは賢者級に知っているのではないか。

こういう時になかなか有能なようだ。

実に頼もしい存在だ。

俺はいく先が決まった。


「 じゃあ東へ進むか、シュヴァ。 じゃあな、リーベ 」


俺はリーベに別れを告げてシュヴァを連れて歩き出した。


と、その時叫び声が響いた。



「ちょっと!? 馬鹿なんですか! アホなんですか!

私も行きますよ!? 」


リーベの声だ。いつものような余裕がない。ちょっと怒っている。


「え、お前ついてくんの? 」


てっきりこないのかと思ったぜ。 むしろこれないとばかり。 あ、この判断に来て欲しくないとかいう希望は入ってないです。


「何ですか、ひどいじゃないですかー 」


リーベは呆れたように言った。


「ひどいも何もお前この森から出たことないって言ってたし、長旅になるからついてこないと思ったんだよ 」


俺はそれらしく御託を並べる。



「へー、意外と考えてるんですね。 でも行きますよ一緒に。 ベリィもシュヴァちゃんも私がいないとやっていけないですしー。その姿なんかも定期的に施さないと 」


彼女はすぐに感心し始めた。 それから威張りながら話したのは想像に難くない。



まあ、認めたくもないが、すごい助けてもらったのも事実だ。

この姿にしてもらったのもそうだし、あれだけの人数を眠らせてもらったのもそうだ。

彼女がいなければ、俺の存在は世界中に知れ渡り、面倒臭いことになっていたかもしれない。

妖精は特殊な能力でいろいろなことができる。今日やってもらったこと以外にもまだ色々とできることがあるのだろう。

ついてきてくれるなら拒む利用は(こいつの性格以外には)ない。

まあ、その性格のところはさすがに妥協するべきだろう。


「そうか、じゃあお前も行くか。東へレッツゴーだ! 」


俺は気合十分で歩き出そうとする。


と、リーベに冷静な声で止められる。


「いや、今日は休みましょうよさすがに。 この森の妖精たちを紹介してあげますよ。妖精王にも紹介します」


うわ、面倒くせえ。

俺の怒涛の1日はまだそれからもしばらく続くのであった。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



ある城のある一室。


その一室では、大悪魔の今いる領地の近隣の領主たちが揃っていた。

地域で関係の深い者たちだ。


彼らは既に様々なことを話し合ったり決めたりしていたので疲れ切っていた。

この世界は1000年前に比べれば平和だと言えるがそれでも人間にとっては様々な危機が迫っていた。


1人が口を開いた。


「まだ、何か話し合うべきことがあるのか? そろそろ終わりにしようではないか。 私も皆もなかなか疲れて来ているようだ 」


「ああ、そうだな 」


取りまとめ役の男がそう口にする。

すると室内の緊張感は一気に緩んだ。



と、その時、部屋を守る任についている騎士が扉越しに言った。


「かなり重大な報告があるようです!通しますか 」


「通せ 」



取りまとめの男が力強く言う。

彼の表情は不安で包まれているようだ。


緊張感の緩んでしまった空間はもう自然とは静まったりしない。いろいろな声がしていた。


「ああ、やっと会議が終わったという時になんであろうか?まさか、 街が消されたという報告ではあるまいな 」


「エルニーニョの仕業ならそれも許容しますが、どうでしょう。 魔獣などなどの仕業であれば… 」


二人は微かに笑いあいながら話している。


「まさか今日エルニーニョ卿が出席していないのは、街を破壊しに行ったからなのですか。 お二人は止めたりはしないのですか 」


その二人に食ってかかる若い男の声もする。

しばらくの間は色々な声が飛び交っていた。




「静まれ 」



全ての報告を耳元で受けた取りまとめ役の男がそのざわめきを一言でぴしゃりと遮った。

室内は再び緊張感を取り戻していく。

室内が静寂に包まれてからすこし開けてから、取りまとめの男は報告の結論から話し始めた。


「今日の会議に出席していないエルニーニョのことだが。彼の領地の東端の街パリオルで、彼自身何者かに殺されたようだ 」


その内容を聞いて、 室内は騒然とする。

再びざわめく。


「それは確かなのですか? 」

「一体何にやられたというのだ。このままでは人間も相当まずいのではないか 」

「目撃者はいるのか? 」


様々な疑問が飛び交った。

それらの疑問に対して取りまとめ役の男は聞こえる限りの疑問に答えた。


「エルニーニョは頭を潰されたいたが、身体の特徴や服装などから本人でほぼ確定らしい。

彼が殺された時の目撃者はいない。

その場にいた護衛も街人も皆眠ってしまっていたらしい。

起きた時には既にエルニーニョが死んでいたようだ」


その回答では疑問は尽きない。むしろ疑問が増えていっていた。


「眠っていた? どういうことだ? 」

「じゃあ、何にやられたかは分からないのですか?」

「街人と護衛が共謀しているのでは? 」

「だが、とてもあのエルニーニョが数に押されて負けるとは考え難いのである 」


様々な声が飛び交う。

それを遮り取りまとめ役の男がこれだけはというように強く言う。


「 街人はとてもエルニーニョに太刀打ちできないだろうし、魔獣などであれば彼だけを殺すのはおかしい。

その正体は定かではないが…。

ただ、一つ街人も護衛も眠る前に現れ、後で消えた不審な者たちを目撃していたらしい 」


「それは、どんな野郎だ ?」




しばらくの沈黙の後。

まとめ役は静かに答えた。


「一匹の妖精と犬を連れた一人の魔法使い見習いだそうだ 」





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