魔導からくりスターリング
俺、リーベ、シュヴァの三人?匹?まあ、どうでもいいや、は、街への道中にいた。
念話によってシュヴァが俺に話しかけてくる。
(そういえば、ベリアル様も僕も今現在ではかなり目立ってしまうワン。 このままだと人間などが寄ってたかってくるワン!)
そうか、今やこの世界には魔族のものは数が少ないのか。
どうしたものか・・・・。
まあ、もちろん俺は奴らの戦力を恐れているのではない。
蚊が身体の周りに沢山居たら鬱陶しかろう。
まあ、そんな感じだ。
「つっても俺は化ける魔法とか使えねぇしな。」
「あっそうか確かに化けた方が勝手がいいですねー。シュヴァちゃんですよね、こんなこと思いつくのは!凄いですねーシュヴァちゃんはー」
リーベはシュヴァの元によっていって小さな手で三つある頭のうち真ん中の頭をなでなでしている。
この短い間にこのアホ妖精はもう魔獣に気を許してしまったのだ。
こいつすぐに悪い大人について行く子供の典型例みたいなやつだな、本当に......。
なんか、心配になってきちまったわ。
まあ、それはともかくどうするか。
俺の姿は大悪魔ベリアルそのもの。
人間とはかけ離れている。
「あっ、私、変身させれますよ!
ふん、やはりあなたたちは、私が居なくてはダメみたいですね! 」
リーベはシュッと俺の目の前に来て、踏ん反り返って威張る。
「あっ」てなんだよ。忘れてたのかよ、アホ。
しかし、ここで頼ると、絶対に調子にのるよな、コイツ....。
「くっ、とても頼みたくないのだが。そのままじゃダメかな? 」
俺は目の前の妖精から目を逸らしてシュヴァの方を向く。
(やってもらった方がいいワン。観念するワン )
現実的な答えだ。まあ、仕方ないか。
無条件でやってくれるみたいだし。まあ、でもその代わりコイツに対する優位性という超大事なものを失うことになるわけだが....。
「あぁ、頼むよ 」
俺は観念したような顔でリーベの方に向き直った。
「まあ、頼み方っていうのがあると思いますけど、一応緊急なので許してあげましょう。
じゃあ、シュヴァちゃんからいきますよ! えっとオーソドックスな柴犬の姿にします! 」
そう言うと、リーベはシュヴァの真上で旋回し始める。
背中から伸びる美しい蝶の羽根からキラキラと輝く鱗粉が舞い始める。
この鱗粉の効果だろう、シュヴァの姿はみるみるうちに柴犬の姿に変わってしまった。
先ほどまでの凶悪さは全くなく、今では完全に愛嬌のあるかわいい柴犬だ。
これは、見事なものだ。
「おっ、かわいく仕上がりましたねー。じゃあ、次はべリィの番です。 私の配慮で美青年にしてあげますよ! 」
リーベは楽しそうに俺の真上をくるくると回り始める。
同時にその鱗粉が舞い落ちて来る。
「ちっ、人間の姿かよ。 この大悪魔が人間の姿をすることになるなんて絶対おかしい! 」
俺はとっさに大きい声で嫌がって、鱗粉から逃れようと動き出した。
人間の姿になる寸前に本能的に嫌だって思って逃げてしまった。
「あ、そういうのいいです 」
(時間ないワン!)
真剣な声だ。怖いわ正直。
「あ、ごめん」
とっさに謝ってしまう。
まあ、確かに緊急だ。こんなことしている場合じゃないな。
人間の姿になることは抵抗はあるが仕方ない。
しばらくして俺は人間の姿に変化していた。
みなぎる力は変わらない。見た目だけが変化したのだ。
どんな姿かっていうと人間の黒髪の若い男の姿らしい。 なんの特徴もない普通の男だな。装備としては茶色っぽいローブを身に纏っているだけだ。
この姿って・・・・ なんか、とてつもなく弱そう。
俺の表情にがっかり感が出たのだろうか、リーベがフォロー的なことをしてくる。
「かっこいい顔してますよー。 それに外見なんて関係ありませんよ。大事なのは中身です! 」
こんな姿にしたのは、お前だけどな。
まあ、確かにその通りだ。大事なのは中身。
ここは、この弱そうな姿で我慢するか。
俺はこの姿を受け入れ、俺たちは街まで先を急いだ。
* * * * * * * * * *
ーー同時刻。
街の住民は絶望していた。
魔獣は見つかる気配がない。
その魔獣が街の外で目撃されるのは、時間の問題だ。
そしてその目撃情報が領主エルニーニョの耳に入ってしまえば、その不手際の責任としてこの街は人ごと消されてしまうだろう。
エルニーニョはそれを平気でやってのける奴だと。
そのことは街の誰もが分かっていた。
だが、絶望という病の蔓延するこの街にも、まだ希望を持つ者達がいた。
「ジェーンさん、魔導からくりスターリング作動完了しました 」
ジェーンと呼ばれた男ーー壮年の筋肉隆々の大柄な男は、暗い部屋で煙草を吸いながら、戸の外からの報告を聞きふうっと安心したように溜息をついた。
とりあえず、ここまでオッケー。
そして、ひとり心の中で語り始める。
俺の名は、ジェーン・レイベル。
こんな筋肉隆々とした見た目だが、戦闘は得意じゃあねえ。
俺は魔導からくり職人として、何十年もちまちまちまちま小っちぇえ部品を作ってきた。
そして、今それが役に立つ時が来た。
俺はただの魔導からくり職人じゃあねえ。
俺の裏の顔は、領主エルニーニョを倒してやろうというレジスタンスのリーダーだ。
エルニーニョを倒すためのこの作戦の要、魔導からくりスターリングは、俺の最高傑作だ!
あ、ちなみにスターリングっていうのはだな、かつて神の支配した古代大国に対して反乱を起こした英雄の名前でだな、俺が何十年も......ゴホン、いやそれは今は関係ないな。
チキショー、最高傑作ってのは思わず熱く語りたくなっちまうな。
うん。落ち着けー、俺。
スターリングは、簡単に言えば落とし穴だ。
ただのガキの作る落とし穴と違うのは、その中に落っこちた奴は、その穴の中では魔法が使えねえってことだ。
息をするように街一個破壊できるエルニーニョも、魔法が使えなきゃあ、ただの雑魚よ。
とにかく奴が落とし穴の位置にくれば、俺たちの勝利だ。
落とし穴の大きさはその機能と引き換えに効果範囲1メートル四方という狭い範囲に限られているが、落とし穴は奴の動向を分析に分析を重ねることによって得た通る確率の高いところにつくられている。
この街の人は皆そこには近づかないようにと言ってあるし、準備は万端だ。もうやれることはやった。
我ながらよくやった!
彼は自画自賛した。
そして覚悟を決める。
失敗したら待ってるのは死だ。
でも、そんなのかんけぇねぇ。きっと奴はスターリングの上を通る!
よしっ戦場へ行くか!
ちなみにここでいう戦場とは、名も知らないような家の陰とかそういうところである。彼らはもう見守ることしかできないのだ。
ジェーンは、戸を盛大に開ける。
希望を象徴するような日光が部屋を満たす。
外にはレジスタンスのメンバーが控えていた。
「お前らっ、勝利は目前だ!
ビビることなんてなんにもねえ!遠足にでも行くつもりでいくぞ! で、帰って来たら祝宴だ! 」
彼の力強く自信の篭った声によって、その場は盛大に盛り上がり、皆の希望は膨んだ。
「よしっ、お前らっ、配置につくぞっ! 」
こうしてこの街では一世一代の戦いが繰り広げられようとしていたーー。