変わった出
先頭にバルト、メアリー、そして命知らずの戦闘系職の者たち数人が続く一行が、暗い街の中、衝撃の伝わってくる方向に向けて走っていた。
(この先で、何やらかしてんだ? なあ、ベリィ)
バルドは相変わらず年に似合わず少年のようなワクワクした表情を浮かべる。
バルド以外の者は、何かしら役に立てると多分そう思っているだろう。
まあ、そりゃあそうだろう。力になるためにこうして危険な場所に向かっているのだ。
バルドだって役に立つために全力は尽くすつもりだ。
だが、ベリアルと『龍殺し』の青髪との闘いーーあれを見たところ、正直自分が役に立てるとは思えない。
ではなんのために来たのか。それは表情に表れていた。
メアリーがバルドのその表情を見て言った。
「私たちが向かっているのは、恐らく相当危険な場所でしょう。なのに、随分と余裕なんですね、」
バルドがニヤリと笑う。
「まあな。怖さとかより、あいつが何をするのか見たいっていう好奇心が勝ってる。ーーあいつは多分皆んなの想像を軽く超えてくると思うぜ」
後ろの戦士たちはバルドが真剣に何を言ってるのか分からないようだ。
(まあ気でも狂ったと思うがいいさ、あの宿で語ったあいつの話が本当だってすぐ分かる)
メアリーは困惑したような、動揺しているような表情だ。
一度信じたが、冷静になってまた疑いだしてしまったような感じか。
「……やっぱりあまり実感できません。あの無銭の男がガイルを倒したなんて。『龍殺し』がガイルを仕留めたのでは?」
「まあ、俺はその『龍殺し』の青髪アレクシスをものともしないベリィの闘いぶりを見ちまったからな。そうでなきゃ、俺もそう思ったさ」
「『龍殺し』の青髪、剣術と魔法を組み合わせて使うという魔法剣士のアレクシスを……。」
かなり詳しく知っているようだ。
宿で働くと、そんな情報まで入ってくるのか。
「まあ、だからなんだという話だぜ。そんなんより、あの時のあの青髪の顔は分からんだろ。戦闘力も地位もあるが、アイツは髪だけじゃなくてケツも青いガキだ。調子に乗った奴のケツをベリィが引っ張たいたときのあの爽快感!」
と、興奮して暴走しかけそうなのを留める。
「……」
メアリーは無言だ。
ちょっと決まりが悪い。
バルドは咳払いする。
「ーーしかし、ベリィの相手は誰だ? ベリィの話によるとガイルたちは逃げただけだから、また戻ってきたのかもしれんなーー」
「……」
バルドがそう話題転換してメアリーに尋ねるも返答はない。
その代わりに、
「ーー少し油断しましたね」
メアリーがそう呟いた。
「え?」
「どうやら、相手はガイルではないようですよ。奴なら、真昼間から堂々と来るでしょう。コソコソと夜に護衛団長を殺したり、こんな風に静かに周りを囲んで小細工をしたりしないでーー」
「何?」
バルドをはじめ、ほかの戦士たちが、周囲を見回す。メアリーの言っている意味がよく分からない。
周りは暗くてよく見えない。誰かがいるというのか。
バルドが困惑していると。
地面を強く蹴る音と、空気を切る音。
そして、それから横の家屋の屋根の上から叫び声が上がる。
だがその叫び声は長く続かない。途中で力尽きたようだ。そしてほかの所からまた何度も同じような叫び声が上がる。
とにかく速い。周りで何が起こってるのか状況が掴めない。身体も動かないような錯覚があった。
しばらくしてやっと何が起きたのか分かったのは、一つの家の屋根から一人の少女が黒いローブの男を引っ張って降りてきた時だった。
その時初めて、バルドは先ほどまで隣にいた少女がいないことに気づく。
つまり。
メアリーが、周囲の敵をこの一瞬で倒したというのか。
(マジで、か??)
静かすぎるその戦闘術はまるでーー。
「メアリー、お前は一体なにもんだ?」
まるでーー。
「ただの『山羊の尻尾亭』の従業員です」
『山羊の尻尾亭』の女主人メリーは言った。
『メアリーはちょっと変わった出でね』と。自信たっぷりに。
なるほど、変わった出だ。
たしかに彼女はそこが見えない感じではあったが、ただの可愛らしい従業員だと思っていたのだが……。
バルドの背筋が少し寒くなる。
「……ハハ、そうだよな、変なこと聞いちまってすまねえな。……しっかし、なかなかやるじゃねえか」
ーーほ、ホントに、なかなかなるじゃねえか。まあ、でも今は心強い味方だよな……。




