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光と闇


「魔剣……か。厄介なものと相対してしもうたな」


「同感です」


龍殺しの団長を務める爺さんモザンと青髪のアレクシスが、魔剣の使い手と対峙していた。

魔剣から溢れ出る、並みの人間では正気を保てないほどの妖気を一身に浴びて、ヒリヒリと二人の全身が打ちひしがれる。


「こんな時に、他の奴らはどこへ行ってしまったのじゃ」


「領主の呼び出しとあらば、仕方のないことでしょう」


「そうじゃな、我々だけで、あの“魔剣”を屠るぞ、アレクシス」


二人は戦いの覚悟を決める。

先程から全身に浴びせられる妖気は、本来ならば魔剣と敵対する者の戦意を挫く効果があるものだ。


だが、アレクシスも団長も全く怯んでいなかった。


(あの男に比べれば、……この魔力など恐れるに値しない)


そう、アレクシスはごく最近、比べ物にならないほど格上の存在に出会ったのだ。その時は情けない姿を晒したが、それによる成長は計り知れない。

一方、団長の方は長年に渡る経験が、魔剣に対して怯

まず対峙することを可能にさせていた。


目の前の黒ローブは、ただ時を待つように静かに佇んでいる。珍しく理性的に彼ら二人が向かってくるのを待っているのだ。


「では、アレクシス行くぞ。本体を消し、魔剣には元の場所に帰ってもらう」


「魔剣に心身を預けてしまった以上、あの者は斬る他ありません」


二人はそう言葉を交わすと、“魔剣”に向けて踏み込んでいった。







魔剣の使い手、ロアッソの精神状態は今や不可思議な状態にいた。

身体は勿論、魔剣に預けられていて自由が効かない。それは当然の結果だと彼女も納得しているのだが、想像していない現象が起きていた。


彼女の自我ともう一つ、魔剣によって侵食されたのだと思われる邪悪な自我が誕生していた。

そして、その二つが同時に存在していたのだ。


「ロアッソ、あんたはよくやった」


もう一つの自我が、彼女を称賛し、手をパチパチとやる。だが、それは彼女には称賛として受け取らことができなかった。彼女は、今更になって後悔しているのだ。

ただ主の命令に従うことだけを考えて、思考を止めて、感情を捨てて、任務を完遂してきた。捨てられた自分が、正しく意味を持って生きるには、それが最善だと思って。


だから、後悔などするはずがないのだが。人間的感情などもあるはずがない。

表面上で感情があるように振舞ったことはあったけれど、それでも自分の心の内は空っぽのままなはずだった。


なのにどうして、今更こんなにも後悔しているのか。

どうして感情がこれほど色濃く残っているのか。

どうして自ら掲げたゴールに辿り着いたのに、こんなにも悲しいのか。


さっぱりだ。


と、いつの間にか戦闘が始まった。

体は預けているから、ロアッソは使い手視点で見守るだけだ。

相手は爺さんと青髪。

確かに強そうだが、魔剣には勝てない。格が違うのだとロアッソには確信できた。


ロアッソの身体は今や魔剣の自動操縦。そして、ある程度のコントロールの主導権も、もう一人の自我に奪われている。


今後、自分の身体が魔剣によって蝕まれて、使い物にならなくなるまで、殺しは続くだろう。

自らの命の灯火は、あまり長くないだろうとは予想できるが、それでもどれだけの人を殺さなければならないのだろうか。


もう、昨日のように魔獣の魂で誤魔化すこともできまい。ほぼ全ての魔獣が昨日消え去ってしまったから。それに、もう魔剣は新たな自我まで作ってしまったのだ。

元のロアッソの自我など魔剣にとって完全に用済みである。



ただ、目の前で人を殺すのを眺めることしか出来ない。目をそらすことも目を瞑ることもできない。せめて自分の自我が消えてしまえばなんと楽だろうか。だが、魔剣の召喚という罪を犯した大罪人には、そんな安らかな眠りは許されない。

精神的な罰を持って死を迎えることになるだろう。



「そう、ロアッソ。静かにしてなさい。全部私が引き受けるから。全部殺し尽くしてあげるから」



そう、全て任せた。もう、抗おうとすら思えない。何を後悔していたのか、急に分からなくなってきた。感情が残っていた理由も後悔する理由も、もうどうでもいい。

もう、どうしようもないところまで来てしまったのだから。







ロアッソの心とは他所に、その体と龍殺しの二人の幹部によって戦闘が始まっていた。


近づくのが危険だと考えた二人は、ある距離まで間合いを詰めると、そこからは近づきすぎないように攻撃を開始する。


アレクシスは、ベリアルと戦っていた時と同様に、光の斬撃を飛ばすことができる。自動追跡をする光の斬撃さえも。

そして、爺さんであるモザンもその拳が空を切るだけで、光る拳が飛んでいく。

二人の攻撃は高速であり、高威力であり、並みの魔獣では避けることもできない上、その身に浴びれば死滅は免れないような威力の攻撃だ。


だが、この相手にそう簡単にいくはずがない。これは、両者ともに小手調べといったところなのだ。


勿論、その斬撃は“魔剣”には通用しなかった。

魔剣は、一瞬にしてその刀身から闇の魔力を溢れさせると、使い手の周りにぐるりと完全な壁を作る。


「ほう、身体はできるだけ動かさないか」


「なんという、淀みない魔力の移動だ」



生き物のように使い手を守るその魔力に、少しばかり息を飲んでいると、二人の光の斬撃と拳が、容赦なく突っ込む。


「果たしてどれくらいの反応を見せるかじゃの……」



すると、光は、闇によって、なんの衝撃も残さず消しとばされた。熱された鉄の板に、水を少量かけたのと同じような反応。


効かないのは予想通りとは言え、この反応には、さすがの二人も驚く。


(いや、待て。落ち着くべきじゃな。これは、ただ中和が起きておるだけ。光と闇の魔法の中和がな。光側の力が足りないゆえ、光と闇が中和する時、光のみが消えているように見えるだけじゃ)


モザンは一瞬で心を落ち着かせると、青髪のアレクシスに向き直る。


「アレクシス、これより強化しようが小細工では通用しないようじゃ。ならば、まずはお主の真の剣を抜くのじゃ」


「分かりました」


二人は言葉だけでなく、何やら目配せした。

モザンからの指示に返事すると、アレクシスは、自らの持つ剣に強化を施し始める。

いや、ただの強化ではない。ベリアルとの戦いの時は、見せなかった真の剣を作り出しているのだ。

強化ではなく、自らの体の奥に眠る魔力を剣に注ぎ込んでいる。


(この剣は強力だ。あの時は心が折れてしまったが、今は、この相手は、この剣で抗える……!)


莫大な魔力を注ぎ込まれた剣は、眩い光を発しながら、その姿を変化させていく。


それは、長い長い剣。

聖なる気配を猛烈に発する長剣である。


これならば、間合いを取りつつも、先ほどの斬撃とも比べ物にならない威力の光をブチ込めるというわけだ。

これが、龍殺し二人の一つ目の切り札。


アレクシスは、躊躇うこともなくその長剣を“魔剣”に振り下ろす。


その攻撃を魔剣自らが受けてたち、易々と弾いた。重みは元の剣と変わらないものの、長くなっているので、それによる鈍さは回避できない。魔剣にとって、弾くのは容易い。

だが、先ほどの斬撃のように、一度その闇に触れるだけで光が消えるというような現象は起こらない。


つまり先のように、魔力の壁のみでは、光の長剣を押し込まれ続けた場合、突破される可能性があるのだ。だから、魔剣自らが物理的に防ぐか避けるかしかなかった。


(この鈍さでは、確かに“魔剣”本体に攻撃を加えることなどできない。しかし、それで良いのだ。この光の長剣の目的は、元よりこちらに注意を引きつけることなのだから!)




そう、狙い通り、“魔剣”はアレクシスの光長剣の対応に追われていた。魔剣で直接受けるか、体を動かして避けるか。

どちらにせよ、止まって魔剣から溢れる闇で身を守ることはできない。それなら、その闇を操ることが少しでも疎かになる。

そして、


(それこそが、狙いじゃ!)


爺さんは心の中でそう叫ぶと、しばらく準備していた大魔法の発動を完了させた。


突然、街の大通路にでかでかと浮かび上がる紋章。それは間もなく、強く輝き始める。


「我が力、聖なる力は、地脈から湧き出るもの。地下より生み出された巨大な掌で貴様を包み込んで潰してやろうて!」


モザンの力のこもったその言葉とほぼ同時に、紋章から光る巨大な掌が現れる。

それは、神の手にすら見える美しい手だった。


これこそが龍殺しの二つ目の切り札、ゴッドハンド。


モザンとアレクシスもまた掌の上にいるものの、掌は彼ら二人を通り抜けた。

だが、“魔剣”は別だ。

次の瞬間には、逃げ遅れた“魔剣”が、巨大な掌の中に包み込まれた。




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