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VS禁忌


よし、決めた。

今からこの黒ローブを全員戦闘不能にしてやる。

俺は表情を怒りモードに変える。

それを見て、黒ローブがまたしても笑った。


「やっと、自分の置かれている立場が分かったか。まあ、でもそう嘆くな怒るなベリアル。我々の計画はこんなものじゃない。地獄を見ずに済むのだ、お前は幸運だ」


立場が分かっていないのはそっちなのだが。

こいつらは、研究時の俺の魔法を参考に俺の実力を図っている。勿論、俺は滅多なことがない限り人前で全力魔法など使わない。研究でも同様だ。魔法に関しては、大体本来の実力の10分の1程度に実力を計り間違えているのだろう。

その上、俺には人間とは比べ物にならない身体能力がある。つまり、純粋な戦闘の実力の計り間違えはその比ではないのだ。


「さて、長話が過ぎたな。そろそろ消えるがいい」


俺の正面の屋根に立つ黒ローブが周りに何やら命令する。

すると、周りの黒ローブの連中が屋根の上を移動しながら詠唱を始める。


詠唱が必要なのかこいつら。はっきり言ってレベルが低い。彼らの周りで蠢く魔力はとてもじゃないが強力とは言えない。


比べたくもないが、例えばエルニーニョよりも一人一人は段違いに弱い。集団でかかって来ても、それほど脅威ではない。

これで計画がどうのと言われても困る。


「何か言いたげな顔だなベリアル。無言詠唱が当たり前のお前には、私たちは相当低レベルだと思うのだろうな。確かに才能は私たちがはるかに劣るだろう。だが、王道には限界があるとは思わないか?」


黒ローブが偉そうに言ってくる。

王道に限界がある? どういう意味だ? いや、いかれてる奴の言葉など間に受けても混乱するだけだ。

俺は狂気に染まったその言葉を無視して、周りを見回す。

と、黒ローブ達は未だ屋根の上で俺を取り囲むようにして詠唱していた。何か結界のようなものをはるつもりなのだろう。

それは、さっきまでと変わらない。


だが。


黒ローブ達から、先ほどまでとは比にならない黒い魔力が漂い始めていた。

ただ、強力だというだけではなく、禍々しい魔力だ。

風向きが変わり、吹き荒び始める。この魔法、自然にすら影響を及ぼすか。


この黒い魔力。暗闇すらも鼻で笑うドス黒さ。

俺はこの魔法には縁がある。長い長い縁がな。

これは不完全ではあるが……禁忌魔法の類に違いない。


「気づいたか? はははっ! 顔面真っ青だベリアル。お前はもう苦しみの円環に囲まれた。逃げられない。苦しみながら死ぬのだ。何十回も何百回も擬似的に死ね」


「ーーーー」


重ねて他の黒ローブも詠唱を始める。

さらに、禁忌魔法をかける気だ。

禁忌魔法を人間が使うのか。胸糞が悪いったらありゃしない。


「私たちの計画では、この魔法すら道具に過ぎぬのだ。もっと上のレベルの禁忌魔法が昨日発動された。この世界に本来は存在してはならない魔剣の召喚が成された」


「ーーーー」


「元々、ここにいたガイルというやつがある重要な書物を手にしていてな。宝の持ち腐れだったんだが、ついに私たちが手に入れた。それによって先も言ったが魔剣の召喚に成功した」


「ーーーー」


「あれ? 中々死なぬな。丈夫な奴だ。で、さっきからだんまりだが、どんな気分だ」


「…………ん……ない」


「何だって? 何か言いいたいことがあるのか? もうまともに喋れないだろ? どれだけの苦しみがお前を襲っているのか分かってやれないのは残念だが仕方ない」


「お前ら……如きが手にしていいもんじゃない」


「お前、まだまともに話せたのか?」


「『禁忌魔法』は、……お前ら人間が手を出していいものじゃない。魔剣もお前らが扱える代物じゃない」


「何だと?」


ちょっと予定変更だ。今から計画について聞かせてもらおうじゃねえか。そんでこいつら全員消す。禁忌魔法なんて胸糞悪いからな。


俺は苦しみの円環の中で立ち上がる。

残念ながら俺は全く以って苦しんでいない。

禁忌魔法を真似ているのだろうが、所詮は人間の手による不完全な魔法。俺には何ともない。


「なぜ? なぜ立ち上がれるのだ。おい、お前たち! サボってるのか!」


黒ローブは急に焦り出した。周りを見渡して叫ぶ。

本当に情けない奴だ。

周りの連中も発動させれば勝ちだと思っていたのだろう、驚いて取り乱している。こいつら全員小物だ。

どうしてこんな連中が禁忌魔法なんぞを。


まずは黒ローブに脅迫そして情報を奪い取ってやるか。

俺は、足に力を込める。悪魔の跳躍力なら、建物の屋根など簡単にのぼれる。


今も慌てふためいて周りを見回している黒ローブの真正面に一瞬の後に降り立った。

そして、顔を近づけわざと低い声で言ってやる。


「お前。全て話せ。魔剣が今どこにあるのか。何をしようとしてるのか全てだ」


黒ローブは身を固まらせる。


「お前、いつからそこに!」


周りにいる数十人も同じように驚く。そしてそいつらはすぐに逃げようとする。が、お前らのような奴らを逃がすわけあるまい。それはもちろん分かってるよな?


「逃がすわけないだろうが、お前ら」


逃げようとしていた連中の体が止まる。嫌でも背を向けられないだろう。俺が魔力を解放したら、人間としての本能が背を向けることを拒む。そして、これくらいの小物ならば、確実に恐怖で動けなくなる。


よし、準備は整った。まず、禁忌魔法を使った計画とやらを聞かせてもらおうか。一体どんなアホなことをしようとしているのやら。


「早く答えろ。答えなければ、早々にてめえを殺して、次の奴に聞くだけだぜ」


「お、おおお前は、何者なのだ?」

「質問してるのはどっちだ?」

脅しをかけてやる。黒ローブはフードの下の顔を歪ませた。

「はっ! まさか、お前がガイルを倒した奴だというのか! 主が気をつけろと言っていたのに、私は、私は!」

話が通じていない。ちょっとビビらせすぎたか?


小物だし仕方ないだろう。こいつらはその主とやらの手駒に過ぎないようだし。まあそうだろう。こんな小物が禁忌魔法を使った計画の首謀者なわけがない。


その主とやらがどんな奴なのか聞き出したいのは山々だが、今はそれより優先して聞き出さなくてはならないことがある。


「魔剣を召喚したのはどいつだ? さっさと答えろ! 今度別のこと喋ったら、てめえの頭と身体が繋がっていられなくなるぞ」


黒ローブは一瞬ビクッとしてからしばらく黙っていたが、ぽつぽつと答え始めた。


「魔剣の召喚は、魔力保有量が多い者にしか務まらない。だから、主は最も才能を持つある少女をここに送り込んだ。そして、昨日その小娘が魔剣を召喚に成功したのだ」


魔力保有量が多い者。少女。

なんとなく誰のことか分かったぞ。魔術師団で最後に自己紹介された少女。ロアッソだったか。今思えば、青白い顔で体調が悪そうだったな。


あれは、魔剣を召喚に魔力をごっそり持ってかれたか、それとも魔剣を扱う時の無理な動きによる負担か。

しっかし、魔剣か……。人間ごときがあつかえる代物ではないのは事実だ。悪魔が消え去っているっぽいこの世界じゃ、そんなものはここにないと思ったんだけど。かつて俺は魔界にほっぽり捨てた。


「どうやって召喚したんだ? 人間ごときがあれを召喚するには、代償が必要なんじゃないのか?」


俺は1000年眠っていたし、召喚法など知らない。人間の魔法も詳しくは知らない。ただ、何か代償を払わなくてはならないはずだというのは、なんとなく分かる。


「小娘の潜在魔力をほとんど。それと、毎夜生物の魂を魔剣が満足するまで与える必要がある。毎夜、魔剣は小娘の手に現れる。そして、魔剣は小娘の体を操り生き物を殺す。魂を吸い取るのだ。魔剣が満足するまでな」


なるほど。で、昨日は護衛団長ダンゼルが死んだということらしい。でも、犠牲が彼一人で済んだってことは、魔剣が人間一人の魂で満足したということか? 魔剣を無理やり召喚するにしては、燃費が良過ぎる気がする。


「あの小娘は魔剣に対抗して街の外に出て、わざわざ魔獣を殺しに行ったのだ。だから、人間の死者は護衛団長だけで済んだ。あの小娘は覚悟が足りないのだ。召喚という後に引けないことをしたのに、いざ人間を殺すとなるとビビってしまったらしい。飛んだ腰抜けよ」


彼女は魔物の魂で満足させて、魔剣を引っ込めたのか。でも、それがいつまで続くだろうか。毎夜、殺していたら魔獣だっていつかいなくなるだろう。



「もう、いいだろ! これだけ話したら私はもうタダじゃ済まないのだ! だから、せめて今は殺さないでくれ!」


「いや、まだだ。もうほぼ分かっちゃいるが一応聞く。魔剣を召喚して何をする?」

「……それを話したら逃がしてくれるか?」

「さあ、どうだろうな。ただ、話さないならてめえはすぐに真っ二つになるだろうな」

「ひぃ! 分かった! 魔剣によって、まずこの領の人間を殺戮し尽くす。強かろうが、弱かろうが、魔剣を持った小娘は誰にも止められないからな……」


下衆な野郎達だ。そんなことを魔剣に頼ってなそうとするなど。


「ご苦労だったな、てめえら」

「じゃあ、逃がしてくれるのか?」

金縛りにあったようになっている黒ローブ達に元気が少し戻る。馬鹿かこいつら。


「ああ、クソ人生ご苦労だった!」

こんな連中、生かしておく道理はない。

爺さんは悲しみそうではある。だって、魔術師団の連中は皆孫のようなものだって言ってたからな。さぞ悲しむだろう。でも、それでも生かしてはおけない。


「俺はお前らみたいに苦しめて殺したりするような趣味はない。一瞬で終わらせてやる」


俺は、魔力を放出し身に纏う。人間では到底到達できない量と密度の魔力だ。

どうせ死ぬのだ、俺が人間じゃないとバレてもなんの問題もないだろう。


「な、なんて膨大な魔力なのだ! ここは、ここは地獄か? そしてお、お前は悪魔!ひぃ!」


ほう、当たってるじゃん。でも、そこまで教えてやる義理は流石にない。


黒ローブ達は、どうすることもできない。金縛りのようになって動けないのだ。


よし、準備完了。


「じゃあな。次はこんな悪党に生まれないように祈ってるぜ」



そう言って、腕を振ろうとした瞬間だった。

邪魔者が入ってきたのは。


それは、龍殺しだった。



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