闇討ち
ベリアルが怪しい魔術師団に入った夜。
『龍殺し』が方針を固めた日の夜。
状況が再び動き出す。
メーカの街で護衛を担当している団の団長ダンゼルは、夜の街で一人歩いていた。
遅くまで酒を飲み、そして今から帰るべきところに帰ろうと家路についているところだ。
頭はフラフラで、足取りもフラフラ。
酒に飲まれた状態だ。
ダンゼルの気分はすこぶるいい。
「て、こんな夜遅くになんだ?」
ダンゼルには、それが幻覚か現実か定かではなかったが、道の行く先に一人の魔法使い見習いが立っていた。
そして、その魔法使い見習いの右手には、不気味に発光する刀剣が握られている。
「て、やべえじゃねえか!」
事態の深刻さに気づいたダンゼルは、フラつく頭を叩きながら、護身用の剣を抜く。
今は酒に飲まれてみっともないが、団長を務めるだけあって相当な手練れだ。
ただ、目の前の魔法使い見習いからは、嫌な雰囲気が漂ってきていた。
それが、ダンゼルの絶対的な自信を挫く。
「お前、何者だ?」
ダンゼルは少し震えながら尋ねた。
だが、目の前に不気味に立つ魔法使い見習いには、その声が届いていないようだ。
確かに会話が成り立つような気もしない。
と、フードを被っていて顔がよく見えないが、魔法使い見習いが確かに不気味な笑みを浮かべる。
そして、それをみた瞬間、消えた。
一瞬の出来事だ。
幻覚だったのか? それとも本当の手練れか?
まあ、ともかく命が危なかった気がする。
その状況はなんとか乗り切ったらしい。
良かった、良かった。
ダンゼルは目をこすりつつ、なんとなく振り返ろうとして……。
背後に魔法使い見習いが立っていた。
そして……。
ザクリっ!
生々しい音が夜闇の中に響き渡る。
刀身が不気味に光る刀剣で背中を深めに斬りつけられたのだ。
バタリと前へ倒れるダンゼル。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
かなりの致命傷だ。
すぐに助けを呼びたいが、声が出ない。
助けを呼ぶのを許してくれるはずもない。
このままとどめに、後ろの魔法使い見習いに心臓を一突きされて死ぬ。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
目を瞑って思考停止しながらその時をただ待つ。
焦らされて、もう、早くしてくれえ!そう叫びそうになった時に、魔法使い見習いがいつの間にか、消えていることに気づいた。
ただ、安堵なんてできない。
どうしても、声が出ないのだ。
この傷ではもう助からない。
死ぬまでの時間が長引いたに過ぎない。
ただ一人暗闇の中で死ぬのを待つことしかできない。
ダンゼルは一人絶望した。
そして数時間後、死んだ。
* * * * * * * * *
新しい朝が来た!
そんなことを言って俺は目を覚ます。
まだ早朝だが、怪しい魔術師団の研究は朝早くからだ。面倒臭いがまあ、付き合ってやろう。
リーベとシュヴァには、昨日起こすなと言われた。
こいつら、研究には興味ないらしくついて来るつもりはないらしい。
とりあえず、宿でダラダラしているつもりだそうだ。
ダメ野郎どもだな本当に……。
て、俺もこんな面倒な研究を手伝うことにならなければダラダラしているんだろうけど。
そんなことを考えつつ、俺は目的地へと向かった。
道中。
人がやけに集まっているのを目撃。
何か騒ぎになっているようだが、俺はそういうのは全くと言っていいほど興味ない。
だからスルーだ。
目的の家屋に着けば、朝早くから爺さんがいた。
俺を待ちわびていたらしい。
顔を見るや否や、
「律儀に来たのう。存在探知の魔法を使わないといけないかと思ったわい。まあ、入るのじゃ」
と、嬉しそうに言った。何が嬉しいのかさっぱりだが。
爺さんについて、中に入ると中にいる魔法使い見習いの数はまだまばらだ。
でも、辛気臭い雰囲気は変わらない。
と、爺さんが一人の魔法使い見習いの前で止まった。
珍しく女の魔法使い見習いだ。
顔が青白いが、人間の基準で言えば相当整っている顔立ちだ。
「彼女は昨日はいなかったが、この魔術師団の中では最も魔力保有量の多い子じゃ。まあ、今ではお主がナンバーワンだろうがのう!」
彼女は、爺さんのその発言を聞いて、一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。
が、その表情は一瞬にして消え去る。
「おい、うぜーぞじじぃ! あっち行けよ!」
爺さんに対してすごい反抗期のようだ。
確かによく見れば、まだまだ子供、16,17歳ぐらいだろう。
彼女は、爺さんをぞんざいに扱った後、俺の方に向き直る。
「私は、ロアッソ。まあ、よろしく頼むよ」
初対面にはきちんとしているようだ。
「俺はベリアルだ」
お互い名前を名乗ると、ロアッソはそそくさとどこかへと行ってしまった。
「あやつは、最初からここにおってのう。当時は、いまより更に子供だったのじゃが、それでもすごい魔法の才能があった」
「爺さんから見たら孫みたいなもんなのか?」
「ああ、勿論じゃとも。じゃが、ロアッソだけではないぞ。わしはこの魔術師団にいる全員を孫のように思っておるのじゃ」
けっ! 悪魔を孫にするとはいい度胸じゃねえか爺さん!
だが、それを聞いて変に納得するところもあった。
昨日も、そんな印象を受けた。
爺さんは、皆に妙に馴れ馴れしくしている。
ダリュースや他数人のように心を開いている者もいれば、心を頑なに開かないような者もいるようだが。
「これで、魔術師団の者、全員わかったな、仲良くするのじゃ」
「まあな」
* * * *
研究はクソつまらねえから割愛。
どうでもいい研究午前の部が終わり、昼の休憩に入る。
どこかの店に食いに行くか。
そう思って一人外に出ようとすると……。
なんか、特典で爺さんがついてきた。
「いらねえよ!」
「貴様、ひどい!わしも時に若い者と一緒にご飯を食べに行きたいのじゃ!」
俺は、こんな爺さんとはご飯を食べに行きたくないんだが。
どうせなら、可愛い女の子が良い。
「しかし、お主、本当に規格外じゃのう。どこの出じゃ?わしが出会ったどの者よりもすごいぞお主は」
まあ、俺は自分の全力魔力の10分の1くらいしか出してないけどな。
それは、ともかくどう答えようか……。
リーベとシュヴァにしか悪魔だということは言う気はないしな。
「まあ、色々あって言えないんだよ」
そう言って誤魔化す。
「お主の素性は、わしの怪しい研究と同じくらい怪しいのう。ふふふ」
爺さんは、そう言って笑い出した。
それを無視して街を突き進んでいると。
人で溢れた広場に出る。
そして、人々は一人の人物に注目していた。
高い台の上に上るその人物が声を張り上げる。
「私は、領主ファイニールだ! 今から話しておきたいことが2点ほどある! よく聞いてくれ!」




