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ケルベロスのシュヴァちゃん


ーー 頭を3つ持つ怪物。地獄の番犬ケルベロス。

その魔獣が大悪魔ベリアルと妖精の前に立ちはだかった。 ーー


妖精は、 「うひゃっ、魔獣だ! 」とか情けない声を出して、俺の後ろに隠れる。


その姿がひどく滑稽で、俺は笑ってしまう。


目の前にいるのは邪悪なケルベロス。

でも、 それは俺の知っているケルベロスとは比にならない大きさだった。



そう、それは

ちっちゃすぎだろ(笑)


なにこれ、普通にかわいいんですけど。

人間の飼っている犬と同じくらいの大きさ。

これはあのケルベロスなのか?

俺は続けて笑う。


と、心の中で声が響く。


(笑わないで欲しいワン。仕方ないワン)


純粋無垢な少年の姿を想像させる声。

別の妖精か?

俺は上下左右前後見渡すが、別の妖精の姿はない。


「どうしちゃったんですか、悪魔さん!幻覚かなんか見せられちゃってるんですか?しっかりしてくださいよ!!」


妖精は、弱い力だが俺の頬を必死になって叩き始めた。目を覚まさせようとしてんのか。

痛くないけど、なんかうっとうしいな。


「おい!やめろっての。大丈夫だから!俺大丈夫だから! 」


「じゃあ、どうしたっていうんですか?遊んでないで早く片付けてくださいよー 」


そうだな、早く片付けるか。まあ、でも遊んではないけどな!このムカつく妖精め!

しかし、この声は聞こえてないのか?


「なんか、少年の声が聞こえるんだけど。お前には、聞こえないのか? 」


「聞こえないですけど。 もしかして悪魔さん幻聴を聞いてるんじゃないですか? ちょっと大丈夫なんですか? 」


「いや、これは幻聴なんかじゃない。これは確かーー 」

この聞こえ方に朧げに覚えがあった。


(念話だワン)


「そう念話だ 。念話は、魔族同士なら誰とでも使うことができたんだった。俺はあんまり使ったことなかったから、忘れてたけど。

ってことはもしかして......」


俺は目線を漆黒の体毛に包まれたケルベロス?(小)の方に向けた。


(そうだワン!僕だワン!僕が話しかけたワン!)


そうと分かると思わず、

気持ち悪っ!と思ってしまう。

見た目と声音が違いすぎだろ。

しかも、このふざけたような語尾で余計気持ち悪いぞ、おまえ。


(ひどいワン。生まれながらだから仕方ないワン。体も小さくなってギャップがちょっと縮まったワン! )


うわっ、聞こえてんのか今の! 制御できるようにならないとちょっとまずいなこりぁ。

なんか、生まれながらのこと攻めるのも悪りぃし。


「小さくなったってことは、お前はやっぱケルベロスか。 で、急いで向かってきたみたいだけどなんか用か?

あ、妖精はちょっと黙ってろよ! 」


妖精が騒ぎ出すのを見越して、事前に威圧する。


「ひぃっ。わかってますってば! 」


よしこれで話に集中できる。



(あなたと行動を共にしたいワン。 先ほど、あなたの力が蘇ったことで僕は人間から逃れることができたワン。 僕は魔獣だから悪魔さんの近くにいた方が力が維持できるワン。)


魔獣は悪魔から魔力を得て活動している。 その悪魔はこの世界とは別の魔界というところから魔力を得ている。

でも、あまり気にすることはなくて至る所に悪魔がいるから魔獣は特別悪魔の近くにいなくても力を維持できていたはずだけど....。

1000年も経てば時代は変わる。

悪魔はもうあまりこの世界にはいないんだろうな。

聞くまでもないことだ。


それはともかく、

さっき街の奴らの会話で聞いた逃げた魔物ってのはこいつなんだろうな。

そうとなると、どうするか。

同種族としてこのケルベロスを優先するのは、当たり前だ。

だが、街の人間らもこいつから逃げられたら誰かに消されるとか言ってたし。

別に俺は、「人間を助けたい!」なんて思ってるわけじゃない。断じてない。

これは上の存在が下の存在に与える慈悲のようなものだ。

大いなる力には大いなる責任が伴うのだ!


「とりあえず、俺はその街に行ってみるぜ。

あそこの人間は、お前がいないと領主とかいうやつに消しとばされるらしい。

ちょっくら領主と話をしてみる。

蟻ンコを助けるくらいの気持ちでいってやる。

危険だと思うならここで待ってろケルベロス 」



(ついて行くワン。人間に捕らえられたことで逆に人間が悪い奴らばかりじゃないってわかったワン。

僕もあの人たちがどうにかなってしまうのは、嫌だワン。

でも、人間に関わったこともないはずなのに人間を助けようとするなんて変わった悪魔さんだワン。

お名前はなんと申しますのかワン 」


「これは、ただの出来心だ!

まあ、それはいいとして俺の名はベリアルだ。お前は?」


(僕はシュヴァルツと申しますだワン。シュヴァと呼んでくれたら嬉しいワン )


漆黒の体毛を持つ頭が三つの犬の化け物という外見。

俺は彼に近寄り彼の前足と握手した。


「そうかシュヴァ、よろしく頼む 」



と、さきほどから静かにしていた妖精が入ってくる。


「ベリィ、なんか仲良くなったんですか? 」


一体誰に話しかけてるんだろうとまず思った。

と、直後気づく。 もしかしてべリィとは、俺ベリアルの略称なのではないのかと。


「お前、勝手に! 俺のことそんな風に呼んだ奴今まででひとりもいないぞ! 」


彼女はそんなこと御構い無しで、俺の方はもう見ていない。少し距離を取りながらも魔獣の方を向いている。

「では、よろしくお願いしますね、シュヴァちゃん」


シュヴァちゃんって..。怒るかもしれないぞ。



純粋無垢な少年の声が心の中で響く。

(こちらこそとお伝えして欲しいワン!)


こいつも優しいな。本当に魔獣かよ。


「こちらこそってよ、妖精」


「 あ、私はリーベといいます。よろしくー」

そういえばこいつの名前は聞いてなかったな。

しかし、だんだん軽いやつになってくな。


「ところで、ベリィの声だけですが聞いてましたよ! なんか近くの街に行くみたいですね。もちろん私も同行します! 」


「もちろんってどういうことだよ。別に俺たちは遊びに行くわけではないんだぞ 」

こいつの軽さだとなんか俺たちが遊びに行くみたいだ。


「わかってますとも。 でも、私の親であるべリィのなすことは見届けなきゃなりませんから! 」


そう強く言い切った。

リーベは完全に行く気だ。


「じゃあ、ひとつ条件だ。 とにかく騒ぐな!わかったな! 」

俺は強く念を押した。


こうして、俺は妖精と魔獣とともに1000年後の世界で第一歩を踏み出した。


(そっちじゃないワン )


決まんねぇな、おい!



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