メーカ二日目、不穏な影
「お前、なにもん何だよ、マジで。龍殺しって言ったら、もう最強と言っても過言じゃねえ集団だぞ。まさか、そのうちの一人にマジで買っちまうなんてなぁ」
バルドは、魔獣の必要部位を切り取りながら言った。
アレクシスを含め、龍殺しの一団は、戦いの後に少し話などした後、もう先に街に戻っていった。その際、この魔獣の討伐を譲ってくれたのだ。あの爺さんはとても太っ腹だ。
それにしても、少しやり過ぎた感があった。
シュヴァとリーベがいたらおそらくひどく怒られただろう。
バルドはともかく、龍殺しの一団もさっきまで一緒にいたピンク髪の女の魔獣狩りも、俺の力に少なからず驚いて恐れていたように思う。
国とかに報告されたら正直いってかなり面倒臭いことになりそうだ。
少し、自重するようにしなければ。
「おいおい、普通に無視かよ。ひでえな」
しかし、このバルドという男、気づかなかったが、真性のアホなのかもしれない。なにせ全くビビっている様子がない。むしろ興味津々で、今日の朝よりも積極的に話しかけるようになっている。
「いや、今日はありがとうな、バルド」
俺は改まったようにいった。まあ、特に深い意味はなかったが。
「まあ、いいってことだ。お前という宝を発掘できたのは嬉しいしな。それに相当な額になるはずだぜ」
俺とバルドは用を済ませると、メーカの街に戻っていった。
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「はっ!?どういうことだてめえ。だからヘルハウンドじゃなかったっつってるだろうが!もっとでけえ奴で、俺らは死にかけたんだ。そんなの納得できるわけねえだろ」
バルドの怒号が響く。
現在、この換金のカウンターでトラブルが発生しているのだ。
どうやら、カウンターで換金する方は、俺たちが持ち帰った魔獣の部位がヘルハウンドという下級の黒い犬のような魔獣のものであると主張している。
魔法を用いた鑑定で、ミスはほぼ起こらないらしい。だからこそ魔獣狩りの職は成り立っているのだ。
それが今日はどうやら間違っているかもしれないようだ。
なにせ、ヘルハウンドという魔獣は人間より小さいものだ。俺たちが、囲まれたのは、とても巨大な魔獣だった。確かに黒い犬型ではあったけど。
「そう言われましても・・・・・・。 証明はできるんですか? 」
「証明だって? くそっ、俺の必死さが伝わってないのか。頼むよ、信じてくれ! 」
バルドは、カウンターに肘をついて縋るように頼んでいる。何でここまで必死なのか。しかし、あまりにも大きい声なので、周囲の者にかなり注目されてしまっていた。
それにバルドのこの頼み方だといかにも金をふんだくってやろうとしている奴に見える。
もうやめとけと言いたいところだ。
彼が必死になればなるほど、状況は悪くなっていく。
「なあ、べリィからも言ってやってくれよ 」
ここで俺が加勢したことで何になる。俺は外見でいえば、リーベの野郎のせいで、とても弱く見えるのだ。信用などこれっぽっちもないだろう。もっと強くて信用のあるものだったらーー。
「バルド殿にベリアル殿ではないか。何を騒いでおるのじゃ」
アレクシスはいないものの、龍殺しのメンバーが声を発した爺さんを先頭にして歩いてくる。
彼らも相当目立つようで、周囲にあるもの達の視線がここに寄っている。
と、バルドが声を弾ませた。
「いいところに来た爺さん! この頭の固いカウンター嬢に言ってやってくれよ。あの魔獣がヘルハウンドなんかじゃなかったってよ」
爺さんは頷いた。
「確かに、あれはヘルハウンドではなかったのう。ヘルハウンドに似てはいるが図体も強さも数段上じゃった」
他の龍殺しのメンバーも頷く。
「初めてみる魔獣でした。ヘルハウンド亜種とかそんなところでしょうか」
女神であるところのエルゼも説明し始める。
すると、流石は龍殺しだ。信頼はとてつもなく厚く、俺やバルドの言葉なんかよりは数百倍くらい信頼度があるようで、受付嬢が納得したように頷いた。
「なるほど。亜種ですか。そのような魔獣は報告されてはいませんが、それなら辻褄が合わなくはないですね。この部位はしっかり研究させてもらうとして、まあ今回は換金額をあげましょうバルドさん」
「へっ!何だよこの対応の差は!俺の言葉には、全く耳も貸さなかったくせに。嬢ちゃんもっと頭を柔らかくした方がいいぜ」
バルドは少し不快なようだが、金額はあげてもらえて満足のようだ。ただ、最後に余計な一言を付け加えていたが。
「すいませんね!バルドさんがいかにも金を踏んだくりそうな顔をしてますので、かなり柔らかい人でないと信じないでしょう。それこそバルドさんくらいパープリンでないと」
本来ならば謝らないといけない場面なのだろうが、ここに来てストレスが爆発したのだろう。受付嬢はさっきまでの柔らかめの態度を崩しかける。
まあ、その後もしばらくこな罵り合いみたいなのが続いたようなのだが、取るに足らないことだろう。
俺は、バルドから分け前をもらって龍殺しともども、カウンターでの口喧嘩の場から離脱した。
「ところで、今は何をしていたんだ? 」
俺は街の大通りを並んで歩きながら、とりあえず爺さんに尋ねる。
「ここの管轄の領主がこの街におるから軽く挨拶してから、まあ、街の様子を観察していたのじゃ。詳しくは話せんが、この街にはやることがあって来たのでな」
げっ。領主がいるのかこの街には。俺はエルニーニョのことを思い出す。彼のせいで領主というもののイメージは良いものではない。全員がそうであるとは思わないのだが、やはりイメージはあまり良くない。
それに領主ならばエルニーニョの死の前後に俺たちがいたという情報を既に知っていてもおかしくはない。
この街は、そもそも隣の領地の領主が死んだという情報自体まだ流れて来ていないようだが。
厄介ごとの匂いがするな。どうにか領主とは出合わないようにしよう。
「ここの領主の名前と特徴を教えてくれないか。この領地に来たのは最近でな 」
「それは誰にでもかける質問じゃがな。ほう、わしらがここに何しに来たのかは気にしないのじゃな、おぬしは 」
「ああ、俺は基本的に厄介ごとはあんま好きじゃねえからな。昔も今も仕方なく厄介ごとに関わってるだけだ」
「領主の名はファイニール。大体服で彼だとわかるじゃろうが、特徴といえば背が高くてヒョロヒョロだということかの」
俺たちは、 その会話の後すぐに別れた。時間帯はまだ昼時だ。バルドと初の魔獣狩りに出かけたのは、早朝だったからそんなものだろう。
俺は、『山羊の尻尾亭』に戻っていた。手に持つ今日稼いだ金があれば数週間泊まることができる。
しばらくゆっくりしていこう。目的も特に何もないし。
俺は働かなくて稼げたことに満足して微笑みつつ、宿に戻っていった。
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メーカの街のある建物の一室。
光の灯されていない暗がりの中で、漆黒のローブに身を纏う者が、水面越しに何者かと会話していた。
「例のものは手に入ったのだな」
「はい、しかし、『龍殺し』がなぜか訪れました。少々面倒なことになるかと 」
「ファイニールが呼んだのだろう。まあ、そっちはあまり心配する必要はない。こちら側に引き込んでいる者が上手く誘導してくれるだろうからな。
それよりも、ガイルをいつの間にか屠った謎の人物については気をつけろ。正体も行動原理も不明だからな」
「はい、了解致しました 」
「では、次の段階へ移行しろ 」




