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対戦開始


「はぁ! 」


 バルドは、ベリアルの予想外の発言に驚く。


「おい! 馬鹿野郎! 何言ってんだよ! 」


 この男、昨日の酒場の時から変わっているなとは思っていた。

 これまでは、ガイルたちが寄り付かないと約束されているあの宿でも、誰もガイルたちを悪くいうものはいなかった。

 みな、ガイルたちに対する不満は溜まりに溜まっていたのだが、不満を言った場合に、誰かに告げ口されるかもしれないと警戒し、それを言い出すことができなかったのだ。

 俺もその一人だった。

 だが、それをこの男は言ってのけた。

  いや、不満を漏らすに留まらないこと、もう倒したとか弱かったとかガイルが聞いたら間違いなく逆鱗に触れるようなこと平然と言ってのけたのだ。



 そして、今度は『龍殺し』相手に喧嘩を売るなんて。

  嫌みを言われようが、それくらいどうでもいいことだった。

  だって、死にそうな状況を救われたんだから。

 それに無闇に用を聞いたのは、絶対的に俺が悪い。


 『龍殺し』が、もしかしたらガイルを倒しにこの街を訪れたのではないか、などという、他人任せな希望を押し付けようとしていたのだから。



「ほう、なかなか、度胸が据わっているではないか。 てっきりもう終わりかと思った 」


 アレクシスが、ベリアルの言葉に応える。

 声は静かだが、未だに目はベリアルを鋭く睨みつけていた。


「謝ってもらって、じいさんや他の人たちがいい人たちだってのは、わかった。 でも、俺はやっぱり、お前に実力差を分からせないと気が済まない。 俺と勝負しろよ」


「お前からは、その自信に見合うような強さが感じられない。 どこから湧いてくる自信なんだそれは」


 アレクシスの言うことは、本当にが最もだ。

 完全に無謀な戦い。 どうにか止めなければ、とバルドは、この嫌な流れを止める方法を思いつくべく、頭をフル回転させる。

  が、この熱くなった二人を止めることのできる方法は思いつかない。



 バルドは、龍殺しの面々に目をやると、彼らもどうやら困っているらしかった。


「戦わなければ、納得しないようじゃのう。 これは困った 」


「そんなにいうなら、戦ってみればどうだ? 気持ちよく負けたら、気も晴れるだろうよ 」


  困っている爺さんに続いて、いかにも好戦的な見た目の、フルプレートメイルの大男が提案する。


 このままでは、戦う流れになってしまうぞ。

 そうなれば、ベリアルはタダですまないのだろう。


「でも、怪我をさせてしまっては、アホらしいじゃないですか 」


 と、エルゼは戦いには否定的だ。

 ナイスな意見。


「ならば、怪我人が出ないよーに戦えばいいのではなーいですか。アレクシスならば、おそらくそれが可能でしょう。勝負のルールを決めるのです。 相手に降参と言わせれば勝ち。 または気絶させれば勝ち。

危険だと思ったら、爺さんが干渉すれば安心でしょーう」


  と、エルゼに続いて、仮面の男が、 甲高い奇妙な声で、総括した意見を提案した。


 これを聞いて龍殺しの面々は納得した様子で頷き始めた。

 どうやらこの意見が通ってしまいそうだ。


「本当に怪我は防げるのか? 」


 バルドは心配になり、龍殺しの面々に尋ねる。


「大丈夫じゃ。 アレクシスは例え怒り狂っていたとしても、相手を本当に傷つけたりはしない。 それに、アレクシスの奴はもうすでに、冷静になってきている。 この戦いの無意味さに気付き始めているようじゃぞ」


  爺さんが答えた。


それもそうだ。 この戦いは本当に無意味だ。

 だって勝負になるはずもない。

 アレクシスを見ると、もうあんまり怒っている様子もない。

 なんでこんな弱そうな奴の勝負を受けたのかわからなくなっている様子だ。

 戦いに乗り気なのは、既にベリアルだけだ。

 どこから彼のその自信が湧いてくるのかは、バルドだけではなく、アレクシスも他の面々も同じように全くわかっていないようだ。

 ベリアルからは、強者の風格は全く感じられないのだ。

 経験豊富であればあるほど、相手の力量を正確にはかることができる。

 この経験豊富そうな爺さんでさえも、ベリアルの自信の秘密がわかっていない。

 いや、もはや彼のはったりだろうとみな考え始めていた。


 ならば、これだけの力の差があれば、傷つけずとも降参と言わせられるはずだ。

怪我はしなくてすみそうだ。

バルドは一安心する。



 それからの流れは早かった。

 まず、この下級魔獣エリアをもう少し奥へ進んだ平原地帯のところへと移動した。

 さっきの魔獣がこないか心配だったが、それらは全て既に『龍殺し』が狩り尽くしてしまったということでとりあえず安心する。


 そして、ベリアルとバルドが、一定の距離を開けて対峙した。

 バルドやほかの人たちは見届けることのできる遠目の場所に移動する。


  いよいよだ。

 アレクシスはどれくらいの力を出すかはわからないが、それでも楽しみだ。

 もう勝負ですらない。 ただ、アレクシスの技を見てみたいという考えだけだ。

 バルドは観戦を楽しみにし始める。


「よし、始めるか、青髪野郎! 」


 ベリアルの叫びで、アレクシスによる一方的な戦いが幕を開ける。

 一体、アレクシスはどんな方法でベリアルに降参と言わせるのだろうか。

 少し楽しみになってきたのだ。


 アレクシスはまず剣を引き抜いた。

 そして、間合いを詰めるのかと思いきや、いきなり無言詠唱で自らの剣に魔法を込める。


 遠目でも莫大な量の魔力が蠢いているのがわかる。

 空間が歪んでいるようにさえ見える。

 アレクシスは、剣と魔法を合わせて戦うスタイルなのか。

 バルドがそんな分析をするのも束の間、一瞬にして魔法を剣に込める作業は完了する。


 一方、ベリアルに目を移すと、彼は突っ立ったままだ。

 いかにも、仁王立ちして、アレクシスの力量をはかっているような雰囲気だが、それも見た目だけだろう。

 もしかしたら、この膨大な魔力を目の前に、体が本能的に敗北を認めて、固まって動けないのかもしれない。


 アレクシスは、間合いを詰める様子もなくその場で剣を振りかぶった。

  剣は、アレクシスの魔法を受けて神々しく光り輝いていたる。

 すごい魔力を感じるけど、そんな距離で届くのか。

 バルドは、素朴な疑問を抱く。


  アレクシスは躊躇する様子もなく、その場で剣を振り下ろした。

届くはずのない距離だ。


 だが。

  凡人の常識は、『龍殺し』の天才には全く通用しない。

  振り下ろされた剣から、光り輝く斬撃のみがベリアルめがけて勢いよく飛んでいった。

ものすごいスピードだ。

  何だと。斬撃だけが飛ぶなんて。

 体が固まってしまっていると思われるベリアルがこんな攻撃を避けられるはずもない。

 遠いと思われた距離も、瞬く間に縮まっていく。


 ーー そして。


ベリアルの元にたどり着くと、光の斬撃は、耳をつんざくような音を立てて、爆発した。


  爆発と同時に目を開けていられないほどの閃光が目の機能を奪う。


「マジかよ、一発で・・・・・・ 」


  バルドは、この攻撃の威力の凄まじさに思わず笑えてきてしまう。

  ベリアルは、もう戦闘不能なのは間違いないだろう。

  これだけ離れていてもちびりそうになった。



「こんなの食らってベリアルは大丈夫なのか? 」


「大丈夫じゃよ。この魔法は物理攻撃はしないからのう。音と眩しさでおそらく気絶しておるじゃろうが、命には別状はないじゃろうて 」


なるほど。この技ならば確かに怪我をさせることなく、勝てる。 物理攻撃せずに気絶させることができるのだ。

  今土煙に覆われている、閃光の爆発の着弾地には、おそらくベリアルが気絶しているのだろう。


バルドは、そこへ向かって歩き出す。


が、その時、フルプレートメイルの男がさけんだ。


「おい、おい、いねえぞ。 あいつ・・・・・・消えた 」


「消えたってどういうことだ? 」


すぐさま振り返って問う。


「どういうことも何も、いねえじゃねえか 」


 と、閃光の着弾地を指差した。


 バルドはすぐさまそこを見ると、そこはもう土煙が消えていた。

 そして、土煙と同時にそこに気絶しているだろうと思われた男、ベリアルの姿も。


「龍殺しとやらでも、やっぱり見えないんだな 」


  と、背後から声がする。

 それは、ある声に似ている気がして、バルドは振り返った。


 そこに立っていたのは、ベリアルだった。




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