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龍殺し


 目の前に、女神が降り立ったとそう錯覚した。

 悪魔の俺でさえ、目をみはるほどの美貌の持ち主だ。

 長く伸びる艶やかな金髪、身につけた白銀を基調とする装備、あの神業のような斬撃をお見舞いした血の滴る剣、彼女を取り巻く空気までもが、すべてがすべて神々しく感じられる。 


 彼女の周囲で魔獣の切断面から大量の血が噴き出していていて、グロテスクな光景のはずなんだが、それさえも彼女を際だたせるただの演出のように思える。

 

 今の今まで魔獣に囲まれていた俺とバルドとそしてもう一人の少女の3人は、しばらくの間、その美しさに気をとられて息をするのも忘れる。


と、男の馬鹿にしたような見下したような声が右から聞こえて来た。

 その声で俺たちはようやく我に返る。


 「お前たち、いつまでほうけた顔をしているつもりだ」


 声の方に目を向けると、青髪ですらりと背の高い、クールな雰囲気の男がこちらに向かって歩いてきていた。

 その険悪な目つきから、俺たちへはいい印象を抱いていないみたいだ。


「本当に運が良かったな、お前たち。 私たちが来なかったら、今ごろはこの犬どもの餌だろう」


再び馬鹿にしたような発言。しかし声は冷静そのものだ。

 俺は、この長身青髪野郎を睨み返す。青髪はその視線に気付いたようだが、特に反応を示さない。


「 別に助けてもらう必要は無かった」と言ってやろうかとも思ったが、それを言うと金髪の少女に言っているみたいになると思ってやめた。

それに、この場面でそれを言うと、いかにも強がっているだけの雑魚みたいだ。


ここで大人なバルドが、青髪の嫌味をスルーして感謝の言葉を述べた。

と、バルドは、何かに気付いたようにそのまま続けて口を開く。


 「その紋章は、も、もしかして、あんたたちは、『龍殺し』の人たちか?」



 金髪の少女と青髪の男の二人には装備に共通する紋龍が刻まれていた。それは龍に剣が二本突き刺さったデザインの紋章だ。



 「ええ。私たちは、『龍殺し』の団員です。少しだけ用があってこの度メーカの街に参りました」 

 


 優しげな声で、金髪少女は答えた。

 青髪の男と違って、金髪の少女は礼儀正しいし、嫌味な雰囲気は少しもない。



 「用って、一体なんでしょう?ここらに龍種はいないはずですが・・・・・・」


 

 バルドはさっきよりも改まった様子で、金髪の少女の方を向いて尋ねた。が、彼女が声を発するより早く、青髪が割って入った。


 「それはお前らには、到底関係のない話だ。少しは慎め」


 青髪はぴしゃりと威嚇するように言い放つ。

続けて、 青髪はよりいっそう険悪な目つきでバルドを睨みつけた。

 バルドは、その声と眼に完全に圧倒されてしまって、口をぴったりと閉じてしまう。

なんなんだこいつは。

これを見て俺は、もう我慢できなくなった。


「おい、なんだってそんなに高圧的に接して来やがるんだ」


俺は声は荒げず、静かに青髪に尋ねる。


それに対して、青髪は、


「高圧的? いや、全くそのつもりはなかった。 推測だが、力の差が開きすぎていて、ただ会話するだけでそちらが勝手に威圧されてしまったのではないか?」


その口調は冷静そのものだが、明らかに挑発して来ていた。


何のために挑発しているのかもよく分からないが、その挑発のようなものに乗ってやる。


「力の差? それが事実なら今の状況が説明できねえ。お前が威圧されてるはずだ」


「ほう。 面白い。この『龍殺し』のアレクシスよりも、この犬魔獣なんぞにやられそうになった無名のお前が強いと? あまり、身の丈知らずのことをほざくなら、お前をこの場で斬ってもいいのだぞ 」


青髪は、俺の目をより一層強く睨みつけ、バルドと同じように圧倒しようとしている。


だが、残念ながら俺は圧倒されない。

俺も青髪を睨み返し、両者睨み合いの状態。

一触即発のその状況に金髪の少女が割って入った。


「二人ともやめてください! アレクシス、人を斬ると言って脅すなんて、私はあなたを見損ないました」


少女は、その頰を膨らまして怒っている。

だが、その様子もまた美しく可愛らしい。

女神だ女神だと思って一瞬青髪への怒りを忘れていると、バルドに頭を叩かれ怒鳴られて、我に帰った。


「お前は死ぬ気か。 あの女神さんがいてくれなかったら、お前は今また死んでたぞ! 昨日の酒場みたいにふざける場じゃねえ! 」


バルドが俺のことを心配してくれているのは、その必死さから伝わってくるのだが、その負ける前提どうにかならないのか。

俺はその負ける前提とやらをひっくり返して、どうにかあの青髪の鼻をあかしてやりたいのだ。



 と、この場がそんな風に騒がしくなっていたとき。


ぞろぞろと特徴的な姿をした数人の人物が呑気に会話しながら、魔獣の死骸を縫って現れた。

 


 見たことのない珍しい衣に身を包む老人やフルプレートメイルを装備した大男、真っ黒なローブに身を包み奇妙な仮面をした者などその面々は様々だ。

 だが、ばらばらな装いの中に一つだけ共通点があった。

 それは、どこかしらかに刻まれた龍殺しの紋章だ。

 つまりこの人たちはすべて『龍殺し』のメンバーなのだ。


 「アレクシス、まーたエルゼを怒らしたのか」


 図太い声のフルプレートメイルの大男が、笑いながら言う。


 青髪は少しばかり焦ったような表情ながらも、平静を装って、


 「いや、そんなつもりはないのですがーー」


 と今まで起きたことを説明し始めようとするが、それを金髪の少女が遮った。


 「アレクシスがひどいんです。初対面の人に無礼な態度をとって、そのうえ今は斬るぞって脅して・・・・・・」


 金髪少女は、必死になって、青髪の男の悪の所行を説明し始めた。


青髪が敬語を使っていたのを見るに、今来たこの人たちは、『龍殺し』の幹部とかそんな感じだろうか。

 

少しすると金髪少女の説明が終わる。

 一通りの説明を聞き終えると、まず老人が青髪を叱ってから、謝罪させた。

その後、老人がこちらに向き直り、じきじきに謝罪する。

 

 「無礼をお許しいただきたい。うちのアレクシスは根はいい奴なんじゃが、口が悪い。 不快にさせてしまってすまなかった 」


とても誠実に謝ってきた。


だが、今の青髪の態度はなんと、俺を睨みつけているのだ。

さっきまでは表面上反省したようなことを言って謝罪していたのだが、皆こちらを向いた今、誰からも見られていないのをいいことに俺を睨みつけてくる。



全く、こいつが根がいい奴だと? 口はもちろん根っこから悪いだろ。

という具合に、再び怒りを培っていると、奇妙な仮面をした者がこれまた奇妙な声で話しはじめた。


「アレクシスは、最近うまく言ってないからねえー。 それでそのストレスをこんなところでぶつけようーとしたんじゃないのー 」


なるほど、声と話し方はおかしいが内容は的を得ている気がした。

青髪は、ただ単に八つ当たりをしていたのだ。



「そんなことをさせないようにしっかりと教育するつもりじゃ。 どうか許してくれ 」

 

老人が再び頭を下げる。

周りの者も頭を下げ始める。

バルドも少女も頭を上げてくださいとばかりに、慌てている。

これは立場的にいえば、奇妙な光景なのだろう。


ここで俺が許すのは明白だ。

完全なる和解への流れだ。完璧なほどの和解ルートだ。

この場の誰もがそう思っただろう。



ーーだが。



それを俺は次の一言で打ち壊した。



「ーー斬ってみやがれ青髪野郎」



それは今もただ一人後ろの方で俺を睨んでいる青髪の男への言葉だった。



 



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