メーカの街一日目宿
ふう、今日一日でかなり疲れた。
俺たち一行は先の場所を離れ、また元の大通りに戻っていた。
俺は、この街を訪れた初日からいきなり仲間を連れ去られたのだ。
「ベリィならすぐ来てくれると思いましたよ。予想通りです」
(さすがだワン!信じてたワン!)
とまあ、実際はちょっとぶりなんだけど、なんだか懐かしく感じる声を聞いて、一安心だ。
「この黒い玉の中はどんな感じなんだ?お前らの助けを呼ぶ声なんてのは全然聞こえなかった」
ガイルの持っていたこの黒い玉。この中にリーベとシュヴァは閉じ込められて連れ去られたのだ。
彼らはここに閉じ込められてからも何度も助けを呼んだらしいのだが、外からは何も聞こえなかった。
「真っ暗闇でどういうところだったのかはよくわかりませんでしたよー。軽い魔法で明かりをつけてシュヴァちゃんと一緒に結構探検してみましたが、広くて広くて。壁も天井もあるのかないのかもよくわかりませんでした。だから出てきたときはびっくりしましたよ、自分たちはこんなところに閉じ込められてたのかって!」
その驚きっぷりは確かにすごいものだった。
俺が投げ捨てられた玉を拾い上げてリーベとシュヴァの名前を呼ぶと外に突然二匹とも現われた。
それから事情を説明したときは本当にうるさかった。
そのときは何をオーバーリアクションしてるんだって思っていたが、なるほど今の話を聞いて少し納得だ。
なんとも不思議な玉だ。こんな小さい玉の内側がそんな風になってるなんて。
普通のものではないだろう。俺はそれをとりあえずローブの中ポケットに入れる。
「で、宿は結局みつかったんですかー?」
あ、リーベの一言で思い出した。そうだ、さっきまで俺たちは今夜の宿を探していたのだ。
「そうだった思い出した。部屋は空いてたんだが、宿は取れなかったんだ・・・・・・」
「はい?どういうことですか?部屋が空いてて宿を取れないってどう言う意味ですか?頭おかしいんですか?」
ふふ、こいつのこの反応、やはり知らないか。
「アホなお前に一つ教えてやろう。
ふふ、ここではな、なんと宿に泊まるために『あるぶつ』を必要とするのだ」
「『あるぶつ』?それはいったいっ?」
リーベは真剣な面持ちで小首を傾げる。
俺は彼女をじらしにじらし最高のタイミングで大声で叫んだ。
「それは....、それは『カネ』だ!」
「『カネ』!何か邪悪なイメージを感じます!」
「そうだろ、そうだろ。なんか『カネ』って嫌な感じするだろ!」
「それはいったいどんなものなんですか!」
「俺も知らん!」
とまあそんな風にここ大通りで大きな声を出して騒いでいると。
「おい!あんたたちうちの前で何のつもりだい!」
何か聞き覚えのある声に怒鳴られた。
「「ひい!」」
気迫がすごすぎて俺とリーベはとっさに変な声を出してしまう。
シュヴァはなんとも静かなもので落ち着いている。今の見た目からは想像できないが度胸がかなり据わっているのだ。
この声はえっと、・・・・・・だれだっけ。
俺は声の方向に顔を向けた。
「って、あんたもしかしてさっきの奴かい!?」
そうだ思い出した。ここは俺たちの宿探し6件目の宿の前であり、彼女はこの宿の女主人。
リーベとシュヴァを取り戻したら、後でお礼を言いに来ようと思っていたんだった。
忘れてたけどちょうどここを通る時に思い出せてよかった。
「ああ、はい、先ほどはありがとうございました。おかげで仲間を取り戻すことができました」
俺は人生で初めてくらい丁寧に感謝の言葉を述べた。
俺も礼儀正しくなったものだ、ここまでしたらどんな反応してくるのかな、もしかしてカネなしでこの宿にとめてもらえるとかないかな、などと考えていると、
「ぎゃああああ!メアリー!メアリー!私たちは祟られてしまったのかもしれないよ!」
大声を出しながら、俺から逃れようと宿の中へ逃げて言ってしまう。
え?どういうことだ?祟られる?
実をいうと先の俺とリーベの大声の会話によってなぜだかわからないが俺たちは周囲から白い目を向けられてる気がしていた。
でも俺はそれを気づかないふりをしてた。でも今、あの女主人が叫びながら宿内に逃げていったことでその視線は無視できないものになっている。
視線が痛いよ。ガイルのパンチなんかよりもよっぽど刺激が強い。
俺たちは視線から逃れるべく女主人の逃げていった例の宿に逃げ込む。
「あの祟られるって、どういうことだ? 」
「ほらメアリー、幽霊だ。さっきのあいつの幽霊だよ! 私たちが死地に送ったからきっと怨念がなかったんだよ」
女主人はもう怖がりモードに入ってしまって俺の言葉を全く聞いてくれない。
こんな時にいつも冷静そうな彼女、冷たい表情を今も浮かべている彼女メアリーが役に立つ。
「おばさん、これ生きてる」
これってなんだよ、これってと突っ込みたくなったがまあいい。
わかってくれたならそれでいい。
そのメアリーの発言によって、 女主人もいくらか冷静さを取り戻した。だが、その表情から驚きの色はまだ消えない。
「どうやって生き延びたんだい? どうやって妖精と犬を連れ帰ってきたんだい」
「どうやって? 普通に取り戻しただけだけど。 あいつら弱かったし 」
俺は先ほど戦ったガイルたちを率直に評する。
だが、それを女主人は笑い飛ばした。
「あんた、面白いこと言うじゃない。 でもねそれもここだけにしな。 ここや他の宿のいくつかはこの街のオアシスだからいいけど、他でそんなこと言ったら即、命はないから 」
どうやら信じてもらえていないらしい。 どうしてだ? そんなに弱そうか俺。
俺がその反応に泣きそうになっていると、
「まあ、でもよく帰ってきてくれた。 さっきまでの胸の痛みは消えたよ。 あんたはまだ見ず知らずの他人だけどそれでも生きて帰ってきたら嬉しいよ」
女主人はそう言って俺たちを招き入れる。
「あんたら馬鹿を今日はタダで泊めてやる 」
そう言って女主人はニヤリと笑ったのだった。
それから俺たちは女主人や他の魔法使い見習いや魔獣狩りなどしてる戦士も含めてこの宿の食堂で盛大に飲んだ。
最初は俺たち一行と女主人だけだったのだが、俺の面白い面白い話を聞いて周りの奴らも話を聞かせてくれといってきたのだ。
さすがは俺の言葉巧みな話術だ。
酔って俺はガイルについて色々話した。
リーベもシュヴァも酒を飲んですぐ酔って寝てしまったから俺が話すのを止める者はいない。
俺は酔いながらまずガイルを突っ立ってるだけで倒したことやすごいパンチを受けたけどくすぐったいだけだったということ笑い転げてたらなんか逃げてったことなどを話した。
その話を聞くと、ここに飲みにきている者たち、魔法使い見習いや魔獣狩りなどをしている戦士たちはめちゃくちゃ笑っていた。
「この物狂いめっ! さすがに無理があるだろうが。
ここまですごい妄想する奴は初めてだっ! 」
物狂いってのがなんなのかよくわからないが、ともかく「今日はよく笑わしてもらった」とか、「奴らへの鬱憤が少し晴れた」とかいって一文無しの俺になんとカネをくれる者もいた。
つまり皆俺の話を本気で信じる奴はいなかったみたいだ。
許しがたい事実だが、まあカネというものもゲットできたし他にもこの世界のことを色々聞けたし上等だ。
そんなこんなで賑やかで楽しい一夜を過ごして俺たちはそのまま眠りこけてしまった。
それから日が経つにつれて、街は驚愕とともに喜びに包まれることになる。
事実、街から悪の集団が完全に消え去っていることに気づいて。




