特殊能力持ち渾身の攻撃=くすぐり攻撃
俺が気付いたときには、ガイルは俺の体のすぐ目の前にいてパンチを食らわせようと構えている。
俺はそのスピードに驚きながらも反射的に右腕を出してパンチを防いだ。
その一瞬の攻防の後、ガイルは再び元の位置に戻る。
そのスピードも威力もとても人間のものとは思えない。
俺はその疑問を直接ガイルにぶつけた。
「お前、人間じゃねえのか」
「てめえ、妙なことを言いやがるな。俺は正真正銘の人間だ。特殊能力持ちのな」
その特殊能力持ちという言葉は1000年前にも何度か聞いたことがある。
字面だけで捉えてしまうとかつて生きた悪魔はほぼすべてが特殊能力を有していたので特殊能力持ちだということになってしまう。
だが、この言葉は悪魔には適用されない。
この言葉が適用されるのは、特殊能力を持つ人間に対してのみだ。人間は基本的には悪魔と比べて乏しい身体能力を持ち、そして魔法を少し使うことができると知られている。
人間は悪魔とは違って個体間の力の格差が小さい。そんな平均的に固まっている集団の中で稀に魔法力が飛び抜けて強力な者や特殊能力を持つ者が存在する。
1000年前に有名だったのはフェリアスと呼ばれた男。彼は悪魔とも互角に戦うことができ人間からは「奇跡の体現」だとか「勇者」だとかと呼ばれてもてはやされていた。
この目の前の褐色の肌の男もまた特殊能力持ちなのか。正直に言うと俺自身、特殊能力持ちと戦ったことはない。
よし、その実力を試すのにいい機会だ。
ガイルは俺と一定の間合いをとりながら、まだ幾分か余裕を含む笑みを浮かべた。
「しかし驚いたぜ。まさか今の攻撃を防いでくるとは。てめえは今ので肉塊になると思ったんだけどな」
あれ、完全に舐められてるじゃん俺。
数分前いや数十秒前と言ってること変わってねえか、こいつ。
「お前戦う前に俺とはいい勝負ができそうだとかいってなかったか?一発で終わっちまったら全然いい勝負じゃねえだろうが」
「あ?あれはここまで辿り着いた野郎全員に言ってる台詞だ。なんかかっこいいだろうが。あの台詞言った直後に一撃で敵を倒すとかなんかかっこいいだろうが。そうでなきゃてめえみたいにいかにも弱そうな奴にあんな台詞吐かねえよ」
勘違いしてんな、というように俺を嘲け笑う。
こいつはこれまでと違って俺の真の力量を測って見せたのかと思ったのに。なんかそこそこやりそうな強者臭漂ってて俺自身ちょっと騙されたのに。
ガイルに先ほどまで感じていた強者臭はもうない。なんか小物臭さえしてきた。本性明かすの早すぎだろ、もうなんでかっこつけてたかの理由も意味分からんし。
ていうか、話は少しそれるがこの世界中を探し回っても俺を人間じゃないと暴ける存在はいない気がする。
街の人混みの中、突如として俺の正体を暴かれるとかそういうイベントもちょっとはあっていい気がするんだけど、たぶん今後もそれは起こらないだろう。
リーベの能力がすごすぎるのだ。あまり素直には褒めたくないが。
それにしても、ガイルは見た目とか言動とかに裏腹に慎重派なのかもしれない。
ガイルはさっきの一撃きり攻撃してこないのだ。
俺のことを弱そうだと言ってる癖に一定の間合いより近づこうとしない。
また高速攻撃を仕掛ければいいのに。ていうか仕掛けてほしい。久しぶりに俺もああいうスピードで戦いたい。俺は数日前までは長い長い眠りについていた訳で、どうやら体がかなり鈍っているらしい。
通常の相手に対しては全く気にならなかったが、今攻撃を受けてそれを身をもって実感した。
俺から攻撃を仕掛けても別にいいのだが、特殊能力持ちの人間とやらがどれくらいやるのかを正確に計るには相手の攻撃を防御し続ける方がいい気がしたのだ。
その後もしばらく二人とも黙って対峙したままでいると、
「てめえからは攻撃してこねえのか。ふん、まあいい。こっちの準備は整った。また俺からいくぞ」
いよいよしびれを切らしたのかガイルは再び攻撃の姿勢に入る。その直前、先ほどと同じの燃えるような熱い熱い闘志が彼の体を包んだように感じた。
まあ、こいつは熱い野郎なんだろうなどと俺は適当に流す。
特殊能力持ちについて調べたいなら本当はそんな簡単に無茶苦茶に片づけない方がいいのだが、
よし、こいつくらいのスピードなら俺のいい体慣らしになる、連続で来やがれなどとそんなことばかり考えていたのだ。
だが、そんな風に呑気に考えていたときだ。
なぜか再びガイルの姿が消える、いや消えたように見える。。先ほどの攻撃でガイルのスピードには慣れたと思っていたのだが。あれでも本調子ではなかったのか。
今度の接近のスピードは一発目とは比較にならない。
その打力もおそらく規格外なのだろう。もしかしたら俺と本気でやり合える奴なんじゃないかとさえ思えてくる。
ガイルは一発目の消えた直後の直線的攻撃とは違い、今度は俺の周囲を回って今度はそのパンチが防がれないようにタイミングを伺っているようだ。
周囲を回っているというのは今の鈍った状態では目視できないが、風の動きでわかる。
いつ来るのか。どこから来るのか。
やはりその見た目と言動とは全く違う戦い方だ。
こんなスピードを手にしてここまで用心するガイルは、ほとんどの場合ただの臆病者とみられるかもしれないが、今この状況においては最適な戦い方だろう。
ここまでタイミングを計られては、防ぎようがない。俺としては嫌な戦い方だ。
まあ、しかたがない。攻撃を腕で防ぐのは今の俺のコンディションでは不可能だろう。
俺は冷静に判断する。
ということは今の俺にできるのは一つ。
俺は、覚悟する。攻撃を防がずに受ける覚悟を。このスピードを見ていると、もしかしたらとやばいかもしれないと思わないでもない。でも、顔が真剣になっても、俺は自分の体を信じる。
俺はどこから来るか、いつ来るかという考えをやめ体に力を入れダメージを極力さけることを優先する。
その変化に気付いたのか間もなく風の動きが変わる。
ーー来る。
その直後、いやほぼ同時に俺の体に衝撃が走り、俺はその場に倒れる。
結局正面からのパンチだ。パンチは俺の腕に防がれることなく直接俺の腹に食らわせられる。
この凄まじい勢いのパンチによりパンチを食らう俺とパンチを浴びせたガイルの周囲には強烈な空気の動きが生まれる。
ワンテンポおいてこの空き地を囲むいくつかの空き家がすべてその強風によりものすごい音を立てて崩れた。
家屋倒壊により巻き上げられた土煙が空き地を覆い始めたとき、ガイルは一人つぶやいた。
「体が原型をとどめてるのは驚きだが、さすがにやったみたいだな」
広場の隅にいたガイルの側近たちはガイルの元に駆け寄り勝利を確信しているみたいだ。
いかにも戦いが終わったかのような雰囲気が流れる。俺に目を向ける者は誰一人としていない。
完全に空気扱いをされている俺は。おれはーー。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
地面の上を転げ回って、爆笑していた。
くすぐったすぎる!痛くはないけどくすぐったい!
その凄まじい威力は俺にとってくすぐり程度でしかなかったのだ!なんとなく納得してしまう。
スピードはすぐ鈍るし鈍り方がすごいが、体の耐久性というのはそうでもない。
やはり、所詮人間といったところだろう。
先ほどまでの自分の真剣さに馬鹿だろっと言いたくなってさらに笑えてくる。
その笑い声によって勝利の歓喜の雰囲気はぶち壊れる。
ガイルほか幹部は笑いながら転げ回る俺を見て、顔が引きつったようだ。
「俺たちの最大級の攻撃を受けて笑ってやがる。勝てるわけがねえ!逃げるぞ!」
彼らは皆、なにやら口々に叫ぶと即座に逃げ始める。リーベとシュウ”ァの閉じ込められているという黒い球も放り投げられていた。
それを見て俺はひとまず安心する。
それから、俺は逃げゆく奴らに向かってくすぐったさを我慢しながら叫んだ。
「この街に二度と現れるな。今度見かけたらどうなるかわかってるよな!」
おそらくこの声はひどく恐ろしいものだったのだろう。彼らは、ひーひーいいながら全速力で逃げていった。
こうして、俺はただ突っ立っているだけで、またくすぐったさに笑い転げるだけで、しばらく街を脅かす存在だったというこの集団を街から追い出してしまったのだった。




