心は子供
1週間は長いと思ってたらすぐに過ぎたりしますよね?土日曜日にゆっくりしようとしたらいつの間にか月曜日に...うっお腹が痛い。
セリダは岩盤の埋められたも者から離れて『円』を使用して元の公園に戻っていた。
「まだ、あの子達があっちに行ってから2時間くらいしか経ってないわね」
セリダが座っている隣には時計台が立っていた。午後3時になっているため今頃、和菓子屋のおじさんからもらった物を食べている頃かしらと想像していた。
「倉さんにお礼しなきゃ」
倉さんとは和菓子屋おじさんのあだ名である。セリダと彼との付き合いは結構長い。
その男は飲み仲間な関係でもあり、よくセリダの悩みを聞いてくれる人でセリダにとって足を向けて寝られない存在の人だ。
もちろん、倉さんはセリダが魔法使いという人だということはとっくに知っている。
「驚かそうかしら」
セリダはいつものように円を描くと、円の中にはカウンターケースの裏に椅子に座っている男の姿が現れた。頭はややパンチパーマのような髪型、丸メガネで顔も少々丸い。目元は少し細く優しそうな顔をしている。
口元の斜め右下には5ミリくらいのホクロが目立つ。体格は少し太っているが、背の高さは標準である。
「テレビを見てるわ」
セリダは倉さんが小さなテレビを見ていることに少しイタズラしようと思いついた。
円を一度閉じてもう一度円を作り、その中から顔を入れた。
「ヤッホーー!元気〜?」
「のわぁぁぁぁ!?」
テレビの画面から有名なホラー映画の作品のように飛び出してきたため、倉さんは驚いて椅子ごと倒れてしまった。
「あらやだ、思った以上の反応ね」
「なぁに!するんじゃい!こいつは!!」
倉さんはすぐに立ち上がり、右手で拳を作ってセリダの頭を叩いた。
ポコンっと良い音が鳴った。
「いっったぁーい!!殴ることないじゃないの!もー!」
「歳を考えなさい!歳を...全く!ってか早くテレビから出てきなさい」
「はい、ごめんなさい」
まるで子供のようにしょんぼりとした様子でテレビの画面から現れた。
「ったく!私より歳だというのに、何悪ふざけしとるんだ!」
倉さんは腕を組んでセリダを叱りつけた。
「はい...でも、私はまだ…」
「18歳とか言うのかい?自分本当の歳を30で割り算すれば確かにそうなるな」
「や、やめてよ〜おじさぁーん」
涙目で頼み込むセリダの姿は真海生には見せられないなと思った倉さんだった。
「なーんでそこまで若さに執着するのかはいいとして…上手くやっているのかい?」
「ええ、グスッ…元気よ。だいぶ回復してるわ」
「そうかそれなら…いい」
セリダは涙をハンカチで拭いてカウンターケースの中にある和菓子を覗いた。
中にはみたらしや餡子の団子、うぐいすの饅頭、豆大福やどら焼きもある。
ケースの1番左下には緑と白の盛菓子が山積みになっていた。
「本当にいいの?」
「あの子のことかい?」
「ええ、勝手だとわかっているけれど、私がしてあげられるのはあちらの世界で暮らしやすいようにしてあげること。過保護だと自覚してるわ…」
「いや、それでいい。コネはあった方がいい。できるだけな…母親に似て無茶しちまうしね。下手すっと、自分を追い詰めるかもしれない」
「頑張り屋さんだからね、あの子は…」
「頑張り屋さんは父親に似てるな」
「ホントね」
しばらく二人は黙り、倉さんが見ていたテレビの上には写真たてが倒れていた。セリダのイタズラで倒れたようだ。
倉さんは倒れた写真たてを元に戻した。
「ごめんなさいね、まさかあるとは思わなかったの」
「いいよ、俺が場所を変えてたことだしな。
やっぱり元の位置に戻しておこう…」
倉さんは椅子から立ち上がり調理室に入っていった。調理室の階段を上がるとそこは倉さんの部屋と繋がっている。写真たてはいつも机の上に飾られていた。
倉さんはすぐに売り場に戻ると、セリダは売り場の中から右が下り坂になっている場所で何台かの車が走っていく外の光景を眺めていた。
「随分と変わっただろう、昔はこんなに車なんて通ることもなかったのにな」
セリダは後ろを振り向かずただ眺める。
「ええ、本当に。あの道路の真ん中でよく彼女と会話してたことを覚えているわ」
「早いなぁ…さっきまで歳のことなんて気にしてはいなかったはずなのに、寂しいものだな…気持ちが少しわかったよ。お前さんが歳を気にすることを…」
「いや、素だから。純粋に『若さ』が欲しいから!ていうかまだ若いから!」
とセリダは後ろに振り返ってから強く主張した。目が怖い。
「アーソウダッタナ。お前さんは本当は歳ではなく若さだもんな。俺が馬鹿だったよ。お前さんの気持ちは一生わからない方がいいわ…」
「あなたにはわからないでしょうね。目元にシワができる恐ろしさを…」
「俺はたくさんできてるぞ、ホレ!」
右手の人差し指で目元を下に引っ張り、舌を出してセリダを馬鹿にした。
「いい歳こいて、あっかんべーとか笑えるわー、アハハハハ!!」
「いい歳こいて、シワの一本にビクビクしてる奴に言われたくありましぇーん!」
「んだとぅ!!?」
「上等だぁ、コラァ!やってみろ!」
入り口の外から丸見えである二人がボクシングをしている奇怪な動きを見ていた女のお客さんがいたことに気づいたのはすぐだった。
女のお客さんは子供連れで、その男の子の顔を手で隠していた。
二人は顔をヒクヒクしながらも笑顔で誤魔化そうとした。
「いい歳こいてボクシングごっことか…」
「ママ見えない」
女のお客さんが苦笑いでこちらを見ている。
二人は恥ずかしさのあまり自身の手で別の意味を込めて顔を隠した。
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いい大人達が赤面している頃、二人の子供はおどおどしていた。
「どどどどうしよ!優ちゃんがぱっかーんって、ゴロゴロゴロゴロってバタンってなっちゃった。」
「お、落ち着いて真海生。言葉が擬音語ばかりになってて、まるで優司が真っ二つになって、雷に打たれて死んだようないい方だよ?」
「その想像の仕方は怖いよ!」
真海生は急なアクシデントで取り乱していたが、汐羅のおかしな例えで正気に戻った。
「そうだ!仕掛けだよ!優ちゃんがさっき何かを踏んだって行って落ちたんだよね?」
「落ちたっていうより、転がって行ったようにみえたけどね。仕掛け探してみるか」
二人は動く床を手探りで仕掛けなよう物がないか探したが見つかった。それはテニスボールくらいの大きさと形をしたスイッチが窪んでいた。
「あ、あったよ!汐羅ちゃん!この窪みを見て見て!」
「本当だ、でもどうやら作動したせいでもう動くことはなさそうだね…」
汐羅は窪んだスイッチを押しても起動することはなかった。
「そんなぁ…考えて…考えて…」
真海生は目を閉じて頭を抱え始める。
汐羅は動く床の行き先を気にした。どこに向かっているのだろうかと考えて、この先に何かあるのではないのか。もしくはこのまま進めは優司とまた合流できるのではないかと想像していた。
「真海生、僕少しこの先に何かあるか調べてみるよ」
「危ないよ!優司みたいに仕掛けが襲ってくるかもしれないんだよ!?」
「大丈夫だよ、飛べるから」
真海生はハッと気づき、汐羅がなぜ飛べるか思い出した。人が飛べる魔法はいくつかあるが、主に風魔法で自身で風を纏い飛ぶのだが、汐羅は違う。
汐羅は何故か自分でもわからないらしく、勝手に飛べるようである。汐羅はただ相手のイメージを読み取り想像していたことを真似しただけのではないかとかなりぶっ飛んだことを言い放った。
しかもそれは魔力を一切使わずに浮いていることは普通はありえないとセリダは答えたが実際に見せられた時はセリダは「あらやだ」と驚いていた。
「じゃあ、気をつけてね。待ってるから」
「うん、すぐ戻るよ」
汐羅はジャンプして宙に浮き、まっすぐ飛んで行った。速度は速くすでに真海生の視界からは消えていた。
「速いなぁ…」
自分もあれくらい飛べることができたら楽しいだろうなと思った。今は壁のせいで飛ぶことはできないが、セリダの教えで練習してかなり速くなったが持久力がないため、もう少し無駄な魔力を使わないようにすることと、魔力の増加をするようにとセリダから課題を渡されていた。
魔力の増加方法はいたって簡単、魔法回路を閉じたり開いたりを繰り返す。
もっと増幅させたいなら負荷をかける。
負荷はセリダのような膨大な魔力で特訓する人の全身に包み込ませるように圧迫させるのが基本である。
これは負荷をかけたいなら重りをつけるようなこと。それを少しずつ重りを加えると負荷がさらにかかる。
かなり地味な行動だが、これが一番の近道である。しかし、負荷をかけすぎて魔法回路を壊してしまう人もたまにいるとセリダが言っていた。
あくまでもその特訓は魔力のダムを広くさせるだけで魔力の『質』は変わらない。
質を上げるには繰り返し使い続けることが大事である。質が上がれば無駄な魔力を使わずに少量で魔法が発動できる。魔力の量が上がれば魔力切れがしにくくなる。
「繰り返し、繰り返し回路の流れを滑らかにするために技を磨く。魔力の量を上げるには魔法回路閉ざしたり開いたりすること…」
神経を研ぎ澄ます真海生だが、やはりここにいるせいか自身の魔法回路の流れが感じ取れない。それだけでなく、優司のことも心配で落ち着いて練習することもできない。
「あー、駄目だぁ!」
仰向けに倒れて大の字になる。集中力が切れたのだ。
「何か気を紛らわそうとしたけど、集中できない〜!」
今度は足をじたばたと暴れ始める。床が叩きつけられる音がするだけでとても静かだ。
「優ちゃん、大丈夫かな…」
横になり思い通りに上手くいかないことにふて寝する真海生。優司がどこかに落ちたり、魔法が使えないことに憤りを感じた。
何より今回このようになってしまったのは自分のせいである。あの時おかしなスイッチを押さなければこんなことにならなかったのだ。汐羅がケガしてしまったのも私のせいだ。魔法で回復させようと上手く使えなかったりしても全く自分は役に立たなかった。
挙句には疲れ果てて倒れそうになるところで優司が背中を支えて助けてくれた。動けなくなった真海生を優司はゆっくりと彼女を仰向けに寝かせてくれた。何もできなかったどころか迷惑をかけてしまったことに自分自身にあきれてしまった。
何も上手くいかなくてただ無力感だけが残っていた。
「汐羅早く帰ってこないかな」
「帰ったよ」
天井を見上げるとそこには真海生の目の前に四つん這いになった白い肌色のベールの少女が彼女の視界から急に現れた。
その表情はニヤッと八重歯がみえた。
毛先は灰色で頭頂部に行くほど紫色の髪が濃くなっていく。
その髪が真海生の頰に触れるとほのかに甘い香りがした。
「…おかえり」
「あれ?驚くと思ったのに、無反応か残念」
「驚いたけど?起き上がって頭をぶつけたら危ないでしょ?」
「優司ならそうやりそうだね〜」
「あ、優司に会えた?」
真海生が起き上がろうとした時、汐羅が彼女の両肩を引っ張って頭を地面にもう一度つけさせた。ただし、その地面はとても柔らかかった。
「汐羅ちゃん何してるの?」
「ん?膝枕だけど?嫌だった?」
「……嫌じゃない」
「ふふーん、そうだよね〜僕の膝枕はいいだろう?」
汐羅は真海生のおでこをペシペシと軽く叩いた。少し小馬鹿されたようで仏頂面になる真海生。
「めんどくさいことを考えちゃって、優司も同じようなこと考えてたよ」
汐羅は優しい表情でクスリと笑っていた。
「優司もね、ここに行こうとしなければとか、自分が我慢しとけば僕や君に危ない目に合わなかったはずなのにって後悔してたんだよ」
「…そうなんだ。優ちゃんも……でも!」
「でも?」
一瞬、目と目があう。しかし、すぐに真海生が先に目線をそらした。そらした理由はなんとなくただ恥ずかしかった。
「優ちゃんは悪くないじゃない」
「それも、優司と一緒だね。君のことは全く悪くないんだって……僕が悪いんだよってね。読んじゃった」
読んだというのは心のことである。真海生はそれを聞いた時、少し嬉しく思った。誰かを想ってくれるのはやっぱりいいなと笑みがこぼれそうになるが、恥ずかしいので口の中で舌を軽く噛んで痛みで誤魔化した。
「恥ずかしがらなくていいのに、僕にはバレバレだよ?」
「……」
無言だったが耳は赤く、目を強くつぶっていた。しかし、口元は緩んでいた。
「僕嬉しかったんだ」
「え?」
「君と同じ」
汐羅はそう言い放つと再びおでこをペシペシと叩く。立ち上がっての合図だった。
真海生はその合図を読み取り立ち上がる。
「どういうこと?」
「僕が嬉しかったことは二人が僕のことを気にしてくれたことだよ。……心配してくれてありがとね」
最後の言葉は恥ずかしながらお礼を言った。
「え!?頭をぶつけて嬉しくなっちゃったの!?汐羅ってそういう趣味なの?」
しかし、最後の言葉は聞こえていなかった。
「ちっっがーーう!!!そこじゃない!!話、聞いてた!?」
汐羅は今でもツノが生えてきそうな勢いだった。
「もういい!!ふんっだ」
ズカズカと後ろに向いて地面を強く蹴るかのように歩き出した。
「……どこにいくの?また一周するの?」
「気づいたの?」
「うん、さっきわかった」
真海生が気づいたのは汐羅が背後に来たからだ。テレポートすらあれば可能だが彼女にそんな能力はない。
「気配を消す魔法はあるけど、私たちはいま魔法使えないしね」
「まあ、そうだね」
「私たちぐるぐると回されてたんだ。回転寿司みたいに……」
二人はこの部屋を作った人がとても性格が悪い奴だなと感じ取れた。今頃いるかどうかわからないが、馬鹿にしていると思うと腹が立った。
「もし、見つけたら痛い目に合わせてやる!」
「いたらの話ね」
「それはそうと真海生」
「何?」
「回転寿司って楽しそうだね」
汐羅はキラキラした目で真海生を見つめていた。
早く来週になって欲しいです。
趣味はちょくちょくやっていきます。
よろしくです!