ツインテール(短短編)
信号が青に変わる。典子は横断歩道を、白い線の上だけを踏むようにして渡る。ツインテールがふわりと跳ねる。ツインテールにセーラー服。それが典子の定番スタイルだ。だが、典子は学生ではない。年齢は二十三歳。フリーター。しかし、童顔で華奢なため、高校生に間違われることが多い。この前も、夜遅くセーラー服を着て出歩いていたら、補導されそうになったのだ。でもそれは、典子にとっては嬉しいことになる。なぜなら、典子はずっと少女であり続けたいと思っているからだ。大人になるのが怖いのだ。だから今日も少女のふりをして街を歩く。
すると、突然声をかけられる。補導ではない。ナンパだ。男は、典子が少女のふりをしていることを見抜いていたのだ。典子は、男とお茶することを了解する。喫茶店で男は言う。君を本物の少女にさせてあげる、と。典子は男の話に食いつく。これからずっと一緒だよ、と男は言う。
その日から、典子と男は一緒に暮らしている。典子は、自分を認めてくれる男のことが次第に好きになっていく。しかし、男は一切、典子に手を出そうとはしない。典子は不思議に思う。思い切って今夜聞いてみることにする。
男は仕事から帰ってくる。早々に食事を済ませ、男にソファーに座るよう、言う。そして、すかさず、私のこと嫌いなの?と聞く。男は、顔色一つ変えず、こう言うのだ。君のことは好きでも、嫌いでもない、と。続けて、僕は少女に恋をしているんだ、と。だから、キスはしないし、ましてやその先のことなんて絶対にしないよ、と。典子は呆気にとられる。
確かに、典子は少女でありたいと願っていた。大人になるのが怖いと思っていた。だけど、身体は求めていたのだった。大人になることを。気づいた。でも遅かった。
もう既に、典子の心は男に支配されている。