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中々お姉さんの笑いが止まらなかったので、左横の通路を覗きに行くとそこにトイレはなかった。は、花も恥じらう乙女として沽券が!いや、この際もう7歳児ってことで、幼女ってことでいいんじゃないかなっ!身も蓋もないことしか考えられなくなった頃、復活したお姉さんが慌てて追い掛けて来て、右横の階段から2階に連れて行ってくれた。
「ふぃ~」危なかった‥‥。
「ありがとうございました。ご迷惑をお掛けしてすみません」
「いいえ、こちらこそごめんなさい。あまりにも貴方が可愛過ぎて‥‥」
思い出し笑いですか?また震えてますけど‥‥。
「本当にごめんなさい、私もこんなこと初めてで自分でも驚いてるわ」
「そうなんですか?」
「こう見えて受付長なの私。厳しいって有名よ」
「それにしては大爆笑でしたけど‥‥」
じと~っ、睨んでみる。
「ふふ、睨んでも可愛さが増すだけよイトちゃん」
「‥‥‥‥‥」
「私、メリダと言うの。今日からイトちゃんの専属希望よ」
「専属‥‥ですか」
「会ったばかりだけど、私イトちゃんが危なっかしくてほっとけないみたい」
「あの‥‥、私そんなに危なそうですか?」
「ええ、すぐ騙されそう。可愛いから攫われないかも心配ね」
「‥‥‥‥‥」
「心配だから、何かあったら必ず相談するようにして欲しいわ」
他称7歳+プルプル+カ○○メ波+質問はトイレのコンボ攻撃にやられちまった口っぽい。16歳女子としてあるまじき失態‥‥でも私はまた何かやらかす、絶対。
「‥‥どうぞ、宜しくお願いします」ペコリ、90度のお辞儀をした。
2階にはトイレの他に、ギルドが買取りした食料以外の素材販売店があった。値段は買取りの1.2倍ってところだとメリダさんが教えてくれる。露店なりを自分でやって売れば儲かりそうだけど、個人じゃ品数が少ないし材料を集める時間もなくなるから難しいんだろうな。
さっき行った1階の通路の奥は、多分解体所と荷捌き所兼保管場だと思う。保管場の奥に階段があったから、1階で素材と食材に分けて素材は販売店に、食材は商業ギルドに流していると見たね。
ちなみに冒険者ギルドと商業ギルドの直営店からは、ギルドカードを持っていないと購入出来ないそうだ。民の多くは、商業ギルドに登録している肉屋・魚屋・八百屋等のお店で買うらしい。ここまで来ると、売値は買取りの1.5倍程の金額になってしまうとのこと。
「オビト君、待たせてごめん」
「大丈夫だったみたいだね。ロビン、この人なんだけどいい?」
オビト君を見つけて話し掛けると、友達と会えたようでパーティーの話も先にしてくれていたみたい。ロビン君は私をじろじろ見た後、肩を竦めて周りの子達と笑った。ロビン君も周りの子も、年上なだけあってオビト君より背が高いな。
「こんな小っさいデブと、俺達にパーティー組めってのか?」
で、でぶ‥‥。
「でも1人じゃ危ないし、まだパーティーに1人空きがあるよね?イトの面倒は俺が見るし」
「クエストの役に立ちそうにもないブス、連れてくバカなんかいねぇよ」
ぶ、ぶす‥‥。
「‥‥本気で言ってるの?ロビン、女の子に失礼だよ」
「そんなことよりオビト、冒険者登録済んだんだろう?パーティー登録してクエスト請けに行こうぜ」
「‥‥俺、パーティーに入るの辞める」
「何言ってんだ?そんな奴ほっとけって、ほら早く行くぞ!」
「イトとパーティー組むから、もういいよ」
でぶ・ぶす攻撃の最中、あれよあれよと口を挟む間もなく話しが進んで行く。
「お、オビト君。私1人でも大丈夫だから、友達とパーティー組んでよ」
「イト、俺とパーティー組もう」
「おいっ、いい加減にしろっ!俺達よりそんなチビデブス取るってのか!?」
おぅふっ!?‥‥チビデブスっすか、米俵ヨリヒドイヨ‥‥。
「ギルド内は揉め事禁止のはずですが、何か問題でもございましたか?」
気付いたら後ろにメリダさんがいた。さり気なく私とオビト君を後ろに匿うように立ち、微笑みながらロビン君達を威圧している。言葉は丁寧だが、逆らってはいけない何かがありまくりなやつ!
「い、いや。覚えとけよ‥‥お前達行くぞ」
悪役バリの捨て台詞を吐いて、ロビン君達は去って行った。
「ど、どうしようメリダさん、私のせいで‥‥」
「大丈夫よイトちゃん、逆に良かったと思うわ」
「はい?」
「ねっ、オビト君」
「はい」
「じゃあ、パーティー登録しちゃいましょうか」
「お願いします」
そのまま受付に連行され、オビト君に持ち上げられ再び登録作業をする。パーティーリーダーを何故か年上ってだけでやることになり、逃げられなくなってしまった。
「イト、これから宜しく」
「オビト君、本当に良かったの?」
「うん。前はあんな奴らじゃなかったんだけどね‥‥、俺も今のアイツらと組みたくないから。それにイトはチビだけど、ちょっとデブでもブスじゃないと思うよ」
「ちょっとを付ければいいってもんじゃないよっ!‥‥ありがとう、オビト君」
「オビトでいいよ。年上だし、これからはリーダーだしね」
そっぽを向いたまま差し出された手を、両手でギュっと握る。
「じゃあ改めてこれから宜しくね、オビト!」
まだ半日あるし折角パーティーを組んだので、このまま初クエストを請けることにした。採取してから受注した方がいい気もするが、最初からそれでは気合いが入らないってもんだ!期限を過ぎてしまっても、私達には引かれる所持ポイントもないからね(マイナスになるってことはないよね‥‥)。
「とりあえずこれにしようか?」
「いいよ」
+-----+-----+-----+
【依頼クエスト/rank1-5】
草原・森に自生する薬草採取/1日
達成条件:10本/一束
報酬:5,000ギル
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初日なので、草原・森の浅い場所で様子見ついでに採取することにした。それに薬草採取はポイントと報酬が何故か高いから、ランク1中はお世話になりそうだしね。
「この紙を受付カウンターに持って行けばいいの?」
「うん。ギルドカードと一緒に出すんだよ」
受付のメリダさんの列に並ぶが、他の受付嬢の列に比べて人が少ない。自分で言っていただけあって、厳しい受付長をやっている効果は抜群のようだ。
「サエキ様、本日はどのようなご用件でしょうか」
「すみません、このクエストをお願いします」
「承ります。薬草採取ですね、失礼ですが薬草はご存知でしょうか?」
「あっ!いえ、知りません」
「お待ち下さい、‥‥こちらが薬草になります。他の草との見分けが難しいため、探すことが大変困難になっております。また、このクエストは常時出ておりますが、先に受注してしまっても宜しいでしょうか?」
やっぱり高い理由があったんだ。メリダさんの説明がなかったら、薬草も知らないまま出掛けてたよ。<鑑定>があるから大丈夫だとは思うんだけど‥‥、ちらっ、思った通り知らなかったのねって顔してる‥‥。
「こちらの薬草採取ですが、採取中に魔物と遭遇することもございます。最低限の武器と防具を装備されてから行かれることをお勧めさせていただきます」
抜かったぁ~!?気付きもしなかったよ、危ねぇ‥‥。ちらっ、メリダさんと目が合う。何も考えてなかったのねって顔で溜息を付かれた‥‥。
「あ、ありがとうございます。これから装備を揃えに行って参ります!」
「そうですか、ギルドカードをお返しします。宜しければお薦めのお店をご紹介させていただきますが、如何でしょうか?」
「た、助かりますであります‥‥」
後ろでオビトも溜息を付いている。何で私をリーダーにしたのさ‥‥。
それからメリダさんに、お薦めのお店を2軒教えて貰った。2軒とも冒険者ギルドから近く、オビトが場所を知っているというので早速行くことする。