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野望のためならエーンヤコーラ♪ってな感じでやって来ました、ワトヤさん家!
ここへ来るまで突っ切って来た広大な敷地には、数多くの従業員らしき人達がいた。樹海を出てからは常識的な速度まで落としたため、目撃されること数回。恥ずかしがったワトヤさんが頻りに降ろしてくれとダバダバしたが、時間制限があることを理由に却下し続けた(カウ兄様は終始微笑んでいらっしゃった‥‥)。
往々にして一度見た後、え!?って顔で二度見三度見は当たり前。皆が皆、狐に摘ままれたような面持ちで見送ってくれたが、何名かは驚愕の後お腹を抱えて大爆笑していた。プルプルするワトヤを尻目にカウ兄様が手を振っていたので、どうやらご家族だと思われる。
そして私、ぶっちゃけ今日イチで緊張しておりますですハイっ!
「初めまして!本日はお招きいただきましてありがとうございます。わたくし、常日頃からワトヤさんに大変お世話になっておりますイトと申します。ついでにご紹介させていただきますと、こちらの腹に一物抱えていそうな少年がオビト、こう見えて役職付きの男性がヤミルさんです。それから‥‥こちらは手土産のシードルになります。奥様のお口に合うといいのですが!」
プルプルしながらシードルを差し出したそのお相手とは‥‥、お残しで有名な食堂のオバちゃんを具現化したかのような肝っ玉母ちゃんである(しかもデカい!)!渋い‥‥渋くて超イカしてるよ、ワトヤさんったら!
「イト、ちょっと顔貸して」
「か、顔は止めな!ボディーにしな!」
「格好いいなそれ‥‥じゃねぇ!どっからどう見ても役職付きっぽいだろうが俺は!?あ、ご無沙汰してます、ソノオさん」
「全くだよ、かれこれ何年振りだい?まあ、元気そうでなによりさ。‥‥それにしてもワトヤ、聞いてたより想像以上に面白いのを連れて来たねぇ」
「面白いのとは何て失礼なことを‥‥。母さん、イト様に謝って下さい!」
「っ!?まさか、あのカウノが気に入ったってのかい‥‥?こりゃあ前言撤回だ、とんだ大物みたいだねぇ」
「くくっ、まあな」
うわぁ、ここまで180度違う親子も珍しい。言うなれば、この母にしてこの子ナシ!
名残惜しいがあまり時間がないため、挨拶もそこそこに畑へと案内してもらうことにする。場所は樹海寄りで、城下町から一番離れた敷地内の隅っこ(来た方角と60度違うのがミソだな‥‥)。そんな立地条件のため魔物に食い荒らされることがしばしばあり、ここ数年は使用していない畑だという。ここからだと城下町の端から端以上あるみたいなので、片膝を着き無言のスタンバイをした。
だがしかし、今回は頑なに拒否されてしまった。ソノオさんに見られるのだけは、どうやら男の沽券に関わることだったらしい。だもんで、荷車へとご乗車いただきイト特急を走らせること数十分、辿り着いた先に待っていたのはだだっ広い荒れ地だった。しかも
「これは‥‥大変見事に隔離された畑でございますね」
魔物対策なのだろう柵らしきものが敷地沿いに立てられていた。そしてあまり効果がなかったのだろう。さらにしっかりした柵を内側に立てた結果、忘れ去られた荒れ地が誕生することになったようだ。
「大口を叩いといてすまんが、今後のことを考えて広さを確保するにはここしかないんだ。畑の状況を除けば、うってつけの場所だと思うんだがどうだ?柵に囲まれているから何をやっても見られる心配がないし、樹海に近いから木を植えても目立たないはずだぞ」
「最高です!そんなことまで考慮していただけるとは感謝感激雨あられ!」
「喜んでいただけて嬉しいのですが、使えるようになるには‥‥時間が掛かりそうですね」
「だな。今日1日頑張ったところで、この広さじゃ何年掛かることやら‥‥」
「しかも雑草が凄いですよ。これ、全部抜かなきゃダメなんですよね?それに魔物対策もし直さないと意味がないですし」
「「「‥‥‥‥‥」」」
畑を作る大変さを知っている3人は、これから先にやらねばならぬであろうことを考え黙ってしまった。雑草除去後、土を掘り起こしてさらに耕し、堆肥や肥料にて土壌の改良を行わなきゃいけないからね。ただここまで青々と雑草が生い茂っているのを見ると、栄養はそこそこあるんじゃないかと思っちゃう。
元々畑として使っていたところだから水捌けの心配はそこまでしていないし、今回は塊根・塊茎類を作るわけじゃないから畝を作るつもりもない。仮に必要になったとしても、<土魔法>があるから楽チンだもんね!てことで
「ちょっとそこのお兄様方、私のことを忘れちゃいませんか?」
「いや、イトちゃんが言う時短技というのには期待しているが、人一人が出来ることには限度ってものがあるからな」
「オヤジの言う通りだぜ。こればっかりは簡単に出来ることじゃねぇぞ」
「どちらにせよ、イト様に時短技をご教授いただき頑張るしかありませんね」
「じゃあ宜しく」
「あいよ、任された!」
「「「‥‥はい?」」」
雑草を表層の土ごと『空間固定』で根刮ぎ「ドサっ!」‥‥何だ?
「な、は?なっ、はぁっ!?」
えっ!?せ○だ○○お?
あまりの衝撃に浮かせたまま後ろを見ると、空中を見据えて目をカっぴらいたヤミルさんが尻餅をついていた。その横には口をあんぐりさせて立ち尽くすワトヤさんと、両手を組み恍惚とした表情で見つめるカウ兄様。
「‥‥一体、何が起こってるんだ‥‥」
「夢じゃありませんよね‥‥痛い‥‥。これは、これは何と素晴らしい時短技でしょうか!」
「せ、せ、説明求むっ!」
そのままでいてもしょうがないので、これまた驚愕の3人を尻目に一旦クワ太へと突っ込む。とりあえず、今度森に行ったときにでも捨てればいいだろう。ん~、この反応、このパッション‥‥どうしよう、上手く説明出来る自信もないし時間もない。ちゅ~ことで、困ったときの
「オビトよろ!」
「‥‥あいよ、任された」
よっしゃ~!そんじゃドンドンやっちゃうよ~!トウキさん達、昨日振りだね。ここはお気に召してくれたかい?これからも宜しくね!え~っと君はここ、君達はここね!と、トウキ・薬味類・菜類・ナッツ類を土ごと配置。あ、ついでにサアとコトンも植えちゃえ!
オリーブ・カオミ・果物・ナッツ類などの木は、ワトヤさんの助言通り樹海側へと植えた。うむ、木を隠すなら森の中とはよく言ったもんだ!
香辛料とハーブ類は根が広がらないように種類ごとに配置し、さらには土中から地面まで仕切り板のようなものを<土魔法>で形成。種による交雑を防ぐため念には念を入れ多大なスペースを割き、仕切り間には広い通路も作った。
わおっ!多種多様なものが混然一体となったこの訳の分らない感じ、でも機能性・効率性に富んだ仕上がりは正しく我が庭!おっと、感動するにはまだ早いぜ?
「‥‥迂闊に手を出せる感じじゃないな。ぽり、っ!?」
「ええ、この日のことは末代まで語り継がねばなりません‥‥。ぱり、っ!?」
「俺、必要なくね?あむ」
「この感じだと午後は忙しくなりそうなので、余計な心配だと思いますよ。もぐ」
『ぷる、ぱく』
『ぶる、はぐ』
いつの間にか仲良く座り込んでいた4人は、コハクが出したであろうお菓子を雑談しながらパクついていた。あ~っ!愛しのジャムクッキー!の最後の1枚はヒスイの口の中へ‥‥。ぐぬぅ~、もう少し早く気付いていれば食べれたものを!
「ちょっと貴方達!あくせく頑張る私を差し置いてお菓子を食べるなんて、働き者に対する冒涜よっ!」
「働き者?食いしん坊の間違いでしょ?」
「すまん、勧められたんでつい」
「申し訳ありません、少々手持ち無沙汰だったもので。イト様が1人で頑張っているというのに俺は、俺は‥‥」
「そう目くじら立てんなって、悪かったよ。ほら、カウノも本気にすんな」
「こっちに気が付いたってことは終わったの?」
「まだっス!」
そうなんだよね~、まだなんだよね~、こっからが肝心なんだよね~。うぉっほん!では、これより魔石(茶)による畑の魔改造を行う!あと魔物対策&泥棒対策もね。手塩に掛けた作物を盗っ人なんぞに触れさせてなるものか!
「お、おい、魔石なんか取り出してどうしようってんだ?しかもソレ、茶色じゃねえかっ!?」
「これはですねぇ、その筋の人には垂涎ものなやつなんでございますの。植物増強で積極的に仲間を増やすタフなガイに、成長促進でこれからの私のようにすくすくとお育ちになるのですよ!土地面積には限りがあるので、収穫周期を早めて量産を計ろうかと思いまして。よっ、これぞホントの時短技、なんちって!」
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
「しかし、そこで終わる私ではなぁ~い!防犯機能に認証装置を付け加えるという恐ろしいまでの念の入れよう。何という運斤成風、何という奇策妙計、何という古今独歩‥‥。私の畑を狙う奴は何人たりとも許すまじ!」
「「「‥‥‥‥‥」」」
「要はいつもの非常識なやつってこと?」
「そうっス!‥‥いやいやいや、磨き抜かれた感性による創意工夫っス!」
「嘘付け‥‥」
「まあ、間違ってはいないな‥‥」
「俺も見習わなければ‥‥」
お城から門までの距離は、歩いた時間を逆算すると多分3km位のはず。それを参考に<地図>で比較する限りだと、イト農園の広さは2kmx1km=2,000,000㎡ってとこかな。確か東○ドームの面積が約47,000㎡だったから、え~っと、う~んと‥‥よ、42個分!?通りで広いわけだ‥‥。こんなこと言っちゃいけないけど、樹海に隣接していてくれてありがと~う!
使う魔石は己の勘に従い、2つに決めた。試してみて効果が薄いようだったら増やせばいいだけだもんね。今回使用する宝石は‥‥土とドックタグの色合いを重視して鉄礬柘榴石にするか。面積が広いから、使い掛けのやつを豪勢に全部使っちゃおっと!まずは一時的に『空間固定』させた敷地内の土と魔石(茶)を『合成』、そして<分析>。
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[豊穣の土]
実り豊かな栄養満点の土
〈効果:品質向上・植物増強・成長促進〉
〈製作ボーナス:半永久的〉
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土+肥料+魔石(茶)
作成条件:菜園・錬金Lv9
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ありゃ?品質向上なんてオマケが付いてる。ワトヤさんが精魂込めていた畑の素晴らしさが増幅されちゃったってこと?何にせよ嬉しいことこの上ない効果だね、うっしっし!それに名前が格好いい、こりゃあホンにいい土じゃあ!
「土弄りしていると子供にしか見えませんね」
「「「‥‥のーこめんとで(お願いします)‥‥」」」
『『‥‥‥‥‥』』




