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「うひょ~、いてっ」樹海を見上げていたら首が‥‥。
しかしこの密集具合はちょっと凄いな、マイナスイオンが半端ない。鬱蒼と生い茂る樹木の隙間から差すほんの少しの木漏れ日、こりゃあ道なんか出来っこないね。知ってはいたけど、どうしよう‥‥全部オールドトレントだ。
「オビト、ちょっと」
「どうしたの?」
朝の会話が気掛かりだったので、<地図>で調べてみたら限りなく薄らと緑色に色付いていた。こんなの疑って掛からなきゃ気付かないレベルだっての!私のスキルが高くなかったら完全にアウトだった。でもこれで、お城が出来た後に何百年もの年月を掛け、可愛らしく木の振りをしながら頑張ったに違いないことがわかった。
そして今、本物を前に<鑑定>したことで謎は全て解けた。コイツら<気配隠蔽>持ちだ。しかも、全員揃ってフル活用してやがる。伐採しに来た人達にとっては不本意だろうが、切り倒す行為を攻撃だと見なされてしまい秘密裏に葬られているんじゃなかろうか。と内緒話。
「なるほど、それでイト様はどうするつもりですか?」
「のわっ!?」
「そんなこともわかるのか。本当にビックリ箱のような子だな、イトちゃんは」
「ちょっ!?」
「でもこのままじゃ荷車は通れないぞ?倒すのか?」
「盗み聞きするなんて男の風上にも置けないっスよ、ヤミルさん!」
「なんで俺だけ‥‥」
「内緒話だったらもっと小声で話してよ。今のはイトが悪い」
「さーせん!」
「「「‥‥内緒話だったのか(だったんですか)」」」
「あと皆さん、オールドトレントが可哀相なんでもう少し驚いてやって下さい。拗ねて襲って来られても困るので」
「「「はい」」」
やっべぇ、早くもオビトに牛耳られ始めている‥‥。だがランクに関係があるのかは別として、父上と母上もこちらの言葉がわかるのは事実。なり行きとはいえ完全包囲されている今、気付かれたことがわかっただけで攻撃して来る可能性は確かにある。‥‥とりあえず、今現在無事ってことは攻撃しなきゃ大丈夫なんだろうけど。
「で、どうするの?」
「時間がないから今日はこのまま素通りする。何百年も大丈夫だったんだから、今日の明日で何かあるってこともないだろうし。ただ、確認しておきたいことが1つだけあるんだよね。ちょっとココを見て」
「‥‥何も見えないけど?」
「‥‥ですよね?」
「‥‥だよな?」
「‥‥俺だけだったらどうしようかと思ったぜ‥‥」
なるほど、<地図>は使用者にしか見えないのか‥‥知らんかった。いやいや、極秘事項がバレないと思えば素敵な機能じゃないか!え~っと、じゃあ皆に見えるようになって下さい。
「おわっ!?何だコレ!」
「もしかして、これが<地図>?」
「ほう、初めて見たが‥‥いや、便利だな」
「これは‥‥凄いですね。あの、このオーガクイーンというのは?」
「カウ兄様には縁のない女性ですのでお気になさらず!それで見て欲しいのはココです」
「「「「‥‥ドコ(ですか)?」」」」
「私の白魚のような指が指しているココです!」
あら、嫌だわ。皆して私の指を凝視しないで頂戴!
「ココだけ色がない?」
「そう!薄ら緑色地帯において唯一ココだけね。何もないならそれでいいけど、もしあったとしたら‥‥てことで確認しておきたいんだ」
「ヤミルさん、俺、死にそうです‥‥興奮し過ぎて」
「お前が言うと洒落にならないから止めてくれ!」
「こうして見るとそこまで遠くなさそうだな‥‥、よし行くぞ!ヤミル急げ」
「オヤジも落ち着けって、荷車はどうすんだよ!?」
あのヤミルさんが大人に見える‥‥。この親子、やはり侮れんぞ。
パカラ、パカラ、パカラ「はいやぁ~!」くっ、砂浜じゃないのが悔やまれる‥‥とか考えてる場合じゃねぇ!
「オビト君、もっと急いで下さい。イト様が見えなくなってしまいます!」
「はい」
荷車を置いていくわけにもいかず、クワ太に入れたときのカウ兄様の驚きようったらなかった。かつてない褒め殺し攻撃を喰らい、格好付けてヒスイに跨がった結果、手綱も鞍もないため現在必死にしがみついている。その後ろをカウ兄様を背負ったオビトと、ワトヤさんを背負ったヤミルさんが低空飛行で追う形だ。
「ヤミルお前、年食ったな‥‥」
「俺が遅いんじゃねぇ!アイツらが速いだけだ!」
し、心配ご無用。これ以上スピードを上げたら私のお尻もヤバい‥‥。
ヤミルさんの言う通り、私も少~し速過ぎると思うんだな。ヒスイ君、気持ち良く走っているところ申し訳ないんだが、ちょこっと姉上の顔色を見てくれるかい?
「ぎりぎりせーふ‥‥」
『すまぬ姉上。皆に合わせたが故、少々遅くなってしまった』
「いや、助かったよ‥‥色々と」
『にーたん、ちー』
「ありがとうございました。すみません、重かったでしょう?」
「いえ、大して問題ありません」
「‥‥オビト様とお呼びしても?」
「丁重にお断りさせていただきます」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、や、やってやったぜ俺」
「お疲れさん。ありがとな、ヤミル」
やはり睨んだ通りか‥‥。<地図>を出し実物を見てから再度確認するも、殆ど透明に近い。とりあえずマーカーを打っとこ。目の前に聳え立つものへ敢えて名前を付けるならば、お爺ちゃん巨木、いや、エイジドトレントだから大長老ってとこか。
「見事な木だな」
「ええ、このような美しい樹木がこの世に存在していたなんて‥‥、涙で前が見えません」
「いちいち大袈裟なんだよ、お前は‥‥」
「へえ、大長老って言うんだ。どうしてわからなかったのにわかったの?」
「面と向かって<分析>しちまえばこっちのもんさ!予想通り<気配遮断>持ちだったよ。ちなみに大長老は私が付けたアダ名で、正式にはエイジドトレントだけどね。どうよ、中々のネーミングセンスだと思わん?」
『ぶるっ!』『ぷるっ!』
「「「エイジドトレント‥‥」」」
「今までのに比べたら真面かもね」
「でしょでしょ!それにしても何処ぞの御神木のような佇まいだよね。ゲームの世界だったら、目とか口がニョキって現れて喋るパターンのやつだよコレ」
「バカなこと言ってないで戻るよ。もういいんでしょ?」
「うんにゃ。ものは試し、ちょっくら語り掛けてくるわ!」
「触らぬ神に祟りなしって言葉知らないの!?」
大丈夫、ちゃんと知ってるって。大長老の周りをててて~っと一回り、正面は‥‥ここかな?
「お初にお目に掛かります。某はイト・サエキと申す一介の冒険者でございます。こうしてお会い出来たのも何かのご縁。本日はこれにて失礼させていただきますが、今後ともどうぞ宜しなにお願い申し上げます。あ、これ差し入れ(袖の下)です。ここに置いておきますね」
飴セットを1袋置いてペコリ。これぞ秘技、世渡り上手はまず挨拶から+sの術!
悪の親玉だろうが、これだけ礼儀正しく挨拶をしておけばこちらの誠意は伝わるだろう。さらに越後屋から学んだsを渡せば、悪代官を丸め込むなどお手のものよ!かぁ~っかっかっ!殲滅するのは簡単だが、数が数なだけにワトヤさんとカウ兄様がいる今、万が一という事態は避けたいからね。そんじゃ撤収!
私の挨拶が効いたのか(真実は闇の中‥‥)、何事もなく大長老の元を離れワトヤさんの家を目指す。行きとは違う布陣で‥‥。
「ヤミルのアホ」
「まあまあ、もういいじゃないですかワトヤさん。その分あとでたくさん働いていただきましょうよ」
「だが、これはない‥‥」
へばったヤミルさんに代わり、ワトヤさんを背負って先頭を突っ走る私。では渦中のヤミルさんはというと、行きの私同様ヒスイに跨がり二番手を走行中である。何故そうなったかって?そんなの一言に尽きる、だって遅いんだもん。
ワトヤさん達を危険に晒さないように全スルーしてるのに、あのスピードじゃ魔物達の格好の餌食になっちゃうって。まあ、今は別の意味でへばってるけどね。もう暫くの辛抱ですぜ、ふぁいと♪
「いやぁ、ワトヤさんの1人や2人位軽いもんですよ!ところで、このまま真っ直ぐで大丈夫な感じですか?」
「ああ、大体この辺りが家の敷地だと思うんだが」
目の前に展開した<地図>へ指差しで教えてもらう‥‥敷地広っ!
「ちなみにお宅はどの辺ですか?」
「多分‥‥ここら辺だな」
「ちょっと片手を離しますね」
「ワトヤ家」っと、それプスっとな!ワトヤさんを抱え直したついでに何気なく後ろを向くと、限界が間近に迫ったヤミルさんがいた。何やら急激に悪化しとる‥‥身体のデカさが徒となったか。どうしよう、あの辛さがわかるだけに知らんぷり出来んぞ‥‥。
「すまねぇイト‥‥」
「困ったときはお互い様って言うじゃねぇか。男は黙ってしがみついとけぃ!」
「お、親分っ!」
「ヤミル、く、苦しいっ!」
私←ワトヤさん←ヤミルさんの構図で背負っているもんだから、しがみつかれたワトヤさんから苦情がくるのもご尤も!それじゃあ飛ばすよ。イト、行っきま~す!
「2人背負ってなお速度を上げるなんて、何だか憧れちゃいますねオビト君」
「あの光景に憧れを抱くカウノさんの方が俺は凄いと思いますよ‥‥」




