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幻鉱石を掘り出しながらふと思った。シーサーペントは一体何処から来たんだろう?と。
「小っこく丸まって何やってんだ?‥‥そいつは‥‥」
「幻鉱石です。今、絶賛ザックザク中っス!」
「げ、幻鉱石‥‥」
「どうしたタクマ?私を差し置いてイトちゃんと2人でコソコソと、‥‥これは‥‥」
「親分、たくさん集めて来ましたよ!って、何じゃコリャ~!?」
『きれー』
『吸い込まれるような美しさだのぅ』
「見るからにヤバそうじゃない?それ」
「‥‥ヤバいなんてもんじゃねぇぞ。幻鉱石といえばザンダルクの王冠以外、現存が確認されていねぇ代物だ。その王冠ですら旧アラミタ帝国の遺物だっていう位、俺が知る限りでも幻鉱石自体が発見されたことはねぇはずだ」
マジすか‥‥。
「アラミタに古くから語り継がれている伝承によれば、初代アラミタ王は王冠の欠片を体内に取り込んだことで瀕死の窮地から脱し、さらには不老不死になったという一説もあるんだよ。案外、旧アラミタ帝国が滅んだ原因の一端を担っているかもしれないね」
なるへそ‥‥。
「その王冠は神から初代アラミタ王へ与えられしもので、初代王没後はそれを笠に着たアラミタ一族が旧アラミタ帝国を築き上げ全土を支配した、といった内容の本を読んだことがあります。旧アラミタ帝国が滅んだ後に、何の因果か初代ザンダルク王がその王冠を手にし、帝国跡地をザンダルクとした曰く付きの品だとも書かれていましたが‥‥」
「「「それがここにたんまりと‥‥」」」
ほえ~、皆随分と物知りなんだなぁ。まあ、世界に1つしかないんだったら職業柄気にもなるか。武器屋さんと防具屋さんにギルドマスターだもんね!
ただ瀕死を免れ不老不死になった、ってところが引っ掛かるんだよね。鉱石類は総じて効果が表示されないけど、まずそれがおかしいってずっと思ってたんだ。普通だったら特性も含めて絶対に何かしらあるはずじゃん?じゃないと、名前や見た目に違いがある意味がない。
伝承が事実だとしたら、幻鉱石そのままじゃ効果がないから辻褄が合わなくなる。となると推測ではあるが、<錬金>等で加工・変化させたものを使用した可能性が高い。しかし、そこでまた疑問が生まれる。誰がそれを製作したのかと。
幻鉱石のLvは9。さらにそれが神より賜ったものともなれば、神の手により作られた畏れもあり∞だったとしても頷ける。そんな王冠を砕いて、薬のようなものに作り替えられる者がいたのだろうか?いや、居まい。いたとしたら初代アラミタ王も亡くならず君臨し続けているはずだろうし、現に王冠を所持しているザンダルク王族だって世代交代しているのだから。
さっき聞いていて、ピンと来たのは世にいうところの賢者の石。これ自体が黄金みたいなもんだからそっちはいいとして、もしかしたら本当に不老不死の霊薬が作れちゃったりして‥‥。
包丁を取り出す。現在の<鍛冶>はLv4、訳のわからん変テコ補正が掛かっていれば切り出せ‥‥ちゃったなぁ、どうすべ‥‥。顔を上げて思い出した、皆が見ていたことを。全員の視線が切り出された欠片に惜しみなく注がれ、非常に居たたまれない状況である。
「あれれ~?こんなところに幻鉱石の欠片があるぞ。あっ、でもこれを飲んでもお腹を壊すだけみたいだな。てことで『合成』!」
「も、もう嫌だぁ~!!僕の職業って一体‥‥」
「落ち着けセイジ!俺だって‥‥、俺だってなぁ‥‥」
「はぁ、今日だけで何度驚いたことか。イトちゃん、幻鉱石のLvはいくつなんだい?」
「‥‥な、7です」
「本当に?神が与えしものがLv7?」
「は、8でした!」
「神様って所詮は達人級だったんだね。わぁ、ビックリ」
オビト君、何だいその端から信じていないことを隠しもしない棒読みの台詞は。
「そういえば、特訓後にキャラメルを食べていたけど<料理>のLvはわかったの?」
「うんにゃ。自分で作っといて言うのもアレだけど、旨過ぎるからこそダメだった。私、自分の才能が怖い‥‥」
「なるほど、<鑑定><分析>はLv9になったと‥‥。エジムさん多分Lv9ですね」
「私の隠し事(乙女の秘密)って一体‥‥」
「「「‥‥Lv9」」」
『ちゅぎ10!』
『100まではもう完璧のようだな、凄いぞコハク』
『てれまちゅなぁー!』
「「「「‥‥日に日に似てきている」」」」
取り残しがないようにと、大人3人が丸まってザクザクしている。最後『磁気』で確認しようと思っていたのに、完全に言い出すタイミングを逃してしまったため、手持ち無沙汰なこともあり1人○×を始めた。
目敏くそれに気付いたオビトにルールを説明、そして圧勝!2戦・3戦と勝利し、ドヤ顔で迎えた4戦目でまさかの敗北。そう何度もマグレが続くはずがない!と挑んだ5戦目も完敗。つ、つえぇ‥‥、というか学習能力が高過ぎる。この感じだと、オセロ・将棋・囲碁みたいなボードゲームは最初以外勝てそうにないな‥‥。
横で見ていたコハクとヒスイがオビトと○×を始めたので、座って観戦している振りをして池底にコソっと手を突っ込み『磁気』を発動させる。前回は連れて行けってやったからこっちが引き寄せられちゃったけど、今回は近場のものをこちらへ引き寄せるように念じる。早いと手が痛いからゆっくりでお願いします!
でもこれって固い池底じゃ出来ない芸当だよね。強い『磁気』で引き寄せた先に待つものは超豪速球の嵐だもん。おっ!?何かが手に当たったぞ?君、ソフトタッチで非常にいいね!しかもコツっコツっと続々と集まって来てる、順調、順調!
『まけた‥‥』
『コハクの敵は儂が取ってやるぞ。オビト、いざ勝負!』
「はいはい。じゃあ行くよ、ジャンケンチョキ」
「イトちゃん、全部で2つ見つけたよ!」
「あ、エジムさんお疲れ様でした」
「これだけ引っ掻き回したんだ、流石にもうねぇな」
「僕、見つけたとき不覚にも手が震えちゃいました‥‥」
『‥‥勝てぬ』
『にーたん‥‥』
『コハク‥‥』
『『うわーん!』』
「な、何だ!?お前達どうしたんだ?」
『オビ、つよちゅぎ‥‥』
『頼む、儂らの敵を取ってくれタクマ!』
ヒスイ達に泣き付かれたタクマさん達が○×のやり方を教わり、オビトに挑み、そして次々と返り討ちに遭っていく。あのエジムさんですら勝てないとは‥‥ん?何か暗い、3人もだけど上が。ヤバっ、そろそろ帰らないと晩ご飯の仕度が!慌てて立ち上がり、皆に声を掛ける。
「そこまでにしましょうか。帰ってからでも○×は出来ますからね!てゆうか、暗くなってきたんで帰りますよ!」
皆の視線が私に集中する。私というか‥‥右下?
「「「何じゃソリャ~!!?」」」
『なんと絢爛豪華な‥‥』
『おしゃんてぃー!』
「プチ成金?」
‥‥忘れとった、ベアントガントレットならぬセレブマダムガントレットが我が右腕に宿りしことを。もう目が痛くなる程のビッカビカさに、後光が差してまるで女神が降臨したような神々しさだ。まあこう見えて、一応女神なんですけどね!
「あら失礼、わたくしの隠し切れない美しさに引き寄せられて来てしまったようですわ。ふぅ、過ぎた美しさとは罪なものね‥‥」
「自分で引き寄せといてよく言うよ。前回自爆した逆のことをやっただけでしょ?」
「アホんだら~!あれは自爆じゃなくて、失敗を恐れぬ名誉ある大失敗ってやつだよっ!」
「「「もっと酷い‥‥」」」
「と、とにかくもう帰るんで掴まって下さい!」
『空間固定』したまま『舞○○』を併用し、サクっと「池1号」の外周を回る。予想は大当たり!目的のものを見つけることが出来たので、マーカーを打ち地上へと上がった。
「なるほど。シーサーペントはあの大穴から来たということか‥‥、よく気付いたねイトちゃん」
「3日前までは池にいませんでしたから。水路が何処かへ繋がっていなければ、現れるはずがありませんしね」
「3日後に行くつもりなのか?」
「ええ、そのつもりです」
「僕も行きたい!お店を休みにするから連れてってよ!」
「‥‥俺も行く」
「店主だからって簡単に店を休みにするんじゃない!そんなにホイホイと休んでいたら冒険者達が困るだろうが。少しは人気優良店の自覚を持て!」
「その心は?」
「私だって行きたいのに、お前達だけ行かせてたまるかバッキャロ~!あっ!?」
オビト、ナイス突っ込み!こうやって私もやられているかと思うと勉強になりますなぁ。見ておれ、絶対にエジムさんと同じ轍は踏まんぞ!
今日はちょっと遅めだし、冒険者ギルドへも行かないつもりなので、売る売らないはタクマさんの家ですることにした。ただ、私が持っているオーガを解体してもらうために渡すのは勿論のこと、オビトとコハクが持っている薬草と魔物を受け取るのは数が数なだけに一苦労しそうだな。
その筆頭はシーサーペント、大き過ぎて城下町ではまず出せない。解体してもらってから受け取るとしても、量が半端ないからそれだけで1日が終わっちゃいそうだ。そのまま貰っても意味がないし‥‥ん!?さっき大量に拾ったから私の分もあるぞ。気付いて良かった~!ゴソゴソっと魔石(紫)を取り出しクワ太に『合成』。<分析>さ~ん、一応確認して下さいな!
「オビト、しまってもらったばっかりで申し訳ないけど、シーサーペントだけ今頂戴!」
「まだ解体してないけど?」
「そのままでいいよ。余剰な魔石(紫)が手に入ったから、クワ太を解体出来るようにしたんだ。冒険者ギルドには達成条件以外は殆ど売らないから、受け渡しも減って楽になるでしょ?最近は数が多い上に大きいものが増えたから、解体しちゃうと逆に手間が掛かるしね。それによくよく考えたら、お肉類は私が解体した方が部位ごとになって使い勝手がいいんだ!」
「その心は?」
「食べたことのない稀少部位を1人でこっそりと‥‥、じゅるり。はっ!?あか~ん!同じ轍踏みまくりやんかぁ!」
ででん!っと再び出してもらったシーサーペントをクワ太ににょろにょろっとしまう。ひょ~、何回見ても圧巻の一言に尽きますのぅ。そんなとき、私の地獄耳がヒソヒソ話をキャッチした。
「イトが怪しい動きをしていたら呼んでね。俺も食べてみたいから」というオビトからの問い掛けに、『あい!』『相わかった!』とコハクとヒスイが答える。私の可愛い天使達が大魔王の手先になってしまった(悪魔からの昇格)!?
こんなときこそ私の大ファンであるエジムさん、貴方の出番ですよ!「私の分も頼むよ」‥‥ちょこっとだけど信じていたのに、「俺の分も頼む」‥‥そんな、「僕の分もお願いね!」‥‥バカな。今まで行った数々のこっそり達は悉く阻止され、さらには四面楚歌に陥る切っ掛けさえも自ら与えてしまうとは‥‥。しかし
「最終的には全部バレてるんだからいいじゃないか!」
「それでもなお、隠れてやろうとする根性には感嘆するばかりだけどね」
『かんたん?』
『姉上の挫けぬ行いが褒め称えられておるのだ』
「まあ確かに、ある意味凄い人物だよね」
「真似しようにも出来ねぇからな」
「大丈夫!そんな迂闊なイトちゃんも素敵だよ!」
くそぅ、褒められているはずなのに凹んでしまうのは何故なんだ!?こうなりゃ是が非でもこっそりと食べてやる。まずは綿密な計画書の作成からだ!




