7-<3人組>
「疲れたわ。次から次へと誘われるんだもの」
「ホントだよねー。あたしも囲まれたー」
「鈴も色んな人に手を握られちゃったぁ」
「あんた、何もない所でわざと躓いてなかった?」
「花蓮ちゃん酷いよぅ。鈴、本当に転んじゃうとこだったんだよぉ。でもでもぉ、助けてくれた騎士の人格好良かったなぁ」
「そうね。あの3人はやっぱり飛び抜けているけど、この世界はレベルが高いわ」
「あたしもそう思うー。素敵なオジ様もかなり多いしさー、聞いてみたら独身だったよー」
この3人、元の世界でもいつも連んでいたが、お察しの通り決して仲がいいからではない。お互いがお互いを見下し、自分がいかに相手より優位なのかを見せつけたいだけなのである。
本日夕刻から催されたお披露目パーティーでは、1日掛けてこれでもかと磨いた身体を選んだドレスで包み、めぼしい男性に粉を掛けまくった。彼女達は異世界に召喚されたにも関わらず、そのことについて何も不満を感じていなかった。
むしろ日本にいたら出会えなかった極上の男達、どうやって他の2人を出し抜き、自分のものにするかを牽制しながら考える。勿論そこには神官長ジラルド・第一騎士団長ライエル・第一魔術師団長マリウスも含まれる。彼らは彼女達が狙っている最上の獲物なのだ。
パーティーには神官副長・第二騎士団長・第二魔法師団長も出席しており、こちらも少し年上ではあるが非常に見目麗しかった。
貴族・重鎮だと思われる壮年の男性、跡継ぎだと思われる青年、鍛えられた肉体を持ち清廉された雰囲気の騎士、不思議で妖しげな魅力を持つ魔術師、総じて容姿に優れた魅力的な男性ばかりで目移りしてしまう。明日から誰を狙って誰をキープしていくか、会話をしつつも3人の頭の中は目まぐるしく回転する。
「私、明日はマリウスに魔法を見せてもらうの。あんた達は予定あるの?」
「あたしはー、ジラルドと会う約束してるー」
「鈴はねぇ、ライエルの訓練を見に行くんだぁ」
「あらそう、良ければ6人で昼ご飯なんてどう?私もジラルドとライエルに相談したいことがあるし」
「いいよー、あたしも2人に聞きたいこといっぱいあるんだー」
「鈴は知らない世界で心細いからぁ、毎日3人と一緒にいられないかお願いしよぉ」
「止めなさいよ、あんたが付き纏ってたら彼らに迷惑だわ」
「そんなことないよねぇ、理沙ちゃん?」
「あたしも迷惑だと思うけどー?でもどうしてもって言うなら、一緒にお願いしてあげようかー?」
「‥‥それって理沙ちゃんも一緒にいるってことぉ?」
「当たり前でしょー」
「なら私も一緒に頼んであげるわ、しょうがないわね」
抜け駆けはしたいけど抜け駆けは許さない。3人の間で見えない火花がバチバチと飛ぶ。お互いタイプが違くて第一候補が被らなかったのは僥倖だった。でもそれだけではとても満足出来ない。自分の魅力はこんなものではないはず、今までだって狙った獲物は全て手に入れて来たのだ。
選びに選んで恋人にした今までの男など比べものにならない最上物件。彼女達は王女にだって負けていない自信があった。自分がアプローチして靡かない男がいるはずがない。
「そういえば佐伯知らないー?」
「確かに朝から見ないよねぇ、気にしてなかったからわからないなぁ」
「アイツなら追い出されたわよ」
「えー!そうなのー!じゃあいいやー」
「理沙ちゃん何かあったのぉ?」
「なんかー、ジラルドが朝から探しててさー。全然あたしのこと構ってくれなかったんだよねー」
「アイツに付くはずだった側仕えが私のところにいて教えてくれたの。今朝方、王女の命令で叩き出されたそうよ。私達女神の召喚に巻き込まれた雑魚キャラってとこじゃない?」
「じゃあもう会うこともないねー。あースッキリしたー」
「2人ともちょっと酷いよぉ。あの子がいないと面倒臭いことやってもらえないのにぃ」
「あんたの方が酷いわよ。でも目障りなのがいないと気分がいいわね。アイツがいると私達の印象も悪くなるもの」
佐伯絲という女は最初から気に食わなかった。低い身長に太った身体、顔はパンパンで制服ははち切れんばかり。でも、髪の毛は信じられないほど艶やかでとてもいい匂いがした。
いつだったか香水を付けているのかと聞いたが何も付けていないと言われ、使っているシャンプーをさり気なく聞いてしまったことがある。しかもそれを買ってしまい、思っていた匂いではなかったとき酷く屈辱を感じた。自分達が気にする存在ではないのに気になってしまうことが許せず、色々なことに難癖を付けて嫌がらせもした。
この世界に来て、例の如くカースト底辺の扱いをされていることには優越感を感じた。与えられた部屋は物置部屋、食事はワンプレートのみ、翌日には精霊契約すらさせられず王女に不要だと追い出される始末。いい気味だ。
その後も愚痴・文句は続き、それは王女の悪口にまで及ぶ。19歳の癖にケバい、高飛車でいちいち鼻に付く、3人を自分達から奪い気に食わない、要は同族嫌悪である。
王女に言われた半年後までのレベル上げとスキル取得、そんなものをする気はさらさらない。何故喚び出された女神の自分達が、あんな女の言うことを聞かなければならないのだ。王女の父親の王にもパーティーで会ったが、お腹は出てるし脂ぎってるしで触られただけで鳥肌ものだった。
こちらの方が偉いのだから、王女どころか王の言うことも聞く必要はない。ただ追い出されては困るので、やっている口実にもなり、そもそもの狙いでもある3人をそれを理由に誘い、モノしたいところだ。
彼ら3人が自分の虜になった未来を想像する。ある者は3人に蝶よ花よと囲まれ、跪かれ求婚される自分の姿にニンマリと笑う。ある者は3人が自分を奪い合い、競うように好かれようとする様に陶酔する。ある者は3人から貴方以外の女など眼中にない、自分なしではもう生きていけないと言われる未来にほくそ笑む。
小さい頃から勝ち組女子の名を欲しいままにしてきた彼女達は、さらに女神という立場を手に入れ恐れるものなどなくなっていた。これからは望んだ全てが手に入る、願った全てが叶うのだと。