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「お、おはようございます」
「‥‥おはようございます」
頭を抱えながら食堂に入って来た私と、口を押さえて少しよろけ気味なオビト。何も言わなくてもいつも通り私がやらかしたことを悟った面々は、オビトに憐憫の眼差しを送る。
「大丈夫かオビト?顔が真っ青だぞ、飯食えるか?」
「俺が落とされたときより酷ぇな」
「イトちゃんにも困ったものね」
「明日は我が身‥‥」
「2人で早朝訓練とはいただけないな。何故私にも声を掛けない」
「いいなぁ、イトちゃんと2人っきりで秘密の特訓‥‥ふふっ」
うひぃっ、ゾクっと来たぁ~!鳥肌まで立ってるよ‥‥。ネックレスちゃんと着けてるよね?うん、大丈夫。
しかし着いた途端にゲンコツを喰らわすなんて、救世主の頭を何だと思ってるんだ!誰か私の頭も心配してくれ!る訳ないか‥‥。まあ確かに、ちょこっとだけ飛ばし過ぎたかもしれないけどさ。ご飯が食べられなくなるまでとは思わなかったからちょっと反省。何かスカっとするものあったっけ?あ、これでいいや!
「ごめんねオビト、これあげるからこれに懲りずにまた乗ってよ!」
周りから見えないように、オビトの手に包装紙で包んだ飴玉をコロンと置く。昨夜いつまでも黒砂糖を舐めているのもどうかと思い立ち、部屋で砂糖と水をグツグツ・コネコネして15種類の飴を作り揃えてみた。その成果なのか、<土魔法>の製作スピードと<火魔法>の弱火がかなり上達したと思う(ちゃんと消火用水も準備したよ、火事怖い)。
作ったのは葡萄・林檎・苺・レモン・蜜柑・桃・フルーツミックス・シトラスハーブ・ミルク・苺ミルク・ヨーグルト・コーラ・サイダー・バター・黒飴。私のお薦めはバター飴、これがまた懐かしい味がするんだよ!まあ例の如く、全部とんでもなく美味しいんだけどね♪ちなみにオビトに渡したのはシトラスハーブ飴、絶妙なバランスにビックリの一品である。
「二度と乗らない。というか乗るって何‥‥これ甘いのにスっとする」
「でしょ?食堂だから詳しいことは後でね」
「お待たせしました」
「お、今日も旨そうだな」
「3人前じゃ少なかったか」
「いただきま~す!うん、今日も美味しい!」
「「マスター‥‥」」
「僕も、いただきます!」
「サンドイッチだ、いっただっきま~す!ん、ふまぃ!」
具は2種類でチキリと白身魚に衣を薄らと纏わせて揚げ焼きにしたもの、それと野菜を一緒に挟んだボリューム満点な仕上がりになっている。味付けは相変わらず塩・胡椒のみだけど、薄~く塗られたバターがいい仕事をしてますなぁ。
スープはなんとコーンスープ!生クリームとコンソメがないのを手間を掛けることで補ってて、はぁ~美味しい‥‥。もう毎日このメニューでいいよっていう出来映えだね!
厨房を見るとすぐにギンガさんと目が合ったので、どうやらこちらの反応を見ていたようだ。ニカっと笑うと苦笑して首を横に振られた。私のコーンスープを飲んでるからこれじゃ満足出来ていないらしい。う~ん、<料理>にLvがなかったらどう考えてもギンガさんの方が凄いんだけどな。
「ギンガさんご馳走様でした。凄く美味しかったです!」
「食器を持って来てくれたのか、ありがとな」
「いえ、ところで本当にお弁当はいらないんですか?」
「ああ大丈夫だ。俺がいないときにレイアの分を作ってくれるだけで十分過ぎる」
「そういえば、レイアさんはご自分で作らないんですか?」
「‥‥食べたければ頼んでみるといい、きっと泣いて喜ぶぞ」
「い、いやぁ、私のお腹ってこう見えて繊細な構造をしているみたいで、あの、もう少し背が伸びてから挑戦させていただきます!」
「伸びるのか‥‥?」
「‥‥一生食べられないかもしれませんね。アハ、アハハ」
聞かなきゃ良かった‥‥。うんにゃ、聞いといて助かったのか?危機一髪‥‥。
「そうだ、これ差し入れです!全種類2粒ずつ入っているのでレイアさんと舐めて下さい」
「貰ってしまっていいのか?」
「はい。気に入ったら次からは購入して下さいね。それじゃあ行ってきます!」
「気を付けるんだぞ」
一端部屋に戻り、コハクとヒスイを連れて下に降りる。他のお客さんがいるときは、ヒスイを食堂に連れて行けないからね。2人のためにレイアさんが部屋まで朝食を持って来てくれるのだから、本当に迷惑を掛けてばかりだ。
えっ!?部屋に鍵を掛けなくて平気なのかって?何の問題もないよ。クワ太に全部突っ込んでるから飴玉1つ転がってないし、コハクとヒスイは『不審者撃退』出来るから大丈夫だもんね。万が一そんな輩が現れたら、私のクマ拳が火を噴くぜ!
スッカリ本拠地と化してしまったタクマさん家へ到着。ルスカさんとメリダさんとヤミルさんにお弁当を渡し、ふりかけを何個か取り出した。
「この中からどれか1つ選んで下さい」
「選んだがこれは何だ?振ると中から音がするぞ」
「ふりかけって言うんですけど、こいつをご飯に掛けるとおかずがなくてもバクバク食べれちゃう凄い奴なんですよ。味は5種類あるので、中身は開けるまでのお楽しみです!」
「ふふ、それは楽しみね」
「俺は肉味がいい!勿論あるよな?」
「ありますけど野菜味もありますよ」
「げっ!?透かしたら見えないか、これ‥‥」
ヤミルさんがふりかけの中身を見ようと目を凝らしている間に、ササっと残りをしまう。
「あ~、何でしまうんだよ!これが野菜だったらどうするんだ!?」
「好き嫌いはいけません。お残しは許しまへんで!!」
「その通りよ。それにイトちゃんが作ったんだから美味しいに決まってるでしょ」
「そもそも味がしないって理由で食わず嫌いになったんだから、これで野菜が好きになるかもよ?」
「ヤミル、貰ってあげようか?私からは何もあげないけど」
「あげませんよ!‥‥1/5だもんな、自分の引きを信じろ俺!」
「ふりかけ1つでよくここまで盛り上がれますよね」
「温かい目で見てやってくれ、オビト」
「バカバカしくて逆に面白いな」
『ヤミきらい?』
コハクの言葉に全員の視線がヤミルさんへと集まった。どう答えるんだよ、って半分以上は笑いを堪えながら待っている。
「こ、この世界に俺ほど野菜が好きな男はいねぇぞ!一昨日の野菜ピザを見ただろ「僕が載せたやつね!」‥‥、とにかくコハクも俺を見習って何でもよく食べるんだ!そしたら俺みたいな大っきい男になれるぜ!」
『あい!』
『それ程好きだったとは、今まで気付かずすまなかった。次からは儂の野菜とお主の肉を交換してやろう』
「‥‥あ、ありがとう」
「知らなかったなぁ、ごめんよヤミル。私も野菜が大好きだけど、可愛い部下のために涙を呑んで他のものと交換してあげるからね!」
「‥‥あ、ありがとう、ございます、う、うぅっ」
「涙を流して喜ぶとは。しょうがない、私も内容によっては交渉に応じるぞ」
「‥‥‥‥‥」
いやぁ天晴れ、天晴れ!これぞザ・男の見栄ってのを見せてもらった、流石は我が舎弟!男はかくあらねばならぬ!しかしマスター組が絡むと洒落になってないから、ここいらで助け船を出そうかね。
「あの、そろそろ出掛けないと拙くないですか?」
「あら?本当だわ。また走るのはごめんだもの、イトちゃんありがとう」
メリダさんからウインクいただきましたぁ!私もお返しのウインク!という名の両目閉じに終わった。<ウインク>ってスキルないかな‥‥。
『かーしゃん、あめ』
ヤバっ、また忘れるところだった!?てコハク、口に飴を詰め込み過ぎだよっ!うわぁ~、モゴモゴでリスみたいになってて可愛い♪じゃなかった。
「コハクが今舐めているやつなんですけど、飴っていうお菓子を作ったのでもし良ければ持っていって下さい。簡単に説明すると、砂糖をふんだんに使ったとても甘いものです。15種類の味が2粒ずつ入っているので、楽しめると思いますよ」
「本当だ、コハクから凄く甘い匂いがするね。コハクとヒスイのお薦めは何味なの?」
『コハ、いちごみるくちゅき♪』
『儂のお薦めは黒飴だぞ』
「俺がさっき舐めたのは何味?」
「シトラスハーブだよ。具合良くなったみたいだね、顔色が戻ってる」
「うん。不思議なんだけど、飴を舐めたら急に良くなったんだ。もしかしてハーブって薬だったりする?」
「医薬品として認められているものもあるよ。もしかしたら、<薬剤>が勝手に働いて効能・効果が出たのかもね。<鑑定><分析>出来なかったから、一応<料理>みたいだけど」
「軽く凄いものを作らないでよ」
「へっへ~ん!軽く作っちゃうところが格好いいでしょ。思う存分憧れてもらって構わんぞ!」
「ぐふぐふ言いながら鼻血を出した人が何言ってるの?また詰めてあげようか?」
「本気で殺す気か、この姉不幸者ぉ!待て、話しながら着々と準備をするなよっ!」
「「「「「「飴下さい‥‥」」」」」」
試食兼お試しで2袋ずつ渡し、気に入ったら買って下さいねと両目閉じも披露してやった!調達組がワイワイ袋を開けたのにつられて、出掛けなきゃいけないのに袋を開けるギルド組3人。まだ走れば十分間に合う時間だからいいか。私もバター飴を舐めよっと。
うっ、ハズレた。色的にはミルクかヨーグルトだ。パクっ、うむ、ヨーグルト味も旨い!気付けば皆無言でモゴモゴしていた。ふりかけと一緒で包装紙を色分けしていないから、これも開けてからのお楽しみになってるんだよね。そのせいかお気に入りの味が出来ると、見つかるまで舐めてしまう悪魔のような一品になっちまったぜ。くくくっ。
ちょっと待て!?エジムさん口に何個入れてるのさ!少なくとも5・6個は入ってるぞ。さっき虐められたからってヤミルさんも対抗しないで!ヤダなぁ、1日で全部食べちゃったとか‥‥絶対言われそう。




