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織りなす絲  作者: 琴笠 垰
64/79

64-17日目

 「ジャガイモ200個下さいな♪」

 「毎度!っとこの量はイトちゃんか。昨日の今日でどうしたんだ?いや、まさかとは思うが‥‥」


 ええ、そのまさかです。1日で使い切ってしまいましたとも!可愛い少女のお使い風で声を掛けたというのに、ワトヤさんたら鋭い洞察力をお持ちのようで‥‥。ここは秘技、ご近所付き合い世間話の術の出番ですな!


 「お、おはようございます!本日はお日柄も良く、違うな。今日はいいお天気ですね、あっ、曇ってた。暑い日が続いていますね。実は私も一昨日の夜掛け布団を蹴飛ばしていまして、その教訓を元に昨夜窓を開けて寝たら蚊に刺されて痒いのなんの!蚊帳でも作るしかないかと思う今日この頃なんですが、とりあえずジャガイモがないので200個程いただけますでしょうか?」

 「ぷっ、ガジャモだけでいいのか?」

 「あ、名前‥‥」

 「流石に5回目ともなればな。そうだな‥‥穀物類・野菜の中でも多めに買ったものと牛乳と卵、それから少なかった魚介類ってところでどうだ?こんなこともあろうかと最近は量を増やしてるからドンと来ていいぞ」


 ば、バレてる‥‥、しかしこれは好機っ!


 「ではお言葉に甘えて、ガジャモは100個追加の300個で。お米10kgx30袋、強力粉10kgx20袋、大豆10kgx20袋、玉葱x200個、ゴボウ・サツマイモx各100本・海老x200匹、牡蠣x100匹、牛乳x500L、卵10個x30ケース下さいな!あ、ついでに牛乳瓶を20本お返しします!」

 「本当にドンと来たな‥‥」

 「お店に商品を残しつつ、少なくなったものだけを頼ませてもらいました!」

 「そ、そうか。ところでオビト君がいないようだが、今日は1人なのか?」


 そうなのだ。私は今1人でワトヤさんのお店を訪れている。何故なら現在の時刻は朝の6時前!日替わり交代制を組んだはいいが、出掛ける時間を決めて平等化を図ろうとの意見があり(約2名から)、出勤時と同じ7時に宿を出発することに決まったからだ。

 その足で買い物に行くのも忍びなく、また自分で夕方までに帰って来いという条件を出したため、身動きがとれるのが朝のこの時間だけという訳だ。行きは1時間近く掛けてのんびりと来た、故に「ふぁ~」眠い。

 ちなみに日の出まで起きないコハクとヒスイには、起きたときビックリしないように昨夜説明しておいたから抜かりなし!6時30分までに戻れば、オビトにもバレっこないもんね!


 「はい。私も一応声を掛けたんですが、オビトはああ見えてちょっと朝が弱い子らしくて‥‥。しかし早朝の空気というのは清々しくて気持ちがいいですねぇ。道中にあるお店の方達との会話も弾むってもんですよ!そういえば、あそこのお肉屋さんで聞いたんですけど「お肉屋さんで?」‥‥」

 「ねえ、お肉屋さんで何を聞いたの?」


 ほわい!?イトは混乱している‥‥。


 「イトちゃんから朝が弱いと聞いたが、ちゃんと起きれたんだな。追い掛けて来るとは偉いぞ、オビト君」

 「ぴっ!?」

 「へえ、不思議なこともあるんですね?自分のことなのに、そんなこと今の今まで知りませんでしたよ」

 「よくわからないんだが、結局どういうことなんだ?」

 「秘密にしたい人間の目の前で「早朝に出掛けることはオビトには内緒だからね」なんて内緒話をする人ってどう思いますか?俺もそんな間抜けな人には、今まで1人しか会ったことがありませんけど」

 「‥‥イトちゃん、すまないが助けてやれないと思う」

 「い、いえ。そのお気持ちだけで‥‥」

 「それで?俺に内緒にしてまで1人で来た理由は何だったの?」


 おっかしいなぁ、確かにオビトは‥‥いた。どうしてこういつも詰めが甘いんだ‥‥。1人で何とかしたかったけどバレちまったものは仕方がない。クワ太から目的のものを取り出し、店の奥側にある陳列棚に並べさせてもらう。


 「つかぬ事をお聞きしますが、前に私が作ったパンを食べていただいたことを覚えていますか?」

 「勿論だとも!あんな旨いものを忘れるはずがない」

 「実は今悩んでることがありまして、昨夜色々と考えていたらワトヤさんが以前困ったことがあったら、と言ってくれたことを思い出したんです。そしてここからは私がワトヤさんのことを信用しているのでお話しますが、あのパンにはここに出したトウキと果物を原材料としたものを使用しています。

 今は知り合いだけに売っていますが、唯一甘い果物の値段が高いことと、自生しているものをその都度採取しているためどうしても高くなってしまうんです。今はまだありますが取り尽くしてしまったらと思うと‥‥、なのでこれを栽培して安定供給出来るようにしたいんです!

 トウキの根っこだけじゃなくて、果物の値段が下げられるなら木だって何本でも引っこ抜いて来ます!頼れるのはワトヤさんしかいないんです!ご協力をお願い出来ないでしょうか!?」

 「‥‥すまないが、そのパンに使ったものというのを味見させてくれないか?」

 「は、はい!」


 小皿と白砂糖を取り出し渡すと、ワトヤさんが指先で摘まみ上げ手触りを確かめる。次に匂いを嗅いで舐めると、目を閉じまたゆっくりと開いた。


 「これをいくらで売っているんだ?」

 「10kg15,000ギルです。高くてすみません‥‥」

 「いや、果物の値段を考えれば安い位だ。値段を下げたいと言っていたが、イトちゃんがいくらにしたいと思っているのかをまず聞かせてくれないか?」

 「可能であれば果物を半額の2,500ギル、欲を言えば1,000~1,500ギルなんですが‥‥。砂糖は果物に比例すると思っていただければ結構です」

 「‥‥くくっ、壮大な計画の片棒を担げる機会をくれて感謝するぞ!こんな面白そうなことを他の奴にやらせてたまるか。前にも言ったが全面的に協力させてくれ!正直なところ、今の値段でも家の店でも扱わせて欲しい位だ。そうだな、空いてる日で構わないから近々家に来てくれないか?」

 「はいぃ!本当に‥‥本当にありがとうございます!これから宜しくお願いします!」


 や、やった!良かったよぉ~!!断られたら自分で開墾するしかないと思ってたからマジ助かった‥‥。私の家庭菜園レベルじゃとてもじゃないけど無理だもんね。そうと決まれば早速予定を立てないと!


 「こちらの都合で申し訳ありませんが、明日か明後日の午前中でどうでしょうか?」

 「ちょっと待って、それだと俺が行けなくなるからダメだってば」

 「だってオビトの予定に合わせたら6日後の午後しかないじゃん。ただでさえギンガさんに迷惑掛けてるんだから却下!」

 「明日は‥‥ヤミルさんか。ワトヤさん、すみませんが明日ヤミルさんも連れて行っていいでしょうか?」

 「いいぞ。ヤミルなら思う存分扱き使えるから、逆にありがたい申し出だな」


 ヤミルさんてば何て不憫な男なんだ(セイジさんもか)‥‥、ご愁傷様です。おっと、現金かもしれんが悩みの種が少し減ったらいつもの調子が出てきたぞ!


 「忘れていましたが、ここに出したものの説明をしておきますね!左からトウキ・葡萄・林檎・苺・レモン・蜜柑・桃・栗になります。あっ、ちょっと待って下さい!え~っと、この生姜とニンニクと唐辛子と胡麻に辛子菜と油菜とオリーブも、‥‥出来ればハーブ類・カレー類・バニラ・シナモンなんかの香辛料とカオミもお願いします!あれ?採取したもの全部になっちゃったな。でも全部必要なものばっかりだからしょうがないか、うん」

 「「‥‥‥‥‥」」

 「全てトルキアナの森に自生していたものなので栽培は可能だと思いますが、もしダメそうだったら<無属性魔法>でどうにかしましょう!豆知識程度ですが、自宅の庭で野菜を育てていたので少しはお役に立てるかと思います。問題は収穫期間が長いことか‥‥、サトウキビは確か18ヶ月だったっけ?う~ん、これも<無属性魔法>で何とかならないかなぁ?

 それから、今後栽培をお任せすることになると思いますのでその際の卸値を決められるかと思いますが、種や苗木の提供やイト特製時短技の披露を考慮してお安くしていただけますよう何卒なにとぞ、何卒宜しなにお取り計らいの程お願い申し上げまする!」

 「「‥‥‥‥‥」」

 「やっぱり値段を決めるのって難しいですよね。時間と労働力を掛けて採取すれば勿論タダですけど、時間と労働力をそれに見合ったお金で買ってその分他のことに上手く充てられれば、有意義だし場合によっては何倍も何十倍も効率がいいこともありますし!

 そういやこれって、露店をやることを考えたときに似てるかも?安く仕入れて高く売らなきゃ儲からないもんね!てことはワトヤさんが金額を提示する前に、自分の売値を決めとかないといけないんだ!うおぉ~、メモどこだメモ!早急に調味料の一覧表作りっと」

 「オビト君、イトちゃんはとんでもなく凄い子だな」

 「俺、イトと出会ってから凄いと面白くて変なのは紙一重だと思ってるんですよ」

 「ま、まあ俺のためにもギリギリ凄いということにしておいてくれ‥‥」


 喋りすぎて喉渇いちゃったな、ちょっとコーラを飲んじゃおっと!「ゴソゴソ、コトン、コポコポ、シュワ~、カランっ」それ、くぴっとな♪


 「それは何だ?中に泡‥‥か?」

 「俺にも頂戴」

 「あいよ~」


 コップ2つにコーラを注いで氷をぽとん、私は今度ジンジャーエールにしよ。


 「んぐっ!?ぷはぁっ、これは凄いな!‥‥この前貰った酒にも驚かされたが、こいつはまた違った驚きだ。これにも砂糖や果物が使われているのか?」

 「はい。以前ご相談した大麦を使って造りたいお酒というのも、こんな風に泡が出るお酒なんですよ」

 「参った‥‥、ここまで来ると俺の想像を遙かに超えた話かもしれないな。だが、それも面白い。こちらこそこれから宜しく頼む。どうやらイトちゃんから勉強させてもらうことの方が多そうだ」

 「それでは明日の7時30分位にお伺いしますね。ん?すみません、こちらから聞くのもおかしな話ですが、お店の方は大丈夫なんでしょうか?」

 「ああ、明日は息子を連れて来るから大丈夫だ。それより時間の方は大丈夫か?内緒で来たんだろ?」


 うわっ!?あと10分しかない!急いで253,000ギルを支払いクワ太に購入したものを突っ込むと、挨拶もそこそこに慌ててお店を飛び出した。


 「オビト急いで!」

 「そう言われても、あんまり急ぐと低空飛行しちゃいそうなんだけど」

 「ちっ!仕方ない、奥の手を使うか」


 ぐわしっ!と横を併走するオビトの腰にタックルをかまし、路地裏へ飛び込こみざまオビトを肩に担ぎすかさずジャンプ。飛んで誰かに見られても厄介なので、結構なスピードで屋根から屋根へと飛び移る。おっしゃ~、これなら絶対間に合うって!


 「うっ!ちょっ、降ろ、いっ」

 「黙っていて下され!喋ると舌を噛むでござるよ、オビトうじ!」


 端から見たら可憐な7歳児が少年を担いでいるシュールな絵面だろうが、見られていなければ問題なし!黙ったついでに少し大人しくなったオビトをいいことに、ここぞとばかりにさらにスピードを上げる。今日の朝食は何でござるかな、ニンニン♪

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