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「イト、晩ご飯だよ」
オビト君が呼びに来てくれたので一緒に廊下へ出ると、焼けたお肉のいい匂いが。1階の食堂は宿泊していない人でも朝と夜利用出来るようになっていて、とても賑わっていた。ギンガさんが厨房、レイアさんが他を全てこなしていてとても忙しそう。
「お待たせ、今日はトング肉を使った定食よ」
「ありがとうございます。いただきます」
「ほら、オビトもここで食べなさい」
「わかってる」
本日のメニューはトング肉のステーキ。肉は2cm位厚みがあって味付けは塩・胡椒だった。横に塩で茹でたジャガイモのような付け合わせと葉野菜、それにパンが付いている。葉野菜はドレッシングなどはなくそのまま、パンはかなり固くて何回も噛まないとちょっと飲み込めなかった。
果物が付いていないのは、露店街で見た果物の値段が高かったからわかる。お城で出た葡萄もどきが一房銀貨5枚もしてたからね。米・小麦粉・野菜・キノコ・豆・肉・魚・牛乳・卵・塩・胡椒は安価だったので、果物自体が入手困難なのかもしれない。
そして、調味料は塩・胡椒以外見つけることが出来なかった。お城の料理も甘いものは果物だけだったから、もしかしてこの世界にないとか‥‥甘い物が存在しない?
「ダメっ!そんなの耐えられない!」
突然叫んだ私に、オビト君がビックリする。お店がガヤガヤしていたから、周りには気付かれなかった。
「どうしたの?」
「ごめん‥‥」
「もしかしてご飯不味い?」
「そんなことない!とっても美味しいよ!」
「ならいいけど」
どうせ帰れないんだ‥‥、この世界に骨を埋めるにしても甘みは必須!冒険者としての目標が決まったぞ。私はお菓子と塩味以外の料理を食べるために食材を集めるっ!
「オビト君、後でお湯を貰ってもいい?」
「俺が部屋に持ってくよ」
「ありがとう」
うぉ~、やったるで~!と、意気込みも新たにパンに勢いよく齧り付き、格好良く引きちぎ‥‥れなかったのでガジガジしてやった。
その後、料理を美味しくいただいて食堂を出た。部屋で道具を弄っていると、オビト君がお湯を持って来てくれた。お礼を言ってお湯で身体を拭く。それにしてもぽっちゃり(過ぎ‥‥)だな。忘れてたけどSTR・VIT・AGIめちゃくちゃ低いんだった‥‥。
ただでさえ運動不足な俵ボディーなのに、戦ったこともなくて冒険者が本当に出来るのかな?魔物にやられたらやっぱりケガするんだよね。それどころか下手したら本当に死ぬ‥‥?自信なんてこれっぽっちもない。大丈夫なのか不安だらけだよ。
いやいや、ネガティブになるな!目標を達成するために、まずは冒険者ダイエットを敢行するぞ、おー!
しかしこの道具面白いな。物置部屋の隅に転がっていた、汚れてグチャグチャに丸められた袋。失敬してきた理由は、中を見てみたら綺麗だったから。手を入れてみると温かいの、冷たいの、熱いの、寒いの、何もないのと色々あって楽しかったし。ん~、さっきのお湯が残ってるから、外側を綺麗にしてみよっと。
じゃぶじゃぶ、じゃー、ごしごし、ごしごし、きゅっきゅっ、きゅっきゅっ。
「おぉ~っ!」凄いピッカピカ!新品の厚手な革袋みたいになった。大きさも皺を伸ばして広げたら90Lゴミ袋サイズが全部で15枚、大きいからたくさん物が入りそう。鞄に戻して‥‥あっ、戻す前に鞄を整理しよ。どさくさに紛れていっぱい失敬したからね。
「あるな‥‥」部屋の隅っこにあった、特に汚れてて埋もれてた物を根刮ぎっ!て感じで持って来たからな。とりあえずさっきの本でも読みながら掃除するか。
じゃぶじゃぶ、じゃー、ごしごし、ごしごし、きゅっきゅっ、きゅっきゅっ。
‥‥洗剤も使っていないのに、頑固な汚れも全部落ちてピカピカになった。それにしても見違えたな、同じ物とは思えないよ。
お?これ、さっき制服のポケットから見つけた白い石ころだ。う~ん、いつの間に入ってたんだろう?磨く前は真っ黒でザラザラしてたのに、今は仄かに輝いている気すらする。うむ、こいつはきっといい石だぞ。ちょっと紐で編んで首飾りにでもしてみますか!
その後何かの欠片、魔法瓶みたいな筒、小さな箱、干涸らびた種、布とせっせと鞄に戻す。
露店街でつい買ってしまった2L瓶x10本と、日持ちのする塩5kg、米10kg、餅米10kg、小麦10kg、大豆10kgは流石に部屋に置いていこう。
しかしこの鞄凄いなぁ。こんな魔法鞄を誰でも持っていることにも驚いたけど。これ、どうなってるんだろう?
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[ラビショルダーバック]
ラビの革で作った肩掛け魔法鞄
〈効果:容量/使用者・重量軽減〉
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ラビの皮+モクの糸+鉄鉱石+小魔石(透明)
作成条件:裁縫・細工・錬金Lv2
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ふむ、効果があるから魔法鞄なのか。ラビの皮にモクの糸と鉄鉱石、それから小魔石(透明)を使うと。作成条件に裁縫・細工・錬金Lv2ってあるから、このスキルがないと作れないってことかな?手始めに材料を集めてみて、<裁縫><細工><錬金>スキルを作りながら取得してみよう。
鞄の値段はわからないけど、材料調達して自分で作ればタダだしね。料理の材料用と生産に使う道具用、それから道具の材料用で3個は欲しいぞ!身体中鞄だらけになっちゃうけど、何往復も出来る体力がないから仕方ないよね。この世界の人は身体が大きいから、いっぱい入って羨まし過ぎだよ!