52-15日目
現在、10人で露店街を歩いてます。
当たり前のようにギンガさんの食堂で朝食を取るようになった5名+ルスカさん。昨日私達が帰った後、これまでのことを全て洗い浚い吐かされたそうだ(セイジさん・ヤミルさん談)。張本人のルスカさんはというと、エジムさんと一緒に3人前を容易くペロリと食べ「このような店を見逃していたとは‥‥」クイっ、と明日から日参することを主張していた。
パンの美味しさが目眩ましになっているが、血抜きされた肉で作った料理にもジワジワとだがファンが増えてきている。さっきだって、そこかしこから唸るような「‥‥旨い」が聞こえたもんね!
食堂の朝営業時間は6時から8時30分まで。今は7時30分なので、ギンガさんは朝の営業を終えてからタクマさんのお店に来る予定だ。
「イトちゃん、昼ご飯は12時までに行けばいいかな?」
「はい、大丈夫です。でもお店の方は本当に大丈夫なんですか?」
「元々お昼時は、お客さんが殆ど来ないから問題ないよ」
「くぅっ!休憩時間に行ったとしても食う時間がねぇ‥‥」
「悔しいけど諦めるしかないようね」
「非常に遺憾だ」
「私の妻として、差し入れしに来てくれてもいいんだよ?」
「「『『‥‥‥‥‥』』」」
最後の人、今日も朝からブっ込んでくるな‥‥。しかし差し入れとは中々いい案だぞ。要するにお弁当ってことだよね?お弁当箱もないし、流石に今日からは無理だから作るとしても明日からかな。
忘れる前に、心の中のやることリストにお弁当箱製作も追加しておかないと。いやいや、書けよ私!だからいつも忘れるんだよ!よし、メモ帳製作も追加っと。
「そうだ!ギルド職員組の皆さん、いま水筒を持っていますか?」
「あるぞ」「持ってるわ」「勿論だ」「任せてくれ!」
冒険者の必需品は引退しても持っているようだ。あっ!?私、持ってないじゃん‥‥。水は魔法で出してコップで飲んでるし、ジュースはボウルごとクワ太に突っ込んじゃってる。最近低下の一途を辿っている女子力を上げるために、これも追加っと。
丁度タクマさんのお店に着いたので、皆で中に入った。各種ジュースと人数分のコップを取り出し、それぞれのボウルにお玉を入れる。
「イトちゃん、これは何かしら?」
「差し入れ代わりの果物を使ったジュースです。手前から林檎ジュース・蜜柑ジュース・林檎蜜柑ジュース・葡萄ジュース・レモンジュース・桃ジュースになります。人によって好みが分かれると思いますので、試飲してからお好きなジュースを水筒に入れて持って行って下さい」
ガキ大将が幅を効かせないように、先にルールを決める。試飲は各種コップ1杯ずつ、水筒は大きさに関係なく1人1リットルまで、お好みでさらに混ぜることも可とした。
どれどれ?へえ~、メリダさんはレモンジュースか。料理も酸味のあるものや、サッパリしたものが好きだもんね。ヤミルさんは林檎蜜柑ジュース、2種類の味がして美味しかったらしい。ルスカさんは葡萄ジュースと桃ジュースを混ぜたもの、試飲のときにじっくり味わって決めたようだ。
エジムさんはというと‥‥やっぱりやったよ全部混ぜ、色は得も言われぬドドメ色‥‥。それを見た皆の口がヒクヒクしているのに対して、当の本人は水筒を抱きかかえてとても嬉しそうだ。味見しながら混ぜてたし、美味しいのかな?これが怖いもの見たさというやつか‥‥。
「エジムさん、ちょびっとだけ下さい!」
『コハも!』
『儂も!』
名乗りを挙げた私達3人にホントにちょびっとずつくれた(ケチ臭!)。恐る恐る口を付ける‥‥「嘘、美味しい‥‥」
『おいち!エロタもっと!』
『エロタ、儂にも頼む!』
「私にもくれ」
「俺にもだ」
「エジムさん、俺にも下さい」
「「「下さい!」」」
「い、イトちゃぁ~ん!助けてぇ~!!」
オイオイと嘘泣きするエジムさんを尻目に皆が旨い旨い!と言いながら飲み続け、エジム水筒の中身は空っぽになってしまった。気付いたエジムさんの目に本物の涙が溜まり文句を言いたそうにしていたが、仕事の時間が差し迫っていたこともあり、大急ぎで同じものを作ってギルド組4人は慌ただしく出掛けて行った。
「美味しいからって流石にやり過ぎましたね」
「俺達の積年の恨みはこんなもんじゃねぇぞ」
「食べ物の恨みというのは恐ろしいですからね。勿論僕も全て覚えてますよ、ふふふ」
「今まで余程酷い目に遭ってきたんですね‥‥」
「じゃあ僕もそろそろ戻るよ。お昼にまた来るね!」
露店街や一部食品取り扱い店は朝の5時・6時位から営業しているそうだ。そしてその他のお店は大体8時・9時から17時・18時まで、飲食店は20時・21時まで。ちなみにギルドは3交代制のようで、8時~17時・16時~1時・0時~9時。
役職に就いている人達は大抵日勤になるが、有事の際には真夜中だろうと招集に応じなければならないらしい。だがそれより何より、ヤミルさんが役職付きだったことに驚いた‥‥。
「私も買いたいものがあるので、ワトヤさんの所に行ってきます」
「俺も行くよ」
「わかった。ギンガも来ることだし、コハクとヒスイは俺と留守番するか?」
『コハク、儂と一緒にここで待っておるか?』
『にーたんといっちょ!』
「では、すみませんが2人を宜しくお願いします。9時までには戻りますので」
前回はワトヤさんの所で全てを揃えてしまったが、いま思うとお店の常連さんに申し訳ないことをしたな。他の専門店でも同じ値段で売っていたから、今回は必要なものを買いながら行こっと。
カトビア街道手前の穀物店さんで、お米10kgx100袋・餅米10kgx50袋・小麦粉10kgx100袋・強力粉10kgx100袋・豆2種類10kgx各30袋を購入。
最初はこの半分の量(お店の1/4)を買うつもりだったが、豪快な買いっぷりを見た店主から、今年は豊作で在庫を多数抱えていると相談され購入することにした。売れ残って商業ギルドに売るより、露店街で捌いた方が儲かるとまで言われたら断れませんて。
商業ギルドに売るのを1だとしたら、露店街でお客さんに1.3倍で売った方が断然儲かる。店通りの専門店が最低でも1.5倍なので(商業ギルドから1.2倍で購入)、自作している農家さんは殆どこの方法を取っているそうだ。なので、定期的に今後も買わせて下さいと頼んでおいた。
また、ここで耳より情報を入手!これまで豆は大豆と小豆しか見なかったが、お菓子を作れるようになったのでナッツ類が欲しいと思っていた。こんな豆を知りませんか?と尋ねたところ、露店街を海街道から樹海街道へ向かう途中にあるらしい豆専門店の存在を教えてくれた。
同業者の動向を見逃さないところが流石だね!ワトヤさんのお店と同じ値段なのも頷ける。
カトビア街道少し先の八百屋さんで、野菜・きのこを購入。大量購入の意思を伝えると、冷蔵している訳ではないから足が速いと言われ、昼に追加される2便前に捌けることを喜ばれてしまった。結果、野菜30種類x各100~200個・きのこ5種類x各100個となった。
新鮮さが売りの露店街では、午後になる程萎びたものが売れず、泣く泣く自宅で食べるか廃棄するしかないようだ。なので穀物店さんと同じように、定期的に今後も買わせて下さいと頼んでおいた。
畑がどこにあるのか聞いてみると、カトビア街道から樹海街道までと、ランセクト街道から樹海までの間に畑・水田・牧場が多くあると教えてくれた。ついでにさっきの穀物店さんのことを聞いてみたら、離れているが隣の家だと笑いながら言われた。
さらに露店街を進んだ牛乳・卵専門店さんでも大量に購入させて貰った。牛乳は加工する技術が存在しないため、飲料用に購入する人しかおらずこれまた泣く泣く‥‥以下同文。卵はトニ1羽が1日に10個以上産むらしく、これも在庫を抱えているそうだ。
買い手がいなくて廃業まで考えていると言われれば、飛び付きますよ、そりゃね。全部買ってもまた大量に持ってくると言われたので、牛乳x1,000L・卵10個x100ケースをありがたく購入した。
ここに来るまでに寄った穀物店さんと八百屋さんがお隣同士でビックリしたと話したら、凄く離れているが一応隣の家だと言われこちらが笑ってしまった。なのでお隣繋がりで、ここでも定期的に今後も買わせて下さいと頼んでおいた。
そしてお買い得情報を教えてもらう。牛乳を入れている20L瓶を返却するなら、返却時に値引きしてくれると言うのだ。勿論お返ししますと即答した!
ここまでの3軒で購入した合計金額は1,270,000ギル!?ま、まあ必要経費だからヨシ!
「「おはようございます」」
「ん?イトちゃんじゃないか!いらっしゃい!今日は買い物か?」
「はい。あと牛乳瓶をお返ししに来ました」
20L瓶を10本取り出して渡す。
「助かるよ、ありがとな。この分はちゃんと値引きさせてもらうぞ」
「やった!ありがとうございます!」
「イト、もう少し謙虚になりなよ」
「だって値切りは主婦の腕が問われる死活問題なんだよ!タイムセールという名の戦場を駆け巡ってきた私からすれば、見逃すなんて愚の骨頂!」
「その根性を別のものに発揮しようとは思わないの?例えば痩せるためにお菓子を控えるとか」
「私にお菓子を絶てと言うのか!?」
「でも、このままじゃ本当に転がった方が早くなると思うよ」
「まだそこまで丸くないよっ!」
「はははっ、朝から元気があっていいな」
「すみませんでした、こんな往来で」
「す、すみません」
「それで今日は何が入り用だ?」
今日は穀物類・野菜類・牛乳・卵を来る途中の専門店で購入したことを伝え、魚介15種類x30匹・塩10kgx10袋・胡椒10kgx5袋・酒x10本を購入する。その際、どのお店で購入したかを言ったら褒められた。どうやらいいお店をちゃんと選べていたみたいだ。
先程の3軒はブルイス街道方面に居を構えていて、対するワトヤさんはカトビア海街道方面に家があるとのこと。さらに、ワトヤさんが大きな畑・水田・牧場を持っている大地主だと言うことがわかった。商業ギルドに納める他に、お客さんと触れ合いたくて自分で店を構えているらしい。3軒の専門店もそうだったが、オーナー自ら売りに来ているところが品質の良さを物語っているな。
今し方購入した魚・塩・胡椒・酒はどうしているのかと聞くと、契約している漁師・製作者から商業ギルドより高く買い取っているのだと言う(1.1倍)。初めは単純に値段・品数・新鮮さで選んだお店だったが、商品を手広く安い価格で提供する凄い商売人のお店だった。
これ以上出世はしないらしいけど(メリダさん談)、ヤミルさんが紹介するだけのことはある!




