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「改めて、商業ギルドマスターをやっているルスカと言う。今日は相談ついでに、エジムが旨いものを食わせると言うので伺った次第だ」
エジムさんとはまた違った感じのイケてる親父だ。この人もお城のパーティーに行ってるとしたら
「エジムさん。もしかしなくても、ルスカさんも女神様方に粉掛けられてたりしますか?」
「やっぱりそう思った?勿論だよイトちゃん。コイツ、触って来た女神様の腕を叩き落として何て言ったと思う?小娘如きが、ぷぷっ、私に気安く触るな、ぷぷぷぅ~、って言って眼鏡をクイっと上げたんだよ。クイっと、あははははっ!」
「黙れ!馴れ馴れしい女は好かんのだから仕方なかろう」
「相変わらず固いなぁ。私みたいに何事も柔軟に対処しないと。だから結婚出来ないんだよ」
「お前も結婚していないだろうが」
「私は出来ないんじゃなくて、しないんだ。一緒にしないでくれ」
この空間における独身率が、まさかの100%だということが今発覚した‥‥。
「ねえオビト、結婚って何歳位でするものなの?」
「大体20歳前後かな、家の親もそうだし」
「だ、だよね~」
「あら?何か言ったかしら、イトちゃん?」
「おっと、晩ご飯の準備をしなくては!いやぁ、人数が多いと作るのも大変ですなぁ。こりゃ参った、参った、はぁっはっはっ!」
非常にデリケートで迂闊に突くと藪蛇な話題だ‥‥。この件に関しては今後一切の関与を断固拒否しよう!
さて、今日は何を作ろうかな。いつもの面子にヒスイと男の人がさらに増えたし、ここはガツンと唐揚げと生姜焼きと行きますか!
あ~、決めた途端に食べたくなるなぁ。市販の唐揚げ粉で作ったチープな味って、無性に食べたくなるときがあるよね(夜とか‥‥)。外側ガリガリ派としては、まぶすだけで作れる早くて旨いは最高の一品なのである!
材料を出してと、まずはご飯を炊くか。時間停止も確定したし、多めに炊いても問題ないのが嬉しいね。昨日が40合で1/3余ったから50合炊いておきましょ。
お次は唐揚げ。チキリの皮付き肉を3匹分、ニワトリの5倍は流石に恐ろしい量だな。これを大ぶりにカット、ワトヤさんに貰った袋に入れて料理酒・おろしニンニク・おろし生姜・塩・醤油をその都度揉み込んでと。胡麻を助熱さんで焙煎した後『圧搾』し、『分離』で不純物を取り除き助促さんで熟成させて作った胡麻油を少量垂らす。また揉み込んでから助促さんで「ぱんっ!」
マヨネーズを作ったときの植物油を鍋に用意して、おっと、忘れてた。ジャガイモの皮を剥いて、摺り下ろすのが大変だから『粉砕』。ボウルに水を入れて布に入れたジャガイモをじゃぶじゃぶっと揉み、ぎゅ~っと絞ってそのまま放置せずに「ぱんっ!」
ジャガイモ水はっと、よし!茶色くなった上澄みを捨てて、再度水を入れて混ぜ「ぱんっ!」。これをあと2回やって、上澄みを捨てて白くなったのを確認してから『乾燥』させて片栗粉の完成!
トング肉もこれまた3匹分出す、エンゲル係数高過ぎだよね‥‥。ちょい厚切りにして軽く塩・胡椒、甘めな方が好きなのでボウルに料理酒・おろし生姜・白砂糖・みりん・醤油でタレを作っておく。キャベツを千切り、トマトとレモンは櫛切りにしてお皿に準備。
そして今日の味噌汁はエノキと大根、ちくしょう油揚げが欲しいぜ‥‥。
じゃあ揚げていくぞ!油の温度は‥‥よし。チキリに片栗粉をまぶして投入「じゅわぁ~!」くふふぅ、これを今日は二度揚げしちゃうからね!一度目を揚げ終わったので、二度揚げの前に生姜焼きを作る。
フライパンでお肉を焼いてと、いい焼け具合ですなぁ。ここにタレをダバ~っ「じゅわわぁ~!」うっひゃあ~、いい匂い!!このまま煮詰めておいて、二度揚げ開始!さあお前達、ガリっとなって戻って来るんだぞ?よしよし、いい具合にどっちも出来たね。それじゃ盛り付け「出来た?持ってくの手伝うよ」‥‥。
「ねえ、ずっと聞きたかったんだけど、皆どのタイミングでいつも着席してるの?」
「作り始めてからすぐだけど?」
「‥‥ずっと見てるの?もしかして皆私に夢中?」
「作ってるのを見てるだけで勉強になるよ。まあ、何してるかわからないことの方が多いけど。あ、イトの百面相はちょっと見習いたくないかも」
「そこは百面相も褒めてくれよっ!」
着席済みの面々は、置かれていく料理を興味津々と覗き込む。特にルスカさんの食い付きが半端ない。
「晩ご飯のメニューは、チキリの唐揚げレモン付き・トングの生姜焼き野菜を添えて・味噌汁です。食後にチョコレートを2粒ずつ付けますのでお楽しみに♪では、いただきます!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
「いただきます」
『いただきまちゅ!』
『いただきます!』
「スライムと子ホスマが喋ったっ!?」
あちゃ~、忘れてた。タクマさん達と一緒だからいいと思ったんだ‥‥。
「旨んめぇ~!この唐揚げっての今までで一番好きだ!」
「あちっ!肉汁が凄いよ!」
「甘めなのにピリっとした風味がとても美味しいわ‥‥」
「モレをこんな風に掛けるとはなぁ、サッパリしていていくらでも食える」
「美味しい!もの凄く美味しいよ!私と結婚してくれっ!」
「何だこれは‥‥」
『かーしゃん、ちゅごくおいち!』
『姉上、とても美味だぞ!』
禁断の台詞を吐いた奴がいるが無視だ、ガン無視。私も食べよ、まずは唐揚げから。ザクっ、「んんっ!ふまぁ~い!」ガリっとした衣からジュワっと溢れ出す肉汁、漬け込んだだけあって味もよく染みている。本当にいくらでも食べられそうだ。そして生姜焼きをパクっ、はぁ~ご飯によく合うねぇ。乗っけて掻っ込む!むはぁ~、最高っ!味噌汁もいい味、そしてまた唐揚げ。
こいつが魔のトライアングルってやつか!手が止まらんぞっ!
『かーしゃん、おかわり!』
『姉上、儂も!』
「イト、おかずがなくなっちまった‥‥」
「早っ!?いま出しますね。ご飯のお替わりは大丈夫ですか?」
「「「「「「「お替わり!」」」」」」」
圧巻の一言に尽きる。またみるみるうちになくなってくよ。もう半分位出したけど、まだまだ食べそうだな。お替わりコールに対応しつつ、皆の様子を窺う。
目に付いたのはヤミルさん、これでもかと目一杯口に入れてモグモグしている。まだ口に入っているのに唐揚げに手を伸ばして、エジムさんに奪われた。セイジさんは今日も涙目で食べてるね。生姜焼きを取ろうとして、エジムさんに皿ごと掻っ攫われた。メリダさんとタクマさんは賢明だ、自分のお皿に食べる分を確保しながら食べている。
エジム無双は止まらない!何と魔の手をルスカさんへと伸ばし、あいたぁっ!叩き落とされた‥‥。オビトとコハクとヒスイは3人で美味しそうに食べている。うむ、ここだけが微笑ましいね。
さらにおかずをお替わりして残りは1/4、今日も凄い食いっぷりだった‥‥。
「「「「「イト(ちゃん)、チョコレート!」」」」」
『コハも!』
『儂もだ!』
「お前達、また私に内緒で何か食べたな?イトちゃん私にもおくれ!」
「イトと言ったか、私にも貰えるだろうか」
「はいはい、最初に言った通り1人2粒ずつですからね」
チョコレートを配ると、食べたことのある皆はチビチビと食べ始めた。エジムさんは思い切って1粒口に放り込み、こちらを見てニヤリ。こっちも親指を立ててニヤリとしてやる。
ルスカさんはというと、皆が食べたのを見てからまず匂いを嗅いだ。僅かに目を見開いてから一齧り、驚愕に目が見開かれたまま固まった。そして少しずつ味わいながら食べ、なくなると徐に私を見た。
「エジムの相談事は君だな?」
「はい、そうです」
「色々と聞きたいことだらけだが、説明してもらえるんだろうなエジム?」
「いいよね?オビト君」
「貴方を信用しますが、万が一でも何かあったときには許しませんよ」
「万が一など私が侵すとでも?」
「愚問でしたね。すみませんでした」
「ふふ、やはり君はいいな」
最近こういう場面が増えてない?私の出番が日に日に減ってる気がするんだけど‥‥。
オビトが主体となって説明タイム(定番のやつ)。私が女神という件でルスカさんが凝視してきたので、思わず背伸びをして胸を張る(お腹が出ただけだった‥‥)。話を聞いている間、ルスカさんはコハクとヒスイを呼び寄せて撫でていた。結構可愛いもの好きなのかも。
「なるほど、これは異世界の料理という訳か。エジム、何故私にすぐ知らせなかった?」
「え~、そんなこと言われても私が知ったのも2日前なんだよ」
「ということは、私は2日分の料理を見逃していたということになるな」
「そうとも言うかなぁ、てへ♪」
「全くお前という奴は‥‥。しかし、タクマも黙っているとは酷いじゃないか」
「仕方ねぇだろ。エジムとお前に来られたら俺の分がなくなっちまう」
この3人も仲がいいな。もしかして‥‥
「メリダさん、あの3人って昔パーティーを組んでたりしますか?」
「やっぱりわかるのね。私達が駆け出しの頃、凄く有名なパーティーだったのよ」
「俺達の憧れだったんだぜ」
「僕はルスカさんの戦い方が好きだったな」
「へえ~、武器は何だったんですか?」
「弓だよ。百発百中で、外したところを誰も見たことがないって噂まであったんだから。今はイトちゃんとコハクの方が断然凄いと思うけどね♪」
「そ、そうですか?えへ、えへへぇ、向かうところ敵なしって感じですか?」
「いや、そこまでは言ってないけど‥‥」
「皆の憧れかぁ、いい言葉だな‥‥。そうか、愛する弟達のためにも、私は尊敬される格好可愛い存在にならなくてはならんのだ。私はここに誓う!世界に名を馳せる冒険者になるとっ「「「遅かった‥‥」」」そして、ゆくゆくは」
「はいはい、ちょっとすみませんね」
もう言うのも嫌だ‥‥「ぐすっ‥‥」




