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織りなす絲  作者: 琴笠 垰
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 「凄く甘い匂いがするね」

 「ああ、匂いだけでも旨いってわかるな」

 「大好きだわ、この匂い」

 「コハクお手柄だ」

 『えへー』

 「本当ですよ、危うく隠蔽されるところでしたからね」


 じと~っ、そんな睨みながら言わないで下さいよ、皆さん。


 「べ、別に隠そうと思ってた訳じゃないんですよ?毒味を兼ねて黙って作ったというか、強奪される危険から身を守ったというか、ここならバレないと思ったというか‥‥。ほんの出来心だったんです!すみませんでしたぁ!!」

 『姉上を止められず、すまぬ』


 また怒られた‥‥。落ち込んだヒスイを皆が取り囲み、お前のせいじゃない、お前は全然悪くないと言って慰めている。‥‥謝ったのにこの仕打ち、何だか段々腹が立ってきたぞ!


 「ふ~んだ!へえへえ、私が悪ぅござんした。けっ!こうなったら全部1人でヤケ食いしてやっからな!!後で後悔しても遅いんだぞ!止めたって無駄だからなっ!」

 「「「「「開き直った‥‥」」」」」

 『姉上‥‥』

 『かーしゃん‥‥』


 止めて!そこの2人、そんな憐れむような眼差しで私を見ないでっ!


 そんなこんな(いつも通り)でチョコレートの試食タイムに突入。父上と母上の家に戻り、皆にチョコレートを1粒ずつ配った。


 「黒いのがミルクチョコレートで、白いのがホワイトチョコレートです。では、召し上がれ!パクっとな♪」


 「んむむむむぅ~!」口に入れた途端に感じるカカオの芳醇ほうじゅんな香り。舌の上でトロりと溶ける滑らかな舌触り。チョコレートならではの濃厚でまったりとしたコク。‥‥こ、これぞまさに桃源郷やぁ~!


 「う~ま~い~ぞぉ~!!」

 「「「「「この世のものとは思えん(思えない)‥‥」」」」」

 『コハだいちゅき♪』

 『美味だのぅ‥‥』

 「「ぶ、ぶるぅ~!?」」

 『‥‥姉上、父上と母上が従属にしてくれと申されておる』

 「ええ~っ!?急にどうしたの!?」

 『先程いただいたものもそうだが、これ程美味なものを食べたのは初めてだと感動しておられるのだ』

 「そ、それは困るよ!?小さくなってもらっても流石に3人も宿に泊められないし、大体私にそこまでの甲斐性はないってば!」

 『しかし、もうなってしまったようだぞ』

 「マジか‥‥」


 あっという間に家族が4人に増えた。過労死しないだろうか‥‥。


 父上と母上はヒスイがいるので話せなくてもいいらしく、名前もそのまま父上と母上に決まった(本当にそれでいいのか‥‥)。私がトルキアナにいるうちはここに棲むが、この国を離れる際はヒスイと一緒に着いて来るとまで主張する。

 それからヒスイと同じように魔法鞄を要望された。どうやら、温かい食べ物の美味しさに目覚めてしまったとのこと。首周りに着けられるようにして、チャックではなくボタン式にすればお互いにやり取りが出来るかな?後は頭が入るようにしとかないと取り出せないか。使い勝手については、ヒスイに試着してもらわないと、こればっかりは私もお手上げだ。


 少し暗くなってきたのでメリダさんに時計を確認してもらえば、もうすぐ15時になるらしい。父上と母上に帰ることを伝えると、途中まで送ってくれると言うのでお願いすることにした。ヒスイに私とオビトとコハク、父上にタクマさんとヤミルさん、母上にメリダさんとセイジさんが乗る。

 空を飛ぶと見られてしまう可能性があるので、<索敵><感知>を使いながら走る。いや、正直使う意味があるのかって感じ‥‥。3人とも見つけた瞬間に1撃で蹴散らしちゃうんだよ!『姉上の家族として当然なのだ』というヒスイの言葉に何故か全員頷いていた。




 「池1号」まで送ってもらい、父上と母上とはここで暫しの別れ。首にヒシっと抱き着き(しがみつきブラブラ‥‥)、美味しいものを持って行くねと伝える。鼻息も荒く2人が去って行くと、ヒスイが少し寂しそうな顔をした。それを素早く察知したコハクが『にーたんあちょぼ♪』と言って和ませる。もう本当に家の子ってば最高!


 帰り道に3人が倒した魔物はモクx4匹、チキリx15匹、トングx21匹、ヒジムx7匹、ギュシx18匹、ホスマx2匹、トレントx3本。これは倒す度に、オビトが回収する方が手間だった‥‥。

 岩机に皆で座る。薬草類と魔物はオビトが全て持っているので、これはとりあえず報告のみ。皆の鞄とコハクからトウキとカオミがどんどん出されるので、それを私が片っ端からクワ太にしまった。そして忘れる前にマーカーを回収。あっ!マーカーで思い出した、父上と母上にもマーカー入りのアクセサリーを作らなきゃ。


 いつもの如く、売るものと売らないものを決めようとしたときに物言いが出た。


 「ねえイトちゃん、<薬剤>スキルを持っていないかしら?」

 「ありますよ。多分ですけど、カレーの香辛料を調合したときに取得したっぽいです」

 「また変なもので取得しやがって」

 「そうですか?香辛料とかって漢方みたいな薬に含まれると思うんですけど」

 「多分、俺達とは一般常識が違うんだと思いますよ」

 「そこはせめて常識って言ってよっ!」


 メリダさんが言うには、連日私達が大量に納めている薬草類は薬屋に全て買い取られているのだが、薬の値段が下がらないどころか値上がりする一方だと言うのだ。このことに冒険者ギルドも含め、商業ギルドも首を傾げている状況らしい。

 鞄の時間停止がわかったため様子見も含め、売るのを見送らないかという提案をしてきた。また明日から製作期間に入る私に、試しに薬を作ってみないかとも。蘇生草の不味さが記憶に新しい私は、それを二つ返事で了承した(自分のためにも美味しい薬を作りたいのが本音)。オビトから全ての薬草類を受け取り、クワ太にしまう。


 討伐した魔物については、達成条件以外は売らないことにする。内訳はモクの肉・皮・糸x4匹分、チキリの皮付き肉・レバー・骨x15匹分、トングの肉・皮・脂身・レバー・骨x21匹分、ヒジムの肉・毛皮・腸x7匹分、ギュシの肉・皮・舌・脂身・レバー・骨・角x18匹分、ホスマの肉・皮x2匹分、ベアントの肉・皮・肝・爪x3匹分、タトラの肉・皮・肝・爪・牙x2匹分、トレントの木材x3本分。

 ケルベロスx1匹分、コカトリスx1匹分、バジリスクx3匹分、ワイバーンx1匹分についてはよくわからないため、肉・皮・内臓・骨・爪・牙・翼など何も捨てずに確保しておく。

 晩ご飯集り隊の勧めもあって全てが私預かりとなり、そこから食事を提供することに決まった(モクだけは辞退したのでヤミルさんとセイジさんに)。こちらもオビトから貰い、ちまちまとクワ太にしまう。


 そして徐にオビトが薬草を1本取り出した。


 「オビト君、それはもしかして‥‥」

 「ええ、3日前の薬草です。これで証明されたと言うことでいいですよね?」

 「ちょっと見せてくれ」


 ヤミルさんとメリダさんが手に持ちじっくりと見る。タクマさんとセイジさんも興味津々で覗き込んでいた。


 「だったら今日はクエストを請けていないし、達成条件を持って行かなくてもいいんじゃない?」

 「セイジ、いいこと言うな!それなら冒険者ギルドに寄らなくて済むぞ」

 「どうせなら家に鍵掛けちまうか?」

 「「名案ですね!」」

 「何故気付かなかったのかしら。昨日と一昨日が悔やまれるわ」

 『エロタきらい?』

 「「「「そ、そんなことは‥‥」」」」

 『ほう、エロタという者もおるのか』

 「ぷぷっ、コハクもヒスイもエジムだからね。一応」

 「面白いからそのままにしておきましょうか」

 「「「「いいねっ!」」」」


 オビトが黒い‥‥、とにかく話も纏まったことだし帰ろっか。晩ご飯が奪われないと思うと、皆の足取りも自然と軽くなる。ヤミルさんとセイジさんは鼻歌まで歌ってるし、メリダさんも機嫌がとても良さそうだ。私も人のことは言えないが、食べ物の恨みというのは下に恐ろしいな。

 ヒスイは今<偽装><縮小>を使い、4本足の子ホスマになっている。その頭の上、耳の間ではコハクがふるふると揺れ、全員どこかほわほわした気分のまま城下町へ向かった。


 門番さ~ん!ん~、この人は‥‥ズバリ6人目の人だ!‥‥ムトウさんですか、聞いていないのに教えてくれた。夕方の門番争奪戦に勝利してここにいるんだってさ。そこまで言われちゃあげないわけにはいかんぞっと、コソっと黒砂糖を一欠片渡す。

 明日から外に行かないけど、争奪戦までするようになるとは思わなかったなぁ。まあいっか、黙っとこ‥‥。




 冒険者ギルドを通らないように、カトビア街道を露店街手前でわざと右へ逸れる。へえ~、半分お店、半分住宅って感じ?路地裏だけど道も結構綺麗なもんだな。キョロキョロと辺りを見回しながら、タクマさんの後ろを歩く。ぼふっ!「んむぅ!?」あいた~!鼻が低くなっちゃうよ!

 どうやら突然立ち止まったタクマさんの背中に突っ込んだらしい。鼻を押さえて周りを見ると、他の3人も立ち止まっていた。前に何かあるの?タクマさんの背中からヒョコっと頭だけ出して覗く。


 「あちゃ~」前方、タクマさんのお店の前にエジムさん発見!思わず身体にマーカーが付いていないか探してしまった。


 「やあ、奇遇だね。私達も今着いたところなんだ」


 私達?あっ、エジムさんの後ろに眼鏡を掛けたちょっと神経質そうな人がいる。こう、眼鏡をクイってしそう。うわっ、やった!主人を弄んで楽しむ執事みたいな感じの人だな。なんて言うか、エジムさんと一緒にいると狸と狐のバカし合いみたいな?ぷぷぷぅ~!


 「「「どうして、商業ギルドマスターが‥‥」」」


 ほう、この人が商業ギルドマスターか。だが私にはわかる!オビトに通じるものをヒシヒシと感じるぞ!


 「エジムに連れて来られたのか?」

 「ああ、何やら私に相談があると言うのでな」

 「朝、イトちゃんに頼まれた値段の話だよ。私とするより早いだろう?」

 「それにしても、お前がエジムの誘いに乗るとは珍しいこった」

 「旨いものを食わせると言われれば来ないはずがなかろう」

 「くくっ、忘れてたぜ。そういやお前、エジム以上に食い意地が張ってたな」

 「ということでイトちゃん、今日の晩ご飯は1人分追加で宜しくね!」

 「この子が作るのか?私の勘も鈍ったか‥‥」

 「ごめんね、こんな失礼な奴で」

 「いえ、大丈夫です。ご期待に添えるように頑張ります」

 「すまない、私も言い過ぎた」

 「あ、はい。狐親父さん」

 「「「「「「「‥‥‥‥‥」」」」」」」

 「ちょ、ちょっとイトっ!?」

 「「「「「ぶ、ぶふぅ~っ!」」」」」

 「あれ?私いま何て言った?」

 「狐親父って言ったんだよ!むぐぅっ」

 「「「「「あははははははっ!」」」」」

 「おい、そこの5人笑い過ぎだ」

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