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織りなす絲  作者: 琴笠 垰
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45

 父上と母上が食べている間に、棲み家を作ることにした。日当たりのいい場所に、居心地の良さそうな馬舎チックなものを<土魔法>で作る。台所・寝室・入り口兼居間・飲み水用の水桶(<水魔法>で補充)・窓(閉めることも可)・屋根、寝藁は申し訳ないが自分達で集めてもらうことにする。暮らしていけば足りないものがわかるだろうし、当面はこれでいいと思う。


 「なあ、さっき空を飛んでたのは何だ!?是非教えてくれ!」

 「僕も知りたい!」

 「俺にも教えてくれ、男のロマンを感じた!」

 「あら、私だって空を飛んでみたいわ」

 「イト」

 「ただの<無属性魔法>ですよ」

 「「「「「‥‥‥‥‥」」」」」

 「言ってませんでしたか?私の中では属性魔法や名前持ちの特殊魔法以外は、全部<無属性魔法>なんですよ」

 「目から鱗とはこのことか‥‥」

 「言われてみればそれもそうね」

 「気付かなかった‥‥」

 「敵わねぇな」

 「本能のままに行動してて、今まで全部成功してるって凄いよね。見習いたくないなぁ」

 「ちょっと、褒めるのかけなすのかどっちかにしてよっ!」


 食べ終わった父上と母上に棲み家を見てもらうと非常に喜ばれた。前に棲んでいた所とは趣が違うが、これはこれで気に入ったらしい。ヒスイを預かることを再度伝え、ちょくちょく顔を見せに来ることを約束する。


 「それじゃ帰りましょうか。そうだ、探索していて近くに何かありましたか?」

 「そうそう、色々と驚くことがあり過ぎて忘れてたよ。これってイトちゃんが見せてくれたトウキだよね?」


 そう言ってセイジさんが取り出したのは、正しくトウキそのものだった。


 「桃源郷の近くにもあったんですか!?ここは本当に天国のような場所ですね!」

 『かーしゃん、まわりにいっぱい!』

 「そうか、そうか。偉いぞコハク!」

 「イト、これは食えるか?<鑑定>ではチョコレになると出たんだが」

 「‥‥ぐふ、ぐふふぅ、ふふふのふぅ~!!カカオ豆だよっ!!!チョコレートが食べられるよっ!やった、やった!タクマさんありがとう!!」


 ドシンっと体当りして右足にしがみつき、頭をグリグリと押し付けた。「お、おう」と返事をしてくれたが、そんなことでは私の気が修まらない。


 「お礼に空の旅へご案内致します!では、しゅっぱ~つ♪」


 背中に飛び付きガシっと抱き着く、それ行けぇ!後方から「暴走禁止~!?」という声が聞こえたが、私は暴走してないから私のことじゃないよね?

 飛んでいるうちに最初は戸惑っていたタクマさんも馴れてきたようだ。今では自分で風を切って飛ぶ感覚を楽しんでいるみたい。


 「しかし飛ぶとは凄ぇな。遥か彼方だが城下町も見えるぞ。冒険者を引退して45にもなってから、こんな体験が出来るとは思わなかった‥‥。イト、3日間ありがとな。お前達のおかげで知らなかった世界をたくさん見れた」

 「いえいえ、こちらも凄く楽しかったです!それに明日から当分の間工房にお邪魔しますし、製作の最中に足りないなものが出たときにはまたお世話になりますから!」

 「くくっ、ちゃっかりしてやがる」

 『コハもてつだう!』

 「うわぁ!こ、コハク!?」

 「そんな所にいたら危ねぇだろうが!こっちへ来い!」

 『あい』


 ほよほよと私の肩からタクマさんの手の中へ滑るように移動する。コハクが無事辿り着いたことにホっとしたら力が抜けて、タクマさんが、落ちた‥‥。


 「‥‥ぎゃあぁぁ~!!?ま、待ってくれえぇ~!!」


 まさかの激突か、とまでは行かなかったけど空中で危うくナイスキャッチ♪私はタクマさんの貴重な涙目を見てしまった‥‥。タクマさんが頷いたので、こちらも頷く。ええ、秘密にする代わりに秘密にして下さい!私は決して誰にも言うまいと誓い、心のアルバムにそっとしまった。




 そして善意の内通者により即バレした‥‥。


 『かーしゃんがコハとタクをぽーんちて、びゅーんってちゅごくはやくてたのちかった♪』

 「「‥‥‥‥‥」」


 「うぐぅ‥‥」いつもの如く私の頭に奴がいる‥‥。危険な目に遭わせてしまったこともあり、<完全防御>の話をオビトが切り出した。皆も最初は恐縮して受け取れないという姿勢を取っていたが、私といるといつ死ぬかわからないという見解に達したようで、最後には快く承諾してくれた。


 全くもう!私が死亡の原因みたいに言わないでくれよ!まあ、今日は危うくそうなるところだったけどさ‥‥。


 「では、これよりトウキとカオミの採取を開始する!いいかお前達!蟻の子1匹見逃さないつもりで全てを取り尽くせ!コイツが旨いものに繋がるということを決して忘れるんじゃねぇぞ!いいな、わかったか!」

 「「「「合点承知!」」」」

 「はいはい」

 『あいあいちゃー!』

 『心得た』

 「それでは散っ!!」


 容量∞を持つ3人を軸に3班に別れる。私とヒスイ、オビトとヤミルさんとセイジさん、コハクとタクマさんとメリダさん。時間は夕方までで、少しでも暗くなってきたら止めるつもりだ。マーカーを事前に渡し、不測の事態にも備えた。


 『姉上、儂もそのような入れ物が欲しいのだがいただけぬか?』

 「そしたら皆の分と一緒にヒスイのも作るよ。魔法鞄があれば父上と母上に会いに行くついでに、食糧も渡せるもんね」

 『すまぬ、恩に着る』


 トウキを刈りながら話すが、ヒスイの進みが宜しくない。足で右に左に踏み踏みしているから、なかなか千切れずに時間が掛かっているのが原因だ。咥えたら根元から引っこ抜いちゃいそうだからしょうがないか。


 「ヒスイ、ちょっとズバっとやってみるから後ろに一旦避難してて」

 『相わかった』


 自分の腕から空気の刃が前方へ飛ぶようにイメージする。ブンっ!「ズババババァ~っ!ザクっ、ザクザクザクっ!」一瞬で全てのトウキが根元から切れて倒れた。


 「ヒスイ、出来るだけ1ヶ所に集めてくれる?」

 『‥‥姉上は強いのだな。これならばベヒモスでさえも赤子のようだ』

 「えっ!?私って強い?ふふん、実はそうじゃないかと常々思っていたのさ!わぁっはっはっはっ!」

 『姉上が調子に乗ったときの対処法をオビトより言付かっておる。儂に迷惑を掛けないようにとのことだ』

 「弟を遠隔操作するのは止めてよっ!」


 見つけたトウキ・カオミを全て採取し、桃源郷へ戻ると一番乗りだった。ちょっと早かったかな、マーカーは‥‥まだ遠いね。こいつは絶好のチャ~ンス!宿で作ると匂いでバレるけど、外なら霧散するからきっと、いや絶対にバレないぞ!




 コソコソっとヒスイを引き連れて再度森の中へ。大きな布を地面に引き『清浄』、そこにカオミと調理道具を出した。チョコレートは作ったことがないからかなりうろ覚えだ。しかし、そこは<錬金>さんが上手いことやってくれると私は信じているよ!


 え~っと、確かカカオ豆の他に純粉糖・全粉乳・カカオバターが必要だったはず。


 まずグラニュー糖を取り出し細かく『粉砕』、これで純粉糖の出来上がり。お次は牛乳‥‥あちゃ~、あと18Lしかないよ。卵も残り8ケースか。気を取り直して、持っている牛乳を全て『乾燥』させて水分を除去。よし、全粉乳も出来た。


 ここからが本番だ。カカオ豆からカカオマスとカカオバターを作る。カカオ豆を助促さんで約1分(約1週間)発酵、『乾燥』させて水分を除去する。助熱さんで加熱してロースト、『粉砕』『分離』をして外皮と胚乳カカオニブとこの2つを取り除いたものに分けた。

 外皮と胚乳を取り除いたものを『圧搾』し、これを助冷さんで固めてカカオマスの完成!そして胚乳を再び助熱さんへ、炒って香りを出す。胚乳を『圧搾』すると脂肪分カカオリカーが溶け出したのでこれをさらに『圧搾』、助冷さんで固めてカカオバターの完成!

 座って見ているヒスイの鼻もヒクヒクしてて、目がキラキラしてる。待っててね、きっと気に入るよ♪


 くふふぅ、ついに来ましたよ。この瞬間が!


 「これよりチョコレートの製作に取り掛かる!」自分に気合いを入れる。ミルクチョコレトはカカオマス・カカオバター・純粉糖・全粉乳、ホワイトチョコレートはカカオバター・純粉糖・全粉乳を入れよく掻き混ぜて、それを『粉砕』でさらに細かく磨り潰す。練り込むのが大変だから『錬成』さん、お門違いなのは知ってるけど練り込んで!ここで『攪拌』、勿論温度調節なんて出来ないから感覚で。

 これをバットに流し込んで、助冷さ~ん最後の仕上げをお願いします!出来たかな?バットを取り出す。砂糖に続き無言で右手を振り上げる。ダメダメ、まだ悔いありまくりだからね私!びーくーる。


 「いひひ‥‥、いやっふぅ~!!チョコレートはイトだよヒスイ!どうせなら包装紙でも作っちゃう?だったら格好可愛いパッケージにしないとね!ヒスイはどんなデザインがいいと思う?私はねぇ「これがチョコレート?」‥‥」


 ぎぎぎぎぎ‥‥、首が錆びたロボットのようにしか回らない。


 「遅いと思って探しに来てみれば、こんな所でコソコソと。イトにとっては、隠れて製作しなくちゃいけないものみたいだね?」

 「何故ここが‥‥」

 「コハクが甘いもののある場所がわかるってこと、忘れたの?」


 忘れてたぁ~!!?最早ここまで、‥‥無念っ。

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