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「あ、起きた?」
『儂は‥‥、寝ておったのか』
「っ!!?わ、若様‥‥」
うっひょ~、若様だ!将来は殿様だよっ!
『若様とは何だ?』
「はっ!?ごめん、ごめん、一瞬ヤバかった‥‥。君の名前はヒスイだよ。私の従属になったのは自分でわかってる?」
『ああ、お主になら仕えても良いと思ったのでな』
「どうして1人でこんな所にいたのか聞いてもいい?」
『昨日、父上と母上とハグレてしまってな。探しながら彷徨っているうちに、ここへ辿り着いたのだ』
「だとしたら、ご両親もきっとヒスイのことを探してるよね?」
『多分そうであろうな』
「う~ん、オビトどうしようか?」
「とりあえず<索敵>で調べてみれば?」
探してみたはいいものの、1匹かその他多数の反応ばかりだ。
「近くにはいないみたいだから、もう少しだけここで様子を見ようか?」
「そうだね、皆もまだ戻って来てないし」
実はこの時点で、ヒスイが寝てしまってから2時間が経っていた。親とハグレてから気を張っていて疲れていたのだろう。私達は昨日来ているので、4人に探索して来ていいと言って送り出したのだ。
「ヒスイ紹介するね。私はイト、隣にいるのがオビトで、この子がベビースライムのコハクだよ」
「オビトです」
『ヒーにーたんはコハのにーたんだよ!』
『コハクと言ったか。お主は儂がお前の兄だと言うのか?』
『あい!』
「コハクも私の従属だからね。そうだ、ステータスをヒスイにも教えとくよ」
寝ている間に耳に付与宝石と魔石を取り付けたことと、増えたスキルと状態を説明する。そのままスキルの実験をして、<偽装>で8本ある足を4本に見せることに成功(触るとある)。<縮小>で全長80cm位の子馬に、<重量軽減>で今までよりも高く跳躍出来るようになった(一蹴りで軽く50mは跳んだ‥‥)。
『どうやら儂の選択は正しかったようだ。イト、これから宜しく頼む』
「しかし、1歳なのに随分としっかりしてるよね。オビトと気が合いそう」
「ヒスイの爪の垢を煎じて飲めば、イトも少しはしっかりするかもよ?」
『爪の垢なら好きに使って構わんぞ』
「わわわっ!?オビトの言うことを真に受けちゃダメだよっ!」
物言いは大人びているが、とても素直で生真面目なところがやはり幼さを感じさせる。コハクがずっとじゃれついていたせいか、ヒスイの方も馴れてきたみたいだ。ヒスイの頭の上に乗ったコハクが、耳と耳の間にちょこんと収まっているのがもの凄く可愛い♪
そして、このスキルを見たときから乗せてもらおうと思っていた<飛翔>。私が前でオビトと2人で跨がり、飛んでもらうことになった。
『では行くぞ』
「うん、お願い。オビト、しっかり掴まっててよ」
「わかった」
オビトが私の腰に腕を回す。ほぎゃっ!?俵肉のことを忘れとったぁ~!!
私の動揺を余所に空を翔るように飛んで行くヒスイ、まさに<飛翔>だね。私、今、風になってる‥‥。‥‥ちょ、ちょっとスピード出過ぎじゃないかしら。
「ヒスイ、少し速度を落とそうか?」
『まだ半分も出しておらぬが、仕方あるまい』
「これで半分‥‥。ふふふ、そんなことを言われたら気になるじゃないか。一瞬でいいから全速力で飛んでみたまえ!、はいよ~、ヒスイ~!」
『相わかった』
「うっ!?うぎゃあぁぁぁぁ~!!?すすす、すとっぷぅ~!!」
し、死ぬかと思った‥‥。コハク、何故平気でふるふる出来る‥‥、しかも頭の上で‥‥。これは手綱と鞍が早急に必要だ!それがわかっただけでも良しとするか。うん、いいことをした!
「俺に何か言うことはないの?」
「調子に乗ってすみませんでしたぁ!」
『すまぬ』
『ちゅまぬ』
『コハクは可愛いのぅ』
『えへー、コハもにーたんちゅき』
空を飛んでいた私達を見た4人が戻って来た。親とハグレたことを話し、<偽装>と<縮小>でどう見ても子ホスマなヒスイなら、連れて行っても大丈夫だろうと許可をもらえた。ヒスイは親を探すために、たまに別行動をさせてくれればいいと言うので、マーカー入りのアクセサリーも手綱等と合わせて製作することにした。
その後、2人ずつヒスイに乗せてもらった皆はホクホク顔だ。わかるよ、空を飛ぶのは人類の夢だよね!んん!?コイツはひょっとして‥‥、<風魔法>?<無属性魔法>?重力に逆らう?推進力が必要?いや、これは舞○○ではないかっ!?
イメージだ、想像しろ、オーラを身に纏い飛べっ!!
足が浮いた、「よし!」このまま高度を上げるぞ。ゆっくりと空へ舞い上がる。下を見れば、驚いて声もなくこちらを見上げる皆の顔があった。うおおおぉ~、まさか空を飛べる日が本当に来るなんて、異世界だけど夢じゃなかった!!
少し練習をすると思った方向に進めるようになり、速度も何段階かに調整出来るようになった。いいね、いいね♪おっと、あまり待たせても申し訳ないから、そろそろ帰らないと。コハクのマーカーを目印に戻る。が、その途中で爆走する2頭の巨大スレイプニルを見つけた。
もしかして、ヒスイの親御さんだったりする?
進行方向へと回り込み、少し離れた所にゆっくりと降りる。こちらに気付いた2頭も止まり、遠目にも戦闘態勢に入ったのがわかった。どうしよう、危害を加えるつもりがないのをアピールしないと‥‥。考え込んだ私を訝しんだ2頭は、鼻をスンスンして匂いを嗅ぎ始めた。
すると1頭が突然嘶き、もう1頭に何やら伝えると2頭でこちらへ歩み寄って来た。どうやらヒスイの匂いに気付いたようなので、そのまま動かずにじっと待つ。目の前まで来た2頭は、私の身体に顔を近付けてさらに匂いを嗅ぐ。
もう大丈夫だろうと判断し、一応刺激しないようにゆっくりと歩き出す。2頭が着いて来ていることを確認してから、徐々に速度を上げた。<地図>を確認すると結構飛んでいたのか、コハクの所までかなりの距離があった。そして中々の距離を走破し、やっと桃源郷が見えてくる。こちらに気付いたヒスイが嬉しそうに走り出すのが、スロモーションのように見えた。
ヒスイは親御さん達に囲まれ、顔を擦り付け合っている。帰る前に会えて良かったね。感動の再会に浸っていると、ヒスイが親御さんに何やら伝え、それに頷くと一緒に私の方へ向かって来た。
『イト、父上と母上が感謝の意を述べたいと申されておる』
「そんな気にすることないよ。たまたま見つけただけだし」
『それでは気がすまぬらしいのだ。礼がしたいのだが、我々に出来ることで何かないだろうか?』
「う~ん、そう言われてもなぁ‥‥。あ、そうだ!じゃあこの辺りを根城にして、ここを拠点にしてよ!そしたら魔物に荒らされる心配もないし、決まった場所にいてくれればヒスイも会いに来れるでしょ?ん‥‥?ご、ごめん!つい一緒に来る前提で話ちゃったよ。お父さんとお母さんが見つかったからにはここでお別れだね」
『いや、男に二言はない。共に参る』
「‥‥1歳とは思えぬ潔さだな」
ぶるぶる、ぶるぶる、どうやら話がついたみたいだ。
『儂の巣立ちを心より喜んでいただけたぞ。イトからの提案も、そのようなことで良いのならば是非にとのことだ。こちらも棲み家を追われた身、ありがたく受けさせていただこう』
「追われたって‥‥じゃあ、今まで何処に棲んでいたの?」
『ここより遙か南、とても自然豊かな地だ』
「そりゃあ多分樹海だな」
『人も訪れぬ未開の地に棲んでおった‥‥。我らはベヒモスの群れから襲撃を受け、命からがら逃れて来たのだ』
「ベヒモス!?しかも群れだとっ!」
「ヤミル落ち着いて!樹海の話よ」
「スレイプニルもベヒモスも同じランク9だよね?どうして逃げることになったの?」
『我々の種族は家族以外と群れを成さぬ。対して、奴らは徒党を組み狡猾に狙って来たのだ』
「話しているのを聞いてると、上位ランクの魔物達の知能は凄いね。これなら組織化されて徒党を組むのも、計画的に襲撃することも頷けるよ」
確かに、魔物とは思えない話術と理解力。しかも敵ではないと判断し、それに準じた行動を取れること自体、知能の高さが伺える。
『そこでイトに頼みがあるのだが、父上と母上にも何か食べるものをいただけないだろうか?儂を探し、昨日より飲まず食わずのようなのだ』
「勿論だよ!ただカレーはもうなくなっちゃったから、パンとお菓子しかないんだ。ごめんね」
『構わぬ、どちらも大変美味であったからな。儂はあれ程旨いものをこれまで食べたことがないぞ』
「そ、そう?いやぁ、そこまで言われると流石に照れますなぁ」
「いつもすぐ照れるけどね」
「ここでそんな茶々いらないよっ!」
パンを20個ずつ、どら焼きとドーナツを10個ずつ、ジャムクッキーを40個出す。深皿に牛乳を注ぎ、黒砂糖10kg入りを10袋・野菜20種類x各種20個・牛乳20Lを置いた。
「イト、この袋は?」
「黒砂糖だよ。ひとまずこれを置いてくから食べてもらってね」
『何から何まで忝い』
「いいってことよ!ヒスイはもう私の家族なんだから当たり前のことさ!」
『そうか、父上と母上も娘が出来て嬉しいと言っておられる。儂も姉上と呼ばせてもらって良いか?』
「「「「「待て!?早まるなっ!」」」」」
「っ!!?も、ももも、勿論だともっ!!むしろこっちからお願いしたいくらいだよ!うっひゃあ~、姉上かぁ!何だい弟よ。ぐふ、ぐふふぅ~!」
「「「「「遅かった‥‥」」」」」
「コハク?コハクも姉上と呼んでくれていいんだよ?」
『あねうえー』
「何だいコハク?姉上がコハクの願いを何でも聞いてやるぞ?」
『‥‥ちかたない、おかち20こじゅつ』
「ぐはぁ!?やられた‥‥」
コハクにお菓子をあげた。弟の願いを叶えてやるのが姉上の努め!‥‥ちぇっ。




