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織りなす絲  作者: 琴笠 垰
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 「いらっしゃいませ」


 クレーマーオヤジのパン屋へやって来た。飲食店なので、コハクにはフードの中に入っててもらう。あのオヤジにクレームを付けられでもしたらたまったもんじゃないからね。

 外見は綺麗の一言。でも、中に入っても全然パンの匂いがしない。それどころかコレ、ちょっと萎びてない?絶対に今日焼いたパンじゃないでしょ?手を少し近付けるとほんのり温かい。まさか売れ残ったパンを温め直しているなんてことは‥‥ありそう。店をぐるっと見回すと、フランスパン、イギリスパン、ライ麦パン、パン・ド・カンパーニュ等の主食に用いるパンが多い。


 値段は‥‥ま、マジで?1つ1,000ギル!?昨日のお客さんじゃないけど、パン屋が少ないからってホント足元見過ぎっ!ギンガさんのパンは1食500ギルから逆算すると、1つ100~150ギル。このパンでさえ1,000ギルで売ってるってことは、大量購入して転売するとしたらさらに法外な値段で売るつもりだってことだよね?


 くっそぅ~!どれだけ人をバカにするつもりだ、あの業突く張りオヤジ!!


 私が怒っているのがわかったのか、オビトが背中をぽんぽんと叩き落ち着かせようとしてくれる。落ち着け、落ち着け、ふぅ~っと息を吐く。うん、もう大丈夫。

 バケットを1本買って即座に店を出る。働いている人達が仮に命令されてやっているとしても、あんな店に長くいたくない。包丁を取り出しサクっと8等分にしたものを皆にも配って、冒険者ギルドに向かいながら食べる。


 「美味しくないわ」

 「正直不味いよね」

 「これで1,000ギルだろ?買う奴いるのか?」

 「後の2軒も似たような味なら買うしかねぇだろ」

 「昨日と今日みたいな行動を取るはずですね」

 「‥‥許せないよ‥‥、コイツは客と食に対する冒涜だっ!!何だこの萎びたパンは!?どう見ても昨日・一昨日の売れ残りだろ!それを平然と温め直して客へ売るなんて、そんな店は存在する価値もない!!値段は法外!しかも味は、前のギンガさんのパンと比較するのもおこがましいクソ不味さだ!!パン屋なら旨いものを作るために日々邁進しろってんだっ!こんちくしょ~!!!」


 突然叫んだ私に周囲の人達までも驚く。「「「「「落ち着け(着いて)っ!」」」」」皆が私を囲んで髪・肩・背中を撫で・摩り・叩く。その最中にどうどうって声が聞こえたのは何だ?

 フードから飛び出して来たコハクが頬に擦り寄ってくれて、何とか落ち着くことが出来た。むっふぅ~、口直ししないと気持ちが修まらないよ!クワ太からあんパンを出して食べる。あむっ、モグモグモグモグ、あ~、美味しい。


 「ねえ、それは何なのイトちゃん?」

 「美味しそうな匂いね」

 「これが甘い匂いってやつか?」

 「違いねぇ」

 「あんパンっていうんですよ。昨日イトが作ったんです」


 オビトもそう言って、クワ衛門から自分のあんパンを取り出して食べる。コハクも何処から出したのか、あんパンを見せてから食べた(見せる必要あるの?)。


 「今なら1つ100ギルですよ。エジムさんに調味料の値段について相談したら、芋ずる式で上がると思います。他にはコーンマヨパンと葡萄パンがありますね」

 「「「「10個ずつくれ(頂戴)!!」」」」

 「‥‥毎度あり」


 シクシク、私のパンが減ってくよ‥‥オビトのバカ野郎!


 「こりゃ旨ぇ!」

 「美味しい‥‥」

 「‥‥最高!」

 「さっきのパンを怒るはずだな」


 どうせなので店通りを商業ギルドへ向かい歩く。道に活気はないが固定客がいるのか、お店の中にはチラホラとお客さんがいる。看板を見ると、やはり露店街の1.2倍~2倍の値段。酷い所だと稀少なのか、付加価値なのか3倍にも5倍にもなっている。

 むぅ~、買う気が全くもって起きない。どうして旨くて安いを実践しないのかな。お客さんが来なければ意味がないのに‥‥。いや、来なくて高いからこそ高級感を売りにすることで、べらぼうな顧客単価で経営を成り立たせているのかもな。


 大通りとの交差点に来た。ということは、これが商業ギルドか。外見は冒険者ギルドにとても似ている。しかし出入りしている層が全然違い、やっぱり商売人っぽい人が多かった。

 かなり離れているけど、遠くに冒険者ギルドが見える。ヤミルさんがよく来てるみたいだが、この距離なら何とか行き来出来るね。逆側を見ると遠くにお城が見えた。3人とも元気にしてるかな?気に掛けてくれたのに、最後はジラルドさんにも会わないまま出て来ちゃったから、いま思うと申し訳ないことをしたなぁ。

 私がお城を見ていることに気付いた皆が、冒険者ギルドへ行くことを促す。オビトが「大丈夫?」なんて柄にもなく心配してきたから、思わず笑ってしまった。


 冒険者ギルド脇の露店街でふと雑貨店を見つけた。へえ~、結構安いかも。ワトヤさんにサービスで貰ったような10kg袋が大量にあったので、店にあるだけ買わせてもらった。払ったら全部で160,000ギルもして、ちょっとビビったのは秘密だ(1万枚以上あった‥‥)。

 その後、冒険者ギルドでクエストを受注しようかと思ったが、ランク4になり採取系クエストが蘇生草だけだったため何も受注しないことにする。カウンターで待ち構えていたエジムさんに手を振り、冒険者ギルドを出た。


 門番さ~ん!この人は‥‥4人目の人だ。名前はヨイチさん。昨日と同様にコソっと黒砂糖を一欠片渡す。どうやらヒムロさんに自慢されていたらしく、これで自慢出来ると嬉しそうに言われた。




 「コハク、昨日から偉かったね。もう喋っていいよ」


 いつもの草原(トルキアナ北東だった)に着いたのでコハクに許可を出す。


 『あい!コハがんばった』

 「「「「コハク偉い(ぞ)!」」」」

 「じゃあ薬草類を採取してから、桃源郷に向かいましょうか」


 明日から製作期間に入るので気持ち多めに採取をした。結果は薬草1,952本、魔草218本、癒やし草97本。クワ衛門にしまい午前中のうちに桃源郷へ向かう。つもりが、ここで問題発生!オビトのネックレスや私の<身体強化>がないため、皆が道なき道を進めないのだ。

 大急ぎでネックレスを4つ製作。その際小魔石(透明)が2つしかなく、私が魔石(透明)を砕いた。もうその場は阿鼻叫喚‥‥。あまりにも皆が騒ぐので再度『合成』したら少し小さくはなったが、あら魔石が元通り!今度は何故か顔面蒼白になってしまい、今にも倒れてしまいそうな勢いだった。


 道中、結構な数の魔物を倒した。昨日は全然いなかったのに不思議なもんだよね。獣道でベアント3匹とタトラ2匹とケルベロス1匹に遭遇、瞬殺。断崖絶壁では怪鳥1匹に襲い掛かられた、秒殺。洞窟でも昨日は会わなかったバジリスク3匹を発見、秒殺。木の上では変な竜もどき1匹に見つかり、分殺。


 特筆すべきは最後の竜もどき(倒した後<鑑定>したらワイバーンだった)の倒し方である。朝、コハクとした秘密特訓が実を結んだのだ!

 コハクにお願いして身体に力を入れてもらい、身体が固くなるかを試した。ちょっと半信半疑で危険だったけど<完全防御>が問題ない前提で、不壊効果のある包丁をコハクに軽く当ててもらったらどちらも無事だった(心臓バクバク‥‥)。以上の結果を踏まえて、晴れてコハクは私専用の投擲武器に就任したのだ!


 ワイバーンは空から炎を吐き出し、私達が乗っている木を燃やそうとした。咄嗟に水弾で炎を打ち消し、そこでコハクとアイコンタクト。コハクが固くなったことを確認してから、思いっ切りワイバーンの頭部目掛けてブン投げた。


 「「「「「う、うわああぁっ!コハクぅ!!?」」」」」


 唸るような轟音を伴って、コハクがワイバーンに向かって飛んで行く。「コハク!」実験その2、今だ尖れ!「バシュっ!」と言う音が聞こえ、頭部を打ち抜ぬかれたワイバーンが揚力を失い落下する。ワイバーンの頭上にいたコハクは、ワイバーンを丸呑みするとほよほよと落ちた。透明で見逃してしまいそうなコハクの周辺全体を、地上からの逆風を起こすことで速度を落とさせ、コハクを私の元に戻って来るようにする。


 「凄いよコハク!特訓通りバッチリだったね!」

 『あい!ばっちり!』

 「「「「「‥‥特訓通り?」」」」」

 「今日の朝、2人で秘密特訓をしたんです。ね~!」

 『ねー!』

 「‥‥それならやる前に教えておいてよ。コハク、レベルが上がったんじゃない?」

 「あっ、ホントだ!レベルが8つも上がってる!」

 『わーい♪』

 「イト、教えて」


+-----+-----+-----+

コハク

年齢:0

種族:ベビースライム

Lv:10

スキル:<消化><吸収><完全防御><電撃><空間拡張><縮小><重量軽減><時間停止>

状態:イト・サエキ従属/言語理解/不審者撃退

+-----+-----+

HP(生命力):30/190

MP(魔力):30/190

STR(筋力+(攻撃)):38

VIT(体力+(防御)):31

AGI(敏捷+(敏捷)):38

INT(知性+(魔力)):26

DEX(器用+(器用)):21

LUK(幸運+(幸運)):36

+-----+-----+-----+


 「オーラ白と同じ数値だね。状態がイトの従属だから主人の影響?もしくは<育成>の効果かな?」


 久々のオビト先生による考察です。今日も冴え渡ってますね!


 『コハ、つよくなった?』

 「うん、ワイバーンをコハクが倒したからだよ。ちょっと弱くて物足りなかったね」

 『あい』

 「「「「いや、ランク7だから‥‥」」」」




 また襲われても面倒なので先を急ぐ。昨日倒したのにおかしいな、<索敵><感知>で何度確認しても桃源郷から反応がある。場所を<地図>と照らし合わせると、‥‥オーガキングがいた辺りか。


 「オビト、オーガの棲み家だった場所に何かいる」

 「昨日全滅させたんじゃないの?」

 「そうなんだけど反応があるんだよ。ちょっと見に行ってくる」

 「まあ待て。イト、どの位いるんだ?」

 「え~っと、1匹だけですね。周りには何もいません」

 「オーガの群がいなくなったから、他の魔物が来たのかもしれねぇな」

 「ということは、同ランクかそれ以上の可能性もあるわね」

 「それか群れの偵察か‥‥」

 「僕思ったんだけど、餌付けしてみたらどうかな?倒してもまたオーガみたいなのが大勢棲み着いたら、今度こそ果物がなくなっちゃうよ」

 「「「「「採用!」」」」」


 隠密行動開始、気分はまんま忍者であります!途中の木にペタっ、ペタっと貼り付きながら進む。


 「何してるの?」

 「オビトこそ何してるの?」

 「いやいや、何でそう返してくるの?」

 「隠れながら進むのが忍者の鉄則でござる!」

 『ごじゃる!』

 「「ござる!」」

 「増殖してる‥‥」


 4人で無駄に暗躍する。こういうのはやるから楽しいんだよね♪


 「忍法、木走りの術!」<身体強化>にものを言わせて、木を駆け上がる。おぉ~!と下から歓声が沸き起こった。そのまま木から木へと飛び移り、目的地が見える所まで来た。後ろを振り向くと皆も着いて来ていたので、親指を立ててニカっと笑うと同じように返してくれたのが約4名。まあ、オビト以外ノリノリってことだね!


 燃やした棲み家の辺りを何かが彷徨うろついているのが見える。むむっアレは、‥‥何だ?


 「あれは何でござるか?」

 「まだ続けるんだ、それ」

 「‥‥見つかる前に帰るぞ。子供だが相手が悪過ぎる」

 「ありゃスレイプニルだな‥‥、群からハグレたか」

 「あれで子供?十分大きいでござるが」


 そうなのだ。目の前にいるのは、全長2mもあろうかという大きさの8本足の馬。落ち着きなく周りをキョロキョロして、時折悲しげな声を上げている。どうしてハグレちゃっのかな?子供だって言ってたから、もしかしてお母さんを探してたりする?こうしちゃいられんぞ!


 「拙者が参る!その方らはここで待つがよい。ゆくぞコハク!」

 『あい!』

 「「我々もお供します!」」

 「何があっても知らんぞ?ふっ、仕方がない、着いて参れ!」

 「ちょっと変わったけど、本当にこういうの好きだよね」

 「「乗り遅れた‥‥」」

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