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「お嬢ちゃん初めて見る顔だが、ここいらの子か?」
「えっ、その、今日この国に来たばかりで‥‥」
「そうか、トルキアナは最近人が増えているからな」
「そうなんですか‥‥、それっていい国だからですか?」
「カトビアの隣というのが一番の理由だが、ザンダルクに侵略されている国から人が流れて来ているのが殆どだ」
ザンダルクから遠い国に逃げているということは、状況は非常に拙いのだろう。
「カトビアも人が増えているんですか?」
「いや、カトビアは大国だけあって入国条件が厳しくてな。住めれば一番いいが、他国生まれの平民なんかはまず無理だ」
「大国って凄いんですね」
「だからこその大国だ。中国とは栄え方が違うからな」
なるほど、トルキアナは比較的緩いってことか。
「教えて欲しいんですが、ここら辺でいい宿はありますか?」
「そういや今日来たばかりだと言っていたな」
「はい、オジさんのお薦めの宿を教えていただけたら嬉しいんですが」
「じゃあ俺ん家の宿に来るか?贔屓目かもしれんが、良心的な値段とそこそこ旨い料理が出せるぞ」
「いいんですか!オジさんの料理とっても美味しかったです!」
「ははっ、来い来い」
「ありがとうございます!」
やった!いい人と知り合えて良かった。
「私イトって言います」
「俺はギンガだ。もうそろそろ店じまいだから一緒に行くか?」
「はい、お願いします」
「親御さん達を連れて来い、何人だ?」
「‥‥あの、1人なんですが」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「そうか‥‥、そこで座って待っていられるか?」
「はい」
やっぱり子供だと思われているみたいだ‥‥。
片付け終わったギンガさんに連れられて、1階が食堂になっている宿へやって来た。
「帰ったぞ」
「父さんお帰り」
「オビト、ちょっと母さんを呼んで来てくれ」
オビトさん?君?大きいな、子供っぽい感じだけど170cmはあるぞ。
「ギンガさん、オビトさんっておいくつなんですか?」
「オビトは12歳だが?」
「えっ、ええ~!?」
「そういうイトは何歳だ?」
「‥‥16歳です」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「そうか‥‥」
何歳だと思われてたんだろう、怖くて聞けないかも‥‥。
「ギンガ、お帰りなさい」
「ただいまレイア。今日から家に泊まるイトだ、1人部屋を頼む」
「あの、初めましてイトと言います」
「初めまして。妻のレイアよ」
「イト、そういえばどの位泊まるつもりだ?」
「え~っと、出来れば当分の間お世話になれればと思っています」
露店街を見た限りでは、物価は日本の半分って感じだった。大体銅貨1枚が100ギルで200円だとすると、トング肉は200ギル(銅貨2枚)で400円、宿泊費は1泊2食(朝・夜ご飯付)3,000ギル(銀貨3枚)で6,000円になる。1食当たり500ギルで1,000円とすれば、宿泊代自体は2,000ギルで4,000円ってところかな。
硬貨のやり取りを見た限りだと、石貨1枚(1ギル/2円)・鉄貨1枚(10ギル/20円・石貨10枚)・銅貨1枚(100ギル/200円・鉄貨10枚)・銀貨1枚(1,000ギル/2,000円・銅貨10枚)・金貨1枚(10,000ギル/20,000円・銀貨10枚)・白貨(100,000ギル/200,000円・金貨10枚)になると思う。
朝貰ったお金は、金貨が10枚と白い硬貨が6枚。白貨は聞いただけで露店街で見ることは出来なかったが、この白い硬貨が白貨だとするとお金は700,000ギルで140万円。
1月の宿泊費が3,000ギルx30日で90,000ギル、x6ヶ月で540,000ギル。となると残りが160,000ギルだから、6ヶ月間昼食を含めて1日に使えるお金が‥‥900ギル弱。
本当にギリギリ半年分しかない‥‥。
半年と言えば‥‥、王女様が半年で使えるようにしろって言ってたから、半年後トルキアナからあの3人を何処かへ行かせようとしてるのかも。この国にいる間に私が死んだ(主に餓死!)のが何かの拍子にバレたら、流石に彼女達も国を不信に思うかもしれないし。そう考えると王女様が、さっさと野垂れ死になさいって思ってるのがわかるぞ。
あんニャロウ!私は生き抜いてやるぞ。お菓子も食べずに死んでたまるかっ!
「3階の角部屋が丁度空いてるからそこを使ってね。オビト、案内してあげて」
「こっちだよ」
すたすたと階段を登るオビト君に着いて行くが、「はあはあ‥‥」1段が大きくて地味にキツい。オビト君が不思議なものを見る目で見てるよ。何かすみません。ひぃひぃ言いながら3階に着くと、突き当たりの部屋へ案内される。
「これが鍵、宿から出るときは預けてから外に行ってね」
「うん、わかった」
「‥‥1人なの?」
「そう。ねえ、聞いてもいい?私が働けそうな所ってあるかな?」
「子供を雇ってくれる所は殆どないよ。冒険者ギルドだって13歳にならないと登録出来ないし」
「それホントっ!?さっそく明日登録しに行って来るよ!」
「13歳からだってば。君はどう大目に見ても7歳」
「むぅっ、失礼な。私はもう16歳だってば!」
「じゅ‥‥、じゅうろく‥‥」
オビト君が目をまん丸にして固まってしまった。目の前で手をフリフリしてみる。
「それで、俺より4歳年上‥‥」
「お姉さんって呼んでくれてもいいけど?」
「‥‥わかった、俺が一緒に行くよ」
「えっ、本当!?というか今のスルー!?」
「明日で13歳になるから登録しに行くつもりだったし、そのついでだから」
「オビト君ありがとう、明日宜しくね」
それからオビト君は、宿のことを一通り説明してくれた。ご飯の時間や共同施設の場所、門限などはないが鍵を受付に預けるので帰りが遅くなるときは予め伝えること。お風呂はなく、1日1回無料で桶にお湯を貰える等。