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ニュシの乳でバターを作り、返してもらった瓶と受け取った瓶を『清浄』、水・果物・砂糖を用意して<錬金>と助促さんで酵母を2瓶作った。1瓶で大体1日持たない位だから、2瓶あれば明日まで持つだろう。そして現在、私が持っている空き瓶はあと3つ。まだ7時前だし、瓶がないと夜調味料が作れない。ということで
「コハク、買い物に行くよ」
『かーしゃん、まち?』
「うん、喋らないように気を付けてね」
『あい』
1階に降りて食堂へ向かう。あ~、いい匂い。コハクが小さな声で『おいちちょ』って言った。うわっ!?食堂が人だらけ、席が1つも空いてないよ。外に並んでる人までいる。これはもしや、パン効果だったり
「これはパンなのか‥‥」
「朝食った奴に聞いて来たんだ」
「旨い!」
「昨日は固かったぞ」
「‥‥どうやって作ってるんだ」
「おい、あそこにいるのパン屋の野郎だぜ」
「あの高い癖に不味い所のか?パン屋が少ないからってふざけやがって」
した‥‥。だからオビトをお使いに出してまで頼んできたのか。‥‥これは私のせいでもあるな。てててっと小走りで、なるべく見られないようにして厨房に入る。
「オビト持って来たよ」
「ありがとう。父さんイトが来たよ」
「来てもらってすまない、手が離せなくてな」
「いえ、これってパンのせいですよね‥‥」
「まあな、俺の作るパンが余程口に合ったらしい」
ニヤリと笑って、自分の腕がいいせいだと言ってくれた。格好いいなギンガさん。
「あの、私も手伝います」
「外出着を着ているが、何処かへ出掛けようとしていたんじゃないのか?」
「調味料を入れる瓶を買いに行こうと思ってたんですけど、別に今日じゃなくても大丈夫なので、明日行くことにします」
「それなら、手伝ってもらう代わりに瓶をやろうか?」
「本当ですか!?」
「このサイズの瓶を10本でどうだ?」
ギンガさんが酵母の瓶を揺すった。
「十分です!じゃあ私はパン種を作ればいいですか?」
「ああ、この配分で作ってくれるか?」
「‥‥はい、覚えました」
「そっちの食堂から見えないところでやってくれ」
「了解であります!」
ボウルに強力粉・酵母・水・砂糖・塩を混ぜ合わせて捏ね、バターを加えてさらに捏ねて、倍になるまでほっといて1次発酵。のところをここで時短技、助促さんのご登場です!
中に入れてと「ぱんっ!」一瞬で開ける。膨らんだパン種をガス抜き・分割・丸めてまた助促さんで「ぱんっ!」、パン種を成形してまた倍になるまでほっといて2次発酵。のところを助促さんで「ぱんっ!」パン種が膨らんだところで、ギンガさんに伝える。
「出来ましたよ」
「っ!?‥‥本当か?」
「はい、形も似せてみたんですけど」
「‥‥焼いてくれ」
「わかりました」
まあ、本来であれば1時間以上掛かるところを、5分と掛かっていないからなぁ。おっと、焼けたかな?うひゃあ~、焼きたての匂いだ~!そんじゃ一足お先に、いっただっきま~す!じゃなくて、試食もせずにお客様へ出すなんてことは、間違っても致しません!これぞ作った者だけに与えられし特権!!
半分にしてと「コハクも食べて」半分こ。では「ザクっ」う、旨い‥‥。おかしい、朝食べたギンガさんのものより美味しいぞ‥‥?
「イト、今食べてなかった?」
「当たり前だい!味見もせずにお客様に出せるかってんだっ!」
「いつも都合が悪くなると開き直るよね。でも今回は、確かに一理あるかも」
「だ、だよね~」
「てことで、俺と父さんの分も頂戴?味見しないと出せないし」
「またしてもオビトにしてやられた‥‥」
結論として、やはり私が作ったものの方が美味しかった。久々にオビトの首が傾く。
「‥‥旨過ぎるが出すしかないな。イト、どんどん作ってくれるか?」
「はい、このパンだけでいいですか?」
「どういう意味だ?」
「いえ、総菜パンとか美味しいですよね」
「「総菜パン?」」
「あ、そこからなのか。じゃあ私の材料を使って一緒に作ってもいいですか?」
「とりあえず作ってみてくれるか」
パン種を大量に作って、ギンガさんに借りた助停さん改にオーブン待ちのものを鉄板ごと入れておく。焼いている間に、牛乳90Lを取り出し<錬金>でバターを作ってしまう。バターは余っても色んな料理に使えるのがいいよね。さて、ここから何を作ろうか‥‥。
今持っていてパンに合いそうなものは、マヨネーズとカレーかな。しかし営業中のカレーは却下だな、営業妨害になりかねん!コーンマヨパンと酵母用に『乾燥』させておいたレーズンを使った葡萄パンにしとくか。
酵母とマヨネーズも量産し、パン種を2種類作る。普通に2次発酵までさせ、平たくして長細い形にする。上にマヨネーズ・トウモロコシ・マヨネーズと載せたコーンマヨパンが200個。もう1つは、お湯で戻したレーズンを混ぜ楕円形にする。最後に上に切れ目を入れ、卵水・バターを塗りグラニュー糖をまぶした葡萄パンが200個。
ひとまずこれはクワ太にしまっといてと。焼けたパンをオビトに渡し、助停さん改から次のパン種を出して焼き始めた。
私が作っちゃったのって失敗だった?食堂がなかなか空かないばかりか、噂が噂を呼び、行列がとんでもない長さになってしまったので、持ち帰りコーナーを急遽設置することになった(オビトが立って机を置き、そこにパンを置いただけ)。すると、あら不思議。パンが飛ぶように売れていくではありませんか!
大量に作ったパン種が心配になる勢いだよ。この世界の人達は、余程美味しいものに飢えていたんだね。ふとコハクがいないと思ったら、フードの中で寝ていた。今日生まれたばかりなのに、構ってあげられなくてごめんよ。
閉店時間が近付きようやくお客さんも減ってきたので、焼いて入れてしまってを繰り返しコーンマヨパンと葡萄パンを焼いていく。このペースだったら、なんとか閉店時間までに焼き終わりそうだな。
そして迎えた閉店間際、パン屋の太ったオヤジが突然文句を言い出した。
うげっ!?この人まだいたの?私が来る前からいるよね?何々、食堂で出すパンを何故パン屋から買わないんだ!だって!?え、今さら何言ってんの?今までもずっと自分で焼いたパンを出してたのに、意味わかんないんだけど。
まだ続くの?パン屋に対する営業妨害だ、パンを作ってやるから作り方を教えろ!だって!?あんたパン屋なのに作り方を教わろうとしてるの?じゃあ今作ってるパンはどんなパンなんだよ!ダメだコイツ、通りで高い癖に不味いとか言われてる訳だ。
ギンガさん達に迷惑掛けちゃったな。パン屋が変な行動をしなきゃいいんだけど‥‥。ん~、宿全体に『防犯機能』を付けてみる?どちらかというと『結界』の方がいいか。黒曜石を出し、欠片を8個切り出す。それを握り込み、『不法侵入禁止』とコハクにも付けた『不審者撃退』を込める。
お前達はセキュリティー会社の警備員だ。閉店中は外の人間が入れないようにして不審者は懲らしめろ。営業中は中に入った不届き者を追い出して二度と来させるな!
裏口からコソっと出て、上下四隅に<錬金>で『結合』させる。ついでに『色彩変化』で透明にして、見えないようにもしておいた。今日の夜、パン屋のオヤジが忍び込もうとすれば実験も出来るし、こちらとしては一石二鳥だ。
裏口からササっと戻る。まだいる、これはもしかして‥‥。「な、何だっ!?」オヤジの身体が浮き上がった、と思ったら外へ吹っ飛んで行った。外に出た瞬間「ぴぎゃっ!?」っという奇声が聞こえたので見に行くと、口から泡を吹いてピクピクと横たわっていた。
夜を待つまでもなかったか‥‥、これからは全うに暮らせよオヤジ。ふっ、と笑い戻ろうと振り向くと、目の前に大魔王が降臨していた。
「何か言うことは?」
「‥‥すみませんでした」
「それだけ?」
洗い浚い白状させられて、最後にゲンコツを喰らった。
「ぐぬぅ~、昼のタンコブもまだ残ってるのに‥‥」
「父さんどうする?」
「やり過ぎな気もするが、見る限り気絶してるだけのようだからな。今後この手の手合いが増えることを考えると、正直ありがたいとは思う。対象は夜間無断で入ろうとしたり、営業妨害や迷惑行為をした奴だけなんだろう?」
「はい、そのようにさせていただきましたぁ!」
明後日からは日中レイアさん1人になってしまうこともあり、とりあえず今後もこのまま様子を見ることで落ち着いた。めでたし、めでたし。




