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エジムさんにオーガ肉5匹分を買い取ってもらう。合計1,666,665ギルになったので277,777ギルずつ分配した(コハクに3ギル)。
「それにしてもスライムが喋るとはね」
エジムさんがコハクを突くので、慌ててメリダさんが救出する。なり行き上、エジムさんにも全てを打ち明けることになってしまった。昨日の時点でSPがバレてたんだけど、聞いて来ないから知らんぷりしてました。
「マスター、お城のパーティーはどんな感じだったのでしょうか?」
「ああ、君が調べてたやつね」
「気付いていらしたんですか‥‥」
「まあね、私も調べていたからな。多分君の考えは間違っていないよ」
「では‥‥」
「ただ相手が悪い。結局、魔術書を入手したのが誰かはわからなかったが、トルキアナへ渡したのはザンダルクの王族のようだ」
ビンゴっ!アウトっぽいどころか完全にアウトだったんだ。私の第六感も捨てたもんじゃないね!慈悲・正義心なんて微塵もなく大国の手下、胡散臭さMAXだよ。そりゃあキラキラしてて、タプっとテカっとしてるはずだ。ただ流石にこうなってくると
「すみません、3人の様子はどうでした?」
「イトちゃんとは似ても似つかない子達だったね。私は彼女達の好みの範疇だったようで、危うく部屋へ連れ込まれるところだったよ」
「うげっ!?趣味悪!」
「「「「「ぶふぅっ!」」」」」
「何か言ったかな?イトちゃん」
「イエ、ナニモ‥‥」
『ちゅみわる!』
「こら、コハク!思ってても言っちゃいけないことが世の中にはいっぱいあるんだよ!」
『ごめんちゃい』
「「「「「コハクは悪くない!」」」」」
「何なんだい、このノリは?タクマ、お前この数日で随分変わったな」
「ははっ、俺は結構気に入ってるぞ」
「確かに若い頃を思い出す‥‥。まあ、素敵なオジ様の私も今日から仲間入りしたけどね」
「何ですか?その素敵なオジ様というのは?」
「彼女達にそう言われてね。いやはや、若い子に言われるとグラっと来るものがあるよ」
「このエロ狸親父がっ!」
『えろたぬき!』
「「「「「ちょっと可愛い‥‥」」」」」
「‥‥流石に私も傷付くよ」
ただでは転ばない男は傷付いた慰謝料として、皆と同じように今後の食事代を一切払わない権利をもぎ取っていった。面倒臭くて腹黒で狙った獲物は逃がさないこの曲者狸親父を、絶対敵に回してはいけないと悟った瞬間だった。
さっきの話を聞く限りだと、彼女達は何も知らず手厚く保護され中ってところか。イケメンパラダイスにまんまとしてやられて、何も考えていないことが一番濃厚だな。あの3人、仲良いんだけどさり気なく自慢し合ってたから、お城の中で昼ドラばりの展開が繰り広げられているのかもしれんぞ。
「王族は、召喚した女神を3人だと公表したんですか?」
目眩く愛憎劇を思い浮かべていたら、オビトが突っ込んだ。
「オーラ黒の見目麗しい少女達だとも付け加えていたね」
「そうですか‥‥、じゃあザンダルクにも3人だと伝えている可能性が高いですよね」
「‥‥そうか。自分達で用なしだと判断して追い出したイトちゃんを報告する訳はない、これはいいぞ」
「はい、このまま目立たずにやって行ければ‥‥。ただイトを見ればわかると思いますが、絶対に無理です。なので、冒険者ギルドマスターのエジムさんが仲間に入ってくれて良かったです。先程ご自分でも言われてましたよね?」
「これから先何が起こっても、私にイトちゃんのことを隠し通せと言うのかい?」
「ええ、イトにはそれだけの価値がありますから。エジムさんもそう思いませんか?」
「‥‥オビト君、君、将来の予定は?もし良かったら私の後を継がないか?」
「お断りします。全く興味がありませんので」
「ふふ、即答か。ますます欲しくなった」
ブラックだよ、非常に真っ黒だよ。あのメリダさんでさえ引いてるよ。
「でもザンダルクが裏で手を引いていたとなると、‥‥本当の狙いはカトビアかもしれないわね」
「「なるほど」」
「あり得る話だな」
「十中八九そうだろう。トルキアナがカトビアの隣国であることが非常に大きい」
「イト、後は大人に任せてそろそろ帰ろうか」
「そ、そうだね。ここでそれを言えるオビトが私は凄いと思うよ‥‥」
「そう?コハクも帰るよ」
『あい。タク、メリ、テチ、ヤミまたあちた!』
「「「「また明日!」」」」
「コハク、私の名前も呼んでくれないかい?」
『エロタまたあちた!』
「あ、うん‥‥、いや、エジムなんだけど‥‥」
「「お邪魔しました」」
『ちゃまちた』
後日の話になるが、もう耐えられないっ!と泣きながら縋り付いて来るエジムさんに辟易して、渋々コハクにお願いした。セイジさんがテチと呼ばれていたので、エジムさんはエチではなくエムとなった。スキップして帰って行ったあの中年親父を蹴っ飛ばしてやりたくなったのは、きっと私だけではないはずだ‥‥。
「ただいま」「帰りました」
「お帰りなさい、あら‥‥この子は?」
「私の精霊のコハクです」
「イトちゃん、召喚したままで大丈夫なの?透明ってことはオーラなしよね?」
「あ、そうなるのか。はい、もう還しますから大丈夫です」
コハクにお願いしてフードの中に入ってもらう。
「オビトも精霊契約出来たの?」
「うん。俺、オーラ青だったよ」
「まあ!?良かったわね!」
「レイアさん、今日も晩ご飯を作って来たので是非食べて下さい」
「昨日もご馳走になったのにいいのかしら?ううん、ありがとう。ギンガにも伝えておくわね」
部屋に戻り着替える。脱いだ防具はベットの上に置き部屋ごと『清浄』、コハクもピカピカになった。防具を片付けて、ベットの上に大きな布・ボウル・トウキを出す。
「コハク、これから砂糖を作るよ」
『ちゃとう、あま!』
「結構少なくなっちゃったんだ。たくさん作るからコハクにもあげるね」
『わーい♪』
「町でちゃんと静かにしてたご褒美だよ」
黒砂糖・白砂糖、白砂糖をさらに精製してグラニュー糖も作る。作ったものを袋にしまいクワ太に入れてまたトウキを出す、という一連の流れを何度も繰り返し全てのトウキを使い切った。片付けて再度『清浄』、起きたときにアリンコいっぱいじゃ寝覚めが悪過ぎる。
「コハクに黒砂糖を1袋あげるね。身体の中にものが入るところがあるでしょ?そこに入れておいて、食べたいときに食べるといいよ」
『かーしゃん、ありがと!』
コハクが袋の端を咥えた、と思ったらなくなってしまった。しかも見た目は透明のまま‥‥、不思議なもんだ。
「ねえコハク、森に行ったら今使ってた植物がある場所わかる?」
『あい!いっぱいある』
「うわぁ~い!コハク最高っ!!」
『ちゃいこー!』
「よし、コハク円陣を組むぞ!明日はトウキ狩りだ!いっぱい採るぞぉ、おぉ~!」
『おー!』
「盛り上がってるね、ノックしたんだけど」
「よ、オビト!」
『よ、オビ!』
「イトの悪いところばっかり真似して‥‥」
「そ、それで何か用?まだ早いよね」
「父さんに酵母とバターがなくなったから、貰って来て欲しいって言われたんだ。パンに入れてたやつのことだよね?瓶とニュシの乳も預かってきたよ。それと、これからはお金も払うってさ」
「そっか~、作ったものの値段を考えなきゃいけないんだっけ。私の世界と同じ値段でいいと思う?」
「イトの世界だと砂糖はいくらになるの?」
「塩と同じ位だから10kg1,500ギルってとこかなぁ」
「‥‥安いね」
「普及させるんだったら安い方がいいと思うんだけど、果物が1つ5,000ギルでしょ?妥当な金額じゃないと、転売だらけになりそうな気がするんだよね」
「エジムさんに聞いてみようか。あの人あれでもギルドマスターだし」
「そうだね、とりあえず今日の酵母は果物代だけでいいよ」
「ありがとう。父さんに伝えてくる」
「じゃあ、出来たら持ってくね」




