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オビトとコハクを残して魔物のいる場所に向かう。おぉ、こんな所に小屋があるよ。どうやらこの中にいるみたいだね、お邪魔しま~す。気付かれないようにそ~っと扉を、なんて開ける訳がないっての「ガゴォ~ン!」扉を蹴破る。意表を突かれて呆けている豚人間の頭上を飛び越え、「喰らえぇ~!!」と延髄蹴り!
後頭部にモロに喰らった豚人間は前に倒れ、動かなくなった。よし!とりあえずそのままクワ太に突っ込む。小屋の中を見回すと、奴が座っていた奥にもう1つ扉があった。寝室とか?え~、豚人間も布団で寝るの?‥‥想像したくもない。
はぁ、一応調べときますか。意を決して扉を開ける。
「な、何じゃコリャ~!?」
目の前には金銀財宝、宝箱!「た、た、た、宝箱キタぁ~!いやっふぅっ!!」アイツら光り物が大好きな種族だったのか!オビト達が待ってるから、急いで片っ端から突っ込む。なんてったって、私のメインイベントは食材の方だからね!
さてと、いただけるものは全部いただいたし、この小屋壊しておく?また何か棲み着いたら嫌だしね。バラバラに壊し、<火魔法>で燃やし尽くす。うん、これでよし。じゃあ戻りますか!
「ただいま~」
「お帰り、大丈夫だった?」
『おかーり』
「余裕、余裕!聞いてよ!小屋があって、豚人間がいて、宝の部屋があって、宝箱があったんだよっ!」
「‥‥つまり、豚人間をあっさりと倒して宝箱を手に入れたと‥‥」
「まあね!オビトの方は終わったの?」
「うん、じゃあ採取しようか」
「あいあいさ~!」
『あいあいちゃー!』
果物は出来ている実を採り尽くし、香辛料は少しだけ残しておく。全部採っちゃうと、生えて来なくなるって聞いたことがあるんだよね。オビトとコハクにも採取前に説明して、3人で採取したものを最後に全てクワ太に移して終了。
「よし、帰ろっか」
「うん」
『あい』
「そういえばオーガ全部で何匹だった?」
「37匹いたよ。俺とコハクで6匹、イトが31匹‥‥」
「そんなにいたんだ。小屋もあったし、ここを根城にしていたのかもしれないね」
「‥‥壊滅させちゃったけどね」
道なき道を戻る。いや、道ではなく足場だな。通るのが2回目ともなれば、戸惑いもなく進めるってもんよ。来たときの半分位で戻って来れちゃった。さてさて、皆と合流しますかな。ここから近いのは
「メリダさ~ん、セイジさ~ん!」
「「コハク!大丈夫だった?」」
『コハだいちょぶ』
「そう、良かったわ。こっちへいらっしゃい」
メリダさんにコハクを掻っ攫われた、‥‥セーフ。
『不審者撃退』が発動するかと思った。マジ危ねぇ‥‥今日一番の危機を乗り越えた気分だよ。コハクに危険が及ばないと見なされれば本当に大丈夫なんだ、思わぬ形で実験成功。こりゃあ、後でオビトに口止めしておかないと私の命が危ういぞ‥‥。って口止めするまでもなかったみたい。見るとオビトもホっとしていたから一安心。セイジさんも触らせてって言ってるけど、メリダさんは勿論完全スルー。
「タクマさ~ん、ヤミルさ~ん!」
「「コハク、無事か!?」」
『コハだいちょぶ』
「そうか、そうか、俺の所においで」
「嫌よ」
「何でメリダが返事をするんだよ!俺はコハクに言ってるんだぞ!」
「私の所にいたいわよね~、コハク?」
『オビー、あまいのちょーだい』
「いいよ、おいで」
『あい!』
ぽぅんっとコハクがメリダさんの腕から跳ねて、オビトの肩へ乗った。
「「「「お、オビト(君)、甘いものって?」」」」
「昨日貰った黒砂糖を食べずに持っていたので、さっきも1つあげたんですよ」
「「「「抜かった‥‥」」」」
「はい、俺もこれで最後だよ。後はイトから貰ってね」
『ありがと、オビちゅき』
「「「「っ!?」」」」
「な、何で全部食べちまったんだ、俺‥‥」
「昨日の私を殺したい‥‥」
「僕は何て愚かな人間なんだ~!」
「俺は、俺は‥‥」
はぁ、どうしてここまでコハクLOVEになっちゃったんだろうね。このままじゃ帰りに支障を来すよ。
「皆さん1つだけあげますから、元気出して下さい」
「「「「イト(ちゃん)ありがとう!」」」」
そんなこんなで、ふるふるワールドが始まった。長くなりそうだから座って私も黒砂糖を齧る。隣にオビトも来たので、1つ渡して一緒に食べながら眺めた。
「ほらコハク、食べていいんだぞ?」
『ありがと、ヤミちゅき』
「ぐはぁ~!」
「コハク、僕のもあげる」
『ありがと、テチちゅき』
「もう死んでもいい‥‥」
「はいあ~んして、コハク」
『あーん、おいち。メリちゅき』
「‥‥好きって言われた」
「コハクにやるぞ」
『ありがと、タクちゅき』
「そうか、そうか。そら高い高~い」
『わーい♪』
いいものあげるから着いておいで、が目の前で繰り広げられている。これはちゃんと言い聞かせておかないと危険極まりないぞ。
コハクを思いっ切り愛でたことで、やっと落ち着いたらしい面々。岩机の所へと場所を移し、それぞれの収穫を報告する。最初はタクマさんとヤミルさんチーム。
「俺達はニンニクってのを見つけたぜ。それと途中でチキリを5匹倒したぞ」
鞄からニンニクとチキリ5匹を取り出す。
「私達は胡麻とヒジムを2匹倒したわ」
鞄から胡麻とヒジム2匹を取り出した。食材は私が、魔物はオビトがそれぞれしまい、私達の番になる。
「私達は生姜・唐辛子・辛子菜・油菜・葡萄・林檎・レモン・蜜柑・苺・桃・栗・オリーブ・香辛料を見つけました。それからトレント1本とオーガを38匹討伐して、ついでにオーガの棲み家でお宝を発見しました!」
言いながら私とオビトが出していく。食材各種1つとトレントの木材、オーガは1匹だけ、宝も宝飾品を1つ。
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
出したものをしまい、売るものを決める‥‥前に、私のクワ太に入れておいたオーガも解体してもらわないとね。
「オビト、最後に倒したオーガを渡すの忘れてた」
「じゃあここに出してよ」
「ほい」
『おっき』
「「「「‥‥っ!?」」」」
「色もちょっと違うね」
「そう?それよりオーガって食べられるのかな?豚人間だよ?」
「そういう言い方するとちょっと嫌だね」
「でしょ、ギンガさん買ってくれるかなぁ?」
「「「「ちょっと待て!それはオーガじゃないっ!!」」」」
「そう言われても‥‥、そうなんですか?」
+-----+-----+-----+
[オーガキング]
オーガの王
+-----+-----+
使用条件:Lv5
+-----+-----+-----+
「オビト、オーガキングだって。知ってた?」
「聞いたことないよ」
「でも、オーガの王様なんてたかがしれてるよね。延髄蹴り1撃で倒せたし」
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
「またそんな倒し方したの?」
「オビト、またって何のことだ?」
オビトがトレントを倒したときのことを話すと、全員に溜息を付かれた。
「そもそもトレントは木に擬態しているから、中々見つけることが出来ないぞ。仮に<鑑定>を持っていても、攻撃をした瞬間から枝・根っこからの多数攻撃が襲って来る。弱点は<火魔法>だが燃やしてしまうと素材が一切残らないから、非常に戦いづらい相手なんだ」
「オーガはここら辺には生息しねぇはずだ。ましてや、オーガキングなんて俺も一度しか見たことがねぇぞ。しかもそれを1撃‥‥、普通なら到底信じられん話だ」
桃源郷の話をすると、皆も行ってみたいと言うので明日行くことになった。
そのあと話し合った結果、売るものは薬草・魔草・癒やし草を全部。討伐した魔物はオーガキングを除いた達成条件を全て私達が貰えることになり(討伐はブルースライムx1匹・トレントx1本・オーガx37匹・オーガキングx1匹・チキリx5匹・ヒジムx2匹)、肉については昨日と同様に全員で分配。皮についてはセイジさんと私で半分こに。但し、脂身・骨、トレントとオーガキングとお宝だけは全て倒した私のものになった。
売らないものは食材全部。これも昨日と同様に分配をせず私とオビトの共用品に、その代わりに今後は食事代を一切貰わないことに決まった。
マーカーを5人から外した帰り道、ジャンケンに勝ったタクマさんの肩の上でコハクがふるふるしている(あまりに揉めるのでジャンケンを教えた)。後ろを3人が着いて行き、距離制なのか次のジャンケンポイントで出す手を必死に模索しているみたいだ。
今日も何だかんだ色々あったが、欲しかったものが全て手に入ったので私はホクホクだ。あと把握出来ていないのはお宝だけか。ちょっとクワ太に手を突っ込んで調べてみるかな。
ある、凄くある。銀貨・金貨・白貨、本当に光るものばかりだ。古代金貨・古代白貨なんてのもある‥‥昔のお金って言われてもギザ10位しか思い浮かばんよ、あたしゃ。その他は宝石・魔石・鉱石・武器・防具・さっきみたいな宝飾品、<鑑定>出来ないものもいくつかあるからこれは見て確認しないとな。
ん?ここって素材入れの所だよね?何で私物の所に入れたはずのギルドカードが入ってるんだろ?‥‥6枚っ!?慌てて取り出す。
「本当にギルドカードだ‥‥」
「イト、立ち止まってどうしたの?」
「これ見て」
「ギルドカード?もう皆のを預かったんだ、気が早いね」
「違う、これはオーガキングのお宝に紛れてたやつ」
「‥‥じゃあ」
「多分やられたパーティーのものだと思う」
「そっか‥‥、冒険者ギルドに報告しないとね」
「うん」
オビトの手を取って繋ぐと、オビトも握り返してくれた。私達も防具に覆われていない部分を狙われれば、死んでしまうんだ。狡いかもしれないけど、私の周りの人達には生きていてもらいたい。そのためには‥‥
「皆に<完全防御>を付与したアイテムを渡してもいいと思う?」
「俺は‥‥イトに危険が及ばないなら逆にお願いしたい」
「私に危険?」
「武器・防具・鞄・肉・調味料・料理、色々あるけどイトの利用価値は計りしれない。さらに<完全防御>なんてものが知られたら‥‥、俺は守り通せるって言い切れないから」
「ありがとう。じゃあ調味料と一緒で信用出来る人達にだけ渡そうか」
「そうだね」
方針が纏まったところで、ギルドカードについて相談をすることにした。
「これがそうか」
「はい」
「パーティー全員となると、家族から届けが出ている可能性があるわ」
「僕達が知ってる人じゃないよね‥‥?」
「だといいがな」
流石は元冒険者。皆、明日は我が身だということを身を持って知っているんだ。先程までのほんわかした空気はなりを潜め、何処か重苦しい雰囲気に包まれている。
『コハがまもる』
「「「「「「っ!?」」」」」」
『かーしゃんにつよくちてもらった。まかちぇろ!』
「「「「こ、コハクぅ~!!」」」」
「コハクがいて良かったね」
「うん、あっという間にいつも通りだよ」
あ、ヒムロさんだ。初めてじゃない?同じ日に同じ人って。無事に帰って来れて良かったなと言ってくれたので、また黒砂糖一欠片を差し入れしといた。嬉しそうに受け取ってくれたので、朝の分は食べてくれたみたいだな。コハクを見て魔物か?と聞かれたが、「私の精霊です」と答えるとすんなり通してくれた。
「忘れてた。コハク、城下町に入ったら喋っちゃダメだよ」
『まちってここ?』
「そうだよ。喋れることがバレたら、悪い人に連れて行かれちゃうからね」
『たちゅけて!』
可愛い叫び声を上げると、慌てて私のフードに飛び込んだ。
「喋らなければ大丈夫だから気を付けようね」
『あい!』




