32-13日目
「おはようございます」
朝7時、食堂にやって来た。お?パンの匂いがいつもと違う気がする‥‥。これは昨日試しに渡した酵母・砂糖・バターで早速パンを焼いたみたいだな。
「イトおはよう、俺なりに作ってみたから食べてみてくれ」
「はい、私も早く食べたいです!」
ホカホカのパンがテーブルに置かれる。うわぁ美味しそう。元々が固いパンだったからバケットっぽくしたんだね。では
「いただきます」
ザクっ!「ふまぁっ!」外はガリっと、中はふんわりでこれは‥‥ギンガさんを見るとウインクされた。ふむ、相当朝早くから作り込んだと見える。これは今後の料理にも期待が膨らみますなぁ。モグモグしていると前の席に誰かが座った、オビト?
「よおイト、朝からよく食うな。亭主、俺にも朝食を頼む」
「あいよ」
「タクマさんおはようございます。でも何でここに?」
「何となく旨いものが食える気がしてな」
「へえ、大当たりですね」
「「「亭主、朝食を」」」
「やっぱり来たか、てことは‥‥」
「亭主、私にも朝食を3人前頼む」
「エジムが来ないはずがねぇか‥‥、悪いなイト」
「食堂が繁盛する分にはいいんじゃないですか?」
「おはよう、‥‥皆いるけどイトが呼んだの?」
「「「「「自主的集合」」」」」
テーブルを7人で囲んで朝食をとる(1人余計なのが平然と紛れ込んでいるが)。おかずはギュウエッグ、ギュウじゃなくてベーコンとかハムはないのかな?お歳暮の時期にしか食べられないぶ厚いステーキなんて涎ものだし、熱々のハムカツをはむっとしたい!よし、ベーコンとハムを作っちゃおう。羊腸もあるからソーセージにも挑戦してみよっかな。
ギュシに軽く塩・胡椒してあったけど、あと一味欲しくてクワ太から醤油を取り出し掛ける。しまおうとしたら全員がお皿を差し出した、ので掛けてあげる。ギンガさんも厨房からギュウエッグが乗ったお皿を持って来たので掛けてあげた。うん、旨い!
朝食ついでに今日の予定を皆に伝える。薬草類の採取・オビトの精霊契約・柄と鞘と箸用の木材採取・食材探し、そして普通のスライムを見るだ。
「待て待てっ!?何だよ最後の普通のスライムを見るってのは!」
「え?そのまんまですけど?」
「いいじゃない、イトちゃんが見たいって言ってるんだから」
「でもさぁ、食材探しは別行動の方が効率いいけど、正直なところ僕達じゃ判断がつかないよね」
「なるほど‥‥じゃあ探しているものを絵に描けば、別行動もアリですか?」
「アリだな。オビト、紙はあるか?」
「はい、持って来ます」
オビトが持って来た紙に同じものを2枚ずつ書いていく。
「食材探しの班は3つ。私とオビト、タクマさんとヤミルさん、メリダさんとセイジさんとします。1枚目の上から胡麻・油菜・オリーブ、2枚目の上から生姜・ニンニク・唐辛子です。色や大きさ、木になるか地中にあるか等の注意事項も書いておきましたので参考にして下さい」
「イトちゃんは何でこんなことを知ってるんだい?私も知らないものばかりだよ」
しまった!?エジムさんの存在を完全に忘れてた‥‥。ちらっ、タクマさんに助けを求める。さーせん、尻拭い頼んます!
「‥‥お前遅れてるな。亡命してきた奴らから、色々な食材の情報が増えてるんだぞ。知らねえのか?」
「そうなのか?メリダ、ヤミル、セイジ?」
「私も小耳に挟んだことがありますよ」
「俺も小耳に挟んだことがありますよ‥‥」
「僕も小耳に挟んだことがありますよ‥‥」
うわぁ~、最後の2人嘘くせ~。せめて言葉尻を変えようよ‥‥。
「じゃあそんな感じで今日は行動します!ギンガさんご馳走様でした。晩ご飯はタクマさん家で食べて来ますので。では出発!」
そそくさと立ち上がった私を追って5人はお金を払い、冒険者ギルドへと移動してきた。そして絶賛怪しみ中のエジムさんに受付をしてもらい、癒やし草採取のクエストを受注する。さっさとここから去らねばと思いつつ、さり気なくクエストボードで蘇生草を見たらランク5で1本5,000,000ギルだった。え~っと日本円で‥‥い、いっせんまん‥‥。一千万円っ!?
蘇生というからには生き返れるってこと?一千万円で命が助かるなら安いもんなのか‥‥。あ、でもこれを薬にしたらもっと高くなっちゃうんじゃない?オビトがクワ衛門に手を当てたのが見えた。忘れてた!私も魔石をたんまり持ってるじゃないか!?クワ太が専用だってわかってても怖いよっ!!
門番さ~ん!あれ?この人は‥‥1人目の人だ。名前はヒムロさん。これを期に仲良くしておこう。困ったときに助けてもらえるかもしれないし。いつもお疲れ様です!疲れたときには甘い物ですよね?と言ってコソっと黒砂糖を一欠片渡す。これは賄賂じゃないよ!差し入れだからね!
オビトが皆に気付かれないように目で訴えてきたので、一欠片渡す。これは紛れもなく賄賂です。
草原に到着。実は別行動をする前に試しておきたいことがあったので、これから協力してもらうことにする。
「すみませんが、ちょっと試しておきたいことがあるのでご協力をお願いします」
「いいけど何をするの?」
「実験と聞くと胃が痛くなるな」
「ヤミルは相変わらず脳筋ね」
「僕は楽しみだな」
「今日も楽しくなりそうだ」
「え~とですね、私のスキルに<地図>があるのを知っていますよね?地図の横にはマーカーというものがあって、地図上に打てて吹き出しに名称を記入出来るようになってるんです。それで考えてみたんですが、今日は途中から別行動しますよね?皆さんにマーカーを打てれば何処に誰がいるかわかるようになって、迷子にもならないと思ったんですが‥‥どうですかね?」
「「「「「便利過ぎて怖い‥‥」」」」」
「やってみようぜ!身体に打つのか?」
「いえいえ、そんな痛そうなことしませんよ。服に付けてもらえれば大丈夫ですから」
マーカーを5個取り出し、吹き出しに名前を記入してから皆に渡す。
「それじゃあ適当に動いてもらってもいいですか?」
「「「「「了解」」」」」
「あ、ついでに隠れんぼでもしましょうか?」
「隠れんぼ?」
「隠れた人を鬼が探すって遊びです。この場合は私が鬼ですね」
「いいね、何処までを隠れる範囲にする?」
「森1・2km位までいいですよ」
「イトちゃん1・2kmって言ったって、それは奥行きの話でしょ?」
「まあ試しにやってみましょうよ。隠れきった人にはお昼ご飯にデザートを付けます」
「「「「「乗った!」」」」」
「制限時間は10分とします。10分経っても見つからなかったとき、そして見つかったときもここへ戻って来て下さい。じゃあ3分数えてから探しますので、隠れて下さいね。では、スタート!」
座って目を瞑ると、皆が散り散りに動き出したのがわかった。3分と言えばカップラーメン、あ~ラーメン食べたい!でもかん水がない‥‥、くだらないことを考えていたら3分経った。地図を見る。よしよしちゃんと機能してるね。そんじゃ「イト、行っきま~すっ!」
一番近くは敢えて森と反対側の草原に隠れているメリダさん。「メリダさん見~っけ!」さて、お次はセイジさんか。ここだね、コトンを掻き分ける「セイジさん見~っけ!」
ヤミルさんはっと‥‥ここかな、枯れ葉に枝を突き立てる「ぐぇっ!?」っと声がした。「ヤミルさん見~っけ!」次はタクマさん。ここら辺は初めてだな、岩だらけだ。岩と岩の間を覗き込む「タクマさん見~っけ!」
最後はオビト。う~ん、ここにいるはずなんだけど見当たらないなぁ。木の上・下にいないとすれば「中だよね」、木の枝に飛び乗りどんどん上がって行く。上に到着して木を見下ろすと、幹の中は空洞になっていた「オビト見~っけ!」
「はあ~っはっはっ、残念でしたなぁ!私に掛かればこんなもんちょちょいのちょいっス♪」
「「「「「‥‥また調子に乗り出した」」」」」
「しかし、これで証明されたのだ!このマーカーがあれば大好きなあの人の行動も、嫌いなアイツに会わないようにすることも、悪い奴のアジトを見つけてお宝を奪うことも思いのまま!!」
「「「「「最初のやつは犯罪だからっ!」」」」」
オビトにゲンコツを喰らい、メリダさんに説教された。絶対にいけないことには使いませんと土下座して何とか許してもらえた‥‥。
その後、薬草類を昨日と同じように集める。デザートが掛かっていなかったので、結果は薬草1,069本、魔草116本、癒やし草53本だった。クワ衛門にしまい、オビトの精霊契約をするために森へ向かう。お昼ご飯の準備もあるので、昨日の岩机と竈がある「池1号」で行うことになった。
池に向かう途中で皆のレベル・MP・オーラを聞く。タクマさんがLv62・497MP・青、メリダさんがLv52・305MP・緑、セイジさんがLv56・325MP・緑、ヤミルさんがLv59・340MP・緑。
この前教えてもらった精霊召喚時の消費1MP/5秒で計算すると、タクマさんが約41分、メリダさんが約25分、セイジさんが約27分、ヤミルさんが約28分になる。5人の横にちょこんと座り、黒砂糖をコソっと口に放り込む。タクマさんが説明を始めた。
「オビトは精霊を見たことがあるか?」
「いえ、一度もありません」
「今から俺達の精霊を見せる。契約する前に精霊がどんなものか知っておけ」
そう言うとタクマさんが目を閉じ、3人も同じように目を閉じた。ピカっと光ったと思ったら、そこには4匹の動物が。タクマさんは青いキツネ、メリダさんは緑の小鳥、セイジさんは緑の猫、ヤミルさんは緑の犬だった。へえ~、色はオーラに準ずるのか。緑と言っても小鳥は鮮やか、猫はくすんでいて、犬は薄い、面白いもんだ。
ふむふむと眺めていると、4人の周りにいた精霊達が鼻をスンスンしだした。本当に動物みたいだなぁ。そして一斉にこちらを振り向いた、と思ったら突進してくる。えっ?ええ~!?何?何かあるの?周りをキョロキョロ見るけど何もない。
「ぐはぁっ!?」オロオロしているところを体当たりされて、地面に転がる。私攻撃された!!?4匹に乗っかられて起き上がることが出来ない。一体何が起こってるんだ!?
「ちょ、ちょっと!?」
「何が起きたの‥‥」
「おい、止めろって!」
「‥‥こんなことは初めてだ」
「た、助けて下さい!」
「大丈夫っぽいですよ」
「「「「‥‥本当だ」」」」
4匹は私の胸にある石をペロペロと競うように舐めていた。何で?この石美味しいの?と、考えていてもキリがないので、石を引っ張り口に突っ込む。ふふん、これで舐められまい!
「「「「「‥‥子供か」」」」」
何とでも言うがいいさ。しかし味なんて微塵もしない。期待して損したよ。口から出して服の中にササっとしまう。「きゅ~!?」とか「ちゅぴ!?」とか「にゃっ!?」とか「くぅ~ん!?」とか、悲しげな声がするけど聞こえないもんね。身体に擦り寄って甘えたって出してあげないよ。あっ、髪の毛を引っ張らないで、禿げるっ!
「精霊が主人以外に懐くことはないよな?」
「ええ、聞いたことがないわ」
「でも目の前で僕より甘えてるよ」
「信じられんが事実だ」
「私、動物に愛される体質だったのかもしれません。お前達さっきは冷たくしてごめんよ?これからは全て受け止めてあげるから、さあおいで!」
‥‥誰も動かない。お前に用なんかねぇよ、早く石出せよ的な何かをビシバシ感じるのは私だけ?
「お前達!私に服従せぬ限りこの石は舐めさせてやらんぞ!さあ、我に跪くのだっ!」
「止めんかっ!」
本日2発目、今日のペースマジ危険‥‥。
「オビト、まだ午前中なのにタンコブが2つもあるよ」
「自業自得」
「ぐぬぅ‥‥、女の子の頭をゲンコツするようなお父さんはモテないぞ!」
「俺、結構モテるけど」
「へ?」
改めてマジマジとオビトを見る。背は‥‥基準がわからない。性格は穏やかで年齢以上に沈着冷静。そして‥‥ここは割愛しよう。頭はいいに決まってる。それも小憎たらしい程に。顔は言われてみれば整ってる?いや、まだ幼いから可愛さが勝ってるけどかなり格好いいかも。あれぇ?
「オビトって格好良かったんだね。どっちかって言うとレイアさん似?もしかして今日は彼女とデートだったりした?気が利かなくてごめんね。お姉さん付き合ったことはないけど、恋の悩みならいつでも相談に乗るよ?ほら、遠慮しないで、さあさあ!」
「俺はイトで手一杯だよっ!」
これ以上余計なことをするなと言われ、精霊達を身体にくっつけたまま見学続行なり(私何もしてないのに‥‥ちぇっ)。




