25-12日目
「おはようございます」
「ふぁ~」朝、朝食を食べてすぐに冒険者ギルドに来た。早いのに(8時だけど‥‥)人が今までで一番多い。オビトが言うには、クエストボードが更新されるのが朝7時なので混んでいるそうだ。そして気付いてなかったけど、ギルドは24時間営業だった‥‥。
魔物による城下町への夜襲や不測の事態が起こったときのため、前日にあった依頼を纏めてクエストを発行するため等で、昼夜問わず営業しているのだという。ちなみに夜の方が魔物との遭遇が多いのだが、ランプの明かりじゃ暗くて危ないのと<光魔法>を持っている人が滅多にいないということで、夜に活動する人は少ないらしい。
へえ~、<光魔法>じゃなくて<無属性魔法>の『ライト』じゃダメなの?あれだって結構明るいんだけどなぁ。
昨夜だって、皆が寝静まった後こっそりと食堂に行き、懐中電灯代わりの『ライト』で照らしながら厨房を使わせてもらっている。事を終えた後にはちゃんと約束した通り、『清浄』を掛けまくって気持ち磨いてみた。
トング肉を試食したときに、厨房にこびりついた脂汚れが気になって仕方なかったんだよね。そしたら、あらビックリ!?厨房から食堂の隅から隅までピッカピカになってしまった。朝3人にじと~っと見られたけど、シラっと何も知りませんよ風を装っといたから大丈夫だろう!
「おはようございます、タクマさん」
「おお、時間通りに来て偉いな」
「止めて下さいよその言い方。僕達が時間を守らなかったみたいじゃないですか」
「オビト、セイジさんとも約束してたの?」
「‥‥してないよ」
「ごめんね、君達が帰った後タクマさんに聞いてさ。お店を休みにして来ちゃった♪」
「悪い、そう言うこった」
「どうせなら臨時でパーティーを組もうよ!」
「パーティーって臨時で組めるものなんですか?」
「うん、大丈夫だよ。僕もタクマさんも引退したとはいえギルドカードを持ってるしね。久し振りだからテンション上がるなぁ」
「そうだな、俺もかれこれ10年以上振りになるか」
よくよく見ると、タクマさんもセイジさんも冒険者の格好をしている。この人達、最初からやる気満々で来たんだ‥‥。あ、メリダさんが出て来た、と思ったら引っ込んで何故か左の通路から出て来た。
「イトちゃん、オビト君おはよう」
「「おはようございます」」
「それで、そこの2人は何でここにいるのかしら?」
「メリダおはよう。実は色々あって、僕達4人で臨時パーティーを組むことにしたんだよ」
「あら、あんなに冒険者に向いてないってボヤいてたセイジがどういう心変わりなの?」
「まあそう言うなって。今日はオビトに精霊契約のやり方を教えてやる予定なんだ」
「‥‥私も行くわ」
「そんなこと言ったって仕事中じゃないの?」
「ええ、でも1回イトちゃん達に着いて行きたかったのよ。皆ギルドカードを出してくれる?ほら、早く‥‥じゃあお休みを貰って来るから、ちょっと待ってて頂戴」
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
「本当に行くのかな?」
「行くんじゃないの?だってメリダさんだよ?」
「そうそう、でも凄いことですよねタクマさん」
「ああ、セイジとヤミル以外とメリダがパーティーを組むこと自体初めてじゃねぇか?」
待っている間に、昨日宿に帰ってからのことを2人に話した。鍛冶屋の営業妨害にならないか気になっていたが、最近は武器の製作依頼があまりないため問題ないそうだ。
予定通りに3日後からギンガさんと一緒にお店へ伺うことを了承してもらい、何故か今日から3日間2人ともお店を休むことにしてしまった。どうやら3日間パーティーを組んで着いて来るらしい‥‥。
ちなみにセイジさんは3日後から、毎日晩ご飯を集りにタクマさんの家に来るそうだ。昼作った料理を全部食べないようにって何度も念を押された。
「お待たせしました」
「じゃあ行くか」
「お久し振りです、タクマさん」
「‥‥ヤミルも来たのか。お前も仕事はどうした?」
「メリダとセイジがタクマさん達と臨時パーティーを組むって聞いて、俺が行かないはずありませんよ。てことでイト、オビト宜しくな」
あっという間に6人パーティーが出来てしまった‥‥。その後セイジさんが余計なことを言ってしまい、メリダさんとヤミルさんも貯まっている休みを消化すると言い出したため、3日間だけの臨時パーティーがここに誕生した。
ギルドカードを受け取り確認すると、昨日と同じ魔草と癒やし草のクエストが受注されていた。気になったので各自のランクを聞いてみると、タクマさんが6、セイジさん・メリダさん・ヤミルさんが5だった。「ふぉ~!」と驚くと、すぐに抜かれる気がすると言われた。
ほほう‥‥、なるほど、なるほど。私の立ち振る舞いから、秘められし戦闘の才を見出してしまったと‥‥。いやはや、隠しきれないもんですなぁ!
「そうだ。すみません、行く前に露店街に寄りたいんですけどいいですか?」
「ああ、構わねぇぞ。俺達はリーダーに着いて行くだけだからな」
「露店街で何か買いたいの?」
「ちょっと遠出になるかもしれないので、お昼ご飯の材料を調達しようかと思いまして」
「確かにそうね。久しぶり過ぎてすっかり忘れていたわ」
「じゃあ俺のお薦めの店に案内してやるよ!」
「はい、お願いします!‥‥えっ、私がリーダーなんですか!?」
そんなこんなでやって来ました露店街。ちゃんとしたお店通りもあるらしいが、ちょっと割高になるんだってさ。朝はやっぱり活気があるなぁ。この雰囲気に当てられて欲しいものを全部買っちゃいそうだ。
「ようオヤジ!元気に商売してるか?」
「ん?お、おおっ!ヤミルじゃないか!?それにセイジとメリダも。お前達3人が一緒だなんて何年振りだ?‥‥しかもタクマさんも一緒なのか。一体何の集まりなんだ?」
「ちょっと臨時でパーティーを組むことになってな。今日はリーダーのお供で買い物って訳だ」
「この面子だとタクマさんがリーダーか?」
「いや俺じゃねぇ、この子だ」
「‥‥俺の目がおかしくなければ、子供にしか見えないんですが。しかもお嬢ちゃん、何日か前に買いに来てくれたよな?」
「あの、その節はお世話になりました」
「この店を知ってるなんてイトは中々の通だな」
「色々見て回っていたら、このお店が一番品数が多くて安くて新鮮だったんですよ」
「嬉しいねぇ」
「小っちゃいけど僕達の頼もしいリーダーなんですよ」
「頼もしいかは別としてですね、ここにあるお米・小麦粉・野菜・きのこ・豆・魚・牛乳・卵・塩・胡椒・酒・果物を全部いただけますか?ちなみに野菜・きのこ・魚・牛乳・卵・果物は今日買ってどの位保つかも教えて下さい」
「「「「「「‥‥‥‥‥」」」」」」
「あ~、でも冷蔵庫がないから流石に1週間は保たないか‥‥。また買いに来るのでお米と小麦粉以外は半分下さい!いや、でもな~、6人いるから大丈夫か‥‥。すみません、やっぱり全部でお願いします!」
「イトちゃん?だったか‥‥、品物の名前は別としてここにあるもの全部でいいのか?」
「はい、大丈夫です」
「‥‥計算するからちょっと待っててくれるか?ヤミル、ちょっと手伝ってくれ」
「あいよ~」
そこで4人に取り囲まれる。あ、あの‥‥わたくしめに何の御用でしょうか?
「ちょ、ちょっとイトちゃん買い過ぎだよ!お金持ってるの?」
「お金は大丈夫よ。でもこんなに買ってしまって6人でも持てるかしら?」
「はははっ!豪快に買ったな。持てなきゃ何往復かして運べばいいんじゃねぇか?」
「皆の前でまた暴走しないように気を付けてよ」
「大丈夫だってば。もうオビトは心配症だなぁ」
「だったら心配させるようなことしないでくれる?」
「‥‥らじゃ~」
「待たせたな。全部で507,000ギルだが‥‥大丈夫かイトちゃん?」
「はい、じゃあこれで!」
「‥‥確かに、毎度あり。しかしこれをどうやって運ぶつもりなんだ?俺も売る物がなくなったから、2便を取りに戻りがてら手伝ってやろうか?」
「それならご心配なく!」
私はクワ太の1:料理材料(前面左)を開けると、端から掴んだものをポイポイ入れてく。但し袋系は口がちゃんと閉じているか、牛乳やお酒は蓋がきちんと閉まっているか一応確認しとかないとね。
あ~、魚はちょっと直接入れたくないかも‥‥。うんうん悩んでいたら、オヤジさんが無言で袋を差し出してくれたのでありがたく使わせてもらった(サービスで30枚位くれた)。「ふぃ~」全部入った。クワ太に手を入れて中身を確認してみると
・お米10kgx30袋
・餅米10kgx10袋
・小麦粉10kgx30袋
・強力粉10kgx20袋
・野菜20種類x各種50個
・きのこ3種類x各種30個
・豆2種類10kgx各種10袋
・魚介10種x各種50匹
・牛乳x200L
・卵10個x20ケース
・塩10kgx30袋
・胡椒10kgx10袋
・酒x30本
・果物x5個
よしよし、思わずニマ~っと笑ってしまう。これで足りない胡麻・油菜・オリーブと果物、薬味(生姜・ニンニク・唐辛子)が見つかればとりあえずはいいだろう。
振り向くとオビトが溜息を付き、オヤジさんを含めた5人は口をポカンと開いていた。あれ~、何かやっちゃったかな?ってオビトを見ると自分のクワ衛門を指差した。‥‥そっか、どう見ても容量オーバーだもんね。
「オヤジさん、ありがとうございました」
「‥‥くくくっ、ヤミルが紹介するはずだ。俺はワトヤだ、イトちゃん今後ともどうぞご贔屓に」
「はい、またお世話になります。じゃあ出発!」
4人の前を素知らぬ顔で通り過ぎ、オビトと並んで歩き出す。慌てて着いて来てるけど、城下町を出たら絶対質問攻め確定だなコリャ‥‥。
城下町から出るのに、門番の人とのやり取りは今日も相変わらず。これで5人目になり、我慢出来ずつい何人いるのか聞いてしまった。答えは7人、あと2人か‥‥。これはコンプリートを目指すしかないでしょう!
「さて、イトちゃんわかってるわよね?」
「‥‥オビト先生お願いします」
「はぁ、たまにはお姉さんらしいとこ見せたらどうなの?」
「そういうのはたまに見せるからいいんだよ、頼む!」
これで秘密を知る人が5人に増えた‥‥。いや、秘密って言う程のものかは謎である。そのうちギンガさんとレイアさんにも言わないとなぁ。
「へえ、じゃあ装備はともかく、その非常識な鞄はイトでも<分析>出来ないから性能は未知数ってことか‥‥。一応言っておくが、さっきのオヤジは口が堅いから安心していいぞ」
「ああ、ワトヤなら大丈夫だな」
「本当に凄い性能ね。ヤミル、この鞄に魔石が使われてること知らないでしょ?」
「魔石だとっ!?俺、見たことないぞ!」
「オビト君、結局何個使ったの?」
「イトのに2個、俺のに3個です。気付いたときには全部使い切ってました。管理不行き届きですみません」
「「「「‥‥非常識」」」」
「ざ、残念だったね、僕とメリダは魔石を見たよ。あれは凄かったな」
「何でそんな面白そうなことに俺を呼ばねぇんだ」
「まあまあ、タクマさんもこれからは見れるじゃないですか」
「あら、何のこと?」
「もう俺を仲間外れにするなよセイジ。そして知ってることを全て吐け!」
「ちょ、ちょっと揺すらないでよ。3日後からタクマさん家の工房で、イトちゃんが調味料と料理を作るんだ。僕もう楽しみで、楽しみで!あ~、また砂糖が食べたいなぁ」
「調味料?聞いたことないわ。ヤミルは知ってる?」
「いや、俺も初耳だ」
2人が私を見つめながら手を差し出したので、クワ太から黒砂糖を取り出して手に置いてあげた。何故か残りの3人も手を差し出したのでついでに置いてやる。
「‥‥これが砂糖‥‥、美味しい‥‥」
「凄ぇ!こんな甘いの食ったことねぇぞ!」
「ね、驚いたでしょ?」
「何度食ってもビックリするな」
「イト、もう1個頂戴」
オビトが手を差し出すと横からさらに手が4本出てきた。なんちゅ~食い付きっぷり‥‥、こいつは拙いぞ。このままじゃキリがないし、私の分がなくなってしまうではないか。
「1人2個まであげるので今日はこれでお終いです」
「「「「「ぶーぶー」」」」」
メリダさんとタクマさんまでぶーぶー言ってるよ‥‥。余程気に入ったと見える。そして何故かタクマさん家の晩ご飯集り隊に、メリダさんとヤミルさんも加入していた(セイジさんが自慢するから‥‥)。
やっぱりこの3人、パーティーを組んでいただけのことはある。




