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織りなす絲  作者: 琴笠 垰
24/79

24

 「ただいま」「帰りました」

 「お帰りなさい、随分と遅くまでお邪魔してたのね。ちゃんとお礼は言ったの?」

 「大丈夫だよ。ところで父さんは厨房?」

 「ええ、お店の片付けと明日の仕込みをしていると思うわ」

 「母さんもこれから時間ある?」

 「大丈夫だけど何かあるの?」

 「ちょっとね、じゃあ一緒に来てよ」


 食堂に行くとギンガさんが厨房で仕込みをしていて、作業台の上には明日のパン種とトング肉があった。


 「父さんただいま」

 「お帰り、タクマさん家の飯は旨かったか?」

 「父さんのより美味しかったよ」

 「何だと!?」

 「まあ、落ち着いてよ。イト出してもらえる?」

 「ちょっと待ってね、うんしょっと」


 でんっ、と1匹分を出す。


 「‥‥いい肉だな。これは?」

 「今日俺達が討伐して解体したものだよ。これをタクマさんに手土産で渡したら料理してくれて、それが凄く美味しかったんだ」

 「なるほど、こいつを食ったんだな」

 「そう、少し味見してみる?」


 ジュ~っと音を立ててトング肉が焼ける。これを塩・胡椒じゃなくて、ニンニクをガツンとかせたステーキ醤油で食べれたら‥‥じゅるり。


 「出来たぞ」

 「母さんも食べてみて」

 「じゃあいただくわね、‥‥まあっ!?」

 「‥‥何だこの肉は!?」

 「鮮度についてはまだ理由がわからないけど、イトが言うには血抜きされてるから美味しいらしいよ」


 オビトが血抜きの説明をすると、ギンガさんはとても驚いていた。売る側が誰もやっていなかったら、買い手はそれが普通だと思うもんね。


 「それで相談なんだけど、俺達から肉を買う気はある?」

 「勿論だ!」

 「売値は俺達が冒険者ギルドに売ってる値段でいいよ」

 「安過ぎだ。肉屋ですら冒険者ギルドの約1.5倍の値段だぞ?この肉なら2倍の値段だっておかしくない」

 「さっきこの肉をタクマさんとセイジさんが食べたときに、売り続けると指名が入る可能性があるって言われてさ。そうなると揉め事の原因になるかもしれないから、知り合いに売るように勧められたんだ。だから気にしなくていいよ」

 「‥‥わかった、そういうことならありがたく買い取らせてもらおう」

 「あ、すみません。ついでにこれも味見して下さい!」

 「これは‥‥黒いが食べ物か?」

 「本当ね、でも凄くいい匂いだわ」

 「砂糖と言って甘いんですよ」

 「果物みたいにってことか?‥‥んぐぅ!?」

 「とてもそうは見えないけど、‥‥んんっ!?」


 2人は黒砂糖の欠片を大切そうに持ち、齧りながら少しずつ食べた。当たり前だがそうしているうちになくなってしまい、今は黒砂糖があった手を寂しそうに見つめている。


 「これは黒砂糖と言って調味料の1つになります。同じようなもので白砂糖や他の砂糖もあって、料理の用途によってそれぞれ使い分ける感じですね」


 小さいお皿に白砂糖を出す。私が摘まんで口に入れると3人も同じように口に入れた。


 「黒砂糖の方は雑味がありますが、栄養価が高く料理にコクや風味を与えます。白砂糖はそれに比べてあっさりとしていて、料理の色を変えたくないとき等に使います」

 「‥‥これは、何処で手に入れんだ?」

 「イトが作ったんだよ」

 「イトちゃんが?」

 「実はこれ、私の故郷ではありふれた調味料でして、特に珍しいものじゃないんです」


 そこからはオビトが説明してくれた(最近のパターン)。砂糖の原料は栽培してるものではないので大量生産が無理なこと、私のことを内緒にしてくれる信用出来る人に提供したいこと、宿の役に立ちたいから料理に関してはギンガさんにお願いしたいこと。

 提供することにした理由も話す。トウキの乱獲、製法の強奪と私の誘拐、利益目当ての独占等の輩、私の周囲の人達にも危険が及ぶ可能性があること。でも、たくさんの人にこの美味しさを知ってもらいたいこと。今後は人の目がないタクマさん家の工房を借りて、新しい調味料・お菓子・料理の製作をやらせてもらえることも伝える。

 話の流れで、工房兼台所にあった大釜のオーブンと大火力のコンロの存在を熱く語ったからなのか、ギンガさんに是非とも立ち会わせて欲しいとお願いされてしまった。焼きたて、出来たて、パリっ、サクっ、アチっを伝え過ぎちまったかしら?


 「ありがたい話だが本当にいいのか?俺より料理の上手い奴なんていくらでもいるんだぞ」

 「はい、それでもギンガさんにお願いしたいんです」

 「そうか‥‥責任重大だな」

 「そうね、イトちゃんありがとう」

 「それでオビトに相談なんだけど、トウキと他の食材を集めたらまた冒険者をお休みして長期製作したいんだ。ただそれだと、薬草類を毎日納められなくなっちゃうんだよ。どうしたらいいと思う?」

 「当分稼がなくても大丈夫だから、休むのは構わないよ。その代わり、あと3日はクエストをしたいかな。そうすれば多分だけど薬草類も問題なくなると思う。それと‥‥俺にも<錬金>を教えて欲しいんだ」

 「オビトは精霊と契約してないよね?」

 「タクマさんと料理を作ってるときに、教えてもらえることになったんだ」

 「良かったね!いつ教えてくれるって?」

 「明日。丁度お店が休みなんだって」


 その後色々なことを決めて、タクマさんに明日了承をもらうことにした。毎日夜に伺うのは失礼なので、基本的には日中工房を借りること。ギンガさんは閉店後(閉店は21時)に翌日の仕込みがあるので、私達の休みに合わせて昼の露店を休業して立ち会うことになった。

 オビトの要望通り3日間で材料を調達、4日後から開始することにして、休みの目処としては教えることも含めて2・3週間必要だと主張しておく。話ついでに、今日の夜ちゃんと片付けるので厨房を使わせて欲しいとギンガさんにこっそり頼んだ。‥‥くっくっくっ。




 部屋に戻り時計を見ると11時を過ぎていた。あちゃ~、お湯を貰うの忘れてた。と思っても後の祭り。装備品は防汚の効果があるので汚れていないが、体は拭きたい。

 考えてみるとかれこれ11日もお風呂に入っていないぞ‥‥、気付いてしまうとどうにも入りたくなってしまう。<錬金>のように何か便利なものはないだろうか?よく魔法にありがちな清浄とかクリーンみたいなの。

 ピカ~っと自分の体が仄白ほのじろく光った。「あれ?」何かお風呂上がりみたいにさっぱりしてる。これはもしや‥‥


+-----+-----+-----+

イト・サエキ(佐伯 絲)

年齢:16

職業:-

Lv:5

冒険者rank:2-36/L2

商業rank:-

スキル:-

SP:80

状態:-

受注クエスト:-

+-----+-----+

HP(生命力):160/180

MP(魔力):9,836/10,080

STR(筋力+(攻撃)):17+(135)

VIT(体力+(防御)):16+(140)

AGI(敏捷+(敏捷)):13+(125)

INT(知性+(魔力)):33

DEX(器用+(器用)):39+(30)

LUK(幸運+(幸運)):89+(20)

特殊スキル:<家事><習得>

習得スキル:<育成∞><無属性魔法Lv2><異世界言語Lv4><鑑定Lv5><分析Lv5><剣術Lv1><槍術Lv1><斧術Lv1><弓術Lv1><体術Lv2><棒術Lv2><感知Lv2><索敵Lv2><地図Lv2><錬金Lv5><鍛冶Lv2><投術Lv1>

+-----+-----+-----+


 朝見たときよりレベルが上がっていて、MPが減っている。スキルレベルも<無属性魔法><異世界言語><感知><索敵><錬金><鍛冶>が1つずつ上がっている。ならさっきのピカ~っは<無属性魔法>っぽいな、『言語理解』もあったし生活魔法に近い感じなのかも。

 「しししっ」これまた便利なものを見つけてしまった!日干ししてくれているのは知っているが、ベットにも掛けてみましょ、そうしましょ!ふっかふか~の気持ちいいやつをいっちょお願いしたら、盛大にピカ~っと部屋中が光った。つい「目が~、目がぁ~!?」とお約束をやってしまったのは日本人としてしょうがないだろう。


 「イト!?」


 バタンっ!と音を立ててオビトが飛び込んで来た。あっ、鍵掛けるの忘れてた。不用心過ぎる自分が怖い‥‥。


 「何だったの、今の光?」

 「オビト君、子供はもう寝る時間ですよ?」

 「誤魔化さないで、俺はお湯を持って来たの。それで?」

 「‥‥多分スキルレベルが上がってたから、<無属性魔法>の『清浄』になるのかな?」

 「ちなみにどんな効果があるの?」

 「言うより体感した方が早いと思うよ。『清浄』」


 オビトの身体が白く光った。「え?」一瞬硬直した後、顔や身体を触りながら驚くオビト。そうでしょう、そうでしょう、お湯で身体を拭いただけじゃ味わえない感覚だよね!


 「これ凄いね」

 「ね~、本当にお風呂に入ったみたいだよね!」

 「もしかして、お湯を持ってくるのが遅かったから試したの?」

 「まあね、でもこれは大収穫だよ!だからついでにベットにも掛けてたところだったんだ」

 「‥‥本当だ。匂いが全くしないし、綺麗になっててフカフカしてる。もしかして厚みも変わってる‥‥?イトと一緒にいると、どのスキルを取得するか迷うよ。これ見て」


 オビトがクワ衛門からギルドカードを取り出し魔力を込める。


+-----+-----+-----+

オビト・ヨク

年齢:13

職業:-

Lv:2

冒険者rank:2-37/2

商業rank:-

スキル:-

SP:7

状態:-

受注クエスト:-

+-----+-----+


 「あっ!レベルが上がったんだね、おめでとう!」

 「ありがとう。それで見て欲しいのはここなんだけど、SPが7になってるでしょ?」

 「ホントだ!え~っと、7ってことは‥‥」

 「俺のオーラは青ってこと。夕飯のときにタクマさんに青だって言われて、ギルドカードを見たら本当にSPが7だったんだ」

 「そしたら上から‥‥3番目で合ってたっけ?」

 「うん。聞いたらタクマさんがオーラ青、セイジさん・メリダさん・ヤミルさんがオーラ緑なんだって」

 「じゃあ精霊も見せてもらったの?」

 「ううん。明日見せてくれるって言われたけど、精霊を皆が召喚しない理由はわかったよ」

 「何だったの?私も精霊を全然見ないから不思議に思ってたんだ」


 オビトがタクマさんから聞いた話だと、精霊を召喚するには消費MPが1MP/5秒必要になるらしい。オビトの場合MPが70だったから、回復しない限り1日に約5分程度しか召喚出来ないことになる。他のスキルでもMPを使うから、普段は召喚をしないんだそうだ。

 なるほどね、だからオーラは見てくれても精霊は誰も見せてくれなかったのか。私のオーラはやっぱり見えなかったけど、スキルを取得していることから薄々気が付いているみたいだと言われた。


 殆ど気付かれているようなものだから、オビト的にはバレるのも時間の問題らしい。明日にでもメリダさんとセイジさんに相談してみよっと。

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