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織りなす絲  作者: 琴笠 垰
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 宿に戻ってタクマさんの家にお呼ばれしていることを伝えたら、何でタクマさん?みたいな反応をされた。そりゃそうか、年が離れ過ぎだもんね。忘れたら困るので、出掛ける前に分配をしてしまうことにする。


 「じゃあ、報酬を分けるよ。合計で1,274,001ギルだったから、637,001ギル。取り決め通りだ、問題ないな?」

 「いつ取り決めしたの?問題ならあるよ」

 「えっ、問題あるの?」

 「前回俺の方が1ギル多かったから、今回はイトに1ギル多くしてよ」

 「え~、お姉さんの懐の広さを思い知らせたかったのに~!」

 「‥‥1ギルで表そうとする辺りが狭いよ」


 そこからワタワタとやり取りをして、タクマさんのお店へ向かった。




 「こんばんは~」

 「おう、待ってたぞ。セイジもさっき来たところだ」

 「今日はお招きありがとうございます。あの、これ詰まらないものですが‥‥」

 「詰まらないものを人にあげるの?」

 「そういうものの例えだよっ!」

 「くくっ。じゃあ、ありがたくいただくぞ」


 タクマさんにトング肉1匹分を渡す。


 「こりゃいい肉だな。解体したてのような鮮度だ」

 「そうですよね‥‥」


 オビトがトング肉をじ~っと凝視している。同じようにマジマジと見ているタクマさんも、肉の違いがわかる男だったとは‥‥。まあ、わたしも拘る方ですけどね!


 「お邪魔します。あっ、セイジさん、こんばんは」

 「やあ、今日は冒険者ギルドへ行ったの?」

 「はい。そうだ、聞いて下さい!カウンターにブースが出来てたんですよ。1週間で凄いですよね!」

 「へえ~、メリダとヤミルは頑張ったね」

 「あれ?ヤミルさんのことも知ってるんですか?」

 「何だ、お前達知らねぇのか?セイジとメリダとヤミルは元冒険者で、パーティーも組んでたんだぞ」

 「ええ~!?」

 「あの頃もタクマさんには何かとお世話になりましたね」

 「はっ、ヒヨッコの癖に生意気だったお前達に比べたら、イトとオビトは可愛くてしょうがねぇ」

 「タクマさん、珍しく随分と入れ込んでますね。まあ、そういう僕もなんですけど」

 「メリダとヤミルもだろう?本当にお前達は仲が良いのか悪いのかわからんな」


 こんな優しそうなお兄さんが冒険者ねぇ。メリダさんもだけど、戦ってる姿が全然想像出来ないっス‥‥。


 「あ、セイジさん鍛冶道具ありがとうございました。長々とお借りしていてすみませんでした」

 「そうそう、気になってたんだよ。防具は着替えちゃったみたいだけど、その服も作ったものでしょ?」

 「はい」

 「食事の前に少し見せてもらっていい?」

 「じゃあ俺は晩メシの準備をして来るから、ゆっくりしててくれ」

 「俺も手伝います」


 タクマさんとオビトが台所へ行ったのを確認してから、セイジさんが話す。


 「イトちゃん、今日ここで<錬金>を使って包丁を直したんだって?」

 「もしかしてダメでしたか?」

 「タクマさんがウチの店に来たときは驚いたよ。しかも規格外の防具をイトちゃんが作ったことや、包丁のことも聞かされたもんだから飛んで来たって訳。最初は防具を僕のお店で買ったってイトちゃんが言ったから、お前何か知ってるな?とも言われてね」

 「うっ、ご迷惑をお掛けしてすみません‥‥」

 「だから僕にも独学でいいから、タクマさんと一緒に<錬金>の使い方を教えてよ」


 迷惑掛けといて断れんよな。こうなったら1人も2人も変わらんよ!私が製作したものをどんどん机に出していく。最初はワクワクしながら見ていたセイジさんが、どんどん落ち込んでいった。今は手にベアントガントレットを持っていて、涙目を擦っています。


 「お前こんなになっちゃって、僕が作ったときの何倍も格好いいよ‥‥」

 「せ、セイジさん?」

 「あ~、この肌着気持ちいいな~。このコートの革は何だろうね?この靴履き心地良さそ~。この包丁切れ過ぎそうでヤバいんだけど‥‥」

 「‥‥お~い、戻って来~い」

 「はぁ‥‥、お店を休みにしてでもイトちゃんの製作に付き合えば良かった。僕は<鑑定>を持っていないけど、経験上これが途轍もなく凄いものだってわかるよ。タクマさんじゃないけど、こんなもの見せられたら僕も!って思ちゃうね」

 「い、いやぁ、そんなに褒められると照れますなぁ!」

 「照れてないで机を片付けてくれる?」


 オビト降臨。タクマさんと一緒に料理を運んで来てくれたので、慌てて鞄に突っ込んだ。並べられた晩ご飯は、お土産のトング肉を使った分厚いステーキ。では、いただきま~す!う~ん、やっぱり塩と胡椒しかないとレパートリーがないよね。いや、これはこれで美味しいんだけどさ、毎日だと飽きちゃう‥‥パクっ!


 「うっわあぁっ!?何コレ、もの凄く美味しいよ!」

 「‥‥美味しい!タクマさん、どうやって作ったんですか?」

 「本当だ‥‥、父さんのより美味しい‥‥」

 「大袈裟だな、俺はいつも通り作っただけだぞ。どれ‥‥、な、何だコリャ!?」


 全員ガツガツと無言で貪る、今日はパンの固さも気にならないよ!


 「ふぅ~、食った、食った。しかし何だったんだ今日の肉は?」

 「タクマさん、このトング肉どこで手に入れたんですか?」

 「これはイトの詰まらないもの「手土産です!」‥‥土産でな。確かに解体したてのような鮮度だったが、至って普通のトング肉だったぞ」

 「イト、何でかわかる?」

 「多分だけど、血抜きされてるからじゃないかな」

 「血抜きって?」

 「血抜きをしないと身体に残った血のせいで肉が生臭くなるし、肉自体の味が劣化する原因にもなるんだよ」

 「そうなんだ。俺、初めてイトを尊敬したかも」

 「こんなに一緒にいて初めてかよっ!」

 「くすくすっ、何を話しててもこうなるから不思議ですよね」

 「ははっ、そうだな。お前の店でもいつもこうなのか?」

 「ええ、毎日お店に来られたら僕の腹筋が持ちませんよ」


 私も常々そう思っているんですよ。でも、オビトのツッコミがツーと言えばカーみたいでついつい。


 「お前達、今日冒険者ギルドに肉を売ったか?」

 「あ、はい。モクx2匹分とラビx12匹分とヒジムx3匹分を売りました」

 「今日だけならともかく、もし今後肉を売り続けるんだったら指名が入る可能性があるぞ」

 「指名って、このクエストを誰にやって欲しいとかいう名指しのアレですか?」

 「そうだ。だがランクが低いと目を付けられ易い。可能であれば知り合いに売るようにした方がいい。買う方も商業ギルドから買うより安いだろうからな」

 「わかりました。父が食堂をやっているので話してみます」

 「それがいい、あと俺にも頼む」

 「あぁ~、ずるいですよタクマさん!自分が欲しいだけじゃないですか!イトちゃん、オビト君、勿論僕にも売ってくれるよね?」

 「冒険者ギルドと同じ値段なら構いませんけど、‥‥セイジさん皮もいりますか?」

 「えっ、皮も売ってくれるの!?ちなみに今は何を持ってるんだい?」


 「え~と、ヒジムですね」言いながらワサっと出す。


 「わぁ~!?凄い品質だね。こんなに綺麗な剥ぎ方見たことないよ!」

 「本当だな、専門外の俺でもわかる位だ」


 オビトのクワ衛門、予想以上に凄い子だったみたい‥‥。あっ、私のはクワ太にしようっと。予想外に美味しい夕飯となり、皆心なしかホクホクしている気がする。こんなときは甘いものが欲しくなるよね!


 「タクマさん、工房をお借りしてもいいですか?」

 「これから鍛冶でもしようってのか?」

 「いえいえ、野望を叶えようと思いまして」




 ということで、興味津々のギャラリーを引っ提げて工房へと移動。作業台の上にトウキと調理道具と布を出す。


 「これは何だ?木?いや、チクみてぇだな。名前はトウキでシュガになるとあるが、シュガが何かがわからん」

 「くふふっ。まあ、見ていて下さいよ。あっ、その前にちょっと作業台が高いので踏み台を貸して下さい!」

 「ぷっ、そんなもんねぇよ。どうすっか?‥‥ああ、これでいいか」


 足元に鉄鉱石の山が用意されたので、上に乗ってグラグラしていると忍び笑いの数が増えた。こっちだって好きでグラグラしてるんじゃないやい‥‥ちぇっ。


 大きいボウルを何個か用意して、トウキを手に持ち<錬金>で細かくなれ!と魔力を込めて『粉砕』してから、『分離』させて汁と繊維に完全に分ける。汁に魔力を流し煮詰めるように『乾燥』、それをさらに『分離』して不純物と澄み液に分けた後、魔力で水分を除去するように『乾燥』して濃縮させたら黒砂糖の完成だ!!


 「あはは、あははははっ!やった、やってやったぞ!黒砂糖だよ!いやっふぅ~!!」

 「始まった‥‥」

 「わぁ~はっはっ!オビトよ、この喜びを分かち合おうぞ!さあっ!」

 「はいはい、それでこれは何なの?」

 「ツレナイのぅ~。まあよいわ、控えおろう~!このお方を何方どなたと心得る。恐れ多くも出来たてホヤホヤの黒砂糖様であるぞ。頭が高い、控えおろう~!」

 「すみません、落ち着くまでちょっと待ってて下さい」


 うぐぅ~、止まらなかった私はまたオビトにゲンコツを喰らった‥‥。


 「頭がデコボコになったら責任取ってよね!」

 「いいけど、その前にこっちの手が折れるよ。そしたら責任とってくれる?」

 「どれだけ人の頭にゲンコツするつもりなんだよっ!」


 私の暴走をポカンと見ていた大人2人は現在大爆笑中。「「腹筋が‥‥」」なんて声が聞こえる。


 よし、ほっといて次。2回目の『分離』までは黒砂糖と一緒で煮詰める『乾燥』と『分離』を繰り返す、のが面倒臭かったので魔力ゴリ押しにより1回で白下糖にする。白下糖を『分離』させて結晶と糖蜜に分けて粗糖を作り、粗糖を『分離』で不純物を取り除いたら白砂糖の完成だ!!


 無言で右手を振り上げる。我が人生に一遍の悔いなしっ!いや、ダメダメ!まだ悔いだらけだった、びーくーる。


 指が震える‥‥、ぷるぷるする手で黒砂糖を口に入れた。「んぅ~っ!!!」ほっぺたを両手で押さえるも、口が勝手にニヤけてしまう。ではっ!白砂糖も食べる‥‥。


 「うひひ、うははははっ!」

 「また始まった‥‥」

 「オビトも食べてみなよ!セイジさんもタクマさんも、ほらっ!!」

 「黒いけど大丈夫なの?‥‥んっ!?」

 「いい匂いがするね。‥‥な、な、何コレ!?」

 「また妙なもの作ったな。どれ、‥‥んぐぅっ!?」

 「えっへん!どんなもんだい!甘くて美味しいでしょ?黒いのが黒砂糖で、白いのが白砂糖だよ。これでお菓子が作れるし、料理の幅もグンと広がるよ!待てよ、そうなると醤油も欲しくなるな‥‥」


 椅子に座って、作った黒砂糖をちびちびと食べながら考える。


 「また途方もないもんを作りやがったな」

 「まさかあんなものからこんな甘いものが出来るなんて、誰も思いませんよ‥‥」

 「俺は魔石より驚きました」

 「何だ、魔石も見つけたのか?セイジ聞いてないぞ」

 「魔石ですよ?言える訳ないじゃないですか。まあ、今となっては些細なことですけどね」

 「それも凄ぇ話しだな」

 「イトはこの砂糖をどうするつもりなの?」

 「ん~と、野望は勿論なんだけど、独り占めするのも気が引けるんだよね。ただ栽培してるものじゃないから、大量生産は無理でしょ?出来れば私のことを内緒にしてくれる信用出来る人に提供して、お菓子と料理を作ってもらいたいかな。

 そしたら私も皆も、いつでも食べられるようになるしね。私としては宿の役に立ちたいから、料理に関してはギンガさんにお願いしようかと思ってるんだ。お菓子は‥‥、当分自分で作るしかないかなぁ」


 提供するとしても私が言ったように、信用出来る人のみになった。トウキの乱獲、製法の強奪と私の誘拐、利益目当ての独占等の輩が現れ、私の周囲の人達にも危険が及ぶ可能性がありそうというのが全員一致の見解だった。塩と胡椒しかなければそりゃそうか。


 「料理に提供するんだったら、他のものも作った方がいいよね?思いつくものは、バター・マヨネーズ・酵母・種麹・米麹・醤油・味噌・みりん・お酢・料理酒・チーズ・ソース・ケチャップ・ヨーグルト・片栗粉・きな粉・胡麻油・サラダ油・オリーブ油、結構あるな‥‥。油は胡麻・油菜・オリーブがなければ探さないとダメだね」

 「いま言ったのは砂糖みたいなものなの?」

 「うんにゃ、全く違うよ。う~ん、食べたことない人に説明するのは難しいかも」

 「じゃあ作ったら俺にも食わせろ」

 「僕も食べてみたいから作ったら教えてね?」


 その後タクマさんの同意を得て、新しい調味料・お菓子・料理の製作も工房でやらせてもらえることになった。踏み台も用意してくれるってさ‥‥。よく見たら工房兼台所になっていて、パンもピザも焼けそうな大釜のオーブンに大火力のコンロもあった。思わず興奮して小躍りしてたら、怪しい踊りに見えたみたいで凄い形相で止められたけどね‥‥。

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