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「こんにちは~」
タクマさんのお店で予想外にわちゃわちゃしていたら、ちょっと、いや、かなり遅くなってしまった。丁度お昼時なのか、中には人が全然いない。
あれ?カウンターが様変わりしてる。例えるなら銀行のブースみたい。受付カウンターは勿論、買取りカウンターも。入り口は開いてるから人がいるいないはわかるけど、外からも隣からも何をしているか見えなくなってる。
あ~、これ突貫で対応してくれたんだ。出来る大人の有言実行は凄いな、これは期待に応えないといかんぞ!受付を隙間から覗くとメリダさんを発見、向こうも気付いてくれてニコっと微笑んでくれた。よし、頑張るぞ!小さくガッツポーズで気合いを入れ、クエストボードをオビトと見に行く。
「メリダさんとヤミルさんは流石だね」
「うん、凄過ぎて本当にビックリしたよ!」
「今日の予定は?」
「不足してるって言ってた薬草類の採取、製作してなくなっちゃった材料の補充。それと前回断念した塩・胡椒以外の調味料と果物、あれば薬味を決行する!」
「補充対象はモクの糸・サア・コトンでいいの?」
「各種魔石もだよ」
「‥‥そう簡単に手に入るものじゃないんだけど」
「予定は未定だから大丈夫!」
「じゃあ忘れてるみたいだけど、ネックレスの重量軽減と鞄の解体実験、魔石(黒)の効果調査も予定に入れといてね」
「‥‥らじゃ~」
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【依頼クエスト/rank2-8】
草原・森に自生する魔草採取/1日
達成条件:10本/一束
報酬:100,000ギル
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【依頼クエスト/rank3-9】
草原・森に自生する癒やし草採取/1日
達成条件:10本/一束
報酬:400,000ギル
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「冒険者ギルドへようこそ。サエキ様、本日はどのようなご用件でしょうか」
「このクエストをお願いします」
「承ります。魔草採取と癒やし草採取で宜しいですね?」
「はい。それでお聞きしたいんですが、どの位必要かとかありますか?」
「そうですね‥‥ご要望をお聞きいただけるのでしたら、毎日魔草を20本と癒やし草を10本。それからこちらは買取りのみになってしまいますが、薬草を100本納めていただければ高騰している薬の値段も下がるかと思われます」
「薬が高騰しているんですか?」
「ええ、未だ天井知らずで上がり続けているようです」
「わかりました。それにしても、この模様替え凄いですね。1週間振りに来ましたがビックリしました!」
「ありがとうございます。こちらとしましても、不当な言い掛かりや揉め事などが減ったとたくさんの方からご好評をいただき、大変嬉しい結果となりました」
「そうなんですか、それなら安心して納めることが出来ますね」
「そう言っていただけるだけで改装した甲斐がございました。ギルドカードをお返しします、本日もお気を付けて」
ギルドカードを渡されるときに、手をキュっと握られる。小声で「気を付けて行ってらっしゃい」とウインク付きで言ってくれたので、私もコクンと頷いた。
城下町から出るのに、門番の人とのやり取りは相変わらず。これで3人目となり、逆に何人いるのか楽しみになってきてしまった!
「草原を抜けるついでに、草を集めて行こうか」
「そうだね。数を数えながらだと遅くなるから、薬草・魔草・癒やし草をイトが探して、俺が採取しながら着いて行くことにするよ」
そこからは見つけた草を私が掴み、オビトが採取している間に次の草を見つける。移動してまた掴むとオビトが来て、の繰り返しだった。防具と靴を変えたからか、身体が軽くて足が全然疲れない。
「イト、この装備凄いね」
「オビトも思った?こんなに動いてるのに私息切れしてないんだよ、凄いよね!」
「そこは基準がおかしいよ」
「通り道は粗方取ったから、1回数えてみようか」
結果、薬草336本、魔草31本、癒やし草18本を採取していた。
「森に行くついででこれだったら十分だね」
「うん、これなら毎回採取出来るよ。オビト、サアとコトンがあった」
「採取する前に、どっちの鞄に何を入れるか決めない?」
「そしたら売るものはオビトが持ってよ、製作材料は私が持つから。はい草、渡しとく」
「魔物は解体が付いてるから、ひとまず俺の鞄ね。解体後必要なものだけイトに渡すよ」
「それなら売るものと売らないものがすぐわかって楽だね!」
オビトの鞄は1:魔物(前面左)、2:素材(前面右)、3:私物(背中左)、4:未定、5:お財布(前面下)に分けたみたい。
「よし、今日のクエストは完了したから森に行こうか!」
「イト、スキルの内容覚えてる?」
「すぐ見れるからわかるよ」
「モクを探すのに<索敵>を使ってみない?解体しなくなったからそれで魔物を探してみようよ」
「あっ、そっか!オビト頭いい~!ちょっと待ってね」
モク、モク、う~ん。魔物はいるんだけど、これがモクかがわからない。遠くは何もわからないから、レベルが上がれば判別出来て距離も広くなるのかな?
「モクかわからないけど、魔物はいたから行ってみようか。こっち」
「そのスキルがあると森が魔物だらけになるね‥‥」
前回より森の奥に行った辺りにモク2匹がいた。ガサゴソと何かを漁っている。
「当たりだったね。どっちが行く?」
「俺が行くよ、そこで見てて」
オビトが包丁を抜いて構えると地面を蹴った、「うわっ!?」早い!一瞬でモクの目の前に躍り出て、斬りつけると直ぐさま飛び退った。おお、ヒット&アウェイってやつだ!‥‥あれ?
「オビト、倒しちゃったんじゃない?」
「‥‥そうみたい」
コロンと仰向けに転がったまま、モクは2匹とも動かなくなっていた。
「凄かったね!飛んだみたいに見えたよ」
「イト、近くに魔物はいる?」
「え~っと、いないよ」
「ネックレスの重量軽減を試してみるから、一応<感知>で警戒しといて」
「わかった」
オビトが息を吐いて上を向くと飛び上がった、気付いたときには5m位上の枝にいた‥‥。
「う、嘘ぉ~!?」
そのままどんどん木の枝を足場にして上がっていく。何が起こってるんだ‥‥?ほっぺたを抓る。「い、いひゃい‥‥」
木から木へと飛び移っていたオビトがようやく降りて来た。
「ほっぺた伸びるよ」
「だって、夢かと思ったから‥‥」
「目、覚めた?」
オビトがぐに~っとほっぺたを抓る。
「みょうしゃめちゃ」
「ははっ。イトありがとう、このネックレスを作ってくれて」
「本当にネックレスの効果なの?」
「外したら1mも飛べないよ」
「へえ~、面白いものになって良かったね」
「うん、モクに突っ込んだときも勢いが付き過ぎて逆にビックリした。飛ぶっていうより重さを感じないに近いかな」
「そっか、じゃあ木の上の採取が楽になるね。早く果物を見つけないと!」
「そこに繋がるのがイトらしいよ」
早速モクを回収して、オビトの鞄に入れてみる。明らかに開口部よりモクの方が大きかったのに、足を入れてみたらスルンっと全部入ってしまった。これにはお互い目が点に、オビトが恐る恐る鞄に手を入れる。
「‥‥解体出来たよ。しかも手を入れると中に何があるのかわかる」
「知らなかった!?手を入れればいいの?」
私物の鞄に手を入れてみる。「あっ、ホントだ!」制服・運動靴・服・下着、失敬してきた本・道具が入ってるのがわかった。試しに本を取り出すつもりで探っていたら何かが手に触れたので、それを掴んで引き出すと本を持っていた。
「す、凄い‥‥、オビトこの鞄もの凄いね!」
「まあ、便利だよね‥‥」
「それで解体の方は?どんな感じ?」
「モクの達成条件・肉・皮にちゃんと分けられたよ。他の部位も細かく解体出来たし、いらない部分はこっちで選べるようになってる。これと、これと‥‥凄いな、ゴミ分解でなくなったよ。これどうなってるのか不思議過ぎるね」
「ノーコメントで!」
「はいはい、それじゃイトの勘で適当に歩こうか」
「らじゃ~」
食材を探して彷徨いますよ~。しかし今日はいい枝がないなぁ、おっ、この石投げ頃!手の上でぽ~ん、ぽ~んと軽く上げる。出来れば砂糖が欲しい、いや、砂糖がいい!魔物って甘いもの好きかな?魔物が多そうな所に甘いものがあれば、<索敵>でわかりそうなんだけど。ビビっと来た、<感知>が働いたみたい。
え~っと、こっちの方かな?反応のある方に向かって歩く。<索敵>が引っ掛からなかったのに不思議だ。<感知>の方が範囲が広いとは思えないし、魔物がそれだけ多いってことかな?「あっ!」
「オビト、あっちに魔物が10匹位纏まってる」
「好きにしていいよ」
「じゃあ行くね」
それから2・3km位歩くと森が突然開けた。立ち止まり呆然とする、目から涙が出て止まらないよ‥‥。
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[トウキ]
シュガなどになる植物
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使用条件:料理Lv2
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「イト、どうしたの?」
「あった‥‥、あったよオビト!サトウキビだよっ!<鑑定>さんは嘘付かないよね?本物だよね?いやっふぅ~!!」
「い、イト‥‥?」
「あははははっ!これで砂糖と酵母が作れる!お菓子も作れるし、料理の種類も増えるよ!」
「落ち着いて!」
「これが落ち着いてられますかってんだ!うわあぁ~、夢が膨らむ!作りたいものがいっぱいあり過ぎて、興奮が止まらないよっ!」
「止まって!」
「これが血沸き肉躍るって状態かぁ~!ひゃあ~暴れないと修まらないよ!ちょっくら行って来るっ!」
「沸くのも踊るのも禁止だよっ!」
「行っけぇ~!」手に持っていた石をラビに投げつける。ドンっと音を立ててラビの頭に命中、動かなくなった。包丁を抜いて駆け寄る、突然の奇襲に驚いたのかラビ達はサトウキビを咥えたまま動けずにいる。身体が急所目掛けて勝手に動く、血抜きも兼ねて首を一撃。ようやく動き出したラビが1匹左側から迫ってきたが、ガントレットの裏拳1発で制した。
「ふぃ~、いい汗かいた~。いや、早過ぎてかいてないや。こりゃあ参った、参った!」
「‥‥‥‥‥」
「あれ?オビトどうしたの?そんな顔して」
「どんな顔してる?」
「え~、強いて言うなら怒ったお父さんみたいな顔かな」
「今後暴走禁止。手が付けられない暴れホスマみたいだったの覚えてる?」
「暴れホスマ‥‥そんなに乱暴者に見えた?もう、やんちゃをする年頃でもないってのに」
「ホスマと比べたらホスマに失礼か」
「私に失礼だよっ!」
そこからはトウキ無双!包丁を使いスパスパと切っていく。確か根元を残しておけば、また生えるって聞いたことがあるんだよね。あっ、一応根っこも何本か持ってこ。
夕方まで掛けて採り尽くす。採取中にトウキを食べに来た魔物達はオビトが討伐していた(私はトウキ担当ですので!)。時間的にもここら辺が限界だねってことで、今日はここまでにして帰ることにした。そして歩きながら今日の結果を確認する。
「トウキを採取してたとき何を討伐したの?」
「トングが2匹、ヒジムが3匹かな」
「ヒジムを見てみたいんだけど出せる?」
「ちょっと待って、これ」
ドサっと羊の毛皮が出てきた。
「わ、わあぁ~!羊だ!オビト、これ頂戴っ!」
「いいよ。トングの皮もいる?」
「トングも皮と肉に分かれてるの?」
「いや、これは選択肢があるみたい。今は一緒になってるけど」
「やっぱりこの鞄凄いよ!豚の皮は食べることがあるからね」
「へえ、そうなんだ。興味深いね、今回はどうする?」
「醤油がないから煮込めないんだよね、今回は分けちゃおう」
「わかった、じゃあヒジムの皮は渡すね」
「そうだ、トングの肉とヒジムの腸も欲しい!ちょい待ち!?トングの脂身と骨ってある?まだ分解してないよね?」
「うん、あるけどこんなのどうするの?はい」
「ありがとう、うへへぇ~」
私の鞄にトウキxたくさん(∞希望)、サアxたくさん、コトンxたくさん、モクの糸x2匹分、トングの肉・脂身・骨x2匹分、ヒジムの毛皮・腸x3匹分。
オビトの鞄に薬草x336本、魔草x31本、癒やし草x18本、モクの肉・皮x2匹分、ラビの肉・皮x12匹分、トングの達成条件・皮x2匹分、ヒジムの達成条件・肉x3匹分。
「早く帰ろう!砂糖を作んなきゃ!」
「今日はタクマさんの家に行くんでしょ?」
「‥‥そうだった」
「そんな顔してもダメ」
「わかってるよ‥‥」
「しょうがないな。どうせおかしいのバレてるんだから、タクマさんの家で作らせてもらったら?」
「お、オビト~!心の友よ~!」
ぐわしっと抱きつく、いや、しがみついている。
「うわっ、ちょっと!?」
「君は私のド○○○ンなのか!?そのポケットから便利なものを次々と出してくれるんだねっ!」
「ぼ、暴走禁止だってば!」
ぐぅ~「痛い‥‥」オビトにゲンコツを喰らった。
「こっちは花も恥じらう乙女だってのに、ゲンコツなんか落としやがって‥‥」
「何をもって自分を乙女と言ってるのか知らないけど、だったら少しは恥じらいを持ってよ」
「オビトはまだ子供だから、私の魅力がわからないんだね。可哀想に」
「その魅力がわかったらどうなるの?」
「そりゃあ勿論私の虜さ」
「えっ、そしたら養ってくれる?」
「だからってヒモはごめんだよっ!」
もう、何でいつもこうなるのさ。おっと、忘れる前にマーカーを打っとこ。吹き出しは「トウキ1号」だね!
ぎゃあぎゃあ、わあわあ騒ぎながら(私だけ‥‥)歩いてたら、城下町に到着した。おっ、4人目ゲットです!じっくり見比べるがいいさ、今日の私は寛大だからね、ふふん。




