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「じゃあ私達が女神だって言うの?」
「はい。わたくしと神殿の者、宮廷魔術師達で神へ祈りを捧げ、女神様方をお喚び致しました」
「ここってー、日本じゃないのー?」
「あのぅ、帰してもらうことは出来るんでしょうかぁ?」
「申し訳ありせんがお喚びすることは出来ても、お還りいただくすべはございません」
‥‥信じられない‥‥、還せないってわかってて喚ぶか?せめて‥‥もう少し申し訳なさそうに、哀しげに、嘘でもいいから涙くらい見せながら言ってくれよ。美しく見える角度で微笑まれても、いや、もう喚ばれちゃったからにはどうしようもないんだけどさ。
こんなことになるなら箪笥貯金なんかしないで、クロに高級ドックフードを買ってあげればよかった。あまりの値段の高さに諦めた超人気店スイーツの数々、食っときゃよかったぁ(涙)!昨日作った豆大福にしたって、今日の為に我慢して残しといたのが地味に凹むぜ‥‥。
しかしこの3人、姫さん相手にガンガン突っ込むなぁ。聞きたいことは一緒だからありがたいけど。仮に言ってることが本当だとしたら、父さんとクロにはもう会えないってことになるよね?父さん、ちゃんと生活して行けるかなぁ。‥‥ずずっ、ごしごし。
詰まるところ神に祈って云々言っているが、神に連なる者を喚べるという古の召喚魔術を大人数(100人以上いる‥‥)で行ったらしい。理由は、この世界アラミタにある9つの国の1つであるこの中国トルキアナや他の中国・小国を、大国ザンダルクの脅威から救って欲しいというものだった。
アラミタには大国が2つ、中国が3つ、小国が4つ存在し、隣国である大陸端の大国カトビアは豊かで穏やかだが、大陸中央にある大国ザンダルクが非常に強欲で、既に近隣諸国への侵略を開始しているとのこと。
それを知ったトルキアナの王並びに王族は世界を憂い、冒険者が古代迷宮で手に入れたという古の魔術書を秘かに入手。長い年月を掛けようやく解読に成功し、本日召喚に至ったという訳だ。
どうにかしたいけど大国相手には敵わないから神様お願い、代わりに何とかして!って感じかなぁ。凄い慈悲・正義心に溢れた国みたいに説明してるけど、実に胡散臭い。解読に長い年月を掛けてる間、他には何もしてなかったみたいだし。
オリビア王女様(やっぱり王女だった)は非常にキラびやかで疲れたり窶れた様子もなく、周りの神殿とか宮廷魔術師の人達はお腹も身体もタプっとしていてテカってるんだよね。しかも明日はこの国の貴族・重鎮を集めて、女神のお披露目パーティーの予定だって。
う~ん、アウトっぽい。
「女神様方、どうかわたくし共トルキアナをお導き下さいませ。神官長」
「はい、私は神官長を務めておりますジラルドと申します。オリビア第一王女様の命により、これから女神様方にお仕えさせていただきます」
銀髪紫眼インテリイケメン来た、若そうなのに貫禄が半端ない。
「神官長には、女神様方の精霊契約などを含めた生活の対応を。騎士団長」
「はっ、私はトルキアナ国第一騎士団長を務めておりますライエルと申します。オリビア第一王女様の命により、これから女神様方にお仕えさせていただきます」
金髪緑眼王子イケメン来た、これぞ王道って感じの爽やかさ。
「騎士団長には、女神様方の適正に応じた技術の育成を。魔術師団長」
「はい、私はトルキアナ国第一魔術師団長を務めておりますマリウスと申します。オリビア第一王女様の命により、これから女神様方にお仕えさせていただきます」
茶髪碧眼チャライケメン来た、‥‥もう少しボタン閉めようか。
「魔術師団長には、女神様方の精霊に応じた魔術の育成を。では神官長、後をお願いします」
「はい。女神様方にはこれより神殿にお越しいただき、それぞれのお部屋へご案内させていただきます」
イケメン達は総じて190cmオーバー、‥‥首が痛い。よく見れば王女様と他の人達も180cm位あるよ。紹介の度に小声でマジヤバいーとか、凄く素敵ぃとか、格好いいとの声が‥‥。スカートの裾でモジモジアピールなんざ、二次元でしか見たことないんだけど(メイド服のままだから超ミニだし)!凄ぇ、弛まぬ鍛錬の成果が今ココに!恐ろしいくらい可愛く見えるな‥‥こ、こんな感じ?
‥‥スカートを弄ってる隙に、いつの間にか3人ともイケメンに着いて行っちゃってた。ま、待ってくれ‥‥、追いかけたけどハグレた。どっちに行った?こっちかな?あっ、ここさっきの部屋だ。
「素敵な方がいらっしゃるかと思って喚び出してみれば、来たのは品性の欠片もない小娘ばかり。それでオーラの色は?」
「3名は黒で大変素晴らしいかと、ですが1人はなしのようです」
「最下級のオーラなし‥‥、しかもあの召喚魔法は一度しか使えないと言ったわね?」
「はい、そのように聞いております」
「ではその3名に訓練を施し、半年を目処に使えるようになさい」
「なしの者は如何なさいますか?」
「城で抱えていてもただの穀潰し、早々に追い出すのよ」
「畏まりました」
うわぁ~、展開が早い!もうちょっとこう、隠された能力が!とか、秘められた力が!みたいなのを気にしないもんかね。何となくわかってたよ。王女様が自分が一番+カースト至上主義らしいのは。しかし絶対私っぽい、どうすっかなぁ。
大当たり~、どんどんぱふぱふ~!まず部屋が物置部屋みたいで、色々な道具とか積み重なった本が所狭しと置かれている。
食事は一緒だったけど、メニューが全く違かった。3人はコースメニューで品数が半端なく、内容はやたらと焼いただけのものが多い。でも私はワンプレートだけ、味付けは塩・胡椒のみ。実にあっさりで「今さらダイエット?くすっ」なんて嫌味付。
2粒付いていた葡萄かな?って果物が、甘くて美味しかったからいいけどさ‥‥ちぇっ。
「カレン様、リサ様、スズ様、お部屋の方はいかがでしょうか?」
「申し分ないわ。ジラルドも部屋を見に来たら?」
「ジラルドー、あたしの部屋にも遊びに来てよー」
「鈴、ジラルドの部屋に行ってみたいなぁ」
3人はジラルドさんに夢中だね。まあこれだけ格好良ければそうなるか。だが一言だけ言わせてくれ。騎士団長と魔術師団長と彼氏達はいいんかいっ!そういう私は既に名前すら呼ばれない。‥‥でも不思議と目は合うんだよね。
「本日はこのままお寛ぎいただき、明日精霊契約を行う予定となっております」
「何で精霊と契約するのー?」
「契約することで、我々は初めて魔法を使えるようになりますので」
「精霊って妖精なのー?」
「妖精はわかりませんが、魔物に良く似た獣精となります」
「可愛い子だといいなぁ」
「格好いい方が強いんじゃない?」
「女神様方のオーラは黒ですので、強い精霊と契約が出来るかと思います」
なんてファンタジーな展開なんだ。精霊は私も見てみたい!ただオーラなしらしいからな‥‥、明日どうなるんだろう?
一応お風呂には入らせて貰えた。着替えはこの国の服で白いワンピースなんだが、ぱっつんぱっつんでお餅みたいになってる‥‥。ま、まあ、それは置いといて、ここまで見た限りだと文化的にはそこまで発達していない印象を受ける。魔法でなんとか出来ちゃう分、身の回りの生活用品が開発・研究されてない感じ?何より全然泡立たない石鹸しかなかったから、髪がちょっとゴワゴワするのが気に食わん!
ぽふんっ。角を曲がった先で何かにぶつかった。‥‥顔面が埋まるこの感じ、まさか胸?‥‥お腹?顔を上げると、そこにはジラルドさんがいた。す、す、
「す、すみません!」
「イト‥‥様、お部屋にお戻りですか?」
「あっ、はい。お風呂をいただいてきました」
「そうですか‥‥、とてもいい香りがしますね」
そう言うとジラルドさんは上体を倒し、私の首に顔を埋めた。「本当にいい匂いだ‥‥」囁いてから軽く抱え込まれて固まる。一体何が起きているんだ。190cm越えのジラルドさんに約150cmの私。
はわわわわ‥‥。
「あの‥‥、ジラルドさん?」
「はぁ、失礼しました。ずっとイト様の香りが気になっていまして、つい」
「‥‥そうですか、たぶん石鹸の香りではないかと思いますよ」
「石鹸の香り、ですか」
「お風呂にあったものなので、ジラルドさんも使われているでしょう?」
「ええ、使用しております。それはそうとイト様、側仕えから聞いていないのですがどちらのお部屋にいらっしゃるのですか?」
「えっ、だ、大丈夫です。素朴で雑多な感じにとても満足しています!側仕えの方にも良くしてもらっていますし、あの、今日はありがとうございました。明日宜しくお願いします」
ペコっとしてササっと部屋へ退散する。私の側仕えだと!?そいつは何処に行きやがったんだぁ~!あ、忘れてた、今日何処で寝よう‥‥。