17-4日目
「こんにちは~」
やはり普通の音量、2回目からは大丈夫な子なのです。ワンピースも靴も、朝乾いてて良かったよ。
「いらっしゃい、昨日の今日で来るとは思わなかったよ」
「すみません、材料が集まったので来ちゃいました」
「へえ~、何を集めたの?見させてもらってもいいかい?」
オビトを見たら頷いたのでOKのサイン。
「え~っと、これ‥‥です」
昨日売らなかったものをカウンターの上に出していく。
サア・コトンxたくさん、小魔石(透明)x3個、小魔石(黒)x2個、魔石(透明)x2個、魔石(紫)x1個、魔石(黒)x2個、蒼鉱石x8個、ラビの皮x3匹分、ウルカの皮x2匹分、モクの糸x2匹分。
「これ‥‥、ちょ、ちょっと待ってね」
セイジさんが何故か慌てて入り口の扉に鍵を掛ける。
「これ魔石だよね?出すなら先に言って欲しかったな、‥‥久しぶりに冷や汗かいたよ」
「いま常識を学ばせている最中なので、ご協力ありがとうございます」
オビトさん、だんだん先生っぽくなってきてますよ‥‥。
「あの、何か拙かったですか?」
「拙いどころの話じゃないよ。イトちゃん、魔石っていくらすると思う?」
「魔石の値段ですか‥‥、魔力を持った石ころ‥‥」
今までの色々な相場、そこから魔法鞄を皆が持っていることを考えると鞄は15,000ギル位かな。使われている材料はラビの革・モクの糸・鉄鉱石・小魔石(透明)、他の材料費と製作費・手間賃を引くと小魔石は10,000ギルってところ?魔石はその20倍だから
「う~ん、小魔石が10,000ギル、魔石が200,000ギル位ですか?」
「イト、その値段はどうやって出したの?」
考えていたことを説明する。
「やっぱり考え方が面白いね」
「そ、そう?」
「魔法鞄がドンピシャで15,000ギルなのも凄いよ」
「い、いやぁ、お姉さんに掛かればこんなものさ!」
「くすくすっ、君たちを見ていると魔石も大したものに見えなくなるね」
おっと、セイジさんのことを忘れてた。昨日からオビトとのノリツッコミが冴え渡っちゃって困りますなぁ。
「イトちゃんの推測通り、小魔石(透明)は10,000ギル。これは山で採掘すれば、結構普通に見つけることが出来るから。だけど魔石になると10,000,000ギルはする、しかもこれは透明の場合ね」
「いっ、いっせんまんぎる‥‥」
「そう。大きさだけ見ると単純に20倍だけど、効果は小魔石の数百倍。魔石は採掘しても殆ど見つからないから、さらに数倍ってところかな。実は僕も見るのは初めて、それに小魔石で透明以外も初めて見たよ」
オビトも金額を聞いて驚いている。てことは、安く見積もっても小魔石・魔石だけで50,050,000ギル!?に、日本円で約1億円っ!!
「ひゃっ、ひゃわあ~!!お、オビト持ってて!」
「ヤダ、リーダーが持っててよ」
「こんなときばっかリーダー扱いしやがって!リーダー命令だ、持てっ!」
「だが断る」
「ぶっ、あはははっ、く、くくっ。ご、ごめん。じゃあ僕が貰ってあげようか?」
「そ、それは流石に‥‥お断りします」
「ふふっ、とりあえず物騒だからそろそろしまおうか」
トントン、皆揃ってビクンって身体が跳ねた。恐る恐る音のした方を振り返ると、入り口の扉の外にメリダさんが立っていた。セイジさんが扉を開けてメリダさんを入れた後、また鍵を掛ける。
「イトちゃん、オビト君こんにちは」
「こ、こんにちは」「こんにちは」
「‥‥‥‥‥」
メリダさんがカウンターの上のものを見て、溜息を付いた。
「‥‥ど、どうしてここに?」
「このお店を紹介したのは私よ?昨日の夕方会ったときに装備を変えていなかったから、お金がなかったのか欲しいものがなかったのかって思ったの」
「なるほど。冒険者ギルドへは当分行かない、イトのことだからお金を手に入れたら買いに行くだろう、ということですね」
「ご名答」
「単純ですよね」
「そこが可愛いいんじゃない」
「まあ、見てて飽きませんよ」
あはは、うふふっていう黒い笑みを浮かべながら会話が進む。2日前の癒やし系オビトは何処に行っちゃったの?
「しかし、私もここまでは予想してなかったわ」
「僕は面白い子達を紹介してくれて、君に感謝してるけどね」
「オビト君、ちなみにこれはどうやって見つけたの?」
「イトが転がっていたのを見つけました」
「転がっていたの‥‥」「転がるものなんだ‥‥」
「あれは、少し目を離した隙の出来事でした‥‥」
遠い目をして話すオビト、止めて!話を盛らないでっ!
「はぁ‥‥、昨日の比じゃないわね」
「へえ~、昨日も何かやらかしてるんだ。後で聞かせてよ」
「ええ、とにかくこれを先にしまいましょうか」
「は、はい!」
そうだった。高額過ぎて怖い、ヤバいと思うと無駄に慌てる!他に見られてないか、思わず周りをキョロキョロ見てしまう。
「これ、バレたら殺されますかね?」
「はっ?」「えっ?」「へっ?」
「いや、こう後ろからザクっ、血がドパっ、よし魔石を奪えっ!みたいなやつです」
「「「‥‥‥‥‥」」」
「それとも、殺されたくなかったら魔石を寄こしな!いやぁ!殺さないでっ!もありか」
「「「‥‥‥‥‥」」」
「あっ、それだと面が割れて捕まるな。アイツが魔石を持ってるガキだ、報酬はこれだけ出す。手段は問わないから手に入れてくれ。で、ズドンっ!うわぁ、金にモノ言わせやがって汚いぞ!」
大爆笑でした‥‥。オビトはお腹を抱え、メリダさんは涙を流し、セイジさんはカウンターをバンバン叩きながら随分長いこと笑っていた。
「むぅ‥‥」
「ご、ごめんね、イトちゃん。あ~、やっぱりいいわ」
「くすくすっ、こんなに笑ったの久しぶりだよ」
「イトはリーダー兼ボケツッコミ兼いじられ担当に決定」
「やっぱりそう思ってたんだ‥‥」
魔石騒動も何処へやら、と思っていたところにメリダさんがさらに爆弾を投下した。
「じゃあイトちゃん、説明してくれる?」
「‥‥拒否権は?」
「ないわね」
「では黙秘権で」
「自分で開けるのとこじ開けられるのと、どっちがいいかしら?」
「は、話しますっ!いえ、話させて下さいお願いします!」
「イト、何のこと?」
「あら?オビト君にも言ってないの?」
「‥‥自分でもスッカリ忘れてました」
「ふふっ、イトちゃんらしいわね。でもパーティーを組んだんだもの、オビト君にも知っておいてもらわないと危ないわ」
「メリダ、僕席を外そうか?」
「イトちゃん、セイジにも話してみない?これからのことも含めて、職業柄きっと貴方達の力になってくれるはずよ。人格は私が保証するわ」
短い付き合いだけど、私はこの2人を信用している。そして日を追う毎に思うのは、これ以上オビトとメリダさんに隠し事をしてても、絶対にバレる自信があるってこと(ココ大事)!ここで暴露しちゃえば一石二鳥、いや、ここしかない!私は鞄からギルドカードを取り出し魔力を込めた。
+-----+-----+-----+
イト・サエキ
年齢:16
職業:-
Lv:2
冒険者rank:2-1/L2
商業rank:-
スキル:-
SP:20
状態:-
受注クエスト:-
+-----+-----+
「これは‥‥、メリダどういうこと?」
「見たままよ、敢えて言うなら登録時はLv1でSP0だったわ」
「もしかして‥‥白、なのか‥‥」
「そうね、私も同意見よ」
「しかし‥‥、やっぱりオーラは見えないよ」
「白って言っても色々あるわ、明るいと見えないとかね」
「‥‥‥‥‥」
「オビト君?」
「‥‥俺は昨日ギルドカードを凝視していたメリダさんを見て、何かあるのならSPだと思っていました。レベルが2なのは、イトから聞いていたので。イト、昨日俺に話してくれたこと、2人にも話していい?」
「ちょっといいですか?私オーラなしって言われたんで、絶対にないですよ」
「「「絶対にある!」」」
オビトは<鑑定>を切っ掛けに、私の特殊スキル・習得スキルを知ったこと。スキルを取得するのに精霊契約を必要としないこと。取得しているスキルの中には、オーラ黒までのSP一覧にないものもあること。
「「‥‥‥‥‥」」
「昨日目の当たりにしたのは、スキルの数と特殊な取得方法、早過ぎるスキルとレベルの上がり方、魔物討伐の驚異的な早さ、それと異常なまでの運の良さです」
さらに昨日あったことを、オビト目線で説明する。
「‥‥言葉も出ないって、こういうことを言うのね」
「‥‥僕も」
「それでイトは全部話す気になったってことでいいの?」
「私‥‥、隠しててごめんなさい!実は3日前にトルキアナの王族に召喚されて、異世界から来たか弱い女の子なんです!これ以上本当に何も隠してないので、怒らないで下さいっ!」
「「‥‥‥‥‥」」
「へえ、か弱いかどうかは別として怒られると思ってたの?誰に?俺じゃないよね?それで言えなかったスキルは何だったの?」
「い、<異世界言語>です‥‥」
「確かにそれじゃ異世界人だってバレバレだね、イトにしては賢明な判断だよ」
「い、いやぁ~、それ程でも」
「バレる前にバラすなんて、余程隠し通す自信がなかったんだね」
「そ、その通りですぅ‥‥。う、うっ、うわぁ~ん!がぐじでで、ずびばぜんでじだぁ~!ずびぃ~」
「‥‥オビト君、あなた将来大物になるわ」
「いや、既に偉人の域‥‥」
怒られなくて安心したのか、全て暴露して気が緩んだのか、オビトにケチョンケチョンにされたのが悔しかったのかはわからないけど、何故か涙が出た。それから私はこの世界に召喚されてから、ギンガさんに会うまでのことをぽつりぽつりと話した。
「そう‥‥、話してくれてありがとう」
「メリダ、この件に冒険者ギルドは関わっているのかい?」
「冒険者が古代迷宮で手に入れたっていう古の魔術書のことね。いいえ、少なくともトルキアナのギルドは関与していないわ。トルキアナの王族が冒険者と直接取引するとも思えないから、可能性があるとすれば他国王族からの入手ね」
「いきなりきな臭くなってきたなぁ」
「ええ、2日前にマスターがしかめっ面でお城から帰ってきた理由がようやくわかったわ」
「ということは、商業ギルドマスターも招かれてる可能性が高いね」
「そうね、それとなく探ってみるわ。ところでイトちゃんは今何処に住んでいるの?」
「オビトの家の宿にお世話になっています」
「もし良ければ私の家に来ない?」
「‥‥ありがたいお話ですが、お断りします」
「もちろん1日2食付きでタダにするわよ」
「それでも‥‥です。いま私がここにいられるのは、オビトとギンガさんレイアさんに出会えたから。この世界のことを教えてくれて、助けてくれて、導いてくれて、一緒にいてくれたから。だから役に立ちたい、ううん、私離れたくないんです」
「イトのバカ。そこまで言われたら、野望するしかなくなるじゃないか」
「私をリーダーにしたのはオビトなんだから、野望するのは当たり前だよっ!」
「くすくすっ、君達は本当にブレないね。ちなみに野望って何のこと?」
「イト曰わく、生き抜いてお菓子と塩以外の料理を食べること、冒険者になって稼いで宿の役に立つこと、材料を集めてタダで色々なものを作ることだそうです。お菓子と塩以外についてはわかりませんが、期待してていいと思いますよ」
「イトちゃんだもの、想像もつかないわ」
「まあ、還れる方法がないっていうのを鵜呑みにして、野望を企てるような人ですからね」
人を悪の総帥みたいに言わないで欲しい‥‥。とにかく全部打ち明けたし、後は野望を現実のものに‥‥ってオビトに洗脳されてる!?
「そういえばメリダさん、お仕事はどうしたんですか?」
「休憩時間に来ただけなの、もうそろそろ戻るわ」
「昨日オビトと話したんですけど、1週間冒険者ギルドへ行かないことにしました」
「わかったわ、その間にヤミルと何かしら対策を練っておくわね」
そう言うとメリダさんは戻って行った。ではでは、これより野望のために1週間製作に打ち込みますか!
「セイジさん、今日持ってきた材料で私とオビトの魔法鞄・防具・服・靴を作りたいんです!あ、後ついでにネックレスの紐も!それと製作に必要な裁縫・細工・錬金道具が欲しいので、アドバイスして下さい!あと売っているお店で、いいところを教えてもらえませんか?それから使用材料はわかるんですけど、スキルを使った作り方っていうのがわからないので、是非ともご指導いただきたく!」
「ちょっ、ちょっと待って!早過ぎて半分もわからなかったよ、イトちゃん落ち着いて」
「すみません。野望が絡むといつもこんな感じなんで、慣れてやって下さい」
「いつからオビトは私の保護者になったのさ?」
「出会った瞬間からじゃない?」
「くくっ、そろそろ僕のお腹が限界だから‥‥、もう一度言ってもらえる?」
今度はゆっくりと言う。具体的には、今持っている魔法鞄より性能がいいものを2個、これが可能かもわからないのでそれも知りたい。持ってきた材料で、私とオビトのサイズの防具・服(下着含む)・靴。それから、石をネックレスにするための革紐。
これらを作るのに必要な各種スキル道具は何か、またその入手方法。そしてそれを販売しているお店の紹介、セイジさんが利用している所ならなお良し。スキルを使用した作り方を知りたい、出来れば作っているところを見せてもらいたい等々。
「‥‥いっぱいだね。1週間で出来るかはイトちゃん次第かな?」




