鹿野宮三子
「もちろん代理母出産よね?」
高圧的な態度で三子は木嶋に言った。木嶋もそのつもりではあったのだが、あらためて言われたことで攻撃的な言葉がついて出た。せめて育児はやれ…
そこまで出たところでたたみかけるようにまくしたててきた。
「いつの時代のこと言ってんの?大体いまどきこの国で妊婦なんて流行らないって、マタニティウェアなんてもう売ってないし!育児は女のすることだとか思ってんの?冗談じゃない、わたし育休なんて取らないからね?あなたより給料高いんだから」
鹿野宮三子
木嶋の交際相手。艶やか黒髪のオッドアイ(茶と黒)の女性。両親は公務員であり、彼女自身も公務員である。「人口調整省」に所属する研究職、いわゆるリケジョってやつだ…
彼女も代理母出産で生まれたらしいが、詳細は聞いてない。
とにかく、いまどき女子は代理母が当たり前になってる。リスクを伴った妊娠なんてのはナンセンスだ。代理母ってどこのだれなんだという詮索をするのもナンセンス。どこか国外の女性なのは確かだ。代理母出産も安全性が確保され、保険の適用になっている。なにより「桃紙」が来たとなればそれは国家の事業、申請から乳児受け取りまでは無料である。
「で、病院はいついくの?」
今は時間がないとばかりに三子はせっついてきた。木嶋は、まだ三か月あるしまだいいだろうとはぐらかそうとする
「わたし、あなたほど暇ないけど!とりあえず来週の17日の日曜日、この店で10時でいい?」
わかったというと、足早に去って行った。カラン、ベルの音が響いた。
木嶋はコーヒーを口に含み一息ついた。
カラン、カラン、大きなベルの音とともに黒髪の女性は戻ってきた。
「忘れてた!何しに来たんだろーわたし。はい、三十路おめでとう」
赤い包装、ピンクのリボンが施された両手に収まる位の箱を木嶋に手渡し、三子は足早に去って行った。カラン、三度ベルの音が響いた。