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ようこそ、怪奇現象探偵事務所へ!  作者: 鵺這珊瑚
第三章 幼女にときめいてしまった私
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第十五話  二つ目の仕事

「優人先輩。」


「なに、大西さん。」


もう見慣れたクラス教室。机に座る私。

私はぶらぶらと足を動かす。


「氏神様、って何の事なんですか?」


「知りたい?」


「はい。」


「……今、ここにいるよ。」


「え? いませんよ。」


「氏神様、姿を見せてください!」


優人先輩が手をメガホンにして教室に叫ぶ。


「……なにもありませんけど。」


「いや、いるよ。」


確かに、優人先輩はあの事件を解決した。

そのおかげで、周りから認められるようにもなった。

でも、私は“それ”が見たくても見られないんです!


「いてっ。」


頭がこつん、と叩かれた。


「優人先輩、何するんですか!」


「僕は何もしてないよ。」


確かに、二人の距離は遠い。


「これ、そち。」


「ひょえーっ!」


後ろだった。


「ふふふ。わらわは怖いか? 怖いか?」


……見た所、恐くはなかった。

私はなんで声をあげたんだろう、というレベル。

むしろ、可愛い。

ちょこんと机に座るのは、ぶっちゃけて言うと、着物を着た幼稚園児。


「氏神様、人を驚かすのは妖怪の仕事で、氏神様の仕事じゃありませんよ。」


「いいや、わらわは人を怖がらせるのじゃ!」


ため息が優人先輩からでた。


「で、そち、名前は。」


偉そうだな。幼稚園児の癖に。


「大西里奈。」


「なんじゃ、そのぶっきらぼうな言い草は! わらわは神じゃぞ! 神!」


私は疑いの眼差しを向ける。


「な、なんじゃその目は! 無礼な! わらわは嘘は言っておらん!」


疑いがさらに強まる。


「まあまあ、氏神様。大西さん、氏神様が凄くて緊張してるんですよ。」


「ほう。それならまあ良い。」


私は少しむっとする。


「お、そうじゃ。」


氏神様は、机からひょいと飛び降りると、優人先輩の元へ歩いて行く。


「霊媒師や。実は、またわらわの力が弱まってきたようでな。今度、またあれやってくれんか。」


「やはり、そうだったのですね。」


「何が、何が?」


私は会話に入るべく声を上げる。


「この前の血の階段騒動だけど、あれで大西さん、足掴まれたでしょ?」


「はい。思い出すと、今でも足首が掴まれてる気がします。」


「あの地縛霊は、僕が一年生だった頃にはいなかった者なんだ。いなかった、というか、正確にいえば力が抑えられていたって言った方がいいかな。」


「……どういうことですか?」


「元々ここに湖があったって話はしたよね? その湖には、昔から、神様が住んでいたと信じられていたんだ。事実、一年に一度、神々しい輝きを放つ白鷺が舞い降りていたらしい。」


「それがわらわじゃ。」


は?


「そう。それが、この氏神様。つまり、この土地の守り神。氏神様は、一年に一回白鷺に姿を変え力を使い、ここ一帯に雨を降らしたんだ。人々は、氏神様を崇め、敬った。」


へえ。この幼児がねえ。


「それも、湖が埋め立てられてしまってからは出来なくなってしまったのじゃ。そのおかげで、わらわはこうして受けたくも無い教育を、強制的に受けているというわけじゃの。ま、そのおかげで、わらわの頭は良くなったがな。」


「一たす一は?」


「い、いちたすいち!? なかなか高度な問題を出しよるな、小娘。」


お前も小娘だろ。


「うーんと、こっちがいちで、こっちがいち……。」


手を一生懸命使い計算する氏神様。その伸ばした指がプルプルと震えているのがまた可愛い。


「さん、じゃ!」


なぜそうなった。


「違うのか!? ぐっ、小娘に負けた……。まな板に負けた……。」


だからお前もだろ。というか、その禁句をどこで覚えたこの幼児は……!


「しかたない、そちの願いを一つだけかなえてやろう。」


「いいの?」


「いいぞ。」


自信満々の氏神様。私は考えこむ。そうだなあ。中間テストで満点取らしてもらおうか。いや、いきなりそうなったら花が無い。私もちょっぴり悪いところがあるなあ。

 よし、ここは私の胸を大きくしてもらって……いや、そうなれば、私が毎日続けてきたバストアップエクササイズが無駄になってしまう!

止むをえまい。


「なんでもいいんだよね?」


「いいぞ。」


「氏神様を(しもべ)にください。」


氏神様はくりくりした目を大きく見開いた。そして、手をぶんぶんと振る。


「そ、それは困る! わらわは土地の守り神じゃ、誰かと主従関係になるなど……!」


「自分から言い出した事ですよね?」


「うぬぬ……。」


氏神様はしばらく私を睨んだ後、ゆっくりと、正座で座った。


「約束は、守る。それだけのことじゃ。……お、大西殿。」


大西殿。いい響きだなあ。


「よし、お前の名前はなんという。」


「気安くお前と言うな!」


あ、駄目なんですか。


「わらわは白鷺姫じゃ。」


「え、氏神様に名前なんてあったんですか。」


優人先輩は驚いた表情で言う。


「そう、わらわを呼んだ少女がおったのを思い出した。これからはそう名乗ることにする。」


白鷺姫が私を見る目が、どこか懐かしげだった。


「じゃあ、これから氏神様の事は、姫、って呼ぶね。」


「姫君の“姫”じゃな。よいではないか。気に入った。……これからよろしく頼むぞ、大西殿。」


姫の満面の笑みが、私の心を、ズッキューンッ!と貫いた。やばい、可愛いわ、この子。


「……大西さん、氏神様に変なことしちゃダメだよ。」


……ちっ。




「じゃ、大西さん。このクラブの二回目の仕事だ。姫の力を補完する。」


優人先輩は立ち上がり言った。


「姫の力を?」


「うん。姫は今、弱ってる。媒体であった湖が、埋め立てられてしまってるからね。祠や社はいくつか町

の中にあるけど、それだけじゃ不十分だ。」


「だから、姫の力を取り戻させるんですね。」


優人先輩は頷く。


「先輩。やることはアバウトな感じで分かりました。でも、私姫の力を補完する必要性が良く分からない

んですけど。もし、姫が力を失うとどうなるんですか?」


私が聞いた。優人先輩の表情が、いきなり険しくなる。


「そうなったら、厄介だね。この地域は、元々霊が近寄ってきやすい場所なんだ。特に、この学校は霊を良く見る。それが無害な霊だったらいいんだけど、実際はそうじゃない。ほとんどが、恨みや憎悪の感情を持った悪霊達なんだ。でも、僕たちは学校でそう言う現象を見ない。……何故だと思う?」


私は閃いた。


「……D棟に秘密があるとか!?」


優人先輩の顔から、さっと血の気が引いた。姫も、怯えたような表情を見せている。


「え? 私、何か……?」


「いや、あそこには何もないよ! 面白いなあ、大西さんは!」


「まったくじゃの!」


二人は、あははと白々しい笑い声を上げる。


私はD棟の秘密を知りたかったが、止めておいた。あの驚き方は、尋常ではない。


「じゃあ、何なんですか?」


「姫が悪霊たちが出入りできないよう結界を張っているんだ。」


「結界?」


「うん。昔のアニメで言うと、シールドだとか、A○フィールドとかと同じような物だね。」


「へえー。……って、先輩アニメ見るんですか!?」


私が言うと、優人先輩は顔を赤らめた。可愛い。


「でも、その結界が破られちゃう事ってないんですか?」


「あるわけない……と、言いたいところじゃが、そういう場合もある。」


姫が答える。


「そのときは、姫が自分の力で追い返しているよ。あれは見物だったなあ。あれを、除霊に取り入れられたらいいんだけど。」


え、私もみたい。


「まあ、そういう場合は滅多にないな。……ただ、もうすでに中にいる奴が一匹いるが。」


優人先輩の顔が強張る。


「さっき、D棟って、大西さん言ったよね。僕、あそこには何もないって言ったけど、今更大西さんに嘘をつくのも悪い気がしてきたよ。……実は、あそこが封鎖されてるのには理由があって……。」


「最終下校の七時まで、あと十五分です。まだ校舎内に残っている生徒は、速やかに下校してください。」


あー、大事な時に風紀委員のアナウンス! 止めてほしいよ!


「ほれ、早く帰った方が良いぞ。あれをもう一度見たくないからの。」

姫は言った。あれ、とは、風紀委員の罰則のことですか。


「じゃあ、そうしようか。大西さん、続きは明日で。」


「はい。……じゃあ、バイバイ、姫。」


「馴れ馴れしい、というところじゃが、大西殿はわらわの主じゃ。ではの。」


姫は、シュンっと音を立て消えた。


「可愛い……。」


「……大西さん、置いてくよ。」


気付けば、優人先輩は走り始めていた。


「あ、待ってください! 酷いですよー!」

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