第一話 飛び級制度
静まり返った、ありふれた教室。ここは、私が今日入学した白鷺中学校だ。本当なら一番初めには入学式がある。そこで、少し大きい制服を着た生徒達は、担任に名前を呼ばれ返事をする。そして、親は成長したね、と涙を流すのだ。……だけど、私にはそれが無かった。必然的に、私は中学生になった気がしなかった。
先生の紹介で、一斉に好奇の目が向けられる。
うぅ……。そんなに見られると緊張しますよ、先輩方……。
「大西さん、どうぞ」
美人教師に急かされるまま、口を開く。
「お、大西里奈と言います。入学したてでまだまだ分からないことが多いですが、この白鷺中学校で精一杯頑張っていきたいと思っています。よろしくお願いします」
礼をすると、まばらな拍手が起こった。思った通り、私を歓迎しているというわけではないみたいだ。
それどころか、私を笑っていたり、顔をしかめている女子もいる。男子の方はそうでもないみたいだが。
はあ。こんな目に遭っているのも、全部あの一通の手紙のせいだ。
郵便局の人がいかにも大事そうに扱っていた封筒。封筒ごときになんでそんなに手間を掛けるのかと思ったが、中身を見た私は思わず手をポンと打った。それは、国務大臣からの物だったのだ。内容は、私に一年飛び級を命じるものだった。
今年から実施された飛び級制度。どうやらそれに選ばれてしまったようだ。小六のテストで満点以外を取ったことが無かったから、それが原因だと思う。
でも、入学して周りが一年上って、なんだか転入生になった気分だ。しかも、丁寧語を常時使わないといけないという……。ああ、ストレス溜まりそう。
「大西さんは、飛び級で二年生の教室に入ることになりました。皆さん、この学校の事や、色々な事を教えてあげてください」
はーい、と気の抜けた返事。大丈夫なのか、先輩。
「それじゃあ、大西さんはあそこに座ってください」
言われた通り、教師が指さした空席に座る。思わず、ため息が出てしまった。
荷物を脇に置こうとした時、私はふと視線を感じた。見ると、隣に座っていた男子生徒がこちらを凝視していたのだ。目が合うとその男子は慌てて目を逸らした。何か顔に付いてた……? いや、付いてない、大丈夫。……このままでも気まずいし、一応挨拶でもしとこうか。
「あの、よろしくお願いします」
「……よろしく」
向こうを向いたまま挨拶? 無愛想だなあ。うーん。結構イケメンなんだけど、性格に難あり?
それにしても、頭痛がなかなか治んない……。寝不足かな。最近良く眠れた気がしないんだよねぇ。
「……それでは、もうすぐ始業式が始まるので、体育館の方に移動してください」
「起立! 気を付け! 礼!」
きびきびした号令に、私はやっと二年生の風格を感じることができた。
へえ。本当に号令ってするんだ。漫画の中だけだと思ってた。
ところで……体育館ってどこだっけ?