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「たぶんだけどさ、あ、教卓見て」
3組に帰ってきた私達は、下らないとりとめのない話をし続けていたところに突然そんな文を白砂は書いてきた。
私はそれに従って教卓を見る。
「ここでも、文字が見えると思うんだけどどう?」
私はその文字を見て黒板に返事を書いて教卓の文字を消した。
教卓に落書きはいけません。
「見えるよ」
「消された………」
「先生に見られたら怒られるのは私だよ!」
「条件はこっちも同じ」
「そうでしたー…………」
ネットとかやってると、ふと、忘れたりするけれど、向こう側にはきちんと生きている人間がいる。(白砂はどうだかわからないけれど。)
それを忘れるなんて不覚。
「そろそろ、見えなくなると思うから俺の推理言っとくな?」
「見えなくなる?」
「夕陽」
私はその文字を見て、ふと、窓から見える外を覗いた。さっき見た空よりいくらか日が沈んできている。
もうすぐで夜だ。
「夕陽が?」
「夕陽が入っているところだけ、文字が見えるんだと思うんだ。夕陽が反射をしている、少しだけの空間が。二組からだと文字が見えなかっただろ?二組の前には大きな木があって夕陽の光があまり、入ってこない」
「ふんふん」
「偶然、同じような環境だった場所に偶然、同じように夕陽が差し込んで偶然、人が二人いた。まあ、この辺は分からない。俺らがパラレルワールドと繋がっているだけかもしれない。俺、3次元。朔、2次元」
「薄っぺらくねーよ」
「2次元なめんな! まあ、夕陽が沈んだら文字はたぶん見えなくなると思う。明日になったら環境変わるだろうしもう、さよなら、みたいな」
つまり、奇跡の夕陽で繋がった私たちには二度とこの奇跡は起きないだろうということだろう。
白砂の考えがあってるかどうかは分からないけれど、もう話せないことは確かだろう。
「悲しいね」
「うん? うん あ、先生」
「はじめましてー」
やっときたか吉田先生。こっちの世界と同じならパンチとかと呼ばれている先生の話が長くて会議とかが中々終わらなかったのだろう。可哀想に。
白砂君がそうじサボってまーす!
「先生、頭、いいぜ」
「なになに?」
「電話番号とか教えればいいじゃんだって」
「そんな、終点地点みたいな答えを! こういう話じゃそういうのしちゃだめなんじゃない!?」
「現実だし、いいじゃん」
と、11桁の数字と、その下に英語と数字の列が書かれていく。@がついていることからメールアドレスだと理解する。
私もそのとなりに携帯電話の電話番号と携帯電話のメールアドレスを書く。その下に住所も付け足して。
知らないどこかの誰かさんにここまで教えちゃいけないだろうが、ネットで繋がっていないチョークの仲だからいいだろうと無理矢理理由をつけて、いいだろうということにしておこう。
いざというときは変えればいい。
白砂も住所らしきものを書く。
「思ったより、私達遠いんだね」
「だな」
この浮かび上がる文字を見て、向こうの吉田さんはどう思っているのであろう。
「いつで――――――」
白砂が書いたであろう文字が夕陽にあたっていないところに来て、文字が途切れる。
白砂の仮説は間違いではなかったようだ。
「読めない」
私は矢印つきで指示する。
「本当だ、日陰。俺の説大正解」
「おめでとう。」
日が沈むのは本当に早い。
もう、数分しか残っていないだろう。この奇跡の時間はもう終わり。
「白砂、さっきなんて書こうとしたの?」
「さっき? ああ、いつでも連絡してこいよ」
「いやらしい」
「何が!?」
書いたばかりの文字を消して、次から次へと文字を書いていく。いつも、字がきれいと言われる私の文字も焦って書いているので、とても汚い。
「ああ、もう―――」
白砂の文字が日陰に入って見えなくなる。
「よめない」
地球が憎くなってきた。
このまま、時が止まればいいのに!
「ああ、もう日が沈んで」
その通りだ。
奇跡の時間はもう終わりを迎えようとしている。
「よし、白砂」
わずかに残っている空間に小さく文字を書く。
「なに?」
私は突然書くペースを落としてゆっくりと書いた。白砂の方ではかっかっと一文字、一文字文字が浮かび上がってくるように見えているだろう。
「別れの挨拶をしよう」
私はその文字を書いてから、日が入ってきているわずかな隙間に書いてある文字を一気に消した。
「さよなら、白砂」
「さよなら、朔」