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「掃除が終わりません」
そう、付け足された黒板の文字を見て、私の思考は一瞬停止した。
3組のだれかが教卓のしたに隠れていて、私を脅かすためにやっていることなのかもしれないと思って、教卓の下を除き込んでみたが何もなく、黒い空間が広がっていた。
他のところも一通り探してみたが誰一人、人はおらず、廊下に出て周りを見渡して誰もいないことを理解してから諦めがついた。
私は、黒板の前に再び立ち、文字を書いた。
「なんで、掃除してるの」
数秒後に返事が帰ってきた。
「ちょっとやらかして、先生の掃除を手伝ってたんだけど、先生がどこかに行ったまま帰ってこねぇ(泣」
「やらかすのがいけないと、思う」
「知らない人にそんなこと言われたくない」
「同意」
「誰」
そう、黒板に文字が浮かんでから私は考える。
黒板に、何もなくても白い線だけ浮かび上がってくる。一角一角一線一線浮かび上がってくる。
まるで、黒板と会話しているように。
………果たして、知らない誰かに名前を教えてもいいのか少し戸惑ったが目の前に人がいないことからその手の警戒はしなくていいだろうと判断した。
「萩原朔」
「おぎはら……読めない」
きちんと矢印付きで示してきた。
「はぎはら さく」
「おぎはらじゃないんだ。珍しい名字かあるものだな」
「レディに名前だけ聞いて名乗らないなんて憮然した」
「白砂諒太」
「しらすなりょうた?」
「ん、そう」
知らない名前だ。私のクラスには34人いて、一人も間違えずにフルネームを言える自信があるが(いや、ないけど。)白砂諒太何て言う名前の人はいなかったはずだ。
3年の学年にもいないはず。白砂も諒太も。
「知らない、誰だろう。白砂君も私を知らないみたいだね」
「黒板に浮かんでくる白い文字としか知らない」
「私もだ」
どうやら、向こうからも浮かんでくる文字しか見えていないようだ。
ここで一つ、非科学的な誰に聞かせても無味乾燥な仮定が浮かんだ。……例えば白砂君は死んでいて、黒板にだけ文字を浮かばせることができる。本人はそれを知らないで文字(私)と会話しているという、論。
「萩――書くのめんどい、朔は何組?」
原の上の棒だけ書いて諦めて下の名前で私を呼び始めた、白砂君。
そういえばファーストネームで男に(白砂君って男だよね?字体的にも。)呼ばれるのはすごく久しぶりなような気がする。
「3組だけど」
「今も、3組で書いてる?」
「うん」
「同じだ」
「同じところと違うところを見つけて、この不思議現象を解決させようとしてるのね! 見た目より頭いいね! 白砂!」
「見た目!? 見えてるのか!? と、突然呼び捨てにするな! それに、ムカつくぜ!」
「今日の日にちは?」
「無視された、3月3日」
「同」
「担任の性別」
「女の人、吉田さん」
「おなじ」
「クラス目標は『良いクラス夢気分』」
「適当すぎだよなw」
といった感じに質問していったら、白砂と違うところは席と出席番号。それに、なぜか学校の名前だけだった。
そろそろ黒板に文字が書ききれなくなってきて隅の方に無理矢理書くようになってきた頃、白砂がこう切り出してきた。
「2組、行ってみないか?」