疑心暗鬼フラグを回収しました。(後)
※念のため、終盤死ネタ注意です。
悶々とした思いを抱えながら、その原因のアホと並んで店に向かっとると、なんやアホの様子がおかしい。
信号待ち、人混み、その他の場所でもずっとキョロキョロしとって、めっちゃ挙動不審。
「大丈夫か?今日なんかおかしいで」
「心配するなら帰らせてくれ……」
「それはアカン」
茶化すつもりで声を掛けたら疲れた様子で言われて、つい即答してもうた。
そもそも俺、全然心配してへんし。
とはいえ、また一つ溜め息を吐いて周りを見回しながら隣を歩くアホに、何も思わんでもない。
……少し、調べてみるか。
カラオケ店に着いてすぐ、俺は携帯だけ持ってトイレへ向かった。
トイレにもかなりの音量で流行りの曲が流れているので、あまり周りを気にせず電話を掛ける。
『――はい』
「俺やけど、ちょぉ調べもん頼むわ」
何時も通りワンコールで出た自称探偵に、前置きをすっ飛ばして用件を伝える。
『承りました、早急に取り掛かります。報酬はいつもの口座に』
「おん、よろしゅう」
簡潔な会話だけで通話を終了する。
結構な額になるやろう報酬に財布の中身を心配しながら部屋に戻ると、アホがめっちゃノリノリでアニソンを歌っとった……さっきまでの警戒振りは何やってん。
「自分、えらい楽しそうやな……」
「テンション上げないとやってられないからな!」
思ってたよりも疲れた声が出た俺とは対照的に、アホはうざい程のハイテンションで答えた。
それから十時間、アホがハイテンションを保ったまま、フリータイムは終わりを告げた。
店を出ると外は真っ暗。
まあ、明るかろうが暗かろうが関係ないと思いつつ隣を見ると、朝よりも警戒心を強めた様子のアホ。
今度はさっきまでのハイテンションをどこやってんな……
自称探偵からの報告はまだ無い。
でも、危機察知能力の高いコイツがこんなに警戒してるんやったら、俺も少しは気ぃ引き締めなアカンかもな。
そうして二人揃って警戒しながら無言で歩く。
しばらく歩いてアホの家に着くと、軽い挨拶を交わして別れる。
一人になっても気を張って周りの気配を探り続けていると、後ろから思い出したようなアホの声が聞こえた。
「エイプリルフール!」
えいぷりる、ふーる……?
直訳すると、四月馬鹿。
思わず足を止めて振り返ると、目が合ったアホは遠目にも分かるほどニンマリと笑いよった。
……このアホ、俺が何もあらへんのに警戒すんのを見て内心笑っとったな。
俺、自称探偵に高い金払うてお前を警戒させとった原因調べさせとんのに。
言いたいことは色々ある。
でも、何やどうでもよくなってしもた。
俺は万感の思いを一つの溜め息に込め、アホを放置して家路へ着いた。
この数ヶ月後、アイツはトラックに轢かれて死んだ。
「まだ、死にたくない言うてたんちゃうんかい……アホ」
子どもを庇って死んだ、という話を聞いた。
一般人やなかったら、トラックを避けて無傷やったかも知れん。
一般人やなかったら、トラックを素手で止めて死なんかったかも知れん。
一般人やなかったら、先に子どもを注意するタイミングを無理矢理作ってトラックに轢かれんかったかも知れん。
……もし、生まれ変わった先でまた会ったら、 今度は声を大にして突っ込もう。
「一般人が、お前みたいに危機察知能力高い訳ないやろ!」
そういうコイツは何者なんでしょう。