疑心暗鬼フラグを回収しました。(前)
栄太視点
「悪いな、栄太」
ブチッ――ツーツーツー
一方的に切断された通話に、無性に腹が立った。
握り潰さんように気ぃ付けながら、携帯を睨み付ける。
「なめとんのかアイツ……」
一つ深呼吸をして、俺に喧嘩を売ったアホの家に向かった。
ピーンポーン――
チャイムを一度鳴らしても反応はない。
けど、さっきの話からして家におるんは確実。
居留守は許さんとばかりにチャイムを連打しとると、少しして玄関のドアが微妙に開く。
俺はドアの隙間から腕を差し込んで、ヤツの頭を鷲掴んだ。
「ぎゃああぁぁ!出る!何か出るうぅ!!」
痛みに苦しみ悶える演技が上手すぎる友人に、俺はイラついてさらに力を込める。
「自分、ドタキャンした上に一方的に電話切りよってからに、ええ度胸しとるなぁ?」
「ああぁずみまぜんごめんなざい痛い痛いなんか出るうう!」
……いくら演技でも、これ以上騒がれると警察に通報されるかも知れん。
俺は仕方なく手を離して、爽やかな笑顔で言い放つ。
「そんだけ叫べるんやったら出掛けられるな」
「……え?」
「おら、行くで」
「えっ、ちょっ……」
地面に膝をついとるアホの腕を掴んで立たせ、そのまま歩き出す。
「まっ、待った!マジで今日は無理なんだって!」
「せやから、その理由を言ぃな」
「だって俺まだ死にたくない!」
「何やそれ、殺し屋にでも狙われてんのかいな」
一般人並みの力で抵抗するフリをしとるアホに理由を聞いても、予想通りマトモな答えは返って来んかった。
というか、たとえ殺し屋に狙われとってもコイツなら死なん気がするわ。
そう思いながらアホなジョークに笑って返すと、友人は一つ溜め息を吐いて抵抗するフリをやめた。
まるで諦めたように見えるけど、ほんまに嫌ならフリやなくて本気で抵抗するやろ。
前に、何で一般人のフリしとんのか不思議に思ってコイツに直接聞いたら、真顔で答えられた時のことを思い出した。
「フリも何も、俺は正真正銘、どこにでもいる一般人だ」
どこにでもおる一般人が、お前みたいに危機察知能力高い訳ないやろ。
喉まで出掛かったその言葉を飲み込んだせいなのか、コイツの一般人のフリは続いとる。
いい加減、突っ込んだ方がええんやろか……
危機察知能力が高い=フラグメッセージのおかげ