疑心暗鬼フラグが立ちました。(後)
栄太に無理やり連れ出され、カラオケ店まで行く道のり。
抵抗を諦めたとはいえ、やはり死亡フラグによる恐怖は拭い去れない。
一体どこにフラグ回収の危険性が潜んでいるか分からないため、俺の視線はキョロキョロと辺りを彷徨う。
信号待ちをしていて、車が突っ込んでこないか。
人の多い大通りで、通り魔が現れないか。
ボルトの緩んだ大きな看板が、俺の上に落ちてこないか。
死亡フラグ回避のメッセージが響くまで、まったく油断ができない。
「大丈夫か?今日なんかおかしいで」
挙動不審な俺に栄太が声を掛けてくる。
しかし、こうなってるのはお前のせいだと叫びたい。無理だけど。
「心配するなら家に帰らせてくれ……」
「それはアカン」
ですよね。
その後、ダラダラと文句を言いつつも何とか無事フラグ回収せずにカラオケ店にたどり着いた。
「俺ちょぉトイレ行ってくるわ」
部屋に入ってすぐ、栄太がそう言って居なくなったので、一人で先に歌い始める。
落ち込んだ気分を引き上げるため、ハイテンポなアニソンを選曲。
「♪~♪~♪~」
間奏も口笛を吹きながらノリノリで歌っていると、栄太が戻ってきて何故だか疲れた様子で言う。
「自分、えらい楽しそうやな……」
「テンション上げないとやってられないからな!」
そんなこんなでハイテンションのまま十時間のフリータイム終了。
午後八時、店を出ると外はすでに真っ暗だった。
これはマズイ……暗いとそれだけ危険性が高まる。
朝よりもさらに警戒心を強め、栄太と並んで帰路を辿る。
そして死亡フラグ回避メッセージが響かないまま俺の家に着き、門の前で栄太と別れる。
「ほな、また来週」
「おー」
ヒラヒラと手を振りながら離れていく栄太の後ろ姿を見送っていると、ついに脳内にメッセージが響いた。
『ピコーン♪エイプリルフール!』
「エイプリルフール!?」
確かに今日は四月一日。
だが、昨年はこんな事は無かったので油断していた。
まさか、命の恩声として信頼していたメッセージに騙されるとは……!
心の中で悔しがっていると、栄太が振り向いて俺をガン見していることに気付いた。
そういえば、さっきメッセージに驚いて思わず叫んでしまった気がする。
このままだと、砕け散ったハートを靴の底で踏みにじった挙げ句に唾を掛けるような言葉と共に病院を勧められてしまう。
しかし、精神的に疲れきっていた俺は愛想笑いをするしかない。
栄太は呆れた顔と共に溜め息を吐き、何も言わずに去っていった。
……何気に一番傷付く反応だった。
この数ヶ月後、俺はロベルト・フォン・クラウゼヴィッツとして異世界に生を受けた。
さらに数年後、その世界で出会った不思議な少年に謎の突っ込みをかまされる事となるのだが、フラグメッセージを疑う癖がついた俺には知る由もなかった。