疑心暗鬼フラグが立ちました。(前)
※四月馬鹿ネタで、一応パラレルワールドとお考えください。
『ピコーン♪疑心暗鬼フラグが立ちました。』
夜中、眠りが浅い頃にそんな声が響いたが、俺は気にせず深い眠りへと落ちていった。
『ピコーン♪死亡フラグが立ちました』
「……は?」
高校二年に上がる始業式が一週間後に迫った四月一日。
友人の栄太とカラオケに行くために家を出た俺は、あまりに突然の危険すぎるフラグメッセージに呆けた声を出した。
死亡フラグ。それは前にも一度、下校途中に通り魔が発生した際に立ったことがある。
あの時は通る道を変えて難を逃れた訳だが……
今は玄関から足を踏み出した瞬間にフラグが立った。
これが意味することはつまり。
今日は出掛けたら死ぬ。
それを認識した瞬間、俺は何の躊躇いもなく玄関へ戻り、ドアにしっかりと鍵を掛け、栄太に連絡をする。
『――――もしもし?』
数回のコール音のあと電話に出た栄太に、俺は至極真面目な声で告げる。
「悪い、今日ちょっと出掛けられなくなった」
『なんや、風邪でも引いたんか?……いや、ちゃうな。馬鹿と何とかは風邪引かん言うし』
「誰が馬鹿だこの野郎。俺はあくまで普通だ、普通」
俺は命が懸かってて必死だというのに、コイツは相変わらず俺のガラスのハートを金槌で叩き割ろうとしてくる。
「とにかく、今日は行けなくなったから。じゃあな」
『ちょぉ待ち、俺はドタキャンが嫌いやねん。せめて理由話さんかい』
電話を切ろうとしたら止められた。
理由か……
死亡フラグが立ったから、なんて言ったら、コイツは砕け散った俺のハートを靴の底で踏みにじるような言葉と共に病院を勧めてくるに違いない。
「家庭の事情だ」
『その言葉で勝手に納得してもらえるんは季節外れの転校生だけや』
む、さすがに無理か。こうなれば最終手段だ。
「悪いな、栄太」
一言だけ言って一方的に電話を切る。
そしてすぐさま、携帯の電源もオフにする。
「あーぁ……次会った時が怖いな」
それでも、死ぬより怖いことは無い……多分。
しかし、次会った時、という俺の考えは甘かった。
電話を切った十数分後、家のチャイムが鳴った。
インターホンのモニターで確認すると、玄関前に居たのは鬼の形相をした栄太。
あ、俺死んだわ。
死亡フラグを回避しようとして、逆に死期を早めてしまったようです。
父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください。
などと考えている間もチャイムの嵐が家に鳴り響いている。
意を決してドアを少し開けると、隙間から伸びてきた腕に頭を鷲掴まれた。
「ぎゃああぁぁ!出る!何か出るうぅ!!」
あまりの激痛に俺はドアノブから手を離してしまい、栄太のもう片方の腕でドアはあっさりと開け放たれる。
「自分、ドタキャンした上に一方的に電話切りよってからに、ええ度胸やなぁ?」
「ああぁずみまぜんごめんなざい痛い痛いなんか出るうう!」
俺の頭を潰そうとするが如く握りこんでいる栄太は怪力である。
リンゴを片手で潰せる程には怪力である。
マジで死ぬ、と意識が遠退き始めたころ、ようやく栄太は手を離した。
俺は地面に膝と手をつき、荒い呼吸を繰り返す。
「そんだけ叫べるんやったら出掛けられるな」
「……え?」
「おら、行くで」
「え、ちょっ……」
栄太の予想外の発言に戸惑っていると、栄太は俺の腕を掴んで立たせて、そのまま俺を引っ張って外へ連れ出そうとする。
「まっ、待った!マジで今日は無理なんだって!」
「せやから、その理由を言ぃな」
「だって俺まだ死にたくない!」
「何やそれ。殺し屋にでも狙われてんのかいな」
笑いながら言う栄太に、俺は抵抗するのを諦めた。
もう、なるようになれ……