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記憶の羽  作者: ゆきがさね
第一章
9/10

【首都ロッサム2】

 ベリルが目覚めると、隣の寝台は空だった。

 このままここに居た方がいいのか、それとも探しに部屋を出た方がいいのか、ベリルが判断に迷っていると、扉が開いてアウインが入ってきた。


「あ、ベリル起きたね」


そう言ったアウインは、昨日までとは違うローブを身に付けている。

ローブで覆われているせいで見えないが、中に着ている物もきっと違うのだろうと、ベリルはぼんやりと思った。


「これに着替えてくれる?」


手渡された布包みを開くと、そこには衣装が一式入っていた。


「え? これって……」


寝巻きを貸されて、昨日脱いだはずの服が、置いた場所に無い事にベリルが気が付いた。


「ん……ごめんね。悪いとは思ったけど、処分した」


悪いとは言いながら、アウインの言葉に後悔の色は無い。

血に染まり、所々焦げた衣装は、確かにもう着れるような物ではなかった。


「それはいいんだけど、これ俺に?」

「うん。多分サイズは大丈夫だと思うんだけど」

「ありがとう」


ベリルはそれだけ言うと、寝巻きを脱ぎ、真新しい衣装を手に取ると身につけて行く。

彼がそれ以上何も言えないのは、口には出さないアウインの優しさが嬉しくて、泣いてしまいそうだったからだ。

 最後にローブを羽織ると、紐を締めた。


「大丈夫そうだね?」

「うん!」


新しい衣に、少しだけ前向きな気持ちが湧いてきたベリルが、これからの事を聞こうと口を開きかけた時、扉をノックする音が聞こえてきた。


「お食事が出来ましたので、よろしかったらどうぞ」


今まで携帯食である干し肉を少しばかり齧るばかりで、食事らしい食事を取っていなかったベリルのお腹が、食事の一言に空腹を訴えて鳴いた。

 通された食事の席には二人だけで、モルガナイトの姿はなかった。

使用人に確認すると、すでに彼女は町の巡回に出た後らしく、午後までは帰らないと言われた。伝言を言付けると、二人はそれまでの間、ロッサムの町を歩く事にしたのだった。


オアシスに迫り出すように立つ石造りの塔は、かなり大きい。

先端は雲にも届きそうなほどで、その造りは他に見ることはできないものだ。

そのすぐ下で、アウインとベリルはタワーを見上げていた。


「これがメモリアルタワー?」


確認するように聞いたベリルが、タワーから隣へ視線を移すと、柔らかな笑みを浮かべたアウインが頷く。


「この中には、アウイン兄ちゃんの記憶もあるんだよね?」

「うん。あるはずだよ? と言っても、見れるのは代々ロッサムを収めている長だけだから、実際にどうなっているか僕にも分からないけど。興味があるんだ?」

「う、うん? そ、そうだね! どんな風に記憶が残るかは、気になるかな? えへへへ」


歯切れが悪く、最後はごまかすようなベリルの様子に、アウインは首を傾げたが、全身で突っ込んでくれるなというオーラを発しているベリルに、苦笑を浮かべて話題を変える。


「さっきは服しか見る時間無かったから、色々買いたいものがあるんだけど、いいかな?」

「うん。俺も色々見たい!」

「行こうか?」


差し出された手に、ベリルは戸惑う様子でアウインを見上げた。


「ここは人間も多いし、ベリルはまだ【羽落ち】じゃないからね、用心のためだよ」


そう言われてしまえば、振り払うわけにも行かず、ベリルは己のケチなプライドに蓋をした。

そうしてしまえば、小さな頃から憧れているアウインと、手を繋ぐ事は嫌ではなかった。

単純に、照れと羞恥心がベリルの素直になるのを邪魔をしただけだった。

 もしここにシトリンが居たら、大喧嘩の幕開けだったのだろうが、ここに件の少女はおらず、ベリルはアウインの手を繫ぐと歩き出した。

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